新6回 長年の思い込みを正す

年が明けてからこの数日間、このコーナーには普段の2〜3倍のアクセスがあります。紅白歌合戦とか PRIDE と K-1 の格闘技対決とか、あるいは里見八犬伝や古畑任三郎などの正月特番の視聴率が皆さん気になるんですかねえ(そんなことに感心してしまう今日この頃です)。

それで検索してこのサイトのこのコーナーにたどり着いたのでしょうが、残念ながら僕は実際にどの番組が何%取ったということは一切書いていません。その理由については第1回「視聴率を金で買う」で書いたとおりです。でも、間違ってたどり着いた人たちのうち2人でも3人でもが少し読んでくれて「なるほど」と思ってくれればとても嬉しいです。

視聴率というものはとても深いものです。僕自身は調査担当を外れてもう随分になりますが、番組平均世帯視聴率については毎日眺めていますし、週に何本かの番組についてはいまだにもっと細かい分析リポートも読んでいます。

それで最近になって自分が随分間違った思い込みをしていたことに気づきました。

僕は第12回「『見た』って何分見たの?」で「『視聴なし』が70%を超えている場合は却々『大ヒット番組』の域には達しません」と書いています。もちろん、この原稿では「ゴールデンタイムの54分番組」の想定であると書いています。

しかし、いつの間にか僕はこの原則をゴールデンタイムの30分番組や2時間番組にも拡大して適用していたのです。

思えば調査担当時代に僕が視聴分数分布分析をしたのはたまたま殆どがゴールデンタイムの54分番組でした。そして、たくさんの番組データを分析して、自分なりに「掴んだ!」と思ったのがこの原則でした。それでいつの間にかついついこの原則を拡大解釈するようになっていたのです。

考えてみれば当たり前のことです。

「視聴なし」が70%超ということは「1分以上視聴」が30%以下ということです。この「1分以上」という条件は54分番組にとっては「54分の1以上」ですが、30分番組にとっては「30分の1以上」であり、114分番組にとっては「114分の1以上」ということになります。

つまり、同じ「1分以上」(or 「視聴なし」)という設定であっても、30分番組にとっては54分番組よりきつい条件になり、114分番組にとっては54分番組より緩い条件になります。

だから30分番組の場合は「『視聴なし』が70%を超えている場合」でもそこそこの視聴率であることがあります。逆に114分番組の場合はヒットしていない番組でも「視聴なし」が70%を下回ったりもしています。

去年からたまたま30分番組や114分番組の視聴分数分布データを見る機会が多くなり、それでやっと自分の誤った思い込みに気づきました。我ながらこんな簡単なことに気づかなかったとは驚きです。

人間に思い込みはつきものです。それを日々修正して行くためには毎日毎日膨大なデータを見るしか方法がありません。局の調査担当というのは日々そういうことをやっている連中なのです。そういう意味で僕は現役の調査担当の人たちに敬意を表したいと思うのです。

データというものは、多くの人が最後に浮んできた表面だけを「ふーん」と眺めるものですが、実は水面下には深い深い淀みがあるものなのです。


さて、以上で締めておけば文章としてはまとまりが良いのですが、最後にちょっと混ぜっ返します。

実は「1分以上視聴」という結果になっているからその世帯が本当に1分以上見たかと言えば必ずしもそうではありません。

第4回「黄門様の印籠は視聴率を引き上げるか?」に書いたとおり、視聴率は毎分00秒時点で計測されます。従ってその計測時にほんの一瞬チャンネルを合わせたら、その世帯は「その1分間視聴した」ということになります。だから、もし意図的にやろうとしたら、54分番組で毎分00秒にチャンネルを合わせたら、たった54秒ほどで「54分見た」という結果も出せるのです。

だからと言って「そういうものだから視聴率なんていい加減なものだ」と結論づけるのもこれまた極端に走りすぎです。実際にそんな見方をする世帯があるとは思えませんし、600世帯の内の1世帯が仮にそんな見方をしたとしても、番組平均世帯視聴率に及ぼす影響は極めて軽微ですし、また継続的にそんな見方をする世帯があるはずがないからです。

もちろん現在の視聴率調査にはある程度欠陥があります。ただ、できるだけ誤差が小さくなるように日々改善方法が研究されています。そして、万能の指標ではないのだということを、我々局員はある程度心得ているつもりです。

視聴率というのは大変深いものなのです。決して表面だけを見て短絡的な結論を導き出すための道具ではありません。

Copyright(c)yama-a Jan.2006

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