少し前の話になりますが、今年のプロ野球日本シリーズ、日本ハムの優勝で盛り上がりましたね(何を隠そう僕は日本ハム・ファンなもので)。
どこが、って?
いや、あの、確かにここ3〜4年の番組平均世帯視聴率を見ると関東や関西ではいつもの日本シリーズと大差なし、過去10年の平均値と比べるとさすがに低めです。でも、名古屋では少し高い数字も出ましたし、日本ハムの地元・札幌(調査エリアは北海道ではなく札幌地区)では、優勝を決めた第5戦の番組平均視聴率が50%を超え、瞬間最高視聴率は70%を超えたじゃないですか。
で、こういう景気の良い話しを聞くと必ず沸き起こるのが「日本のプロ野球もまだまだ捨てたもんじゃないじゃないか」という意見──正しくもあり、正しくないとも言えます。
何故なら、(これは以前書いたかもしれませんが)日本シリーズはチャンピオンシップです。今や日本のTVにおけるスポーツ中継はチャンピオンシップしか視聴率が獲れなくなってしまったのです。
ゴールデンタイムで普段のリーグ戦が放送されている野球はまだ恵まれたほうで、サッカーのJリーグなんぞはほとんど中継されません(ワールドカップになると全試合が放送されますが)。バレーボールのVリーグも然り。ボクシングもほとんど世界タイトルマッチだけです(ま、最近では亀田興毅という例外がありましたが)。
昼間に放送されているプロ・ゴルフでも、木金の予選ラウンドは放送されないのが普通です。ほとんど全部を放送しているのは大相撲の幕内くらいでしょうか。
だから、プロ野球が視聴率を獲れなくなったのではなく、チャンピオンシップ以外の試合が視聴率を獲れなくなったのです。
そういうことを書くと、今度は「各球団のフランチャイズの地域では視聴率を獲っているじゃないか。各地区ごとに地元球団の試合を放送すれば良いんだ」という意見を聞くことになります。
それもある意味正論ではありますが、そうなると今度は編成とネットワークの問題になってくるんですね。
これを書き出すとものすごくスペースを取るし、ここは視聴率のリポートであって放送の問題点を抉るコラムではないのでごく簡単に書きますが、いろいろと問題があるのです。
まず、ネットワーク・タイムかローカル・タイムかという問題。
東京(乃至大阪または名古屋など)の局が番組を作って、それに全国スポンサーをつけて全国に流す時間がネットワーク・タイム。現在どの系列も19:00〜23:00の時間帯のうちほとんどがネットワーク・タイムです。
これをローカル・タイムに変更すれば各地区でプロ野球中継を放送することができます。
例えば東京局はG戦、大阪局はT戦、福岡局はH戦と言ったように。ただし、プロ野球の試合スケジュールと放送権の配分はそんなにうまい巡り合せにならないので、往々にして東京局は野球ではなくバラエティ番組、福岡局はH戦みたいなことになります。
さて、その場合大阪局はどうするか? うまい具合にT戦があればそれでよし。東京局はバラエティを、大阪局はT戦を、福岡局はH戦をそれぞれローカル・スポンサーに売ってローカル放送すればよろしい。
ただし、この場合、ローカル・セールスでそれぞれの放送権料を回収できるかどうかは別です。ローカルの提供料金はネットの料金より遥かに落ちるので、回収はしんどくなるでしょう(もちろん一方でローカル放送の権料はネットの権料よりはるかに安いので回収すべき額も大したことありません。しかし、少なくともキー局の番組を受けていれば絶対に赤字になることはないのです。ローカル放送することによって初めて赤字になる可能性が出てきます)。また、東京局のバラエティもまた赤字になるかもしれませんし、それを避けるために制作費を下げてしょぼい番組になるかもしれません。
でも、問題はそれだけではないのです。
こういうケースで青森や沖縄の局はどうするか?
