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マンショントラブル解決虎の巻

 ここでは、マンション紛争事例の、具体的判例を中心に研究します。この種のテーマでは、弁護士さんが書かれた書籍が各種あるのですが、恐ろしい悪文を何とか分かり易く書き直すことで、同時に私の勉強にもなります。
 マンション紛争でも、こじれて裁判にまで持ち込まれた事例を知れば、マンション管理とは何かと言う、本質が自ずと分かってくるでしょう。
 いずれもマンション管理士制度ができる前の事件で、ちょっとしたトラブルがみんな裁判に持ち込まれたという背景がありました。これからは、時間もお金もかかる裁判になる前に、マンション管理士を活用してもらえたらと、願わずにはいられません。

ベランダでの鳩の餌付け(06.10.14)

マンションでは明らかな迷惑行為だが、本人の退去まで求められるか。

(概要)

 港区のマンションで実際起こったケース。本人Aは持ち主の母親から賃貸して、このマンションの一室に住んでいたが、ベランダに鳩の餌箱を置き、更に一室の窓を開放して「鳩部屋」として、野鳩を飼い始めた。
 鳩は50、100羽となり、その悪臭と羽音、糞の落下は凄まじいので、管理組合は何度もAに警告書を発して、鳩の餌遣りを止めるよう求めたが、やや精神疾患気味のAは「鳩は神の使い、給餌は神の啓示によるもの」と言って、管理組合や、持ち主の母親の説得を一切拒否して、餌遣りを続けた。
 管理組合はやむを得ず、Aと母親との賃貸契約の解除と専有部分の引渡し、損害賠償の請求訴訟を起こした。

(判決)管理組合完全勝訴、本人の退去と損害賠償を命令 東京地裁平成7.11

 Aの行為は明らかにマンションの共同生活に障害を及ぼすのに、Aは一切の話し合いにも応じず、餌付け、飼育行為を継続しる上に、公判中も、裁判所の和解説得すら拒否した。本人の退去以外に不法行為を防ぐ方法はなく、賃貸契約解除と専有部分の明け渡しと、外壁洗浄費と訴訟の弁護士費用を損害賠償として、支払いを命じた。

(解説)

 明らかな迷惑行為をどうしても止めようとしない居住者には、結局は退去と損害賠償を求めるしかない。
 実はこのケースは筆者(鈴木)が原告団に一員として、訴訟に加わった経緯がある。「鳩の餌遣りなどしても何の得にもならないのに、説得すれば分かるんじゃないか」と、当初は訴訟に消極的な人も多かったが、事態の深刻さが理解されて、総会決議を得て、訴訟に踏み切った。
 ここまで非常識なケースは珍しいのかもしれないが「階上の誰かがスズメにパンくずを遣っていて、糞が洗濯物や布団に落ちる」等々の話は良く聞く。マンションの一室は個人の財産ではあっても、暮らすには、長屋の知恵と倫理、またベランダは建物の共有部分であるという認識が必要と言うことだろう。

防音性能が説明と違うマンション(05.12.24掲載)

モデルルームでは完璧な防音設備なので、線路脇のマンションを買ったのだが。

(概要)

 Aさんが購入を考えたマンションは、交通量の多い道路と福岡空港に近い上に、JR鹿児島線の線路の隣、特に深夜に走る貨物列車の騒音が気になった。だが、モデルルームを見学すると、係員が「高性能防音サッシを使用しているので、列車、道路の騒音の心配は一切ない」とのこと、それ以外の点は、駅にも近く、買い物も便利、価格も割安なので、このマンションの購入を決めた。

 ところが完成した部屋を見てみると、確かに分厚いサッシは使っているが、騒音がすごくて、特に深夜の貨物列車は、雷鳴のように聞こえて、とても部屋で寝れるシロモノではなかった。更に腹が立つのは、あまりにも騒音が酷いので、売れ残りの部屋が大幅に値下げして売り出されたこと。Aさんが抗議すると「最高の防音性能を謳ってるサッシを使用しているのは事実なので当社には落ち度はない」とのこと。

