是非とも紹介したい最新作の数々を集めました。できれば、日本で劇場公開され、多くの人に見てもらえればいいなと思います。
佐和田敬司おすすめベスト5
1 Chopper(圧倒的迫力の、オーストラリアならではの犯罪者映画)
2 Better Than Sex(性がこんなにピュアなものだったのかと気づかされました)
3 Innocence(オーストラリア映画界の名匠ポール・コックスが描く老人の性と純愛)
4 The Wog Boy(90年代末のクロコダイル・ダンディはギリシャ移民だった)
5 Walk The Talk (ゴールドコーストの切ない青春)
その他の注目作品
Bootmen
作品の解説(順次ご紹介いたします)
Chopper
Producer: Hilary Linstead / Director: Dein Perry / Actors:
Better Than Sex
Producer: Hilary Linstead / Director: Dein Perry / Actors:
Innocence
Producer: Hilary Linstead / Director: Dein Perry / Actors:
The Wog Boy
Producer: Nick Giannopoulos, John Brousek / Director: Aleksi Vellis / Actor: Nick Giannopoulos
主人公、ギリシャ系移民の青年スティーヴ(Nick Giannopoulos)は、オーストラリア英語で言うところの bludger。すなわち、福祉に頼って暮らしているプータロウ。いつもギリシャ人の仲間とダンスに明け暮れる毎日。また、ギリシャ人コミュニティの顔役としても多忙(?)である。
労働省の女性大臣は、このような Blugder を懲らしめて働かせることを新しい方針として打ち出した。
ひょんなことから、そのやり玉にあがったのがスティーヴ。テレビの公開討論番組にプータロウ側の代表者として出演させられた。当初は、批判される一方だったが、スティーブも独自の見解を展開し、特に自分が Wog(地中海系の移民の蔑称。転じて、移民全体の蔑称。)であるというアイデンティティ論を展開。批判的だった司会者まで「私も Wog だ!」と名のり、彼の主張に感銘をうける。
このテレビ討論を境に、スティーブは一躍有名人となり、テレビコマーシャルに出演するなど国民的スターにまで上り詰めようとする。しかし、彼の仲間のフランクを含め、彼を応援していたギリシャ人コミュニティは、あまりにもビッグになってしまったスティーヴから離れてしまう。
このようなスティーブ人気に着目した労働大臣は、労働を促すプロパガンダに利用しようと画策しはじめる。スティーブは、そのことを偶然にも知り、のぼせていた自分に対して吾を取り戻し、かつての仲間達と協力して大臣の野望をくじく。
この作品を手がけ、かつ主人公をつとめた Nick Giannopoulos は、自らの主演による Wogarama(Wog + Dramaの合成語) という舞台を90年代にオーストラリア各地で上演し話題を独占した。本作は、その構想をもとに映画化したものである。
この作品は、今公開されている「Head on ヘッド・オン」と同じように、ギリシャ系移民の多いメルボルンを舞台にしている。ギリシャ系移民は Wog という蔑称からもわかるように、長い間差別されていたのである。
けれども、本作では、自ら Wog と名乗ることによって、Wog であることをそのものを自分のアイデンティティであると認め、それを生きていく力に転化してスティーヴはヒーローになったのである。
しかもそれは、今までアングロケルティック(イギリス系アイルランド系)が占めていたオーストラリア文化を見事に踏襲する形で国民的ヒーローになった。例えば、彼が明らかにクロコダイルダンディーを意識して、ギリシャの民俗衣装にクロコダイルダンディの帽子をかぶる。また、有名になりハイソなパーティに招待され、文化的ギャップを全面に押し出して、ハイソな人たちを自分のペースに巻き込んでいく姿も、まるで洗練されたニューヨーカーをブッシュカルチャーの魅力で虜にしたクロコダイルダンディの姿に重なる。ハイソなものに対するアンチテーゼを提示するのが、オーストラリア文化の描き方だった。それは今まで、アングロケルティックなオーストラリア人に独占されていたのだが、今、その立場がギリシャ人移民にとってかわり、反抗の対象となるのがアングロケルティック全体になっているのである。
イギリス本国・アメリカの中のアングロケルティック文化に対抗するオーストラリア文化を描いた80年代のクロコダイルダンディ。21世紀を目前において、今、その構造が転換し、アングロケルティック系のオーストラリア文化に対抗する「Wog 文化」を描いた"The Wog boy"と位置づけることができるだろう
