アップル法;その特徴 ヤルデア研究所 伊東義高
本田技研創始者の本多宗一郎氏は「アイデアはピンチの智慧だ」と言ったと伝えられている。火事場の馬鹿力のように、「ピンチに際して必死に考えていると思わぬアイデアが浮かんでくる」という意味とは思うが、私は少々考えを異にする。確かに「緊張〜恐怖のホルモン」であるアドレナリンが大脳を支配している状態で、真剣に考えればそれなりにある着想を得ることがある。すると脳は一刻も早くその嫌いなピンチから脱したいとの一心から、着想したそこそこのアイデアで良しとしてその案件を収めてしまう。
後述するように本当に良いアイデアを得るならば、たくさんの候補案を考える必要がある。一つの着想に甘んじることなく、あれもこれもといろいろな案を欲しがる多動症的な浮気な気分が欲しい。この気分は「快適〜舞い上がりのホルモン」であるドーパミンがもたらすものである。楽しく考える中からアイデアが次々と産出されるのである。
アップル法はとにかく"苦慮"するのではなく、"遊想"する中からユニークなアイデアを多産するのが特徴である。レベルは低くてもラベルの変ったアイデアが沢山得られる。それらを選り分け、磨けば名案が得られる可能性がある。
個人でも使えるが、性別・年齢・経験・考え方などが違う数人のグループが使うと大いに力を発揮するのも特徴である。
創造的思考は「自由奔放なアイデアを得る拡散思考」と「実用化のために具体的な検証をする収束思考」とから成る。あまたある創造技法には拡散思考だけのものもあれば、収束思考に重点が置かれたものもある。両方備えたものもあるが、それぞれがワン・ステップずつである。ところがアップル法は拡散・収束がそれぞれ二段構成になっている。創造的思考に馴れていない人達にとってはなかなか十分な思考が尽くされないのが普通だから、それぞれを二段構えにして十分にやれるような設計とした。つまり、「画像類比法」と「強制拡散法(役割発想法)」をもって拡散思考とし、「アイデア結合法(集団見合い法)」と「シーズアップ・ニーズダウン法(SUND法)」をもって収束思考とした。このことは1986年の日本創造学会大会において「創造技法に共通するパターンと特異例…アップル法の場合…」と題して村上幸雄氏(日本創造学会理事)と共同発表して、会場の大方の評価を頂いた。
二段効果は特に拡散思考に大きく表れているように思える。先ず発想量が約倍増する。そして発想の柔軟性(発想のユニークさ)もまさに一段と豊かになる。どんな発想技法でも@ 全てのテーマ・全ての人・全ての状況にマッチしたものではなく、向き不向きがあり、「ピンとこない」「難しい」場合もある。また一つの技法でアイデアの量と質を高めようと時間を延長すれば「疲れる」「飽きた」となることが多い。こんな場合に同一テーマについて一呼吸した後に、見方・切り口を変えた方法で再挑戦すると量と質の生産性が高まる。特に集団発想の場合、他人の発想に触発されたりすると一層効果的である。
これらのことが結果的にも"創造とは想像以上に楽しいものだ!""自分もこんなに沢山のアイデアを出せたんだ!"という実感を多くの人にもたらす大きな要因となっているようである。
技法的にはイメージ・カードを使った「画像類比法」、いろいろな視点からゲーム感覚的に二次発想をする「役割発想法」、現実的な妥協、落とし所を求める「SUND法」に独自性がある。またそれぞれは切り離して単独に応用することが出来る。その詳しくはそれぞれの章で述べることにする。