 堪忍袋の緒の切れたAさんは、下落した価格相当額の損害賠償と虚偽の説明による販売での精神的損害の慰謝料を求めて提訴した。

(判決)請求一部棄却、一部認定 福岡地裁平成3.12

 まず、このマンションの販売に当たって、パンフレットには「充分な防音性能」が謳ってあり、モデルルームでもそのような説明がされていたのだから、業者には当然責任があった。しかし、室内は列車の通過時に5060ホンの騒音があり、これは国の環境基準(昼間50ホン以下、夜間40ホン以下)を大幅に越えており、業者が債務の本旨にかなった履行をしたとは言えない。

1.価格下落相当額の損害賠償は棄却
損害は認めるが、価格下落を認めるような的確な証拠はないので、財産的損害賠償の請求は失当。

2.慰謝料請求は認定
ただし、買主が騒音で不眠、不快の被害を受けたのは事実なので、精神的損害賠償をするのは当然。

(解説)

 この件では、マンション販売後の騒音という形のない問題について「パンフ通りの静かな環境を提供しない」と言う債務不履行責任があると認めたが、いわゆる欠陥マンションとしての瑕疵担保責任までは、明確には認めなかった。
 ただ、えてして買主の泣き寝入りになりがちな騒音問題について、売主の責任を認めたことは意義がある。
 現在では、防音工法も進化し、また既設のサッシでも、二重サッシにしたり、複層真空ガラスに代えたりで、この程度の騒音問題は簡単にクリアでき、この辺にチョッと時代の流れを感じる。
 ただし、業者はパンフやショールーム通りのマンションを提供する義務があり、買主の権利は積極的に保護されるべき、との趣旨は歓迎すべきだろう。

 

.マンション眺望の瑕疵

隣の新築建物のためウリの眺望が駄目になったら、契約を解除できるか。

(概要)

 京都二条城近くのマンションに事例。新築中のそのマンションは、二条城が部屋からバッチリ見えることと、静かな環境が売りで、その旨パンフレットにも記載されていた。モデルルームも気に入ったので、手付金を払って契約。一応念のため業者に二条城の眺望のことを確認したところ「勿論、ご契約の部屋から見えます。特にライトアップの時は最高ですよ」との事だった。

 だが、竣工後の内覧会に行ってビックリ仰天。何と隣に別のマンションの建築が始まっており、二条城など全く見えないことが分かった。更にそのビルのクーリングタワーが丁度同じ高さにあり、この騒音も凄そうに思えた。

 話が違うじゃないかと、業者に抗議、更に契約解除を求めたが、業者は「眺望のことは契約書に書いておらず、契約解除事由とはならない」と拒否。裁判に持ち込まれ、最高裁まで争われた。

(判決)契約解除、違約金を認める。買主の勝訴。最高裁(平成12.9

 第一審の京都地裁は「新築後二条城が見えなくなることを充分確認しないまま、パンフレットにその旨記載して販売したことは確かに軽率だが、本来眺望はいつまでもキープできるものではなく、契約解除まで求めるのは無理」と業者側勝訴の判決を出した。

 だが、第二審の大阪高裁は、逆転の判決(買主勝訴)を出し、最高裁もこれを支持した。「契約時の状況と完成後が今回のように著しく変わり、なおかつ買主が眺望を気に入って購入した状況を考えると、契約解除と違約金の支払いは当然」と業者に厳しい判決だった。

更に業者には、買主の弁護士代と、賃貸物件の不動産仲介手数料の支払いも命じた。

(解説)

 法律だけでそのまま考えれば、確かに眺望のことを契約書に謳って売買したわけではないので、業者勝訴の京都地裁第一審は正しい。だが一般人の常識からすれば「パンフレットにライトアップされた二条城を載せて売っておきながら、完成時には隣のビルがあるなんておかしい。それなら、その隣のマンションを買っていた」ということになるだろう。

 「まず法律ありき」ではなく、「法的には問題なくても、常識的におかしいことはおかしい」と言う考えが、二審以降貫かれたと見るべきで、個人の権利重視と、消費者保護の視点が強く出ているものと思う。

