新11回 視聴率はこれからどう変わるか?

このコラム宛てにも時々質問のメールをいただいたりします。その場で回答できるようなことなら直接メールでお答えすることもあるんですが、結構ややこしいことや微妙な点を衝いてこられるとこちらも簡潔にお答えすることができなくて、はて、どういう形でお返ししたものやらと悩んでしまいます。

中にはこの問題を取り上げてくださいというリクエストが混じっていたりすることもあります。先日も RYOKO さんという方からご質問のメールをいただいたきました(と言うか、6月初旬にいただいたものをずっとほったらかしにしてあったのですが…)。

こういうご質問でした。

1点目ですが、視聴率はこれからどう変わるのでしょうか。 ワンセグが始まり、HDD録画機が市場に出回り、見たいとき見るという人の方が圧倒的に多い気がします。これからもテレビ視聴率時代が続くのでしょうか。

2点目として、ケーブルテレビ視聴率は必要でしょうか? 大手ジュピターテレコムが地上波含む視聴率をSTBから収集するというプレス・リリースを出しました。今ビデオリサーチが対象としている世帯数より圧倒的多数なマスを持ちます。これは脅威なのか? それとも何の威力もないのか? (別にJ:COM社員ではありません。)

いずれも僕ごとき(何と言っても「元調査担当」に過ぎません)が「ハイ、これこれです」と明言できるようなことは何もないのですが、せめてちょっと雑感風にお答えしてみようと思います。

最初の点ですが、視聴率がこれからどう変わるのかは僕にも解りません(笑)。

現在の視聴率調査は家庭内の同時視聴が前提となっています。宿泊先のホテルのTVで見たというケースは今でも除外されている訳で、だから視聴率は過小評価されているという意見は民放内に随分前からあります。

今後ワンセグによる屋外視聴が増えてくるのであれば、この圧力はますます高まるでしょう。つまり、ワンセグ視聴率を現行の視聴率調査に取り込む形で反映したいというのが多分民放サイドのぼんやりとしたイメージではないかと思います。

ただ、実際の調査方法を考えると、家庭内の固定受信機を対象として行っているサンプリング調査の枠組みの中にワンセグの視聴率調査を入れ込むことは不可能ではないか、と僕は直感的に思います。

となると何か別の方法でワンセグの視聴実態を把握する方法を考えるしかないのかなあと思います。いずれにしても、何か現象があればそれがどの程度利用されているのか調べてみたいと思うのが人情。きっと誰かが何等かの方法を考えるでしょう。

しかし、現状ではワンセグはおろか、デジタル放送(固定受信)の視聴率をどう取り扱うかについても決まっていなくて、主協・業協・VR・民放連が協議を続けているのが実態です。ワンセグ携帯は 100万台を超えましたが、その視聴状況の把握はもう少し先になるのではないでしょうか?

タイムシフト視聴についても、利用が広がってくるに連れてその状況を把握したいと思うのは当然のことです。これまた誰かが何等かの測定方法を考え出すでしょう。

ただし、視聴率は基本的にはTVのセールスのための指標であり、もしタイムシフト視聴に於いてほとんどのCMが飛ばされるのであれば、それは測っても仕方がありません。テクノロジーはむしろタイムシフト視聴に於いて提供社のプレゼンスをどのように実現するかというソリューションに走るのかもしれません。

ところで「テレビ視聴率時代」とお書きになっているのはどういう意味でしょう?

