限定されたシチュエーションという「入れ物」の中に、素材がいかにして盛りつけられるか。そのバリエーションを楽しむ、というスタイルのゲームはいくつかあります。しかし、個々があまりにも平板であったり、長すぎたり、難易度が高すぎたりと、「狙い」が空振りに終わっているケースが多々ある中で、大した期待もせずに手に取ったのが、この『TAXI幻夢譚』でした。
パッケージには「ストレンジ・ワールド第二弾」とありますが、「第一弾」もあったのでしょうか? 仔細はよくわからないのですが、何らかの続編なのかも知れません。
主人公は、タクシー運転手として、乗客を目的地まで送り届ける。今宵の乗客は、若い女性。タクシーという舞台の中で繰り広げられる物語、それは主人公の手によって、さまざまに展開する。
このタイプのゲームとして、私がプレイした例としては、『暗闇2』(Melody)がありますが、1つ1つのシナリオ量は少なくなっている反面、バラエティの多さで勝負しているようです。また、各シナリオも、「質より量」ではなく、質的にも、「人為的に密室と化しうる世界」という微妙な世界での「緊迫感」を、うまく演出していると感じます。
「バラエティ」の中身ですが、ここでは、「キャラの変化」と「シナリオの変化」という2点に関して。
まず「キャラクター」は、3人のヒロイン候補なのですが、3人はおのおの1とおりの「顔」だけでなく、それぞれ何とおりもの「顔」を見せてくれます。その「変化」の幅は、予想できるパターンに留まらず、「うわっ、そうくるかっ!」と唸らせるものまで、かなりのものがあります。ただ、ここで注目したいのは、主人公と「過去」において接点が多いキャラクターが客として登場することが多い点。これは、「タクシー」という舞台が、先述の通り「人為的な密室」である以上、「主人公という人間」が直接シナリオを左右する、ということを意味しているのでしょう。すなわち、主人公は、「神の手」によって行動を決定されているわけではなく、あくまでも「世界」の構成を決定づける最重要ファクターになっているわけです。こういう「主人公の、物語世界に対する積極的な関わり」というスタイルを明確にしながら、シナリオ的に成功させているゲームというのは、ほとんど目にしません。一見地味ながら、この手法を取ったシナリオライターの力量は、高く評価したいと思います。
また、各シナリオのバリエーションでは、同一キャラクターの「位置づけ」を変化させる時に、その変化の「させ方」が荒唐無稽という印象を植え付けないようになっていること、すなわち、「各シナリオ間で、設定を一定程度リンクさせている」ことが、高く評価できましょう。各シナリオごとで見た場合、キャラクターの描写それ自体はさほど濃いものではないのですが(特に悠宇シナリオでその傾向が顕著)、それを補完していたのが、「シナリオ間のコントラスト自体が演出になっている」こと。シナリオの組み方自体を「演出」として成功させるのは、実に難しいものであり、単に「質より量」的なイメージを与えてしまいがちですが、これを易々とクリアしているのは、見事。
ゲームスタート時点では「タクシー運転手」という設定があり、そこからヒロインを選択、さらに途中に現れる選択肢ごとにシナリオが分岐する、というスタイルのアドベンチャーゲームです。1つ1つのシナリオは、せいぜい10分程度の所要時間で済んでしまうので、ボリューム的に物足りないと感じる可能性はありますが、逆に、「次のシナリオにGo!」という気にさせるという意味で、分量的な少なさはむしろプラス方向に働いていると感じます。なにせ、エンディングの数は42(!)もあるのですから。
また、エンディングを終えた後、ヒロインが、回想的なニュアンスもこめて、シナリオの分岐となる選択肢をヒントとして教えてくれるので、選択肢の分岐を1つ1つメモったりする必要がないのは、非常にありがたいですね。この方式は、度を越すと鬱陶しいだけなのですが、なかなかスマートな作りになっています。ちょうど『永遠の都』(ちぇりーそふと)で、エンディングの後にヒロインがヒントをくれるようなスタイルです。
また、各キャラごとに設定されている特定のエンドを見ると、新しい分岐が増えるというスタイルになっています。
いずれにせよ、分岐の多さが「作業」を感じさせず、むしろプレイ継続の意欲を増進させてくれるというつくりは、大したものです。
インストール作業は不要で、起動ドライブにセーブデータが保存されます。
「Ctrl」キー押下でメッセージスキップなど、ごく基本的な機能は揃っています。
CGモード・回想モード(Hシーン再生)・エンディング確認モード・BGMモードがあります。これだけ分岐が激しいと、エンディング確認モードは重宝しますね。
BGMは、MIDI(GM)で再生されます。特筆すべきほどのものとは感じませんでした。
キャラクターごとの印象がまるで違うので、原画は複数の方が描き分けているのかな、という感じを受けました。ただ、シーン別の表情変化があまりにも小さかったのが残念。
DOS版16色のベタ移植なので、色数的には寂しいものがありますが、ゲームの雰囲気にはよく合ったグラフィックと感じます。
倉崎鮎美の雪女バージョン。どうしてかと言われても困るのですが、何となくこのシナリオの彼女がいいな、と。ちょっと顔が歪んで見えるような気もしますが(^^;)
設定倒れというゲームが多いアドベンチャーゲームですが、逆に「設定だけで勝負してもこれだけのものはできるんだぜ」と、さらっと示してくれた、佳作だと感じます。
惜しむらくは、これ以降のソルシエールの作品では、やはり「設定倒れ」としか評しようのない作品のみを目にしていること。『火焔祭』など、『痕』の手法を模しているのはわかりますが、ゲームとして求められているエンターテインメント性はまったく受け継いでいません。この『TAXI幻夢譚』のようなタイプのゲームを、今一度プレイしたい、と思うのは、叶わぬ希望なのでしょうか。