 話は違うが今年話題となった、ニッポン放送のフジテレビを買主に指定した新株予約権発行が、東京地裁、高裁で否決されたことも、この「法的には問題なくても、常識的におかしいことはおかしい」と言う考えだろう。一部、二部上場企業のトップがこんな司法界の流れを知らなかったのか。「裁判なら受けて立つ」と大見得を張って、逆に大恥をかいた日枝会長、一体どんな弁護士に相談したのだろうか。

自殺のあったマンションの販売(05.06.19掲載)

知らずに買った場合契約解除と違約金請求は認められるか。

(概要)

 横浜の中古マンションの事例。ある共稼ぎ夫婦(子供2人)が3200万円の中古マンションの購入を決め、手付金500万円を払った。契約解除の違約金は20%640万円とされていた。その後買主は引越しの準備をしてる際、たまたま購入したマンションの良からぬ噂を聞いて仰天。何とそこの売主の奥さんが、6年前室内で首吊り自殺したイワク付きの物件と言うのだ。格安物件なのでどうしようかと思ったが、子供が気味悪がる。やむなく、契約の解除、手付金の返還と、自殺と言う事情を隠しての販売なので、違約金も併せて支払うよう求めた。それに対し、売主は「設備その他は申し分なく、自殺と言う事情で、傷物マンション扱いは不当。契約解除、違約金の支払いなど、とんでもない」と拒否、訴訟に持ち込まれた。

(判決)契約解除、違約金を認める。買主の勝訴。 横浜地裁平成元.9(確定)

 昭和37年の大阪高裁判決の、一戸建ての住宅の販売で離れの蔵で、自殺した物件を販売した事件では、「自殺は瑕疵ではない」として、売買契約解除は認められなかった。今回「マンションという狭い個室場合、自殺は隠れた瑕疵か否か」が争われたのだが、結局、契約解除のみならず、解約違約金の支払いも認められた。

(解説)

 今は、マンション管理士のテキストでも、当然のように「マンション内の自殺は隠れた瑕疵で、黙って販売したら違約金を取られる」と書いてあるが、平成元年の裁判で大真面目に争われた事実を知ると、興味深い。

 また、昭和37年の大阪高裁では、平屋の家の自殺について、瑕疵ではないとしたのだが、一戸建てとマンションの違いの他に、個人の権利、消費者の保護について、社会情勢も変わってきたこともあって、新判断が示されたのだろう。

管理費について法人と個人に差をつけても良いか(05.06.17掲載)

確かに法人は経費で処理できて実質の負担は軽いが。

(概要)

 東京本郷での事例。当マンションは全戸居住用で、数件が法人所有で社宅として使用、残りは個人の住宅だった。総会では「法人はそもそも管理費は経費で処理できる上、ウチのいるのは有名な会社なんだから、少し多く管理費を負担してもらっても良いのでは」と言う意見が多数を占め、個人:法人=1:1.7の決議案が、個人居住者の賛成多数で管理規約として、決議されてしまった。

 当然、少数派の法人は反対したのだが、管理組合は「経費処理のできる法人と個人の実質負担は同じで合理的」「3分の2以上の賛成多数で成立した管理規約は有効」「分譲時から法人と個人では管理費に差があり、それを承知で購入した法人が、今更平等を要求するのはおかしい」と拒否。裁判に持ち込まれた。

(判決)差額は認めず、管理組合敗訴 東京地裁平成2.7(確定)

 確かに管理組合の規約や決議は多数決で決定されるが、少数者に不利な規定については、おのずと限度があるというのが、本来の区分所有法の趣旨。特にマンションは元来建物の持分に応じて利用されている実態を考えると、管理費に法人と個人で差をつける理由は見つからない。全員が賛成した上で、管理費に差をつけるのは問題ないが、少数者に不利な案を押し付けるのは不当。との判断が示された。

(解説)

 管理費の負担割合については、占有面積の比率だけで決めると、個々に不満が出るケースは多い。「自分は1階なのでエレベーター運用費の負担はおかしい」「2世代6人家族のアソコと老夫婦2人のウチでは、共有部分の使用頻度は全く違うんだから、少し管理費を安くしてよ」等々。

 特にこのマンションの法人は独身寮として利用されていて、出入りが頻繁な分、管理費は少し高くして当然との事情もあったようだが、使用頻度の違いは計測が難しく、この点での管理組合の主張は、認められなかった。

