新10回 制作者に考えさせるために

 

先日、社内で某番組の視聴率リポートが回ってきました。その趣旨は「番組Aの視聴率が下がってきているのは、その前の時間帯の番組Bの視聴率が下がってきているためだ」というもの。

確かに番組Bの視聴率は目に見えて下がっています。ミニ枠を挟んでその後始まる番組Aの開始時視聴率もそれに呼応するように下がり、それに伴って番組Aの平均視聴率も下がっています。添付されていたロー・データで確かめてみると両者の相関係数は 0.8 を超えているので言っていることに間違いはありません(一般に絶対値が 0.7 を超えると「強い相関がある」とされる)。でも、ここで止まってはいけないのです。

調査マンが言いたかったことは「番組Aの魅力はまだ衰えた訳ではない。単に前の番組の視聴率が落ちているのにつられて視聴率が下がっているだけだ」ということです。

彼の分析が間違っていると言うのではありません。ここまでの分析であっても、手間のかかる仕事を立派にこなして、それなりに説得力のあるものになっていると言うべきだろうと思います。でも、ここで止めてしまうと制作者が路頭に迷うのです。

いつだったか「Video Research Digest」誌に視聴率に影響を与える様々な要因についての分析がありました。それによると、「前番組(の世帯視聴率)」「裏番組(の世帯視聴率合計)」「(その時間帯の)HUT」のうち最も大きな影響を及ぼすのは「裏番組」でした(相関係数は -0.7 を超える)。次が前番組で、相関係数は 0.5 くらい。HUTとの間では相関関係は認められませんでした。

さらに時間帯ごとに見れば、前番組の影響が大きくなるのは深夜(相関係数は 0.8 を超える)や平日午前中であり、所謂ゴールデンタイムでは影響が小さいことが解ります。

番組AもBもゴールデンタイムなので、このことと合せて考えると、確かに「番組Aは他の番組より前番組の影響を受けやすい番組であり、そのために番組Bの視聴率低下に伴って視聴率が低下している」と言えます。

でも、僕らが今までに見て来たたくさんのデータを思い出せば、本当に強い番組は前番組の影響なんか受けないということも思い出すはずです。果たして番組Aは本当にいまだに面白いのでしょうか? 本当に単に前番組Bに引きずられているだけなのでしょうか? この傾向は番組Aの全盛期からあったのでしょうか?

それを確かめるためには、彼がやったのと同じ分析を、例えば番組Aの全盛期だった5年前でもやってみて、両者を比較してみるべきです。もし、5年前と同程度の相関関係が認められるのであれば彼の言うことは正しいということになります。でも、その場合、逆に言えば番組Aは本体の面白さとは関係なく前番組の視聴率だけに左右される番組だということになります。

僕は多分そういうことはないと思います。恐らく5年前は今ほど前番組の視聴率に引っ張られることはなかったのではないかと想像します。それが番組が衰えるということなのです。

番組制作者はとかく視聴率低下の原因を外部に求めようとします。前番組の視聴率が悪いから、裏で強力な新番組が始まったから、HUTが低下しているから…。それらは全部単なる印象論です。

調査マンの仕事は、データを駆使してその印象論に裏づけを与えてやるか、あるいはその印象論を粉々に打ち砕いて見せるかのどちらかです。

今回の彼の仕事は、明らかに制作者を鼓舞しようという意図を持ったものです(そして、それはそれで立派な心構えだと思います)。が、残念ながら「番組の寿命は尽きていない」ということをデータで証明するには至っていません。そして多分、定量的な分析をどんなにやってもそのことを裏づけることはできないのではないでしょうか?

「いや、番組内容自体は変わっていないし、まだ面白いんだ。ただ上の番組が下がっているから入りの数字が悪くて、それで視聴率が落ちているんだ」──そんな風に考えたい制作者に対して、「いやいや、これを見てください。この通り、昔は前番組の視聴率なんて関係なかったんです。こんなに前番組の影響を受けるようになったということは、やっぱりこの番組のパワーが落ちていると考えたほうが良いのではないですか?」と冷静な判断を投げかけてやるのも制作者に対する「情け」です。

僕らの分析では単純明快な結論にまで至らないことが大変多いです。特に「じゃあ、この番組をどう変えれば良いのか」というところまで到達することはまずありません。しかし、だからと言って調査マンの努力を軽んじてはいけません。分析すれば何かが解るのです。考えてみたら当たり前のことかもしれませんが、何かが明確に証明されるのです。で、何かが解ったらその次に行ってみることが大切です。もっと明確な何かが判るかもしれません。

そして、もしその何かが制作者の甘えを打ち砕く何かであったとしても、それを教えてあげるのが調査マンの「武士の情け」ではないでしょうか?

そして、制作マンの皆さんに「じゃあ、どうすれば良いか」を考えてもらいましょう。それを考え始めさせるのが調査マンの使命であり、もしその後視聴率が回復することがあればそれが調査マンの無上の喜びです。

「まだこの番組は衰えていない」という結論では、制作者は決して考え始めようとはしないでしょう。
人を動かすのが人の仕事です。

Copyright(c)yama-a Jun.2006

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