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最初に何を書くか、と言うのは、結構考えちゃうもので、これを書きはじめる前に、私は何度も違う話を書いては削除しました。最初に書こうと思ったことが、ちょっと悲しい話で、それは相応しくないと思ったからです。だけど、書いちゃったらそうじゃなくなるかもしれないので、誰にも話さなかった話。というか、話すほどの事ではない話を書いてみます。 『勝手な解釈』の為に先ず読んだ、約3年分の『月刊菊地成孔』。私は、その中で何度か出てくる、楽しく切ない夜のドライヴのエピソードを読んで、その度に、ある夏の夜の最低なドライヴを思い出しました。それは、Tさんとの最初で最後のドライヴでした。 「あっ! いいところに居た! 藤澤、これから時間あるか?」 「なんです? Tさん、そんなに慌てて」 「これから、俺と赤坂までドライヴに行こうぜ」 「ドライヴって、商品返却かなんかの事でしょう?」 「言い方を換えりゃぁ、楽しいだろ。今夜は天気も良いし、最高のドライヴ日和だ。明日から、夏休みだって知ってるんだぞ。今夜も明日も仕事はないんだろ? 分かった! 荷物は俺が全部持つから」 「じゃぁ、何の為に私が行くんですか?」 「最高のドライヴにはいい女が必要なんだよ。行こう行こう。首を横に振るなよ。な、21時には、絶対会社に戻ってくるからさー」 「あはは。21時厳守ですよ。それから、荷物は持ちますから! 何処ですか?」 10人乗りのバンに、山ほど荷物を積め、走り出した車内には、クーラーのファンの小さな音と、止まらないTさんの軽口で隅々まで満たされていました。今まで私たちは、3分以上話したことなんてありませんでした。ふざけながら、たぶん、Tさんは気を使っていたんだと思います。内堀通りは、いつもの軽い渋滞状態で、妙に慌てているTさんは、更に気が急いて、早口で下らない話が止め処なく続きました。 「なぁ。夜中に皇居外苑に入ったことあるか? そこ、ほら、今、通った所」 「無いですねー」 「人がいなくていいんだよ。青カンなんて最高だぞ。マジ、お薦め」 「あはは。私、そんなのに喜ぶほど、高級ホテルに飽きてないんですよ」 「ったく、お前は、最低に最高な奴だなー。止めろよ。馬鹿。そう言う言い方」 「よく言われます(笑)。でも、ネタ振ったのはそっちですよ」 「まぁなー。……だけど、あの頃、おっかしかったよなー。……懐かしいなぁ」 Tさんは、少し疲れた顔でクールダウンし、心は明らかに過去へと行ってしまったようでした。お喋りなTさんは、沈黙さえも賑やかで、それは甘酸っぱくてキラキラした切ない物質を放って、空気を小刻みに震わせていました。 「まぁ、Tさん。……そのー、今夜のドライヴも、それなりに楽しいですよ」 「……はぁー。藤澤ぁ。本当、お前、女にしとくの惜しいなー」 「あはは。それも、よく言われます(苦笑)」 「じゃー、ちょっと、遠回りして帰るか!」 「いえ! まっすぐ帰ります」 会社には、21時を大幅に過ぎることは無く戻ることが出来ました。Tさんは、「サンキュ。また、付き合ってくれよ」と、軽く手を上げ、慌てて次の仕事へと向かって行きました。 1週間の夏休みが終わり、出社してみると、Tさんはもうこの世にいませんでした。奥さんと、まだ小学校に上がったばかりの子供を残し、自ら別の世界の扉を開て行ってしまったのでした。私が少し怒って上司に、「何故、葬式の知らせをくれなかったんです?」と言うと、「だって、今まで一度も一緒の仕事なんてしたこと無かっただろう? 部署も違うし」と言われました。確かに、そう言う距離です。 Tさんとのドライヴは、私の中で最低なドライヴ・ランキング、トップ20に入るでしょう。本当は、楽しくなんか全然ありませんでした。それに、話の結末がこれなんて最低です。次のドライヴでは、こてんぱんに幻滅させてあげる予定だったのに。最低の最低と言わせるはずだったのに。もっと、一緒に馬鹿な話をするはずだったのにな。おかしいなぁ。今頃は、辛いことや嫌なことはみんな忘れて、あの女神の服の透け具合がいいとか、いやこっちの娘の尻がいいとか言いながら、天国でナンパしまくってるんでしょうね。 う〜ん。やっぱり、ちょっとしんみりしてしまったので、最低なドライヴ・ランキングの中から、トップ20に入る笑える話を書きます。別のTさんの話です。 仕事帰りにOのライヴに寄り、打上げがお開きになった店の前で、ほぼ潰れているTさんが座っていました。 「Tさん。ちゃんと、帰れますか?」 「電車は気にせんでええんじゃ。自転車じゃけぇ」 「そうじゃなくて。そんな状況じゃ、漕げないでしょう? 環八は通り道だから、送って行きましょうか?」 その一言が、悪夢(笑)のはじまりでした。そこからTさんの家までの40分は、延々2つの話題の繰り返しだったのです。 「○月に、わしのバースデイ・ライヴをやるけー、参加して欲しいんよ」 「ソープ嬢以外の女性と、密室で二人きりだなんて、夢のようじゃー」 もう、絶対覚えて無いんだろうから、こんな時は思いっきり罵倒しきっちゃえばよかったのかもなぁ。余談ですが、いつもソープ嬢に恋しているTさんの、現在の恋のお相手とは、なんだか他人にはよく分からない程度にうまく行っていると言う情報が入っています。また、大勢の人を巻き込んで、ステージの上から、客席の“愛しの君”に向かって、物凄い台詞を吐く芝居をやって欲しいです。そして、作詞作曲Tさんによる「泡姫」を、また歌って下さい。前回の(前々回?)の恋はすごかったもん。こっそり、期待してますからね。富○さん! 2002年7月26日 |