 結局、特段の事情がない限り、管理費は持分比率で分配。本人が認めない限り、イロをつけるのは難しい、との事だろう。

※最近では、マンション標準管理規約にも、「管理費占有面積で決定する」との項目があり、こんな紛争事例も過去のものと思ってたが、実際住居件事務所として会社で使ってることで、チョー割高の管理費を押し付けられていると言う名古屋の方が、この記事を見て相談してきて、「まだこんな不公平がまかり通ってたのか」と驚いた。
 更に驚くのは、相談したマンション管理士が「最初にその割高の管理費で契約したのだから仕方がない。判例のことは知らないが」と回答したとのこと。この判例のことはおろか、標準管理規約のことも知らないマンション管理士には、猛省をお願いしたい。

管理費請求訴訟の弁護士費用の行方(05.06.14掲載)

滞納者に弁護士費用まで併せて請求できるか。

(概要)

 東京高輪のマンションで起きたケース。管理組合は各部屋の占有面積に合わせて、管理費、修繕積立金等を設定し、集会決議を得ていた。ただ、この中の1軒が、各部屋の均等割りの管理費を主張し、勝手に算定したオレ流の管理費のみを支払い、管理組合が再三に亘って差額を請求しても、「裁判なら受けて立つ。オレの方が正しい」と、一切話し合いに応じようとせず、滞納が1年半に及んだ。

 仕方なく管理組合は訴訟を起こし、滞納金とともに弁護士費用併せて請求した。

(判決)管理組合の全面勝訴 東京地裁平成4.3(高裁でも原判決支持、確定)

  通常の金銭債務不履行の損害賠償は、弁護士費用や取立て費用までは請求できないことが、最高裁の判例で確定している(昭和48.10)。ただマンション管理費の場合は、徴収に伴う諸費用も共有部分の管理の一部であり、弁護士費用もこれに含まれると言う意見もある。

  特に今回は、滞納者が話し合いに一切応じず、訴訟を挑発したと言う事実を、一種の不法行為と認定して、その損害賠償として、弁護士費用の請求まで認めたものであり、高裁もこれを支持した。

(解説)

 このケースは、滞納者が話し合いを拒否して、訴訟を挑発すると言う「不法行為」があったので、弁護士費用まで請求が認められたが、通常の管理費滞納者には、実際の滞納額と延滞金しか請求できない。

 ただ、管理規約に管理費滞納者には、弁護士費用まで請求する旨を記し、本人もそれを承知の上、滞納した場合には、認められることもありうる。警告の意味も込めて、管理規約には、管理費の滞納に伴う延滞金と、訴訟費用が請求されることを、制定するのが賢明な策だろう。

賃貸方式の屋外駐車場

利用者の決定方法は、抽選方式と半永久方式のどちらが妥当か

(概要)

分譲マンションの総戸数378に対して、駐車場数は126.完成前に全戸販売済みで、

駐車場については、最初の抽選会で当たれば、半永久的に使える旨の口頭の説明が、重要事項説明の際に、分譲業者よりなされた。

だが、入居説明会の時の抽選会の際、当選者に渡された契約書は、単なる1年間の契約で「両者から特に申し出のない時は、同一条件で更新される」とだけ書いてあった。

その後、2年後の総会で、次のように、駐車場細則が単純過半数で決議された。

@従来の使用契約は終了し、新たに抽選会を開いて、駐車場割り当てをやりなおす。

A新たな使用契約は2年間とし、満了時ごとに改めて抽選を行う。

 これに対して、最初の駐車場当選者のうち20名が、半永久的に使えるはずで、このような決議は無効と、管理組合を訴えた。また、このような駐車場規則の制定は、「共用部分の重大変更」だから、特別決議事項となるため、過半数の決議では無効とも主張した。

(判決)請求棄却 浦和地裁平成5.11(その後控訴なしで確定)

  当初、原告らが得た駐車場の権利は、契約書とおりの1年間であり、一方の管理組合が終了を希望すれば、契約は更新されないのは当然。仮に、原告の言うように、分譲業者が「駐車場は最初当選すればずっと使える」などと、重要事項説明の際、説明していたとしても、それは誤解に基づく説明であり、原告らも署名した駐車場契約書は有効である。また、原告らの「半永久的な駐車場使用権があればこそマンションを購入したのだから、このまま使う権利がある」と言う主張も認められない。

