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会長挨拶

山梨県山岳連盟会長 内藤順造 

 昨年の木暮祭で「木暮理太郎のこと」と題する講演を聞いて、木暮理太郎と切っても切れない関係にある田部重冶のことが印象に残りましたので、改めて文庫本に収録された「山と渓谷」を読みました。
 読み終えた後、現在の自分の山行や、多様化し利便性を追求した昨今の登山と比較すると、空しく切ない思いが胸を覆いました。
 今の登山環境は、情報が溢れアクセスは極端に便利になり、その上装備の進歩はめざましく天候にさえ恵まれれば、誰でもが気軽に登山が楽しめるようになりました。全国各地に「100名山」が続々誕生して、多くの中高年登山者はただ100の頂の数字を積み重ねる達成感だけを求めて登っているかの様にみえます。そこには登山の創造性は全く感じられず、山への尊厳や自然の尊さは吹き飛んでおり、本当にこれでよいのかと考えてしまいます。
 もっと、山や自然とゆったり融合する世界があるはずで、変化する自然に柔軟に対応して、山の醍醐味を求めることこそが登山と考えたいものです。
 これからの登山界を考えると、中高年者中心の登山人口はやがて団塊の世代が65歳付近に到達した後、徐々に減少してゆくと考えられています。そうなりますと、「100名山」に集中する登山もだんだんに薄れ、少し静かな雰囲気が山に戻ってきます。
 すでに、田部重冶や木暮理太郎等と同じ世界はありませんが、私達が過去に求めて経験してきた山の大きさや厳しさに対する対応と体験、山岳会における記録や蓄積した技術を、今こそ若い仲間達に伝承して、ゲレンデ化した山々から、豊かな威厳のある山に取り戻したいもので、その役割を彼らにに託して行きたいと考えます。また、将来を担う子供達には積極的に里山や森と触れ合い、多様性に溢れた生物の大切さや、自然との体験での楽しさを与え、世界に類を見ない美しい日本の山々の景観を理解し保全する教育の機会を積極的に設けるのも私達の務めです。自然とふれあう知的な山登りをすることで、山に好感を持った子供達はさらに山とふれあう気持ちを持ってくれると思います。そして、山に思い切りぶつかり、皆で助け合って頂上に立つ達成感、自然の美しい景観や変化に富んだ生物の観察、そこから生まれてくる自分達で探る、登山の創造はきっと楽しいはずで、工夫すれば広がりは無限にあります。
 「若者が山に入る環境づくり」こそが今の私達に残された使命です。
 この際、曲がり角に来ている登山界の将来を真剣に考え、次の世代への足がかりを作る為に何をすべきかと、みんなで考えたいと思います。         (平成16年10月)