アートマガジン〈エル・アール〉 Vol.22(2000年11月1
日発行)に掲載されたものです。
 当時個展を開いた「HARAJUKU GALLERY」さんに推薦して頂きました。

 「ギャラリストが選んだアーティストにアンケート」
  〜今まで一番美味しかったものは何ですか?〜 より
 ある夜の中。まだ僕が人生に、人が人生と呼んでいるものに希望をもっていたころ、僕が世界から受け取っている感じからいって、人よりも少しよけいに死ぬべき者であった僕は、自分は十分美味しくやっているかのようなまやかしをやってのけようという気をおこさなかったし、人から見て少々頭のいかれた人間だと見倣されることを恐れたりもしなかった。ことに僕は美味くやることだけはなかった。
 僕の胸には憂鬱が垂れこみ、不安と倦怠の複合攻撃に半分死にかかっていた。そのくせ僕は、とほうもない野心を抱いていて、徐々に肥大させた自意識をもうどうすることもできなかった。そうして形づくったこの夜の中。いつか恋をするかもしれなかった女の呼吸の唇が僕の唇に押しあてられた。そのときの、僕の想像上の観念としての生殖器を生殖諸器官の肉をねり合わせてできたあなたとの絆を握りしめた手の指の間からしたたり落ちた、あの赤黒い不透明な体液の味。