 また、駐車場規則の制定は、「共用部分利用方法の制定」であって、「共用部分の重大変更」にはあたらないので、単純過半数による決議は有効で充分とした。 

(解説)

 そもそも、駐車場の利用方法を、抽選方式にするか、半永久方式にするかは、管理組合内の討議で決めるべきで、この判決も、どちらの方式が正しいと言う判断をしたものではない。今回のケースも、最初から、管理組合と駐車場利用者の話し合いが、十分されていれば、裁判にまでこじれることはなかっただろう。

また、このケースは、元々半永久方式があったわけではないとの立場に立ち、抽選方式を定めても規約変更ではないので、特別決議は要しないとしたが、            

     逆の判例もある(神戸地裁、平成3.6)                                

抽選方式の駐車場利用方式規約を、半永久方式に変えたケースは、特定の人間に専用使用権を与えると言う「共用部分の重大変更」であり、特別決議事項とした判例がある。この場合は、逆に単純過半数で可決した決議は無効とされた。



管理費等の滞納者対策について

(岡田一三弁護士講演より、03.11.16

 まず滞納問題ありき。深刻な現状。

  以前は、国の経済状態も良く、管理費も数千円程度の少額だったので、現在のような滞納を制 度として想定しておらず、対応が遅れた。

  現在、滞納問題のないマンションは皆無と言って良く、中には全戸滞納といったような極端な例すら存在する。それに対して、管理組合は訴訟しようにも、予算もないため、本気になって引き受ける弁護士さえいないのが現状。気の毒なので、5万〜10万で引き受けたこともあった。

  何でも先送りの無責任理事長、タライ回しの行く末は。

   管理費の徴収は管理会社の仕事だが、滞納管理費の催促、回収は、管理組合、つまり理事長の責任。この認識すらなく、タライ回しで理事長を引き受けているケースが多い。

    良くある例としては、本来滞納回収の陣頭に立つべき理事長が、同じマンションの顔なじみの滞納者に、内容証明等の強硬措置を出しづらいため、5~6年で数百万円溜まって回収不能。他の居住者も、馬鹿馬鹿しくて払わなくなってしまう泥沼のケースがある。

    そこで、早くから厳しい取立てをさせるため、第三者のマンション管理士を理事長に就けることを、ベターな案としておすすめしたい。基本的には、弁護士に依頼しなくても、理事長自身が、内容証明や、簡易裁判所の支払い督促ができるのだから。

   一度ためた滞納管理費回収は簡単ではない。

   法的整備も遅れている。一応管理費滞納には、先取特権があるとされるが、判決が出て差し押さえても、テレビ、冷蔵庫等の基本的生活用品には手が出せないため、骨董品や高価な美術品でもない限り、差し押さえと、債権回収は空振りとなる、

    競売のケースでも、精算は購入時のローン残が優先されるため、売値暴落の現在、管理費滞納には、殆どおこぼれも回って来ないのが実情。

    判決が出ても、差し押さえた銀行が、競売せずそのまま保有しているケースもあり、そうなると管理費は全く回収不可能のお先真っ暗。

   滞納回収のチャンスを逸するな、時効を常に念頭に。

    唯一の回収のチャンスは、第三者譲渡や、競売されたときに、新規購入者に請求できる点だけなので、絶対この機会を逸してはならない。特に競売では、裁判所資料に滞納管理費総額が載っていて、競落者はそれを承知で購入するので、回収できることが多い。

    また時効の問題も気をつけて欲しい。管理費の時効については、従来5年と言われてきたが、10年と言う高裁判決が出て以来、それが主流の考えになった。注意すべきは、本人から「必ず払う」と言う書面の約束を取れば、そこから更に10年の時効が発生。また、10年以上前の滞納額でも、本人が書面で滞納の存在を認めれば、そこから新たに10年間は請求できる。諦めてはならない。

    最近は知能犯も多い。問題なのは、所有者が他人に賃貸して、所有者は行方を眩まして逃げるケースや、又貸しをして、本来の所有者でない人間が賃料を取っているため、一体誰に滞納管理費を請求していいのか分からず、賃料の差し押さえもできない悪質なケースもあった。