僕は視聴率が時代の名前になるほどのものとは思っていません。それは本来的には、1)商売の指標であり、2)番組作りの参考資料として業界の内部で流通していれば良いものであると思っています。この2つの基本的な機能としては、視聴率はまだまだ有用であると思っています。

その2つの機能を超えて、世間を騒がせる要素としての視聴率の存在も続くのかもしれません。しかし、「これこれの番組が何%の視聴率を取った」という煽り方は、局自身がやるのは当たり前として、それに新聞雑誌や一般の方まで乗ってこられるのは、実は「時代」などではなく単なる「ブーム」だと思っています。

ブームはいずれ終わるでしょう。いつ終わるかは解りませんが…。

さて、第2点のケーブルテレビの視聴率ですが、ケーブルテレビで番組を流している限り視聴状況を知りたいと思うのは当然のことでしょう。そういう虚心坦懐な目(それが調査マンの目だと思います)で見たら、別に脅威であるとかないとかいうことではないと思います。

サンプル数が 1000 とのことですが、これはVRのサンプル数 600 と比べれば多いですが、それだけ誤差が小さくなってデータの精度が上がるということで、(他社のデータとは言え、一般的には)歓迎すべきことです(ちなみにサンプル数が2倍になると誤差は半分になる訳ではなく、この場合サンプル数が 1000 ÷ 600 ≒ 1.66 倍になって誤差は 0.77 倍になります)。

ところで、J:COMのリリースを見ただけでは、ここにどれだけのデータが含まれているのかが判りません。VRの視聴率のように特性別に分刻みのデータが得られたりするのでしょうか? もし、そうでないとすれば、調査担当の使い勝手としては物足りないものになるでしょうね。

それから、このJ:COMの調査で母集団となっているのはJ:COMに加入してセットトップボックスを設置している家庭であって、VRのようにテレビ視聴可能な全世帯ではありません。

つまり、あくまでJ:COMのSTBがある家庭ではこれだけ見られているというデータでしかないのです。これは大きな限界ですね。もちろんそういう世帯に於いては地上波デジタル局の視聴率は相対的に低いでしょう。しかし、そんなことは誰でも想像のつく当たり前のことです。そして、それ以外の世帯でも同じような状況であるという保証がどこにもないのです。

もし、ケーブルテレビの視聴率が無視できないくらいに高くなってきたのであれば、それは現行のVRの視聴率調査システムに組み込まれるべきであると思います(その場合母集団はもちろんケーブルテレビを見る環境にない家庭も含む全世帯ですが)。

現行の調査では弱小局の視聴率は「その他」に含まれます。ただし、同じ「その他」であっても、計測の時点から他局と一緒くたにされて「その他」という扱いを受けている局と、計測の時点では1つのチャンネルと認識されているのだけれど、集計の際に他チャンネルと合計されて「その他」として発表されている局があります。

例えばNHK−BS1は後者なのでVRに特別料金を支払えば切り分けたデータをもらえますが、前者の例であるびわこ放送の視聴率を知ろうとしても知りようがないのです。

もしケーブルテレビの某かのチャンネルが人気を博してきたのであれば、まずNHK−BS1と同じような扱いを受けるべきだと思います。技術的には可能なはずです(そのためにはケーブル会社とVRの技術提携が必要になるのかもしれませんが)。

そして、もっと人気が出てきたのであれば、そのチャンネルは地上波局と並びでデータが公表されるべきでしょう。

あくまで、今まで無視してきたチャンネルが無視できなくなってきた(と推察される)からデータを計測発表するのであって、データがなかった局のデータが公表されるようになったら既存局の脅威になるという考え方は(ま、民放の中でもそういう考え方をする人は確かにいるのですが)僕はおかしいと思います。

問題はデータのあるなしではなく、自局のチャンネルを環境変化の中でどうやって強くして行くか、どうやって維持して行くかということです。

調査マンの目から言えば大事なことは共通の土俵の上でデータを語れるということだと思います。

今、J:COMの各チャンネルの視聴率はVRの調査では知り得ないので、仕方なく違う土俵で一生懸命こうやって調査をしようとしているのだと思います。それはそれで立派な態度だと思います。もっともデータの提供先が番組提供事業者に限られているので、これは民放に対抗することよりもベーシックチャンネルに含めるかどうかの選別を主眼としているのかもしれません。

いかがでしょう、答えになりましたでしょうか?

あくまで僕の私見であって民放連や局の公式見解ではありません。
元担当者が勝手なことばかり書いて現担当者からお叱りを受けるかもしれませんが…。

Copyright(c)yama-a Sep.2006

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