しかし問題はそう簡単ではない。Wog であるギリシャ系のスティーヴは、既にギリシャ人ではなく、生粋のオージーなのであり、そのオージー文化はアングロケルティック系のオーストラリア人が作り上げたオーストラリア人のイメージでもある。オーストラリア人でありながら、オーストラリアの中で蔑視されているという Wog が持つ悲哀を描いているからこそ、単純な「民族差別もの」に終わらないおもしろさが本作にはある。強権力に反発するのは、オージーのお株である。それだからこそ、本作の中で、スティーヴはヒーローになり得たし、アングロケルティックのオージーにも本作は支持されたのである。
Walk The Talk
Producer: Jan Chapman / Director: Shirley Barrett / Actors: Salvatore Coco, Sacha Horler
ジャン・チャップマン(ピアノ・レッスン)製作、シャーリー・バレット監督(ラブ・セレナーデ)が組んだと言えば、ひねりのある、面白い映画が見られそうだと期待した。
舞台はゴールドコースト。主人公は新興宗教や自己啓発セミナーに熱心に参加し、異常な情熱を持ってボランティア活動などをしていた、警備会社社員のイタリア系の青年。ある日セミナーで同席した、40間近の場末の女性歌手に突如啓示を受け、この歌手をスターにすることで自分の夢を実現するのだと思いこみ、事故にあって傷害を負っている同じ新興宗教内の恋人の、事故補償金をたよりに勝手に女歌手の個人事務所を立ち上げる。彼のまっすぐさは空回りばかりで、また女歌手も一筋縄では行かない偏屈ぶりで、プロモーションはことごとく失敗。青年は歌手に恋愛以上の一途さで支えるが、それは何の意味もなさず、最後には金のことでもめ、離れていこうとする女歌手を青年はピストルで撃つ。だが、女歌手は一命をとりとめ、今まですべてのプロモーションが不発に終わっていたのにむしろこの事件がきっかけで、女歌手はメディアの注目の的に躍り出る。
いかにも自己啓発セミナーや宗教で活動していそうな、とにかく融通の利かない、真っ直ぐな気持ちをもった青年の姿が、リアルに描かれている。だけどその彼が、思いを寄せる歌手を殺そうとするまでの流れが、もう一つ弱い。
面白いのは、そしてこの映画の一番重要なポイントになっているのが、ゴールドコーストの描き方。年寄りたちが保養に訪れる、さびれたエンターテイメントセンター。年寄りが多い=死が身近にある、ということなのか、主人公が地元新興宗教の熱心な信奉者という設定は、この土地柄にしっくりくるようだ。思えば、この地を描いた作品としては70年代に『グッバイパラダイス』という映画があったが、そこでもゴールドコーストは田舎政治家が闊歩し、新興宗教が蠢く異常空間として描かれていた。日本でもたれているゴールドコーストのイメージとはあまりに違う。そう、新幹線駅前にでかでかと新興宗教の看板が輝く、熱海のイメージだと思えばいい!
Bootmen
Producer: Hilary Linstead / Director: Dein Perry / Actors: Adam Garcia, Sophie Lee
『ブーツメン』は、まさに以前日本公演も行ったシドニーシアターカンパニーの世界的ヒット舞台「タップドッグズ」の映画化だ。タップドッグズの演出家が、監督をやっている。出演も、タップドッグズの面々が主。
どうやら、気分としては「ダンシングヒーロー」と同じような路線をねらっているらしい。
ダンスに打ち込む青春群像という意味で、ノリはそっくり。この映画のヒーローも、ポール・マルキューリオにすごく似ている。こういう、舞台の成功を、戯曲じゃなくて企画ごと映画化しようというのは、個々のエンターテイメント産業同士が小規模で緊密なオーストラリアならではか。
だが、やはりこれは失敗作と言えるだろう。原案としては、「タップドッグズ」に、その続編の舞台「スチールシティ」が合わさってるようだ。「タップドッグズ」は純粋に、そこら辺のお兄ちゃんが、ブーツをはいて、手(足?)あたりしだいに音をかなでまくる、その従来のクラッシックなタップダンスにはない荒々しさ、若々しさ、自由さが受けた。一方、「スチールシティ」では、それに少々物語じみた要素が付加されて、舞台をニューカッスルに限定。そこの主産業である鉄鋼業と、ダンサーのブーツ裏につけられた鋼鉄のモチーフを重ね合わせ、鉄鋼の待ちで生きる若者たちの日常が、いっさいせりふなしで、”タップ”で表現された。ところが、映画『ブーツメン』は、青春ドラマと、舞台のメイキングと、舞台のドキュメントがごっちゃになっている。最後は「スチールシティ」の舞台に収斂していくのだが、そこまでのいきさつが、臭すぎる青春ドラマ(兄弟の恋の駆け引き。不良グループとの抗争とカーチェイス、弟の非業の死、云々)で、くどすぎるほど説明されて興ざめなのだ。「タップドッグズ」や「スチールシティ」は、すべてあの若者たちのブーツの叩き出す音色があらゆるものを物語っていたから良かったのに。
この企画、本当にやりようによっては、第二の「ダンシングヒーロー」になりえたかもしれず、オーストラリアの音楽もの・ダンスものという既成の特異ジャンルと相まって、新たな地平を切り開ける可能性もあっただけに残念。