この問題はもうけりがついたのでわざわざ書くこともないだろうと思っていたのですが、楽天の三木谷社長がTBS株取得に関して開いた記者会見を見ていて、「やっぱり書こうか」という気になりました。
三木谷さんは 10/13 の会見の冒頭の部分(口頭のみ、資料には書いていない)で、「この数年、視聴率は落ちていないとは言え、DVRによるCM飛ばしの問題はTV業界にとって痛手であり」みたいな発言をされました。私はそれを聞いて、「おいおい、三木谷さんもかよ」と思った訳です。
この問題を巡って実は業界内でちょっとした騒ぎがあったのです。
5/31に野村総研が所謂『CMスキップリポート』というのを出しました。
このリポートには、「ハードディスクレコーダーではCMを全てスキップして見ているというユーザーが23.4%に達し、これによって2005年のテレビCM市場の約2.6%、金額にして約540億円の価値が失われた」というようなことが書いてあります。
なんとなく読んでいると「ふーん、そうなんだ」という気になりますが、実はものすごく初歩的な所で大きな勘違いがあるのです。
視聴率調査においては録画はカウントされていないのです。視聴率の対象はライブ視聴のみであり、従って留守録(あるいは裏録)されているTVは消えているのと同じ扱いを受けます。
スポンサーは概ね(あくまで概ねでしかありませんが)視聴率に応じて料金を支払いますが、「視聴率」の中には録画されていた番組は含まれていませんので、録画された番組のCMが見られるか飛ばされるかと言うことは料金に影響を与えません。たとえ録画されたCMを視聴者が見たからと言ってTV局が追加料金を取る訳でもなく、飛ばされたからと言ってスポンサーが損をする訳でもないのです。
つまり、録画された番組はCM取引の範囲外なのです。もちろん、視聴者が録画したCMをスキップしなかったらスポンサーは喜ぶでしょう。ただ、それだけのことで、経済活動とは関係がないのです。
だから野村総研が言うように23.4%の人がスキップしたからと言って540億円が失われるというようなことはありません。録画再生によるCM視聴にはそもそも料金が発生していないのですから。
(余談ですが、野村総研の言う23.4%というのは個人対象の調査結果でしょうから、これを世帯対象の視聴率とごっちゃに論じている所も整合性が取れていないのではないかと私は思っています。)
そういう訳で、このリポートはTV業界からの集中砲火を浴びました。
7/19には電通が『DVR普及がテレビ視聴に与える影響について』というリポートを出して、野村総研の調査方法と論理展開を徹底的に批判し、おまけにDVR所有者のほうが非所有者よりもCM認知率が高いという調査結果まで披露しました。
これで完全に勝負あったという感じです(もっとも、野村総研のほうは陳謝も反論もしていないようですが…)。
実はこの騒ぎがあった時に私もこのHPで何か書こうかと思ったのですが、そうこうするうちにこの電通リポートが出たので「もう何も書く必要がないや」と思い直したのでした。
ところが、先日の三木谷さんです。彼もまた同じ勘違いをしているんですね。
録画によるCM飛ばしはTV界にとって(直接的には)痛手でも何でもありません。痛手になるとすればDVRの普及で録画視聴する人が増えてその分視聴率が下がってきた場合です。しかし、三木谷さん自身が「視聴率は下がっていないとは言え」と先に言ってしまっているので、なんだか支離滅裂な発言になってしまっているのです。
多分三木谷さんはインターネットとの融合によって、TVは収入源を拡大できるということだったのでしょうが、よく検証もせずにDVRのCMスキップの問題を持ち出したのは失敗でした。
なお、私がここで書きたかったのは、単に野村総研や三木谷さんの論理破綻を指摘したかったということであって、「視聴率にカウントされていないからCMが飛ばされても民放は安泰だ」ということでもなければ、「そんなことさえ解っていない三木谷さんにTV局の株を買い占める資格はない」というようなことでもありませんので、念のため。
Copyright(c)yama-a Oct.2005
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