   まずは内容証明、次は簡裁の支払督促状、本訴訟は最後の手段。

    滞納が2~3万の段階で厳重注意。5~6万になったら、内容証明の督促、それが駄目なら、簡裁の支払督促状、と初期対応を十分すれば、本人はそこに居住しているので、支払うケースが多い。特に簡裁の督促状は効果がある。

    ただこれが滞納50~100万となると、如何に裁判所の督促上が来ても、ない袖は触れない、とばかりに、ダメモトで異議申し立てをされて、総会決議の必要な本訴訟になったケースがある。この時は総会で、何と「顔見知りのあの人を裁判にかけるのはイヤ」と決議が否決されて、グズグズしているうちに益々滞納が増えてしまった。

    だから予め管理規約で「管理費滞納の件については、理事長に提訴する権限あり」と定めて置くのが理想的。こういう一般規定なら、反対されることはまずない。

     簡裁の支払督促状は、相手が異議申し立てをしなければ、最高裁判決と同じ効力があり、そこから10年の時効までいつでも請求できる。馬鹿な話だが、この簡裁の手続きの際、決して請求滞納額を間違えてはならない。1円でも違えば、異議申し立てをされて、本訴訟をしなくてはならなくなる。

  「伝家の宝刀」簡裁の支払督促状の盲点

   相手が同じ東京にいるなら問題がないが、遠隔地にいる場合、簡裁の支払督促で異議申し立てをされると、北海道のような遠くで本訴訟が必要となる。旅費その他がかさむので諦めれば、折角の督促状も無効となる。

    これを避けるには「裁判管轄地はマンションの住所とする」との規定を設けたうえで、いきなり本訴訟に持ち込む裏ワザもある。遠方の相手が東京の裁判に出席しないケースもあり、そうなれば、たった一回の公判で結審、全面勝訴の判決がでる。

   民事調停と即決和解

  「顔見知り同士で裁判はやりたくない、もっと穏やかな方法はないか」と言う向きには、この二つを薦めたい。勿論これも、弁護士なしで、理事長自身でできる。

   民事調停は簡裁の調停官の前で、お互いの主張を述べ合って、解決策を探っていく方法。調停が成立すれば、判決と同じ効果。

    当人同士で決めた分割返済の詳細等の事項を、裁判長の前で確認し、法廷記録として残すのが即決和解。これも判決と同じ効果が。

    その他としては、公証人役場で、公正証書で分割払いの約束をさせる方法があるが、手続きが面倒なので、あまりお薦めできない。

   ともかく早めに素早く手を打つこと「初期消火」が肝心。

    以上のやり方で早め早めに手を打てば、滞納問題の大半は自然と解決するが、5~6年     

  で500万くらいためてから弁護士に駆け込んでも、あまり回収は期待できない。

    こうした法的手続きを取っておけば、仮に滞納者が死亡しても、相続人に引き続き請求できる。

     訴訟に当たっていちいち総会決議をしていては、後手に回るので、予め総会規約で「3ヶ月以上の滞納は理事長が法的手続きができる」ことと「延滞金利」についても、はっきり規定しておいた方が良い。これは同時に、滞納を防ぐ警告ともなる。

    このような法的措置を素早く取るためにも、やはり理事長はマンションに居住しない専門家(マンション管理士)を据えておくのが最適だろう。マンションの住人同士の妙なシコリが残らず、スムーズに解決できる。

    弁護士を頼むときはまず費用を決めてから

     本訴訟以外は理事長自身でできるが、やむを得ず弁護士を使う場合は、事前に概算費    

用を決めて、契約書を作ってから依頼すべき。個々の弁護士に頼む前に、各地の弁護士会に相談することを薦めたい。マンション問題に詳しい弁護士を選べる。

     準備するものとして(簡裁支払い督促、民事調停、訴訟共通)

1.原告が理事長であることの証明(総会、理事会の議事録の2点)

2.理事が訴訟を起こせると言う「管理規約」または「総会決議書」

3.被告が滞納している証明(管理会社の請求書と一覧表のような帳簿)