こんなニッチなコラムでも有難いことに読者はいらっしゃるみたいで、たまにメールを頂いたりします。
どこかの局の調査担当者と思しき人からメールを頂いたこともありました。別の方から最近頂いたのは録画率と再生率に関するご質問でした。NTVの事件があって「そのことについて何か書いているかな」と思って再訪していただいた時にふと疑問に思ったのだそうです。
NTVの視聴率買収事件以来、一般の方の視聴率に対する興味が高まったせいか、この「視聴率の嘘800ホント200」のページビューは、ここのところ普段の50倍から100倍になっています。多分その影響だろうと思うのですが、Yahoo! JAPAN から突然「カテゴリ検索のディレクトリ・サービスに登録する」との連絡が来たりもしました。
で、そういう諸々のことに気を良くして、もう何章か書き足すことにしました。最終回は少し先延ばしです。なお、ビデオの録画率等については、最終回直前の回に触れます。
今回まず書いておきたいのはビデオリサーチの調査が「自主調査である」ということです。
つまり、ビデオリサーチは放送局や広告代理店、スポンサーなどの依頼を受けてそのオーダーに従って調査をしているのではなく、あくまで勝手に調査して、その結果得られたデータを放送局や広告代理店などに販売しているということなのです。これは調査の自主独立性を保つための方策でもあるのでしょう。
つまり我々放送局が勝手にあれこれ指図できる立場にはないということなのです。こんなことを書くと、「なんだ、それじゃあ、どこの馬の骨とも分からんようないい加減なデータを買っているのかい」と言われそうですが、決してそうではありません。
我々はさらに少しでも調査の精度を上げるために、ビデオリサーチに対して我々なりにさまざまな提案や要求を出しています。しかし、最終的に我々に残されるのは「そのデータを買うか買わないか」という選択だけであって、決してビデオリサーチに命令したり服従させたりすることはできないのです。
ビデオリサーチは公的サービスではなく私企業です。放送局からの要求を受けた場合、そのことによって追加費用が発生するのであれば当然応分の負担を要求してきます。そして、我々民放もまた(一方で公的な側面を担っているのも確かですが)やはり企業なのです。そこには企業と企業のせめぎ合いがあり、結局両者の折り合うところでしか調査は成立しません。
例えばサンプル数は多ければ多いほうが良いに決まっています。しかし多ければ多いほど費用がかかるのです。費用をかけるほうにも料金を払うほうにも限界はあります。
先般のNTVの事件に関連して、総務大臣が「サンプル数は600では少なすぎるのではないか」とおっしゃったと聞きます。勿論、大臣としての立場から、良かれと思って発言されたのでしょう。しかし、サンプル数が充分なのかどうかということは、素人が印象だけで語るべきものではありません。それは専門の学者たちが判断するべきことなのです。
「じゃあ、そういう専門家に判断してもらったのか?」と問われれば、答えはイエスです。
1996年に関東地区で今の形の調査が始まる(具体的には機械式個人視聴率調査が導入される)に当たって、専門の学者を含むプロジェクトチームが、調査エリアやサンプル数、サンプル抽出の方法、調査の方法などについて1年以上かけて綿密な議論をしました。
サンプル数については、残念ながら大学の先生方に聞いても明確にいくらだったら良いという一致点にたどり着くことはなくて、先生によって「これで良い」と言う人もあれば「これでは不充分」と言う人もあります。しかし、長い間議論を重ねた結果、「600世帯あればまあなんとか及第点か」という合意に達したからこそ、今の調査は成立しているのです。
よく誤解されるのは、「関西より関東のほうがずっと人口が多いのに、関西と同じ600サンプルでは少なすぎるのではないか?」という点です。母集団(ここでは関東または関西の全世帯)の数がある程度以上大きい場合は、母集団に対するサンプル(ここでは調査を依頼する世帯)の割合は誤差に影響を及ぼしません。関東であろうと関西であろうと、ともに600サンプルであれば誤差も同じなのです。
勿論、サンプル数を2倍にすれば精度はルート2倍に上がります。しかし、サンプル数を2倍にすれば、2倍の対象世帯を抽出して2倍の人たちに依頼しなければなりません(余談ですが、興信所によってサンプル世帯が突き止められてしまう危険性も2倍!)。応諾世帯に対する謝礼も2倍になるし、調査のための機器も2倍の台数が必要になり、集計のためのコンピュータ・システムも改修しなければならないかもしれません。その費用は誰が負担するのでしょう?
ビデオリサーチは税金によって運営されている官公庁ではなく、あくまで私企業なのです。そして、私企業であるとは言え、自主調査であるとは言え、ちゃんと専門家のチェックを済ませ、業界の合意を得た方法で調査を進めているのである限り、今回の事件に絡んでビデオリサーチを咎めるのは無理があるということです。
事情に詳しい人がいて、こんな風に言うかもしれません──「ビデオリサーチには放送局が資本参画していると聞く。そのことによってビデオリサーチを支配しようとしてるのではないか?」と。
確かに在京・在阪の民放や大手広告代理店などがビデオリサーチの株主として名を連ねています。理屈の上では支配することも可能かもしれません。しかし、これは、我々の外部に客観的な調査会社を設立する必要性を我々自身が痛感していたからその設立に当たって出資をした、という事実の表れなのです。もし、民放や広告代理店が金を出していなければ、中立の調査会社は未だに誕生していないでしょう。
あるいはこんなことを言う人がいるかもしれません──「視聴率調査に関して、ビデオリサーチが独占状態にあるのが問題だ」と。
確かに独占状態です。しかし、逆に言えばデファクト・スタンダードなのです。歴史的に見ても、かつてはビデオリサーチとニールセンの2社が視聴率調査を行っていました。しかし、21世紀を目前にしてニールセンは視聴率調査業務から撤退してしまいました。ビデオリサーチが次第にデファクト・スタンダード化するにつれて、ニールセンの調査は企業として立ち行かなくなってしまったのです。
NTVの「不心得者の社員」による買収によって、視聴率についてもう一度考えてみようという動きが出てくるのは良いことだと思います。しかし、ろくな知識もないままに頭ごなしに「ビデオリサーチにも問題があるのではないか」とするのは明らかに間違いではないかと思うのです。
勿論、他のことも含めて「ビデオリサーチには全く何の問題もない」という訳ではありませんが・・・。まあ、それは我々放送局とビデオリサーチが話し合って改善して行きます。
先般の事件を引き起こした原因は(モラルの問題を別にすれば)サンプル数が少ないことではなく(サンプル数については「第8回」をお読み下さい)、視聴率の誤差を考慮していない人が業界内にあまりにも多いということなのです(誤差については「第16回」をご参照下さい)。
Copyright(c)yama-a Nov.2003
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