こうまでバッサリ言ってしまうと言い過ぎかもしれませんが、彼らはゴールデンタイムに流せるような番組を作る能力が(あまり)ありません(地元にタレントや構成作家などが少ないことも要因のひとつです)。かと言ってT戦やH戦を放送する積極的な動機もないので、結局東京局からバラエティを流してもらうことになるでしょう。でも、彼らはその番組をローカル・セールスする能力も(あまり)ありません(市場も小さいですし)。
そうすると、やっぱりキー局に全国セールスしてもらうしかないのです。スポンサーには納得してもらって、北九州地区だけH戦を提供してもらいます。こういうことは実際に行われていることなのですが、バラエティと野球では視聴者層が違う、即ちH戦ではスポンサーのターゲットから外れることも多く、年に何試合も何試合もとなってくると、さすがにスポンサーを説得することができなくなるのです。
では、キー局に北九州を除く全国セールスしてもらえば良いじゃないか、ということになりますが、福岡という基幹地区を欠くネットワークは欠陥商品であり、そういう形では売れないのです。
これが青森除きや沖縄除きであればセールスは成立するでしょう。でも、現実は逆なのです。
また、キー局から流してもらった番組をローカル・セールスしなければならないのが大阪局であればこれも成立するでしょう。でも、現実は逆なのです。
そういう事情で、結局この時間帯はネットワークタイムから外れることにはなりません。それでも無理やり大阪局がT戦を、名古屋局がD戦を、福岡局がH戦を放送するということは年間何回も現実に起こっていることですが、CM枠にはあくまでネットワークタイムのスポンサーが入りますので自局でセールスすることは不可能、つまり、そういう場合の大阪局や名古屋局や福岡局は放送権料を回収する術がなく、完全に赤字垂れ流しのまま放送を断行しているのです。
それから、延長の問題があります。
上記のような形で福岡局だけH戦をやってしまうと、21時を過ぎてのナイター延長はできません。何故なら21時からはキー局の(例えば)ドラマが始まってしまうからです。北九州地区だけずらすというのは技術的にもセールス的にも無理があります。
そして、北九州地区だけ飛ばしてしまったレギュラー番組の問題があります。このバラエティ番組のファンは怒るでしょう。そして、もし内容面で次の回に続くような部分がある場合は単純に休止する訳には行きません。これがバラエティではなくドラマであれば、次の放送までに絶対どこかで放送しなければなりません。
そういういろいろな問題がある訳です(簡単に書こうと思ったのに随分字数を費やしてしまいました)。
もちろん、だからと言って今の放送形態が最善であると思っている人は(キー局の人間も含めて)かなり少数派になってきました。一朝一夕には変えられないというのが現状であって、もう少し時間をかけてナイター中継のあり方を変えて行こうというのが今後の方向だと思います。
さて、ここからが今回書こうと思ったことです。
冒頭で書いた札幌地区の50%超、70%超、凄いです。でも、これを、あくまでCM枠を買うスポンサーの立場から見て、東京局(放送エリアは東京だけではなく関東一円)に当てはめるとどうなるでしょう? つまり、提供することによって得られる世帯数を比較するとどうなるでしょう?
2005年の国勢調査によると、関東1都6県の世帯数(あくまで世帯視聴率の比較なので、ここで人口のデータを持ち出すのは誤りです)は約1690万。かたや北海道の世帯数はたかだか240万。比率にすると7:1です。
つまり、(ここでは札幌地区の視聴率=北海道地区の視聴率として議論を進めますが)(単に世帯数の比較だけで言えば)北海道地区の瞬間最高視聴率70%は関東地区の10%にしか相当しないのです。70%という、多分10年に1回しか記録できないような高視聴率で獲得した視聴世帯数を、関東では10%という並の番組が獲得してしまうのです。
だから、スポンサーは関東地区の視聴率を重んじ、少しでも関東地区の視聴率が良い番組を求め、局(系列)はそれに引きずられ、北海道で視聴率が10%上がることよりも関東で2%上がるほうを志向してしまうのです。
地方の野球ファンの方は野球の地元球団の試合が放送されないことを、G戦の中継ばかりやることを「中央偏重だ!」と憤ります。確かに中央偏重です。でも、それは東京で圧倒的な宣伝効果を獲得できるからなのであって、決して「東京の人は大切にするけど北海道の人は軽んじているから」ではありません。世帯数・人数の問題、単に規模の問題、人間がたくさんいるか少ないかだけの問題なのです。
大阪局の世帯数(近畿2府4県、実際には徳島の大部分でも受信できているがここでは除外)は東京の約半分、名古屋局の世帯数(いわゆる「愛・三・岐」3県)の世帯数はそのまた半分。
従って、中京地区での20%は関西地区の10%の値打ちしかないし、関東地区の5%の値打ちしかない訳で、この傾向は地方へ行けば行くほどキツくなります。
こういう事情でスポンサーは東京偏重になるのであり、その経済原則に局の編成が引きずられるのも、ある程度仕方がないことだと思います(もちろん全面肯定する気はありませんが)。
先ほど書いたように、関東と関西の世帯数の比率は2:1ですが、スポットCMの地区投下額(その地区に出稿したスポットCMの合計金額)は既に3:1です。これは人口比を超えて関東偏重が進んでいる証です。
編成とネットワークの問題を超えて、各地区でどのようにしてローカル放送を育てて行くかが今後の課題だと思います。
Copyright©yama-a Nov.2006
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