先日ブログのほうに資生堂マキアージュ・ドラマスペシャル『ウーマンズアイランド 彼女たちの選択』(2月24日NTV)の記事を書きました。放送のあった金曜日の夜に書いたので視聴率については触れようもありませんでしたが、遅まきながらここで書いてみようと思います。
僕の一連の視聴率リポートでは初めて個別具体的な番組に触れることになりますが、VRから「無断転載だ」と叱られないように、例によって個別具体的な数値は書かずに進めます。
このドラマは明らかにF1層にターゲットを絞った企画でしたが、ブログにも書いた通り、F1というのはテレビ関係者が頭を痛めている層なのです。──何を好むのかはっきり掴めない。おまけに浮気性でころころチャンネルを変えてしまう、そういう層なのです。
一方、広告の対象としては重要なターゲットなので「F1を狙いに行く」と宣言する編成マンやプロデューサはいるのですが、いざ狙いに行くと外してしまう例が目立ちます。逆にそれに懲りて、解りやすいF3層を狙ってとりあえず世帯視聴率を稼ごうという人もいます。F1に比べてF3は好みが均一で、遥かに落ち着きがある(つまりチャンネルを変えない)のです。
僕は個人的には、TVはマスをかっさらうメディアなのだから特定の層だけを狙う(そのために他の層を排除する)ような試みはしないほうが良いと思っています(とは言え、年齢層の両端をターゲットとする時代劇やアニメの存在は認めるんですけどね)。
ところが、あくまで想像ですが、今回の全枠スポンサーである資生堂の要求は完全にF1に絞れというものだったのではないでしょうか。何といっても流れるCMが全てマキアージュという化粧品だったのですから。
で、結果は「狙ってよくぞ獲った。資生堂も大満足ではないか」というものだったのです。いや、あっぱれです。
世帯視聴率のほうは関東地区は辛うじて10%を超えたものの、関西地区は1桁でした。これはこの週(2/20〜26)の世帯視聴率トップ100にも入って来ません(ちなみにこの週のトップは、荒川静香が金メダルを獲って30%を超えた『トリノオリンピック』)。全番組ではなくドラマだけに絞ると漸く21位に顔を出します(ちなみにトップは20%を超えた『西遊記』)。
TVのセールスは個人ではなく世帯視聴率が基準ですので、恐らく相当かかったと思われる制作費を負担して全枠提供したのは効率の悪い買い物だったでしょう(にもかかわらずこういう番組を提供するという事実が、この会社をして「スポンサーは決して視聴率だけで判断している訳ではない」と言わしめるのでしょう)。
裏番組も含めたこの時間帯の個人視聴の状況を検証すると、CとTの2つの層については、21時台はEX『笑いの金メダル』の圧勝。22時代は同じく『笑金』とTBSのドラマ『夜王』がT層を分け合っています。M1も同じく『笑金』。M2はこの2時間はCXの『金曜エンタテイメント・浅見光彦シリーズ』。M3はNHK『ニュース9』からEX『報道ステーション』。F1については後述するとして、F2は21時台は『笑金』、22時台は『夜王』と『報ステ』で2分、F3は『浅見光彦』と『ニュース9』で2分──と見事に棲み分けが成立しています。
さて、話は戻って、『ウーマンズアイランド』の個人視聴率を見ると、M1・M2・M3はいずれも2%台とほぼ壊滅状態です。しかし、F1は10%に迫る勢いです。横並びトップの座をがっちり占めています。F2もそれに近い数字です(これはスポンサー的にも別に悪い現象ではないでしょう)。
裏番組との比較ではなく、この週の他のドラマと比べた時にはどうなのでしょう? なんと世帯視聴率では全ドラマ中21位だったものがF1に限定してみると第6位に上がって来るのです。これはとても立派なことです。つまりスポンサーのニーズ通りF1に特化した番組作りに成功したということです。
こういう事実を知るとすぐに「大スポンサーに尻尾を振ったTV局」という捉え方をする人がいますが、僕はたまにはこういうのも良いのではないかなと思います(何であれTV局はスポンサーに販売することでしか制作費を回収できないということもあるし…)。
今ドラマのトップを走っているCX『西遊記』はCとT(及びその母親であるF2)に圧倒的に強いという変則的な成功例です。時代劇はM3とF3以外は獲れないのが相場ですが、現代劇の場合は従来、高視聴率を獲る典型的なパタンはF1・F2・F3が均等に高い(次いで高いのはT層)という形でした。
今クールのドラマでは『西遊記』以外にはそれほど高い視聴率をマークしているものはありません。それはこの3層を全てかっさらうようなドラマがないからなのです。逆に言えば、ドラマの制作者は必ずこの3層を(その内のメインがどの層であるのかは別として)かっさらいに行くことを考えるはずです。
今回、「ハナからF1だけを狙いに行って成功することって、はあ、あるんだなあ」という意外な気がします。果敢な試みが成功して僕としては嬉しい気もします。
テレビは多様な人間に多様な番組を見せる箱です。そんな中でたまにこういう試みをやってみるのも制作者にとってはやりがいのある仕事ではなかったかと思うのです。そして、そんな偏向した番組があっても良いじゃないかと思う最大のポイントは、この時間帯の視聴者が見事に棲み分けていることです。この時間帯、誰にでも見る番組はあったのということなのです。
偏向した番組を認めないと言うのであれば、それは視聴率至上主義と同類です。特定のターゲットだけに見られる番組も、世に言う「良質の番組」も同様にある意味「偏向した番組」と言えるでしょう。安心して偏向した番組を作れるのは、ウチの局が偏向したために失った視聴者が他局の番組で満足できるからだと思います。
一日の番組表を眺めれば、それはとんでもないゴッタ煮です。結局TVは全体として視聴者全体に奉仕するメディアなのではないでしょうか。
Copyright(c)yama-a Mar.2006
目次へ
次回へ
前回へ