ハンググライダーと安全
ハンググライダーなど空のスポーツは、一つエラーがあると、直ちに死につながります。人間はもともとエラーをする動物ですが、どうしたら、ヒューマンエラーを少なくすることができるのか、それを考えてから飛ぶことで、事故を減らすことができるはずです。
セルフチェック(セルフモニター)
人間が一定の確率でエラーをすると考えるとエラーは不可避(必然)となりますから、どのようにエラーを事前に発見するかという事が事故防止のためには重要になります。そのために必要なのが「点検(チェック)」(セルフモニター)です。
100回に1回エラーをする人がいても、一度チェックすることによって、100回のうち99回はエラーを発見できることになります(チェックのときも100回に1回はエラーするから)。つまり全くチェックをしない場合に比べると、エラーの確率を100分の1に減らすことができます。2回チェックをすると、さらに100分の1にすることができます(すると、結局、100×100で1万分の1ということ)。人間はエラーをする動物ですが、チェックを繰り返すことにってエラー(事故)を飛躍的に減らし非常に安全に飛行することが可能となるわけです。これは(本物の?)航空の世界(旅客機の世界)で言われています。
私の場合、ハンググライダーのセットアップ中に、キンクしやすいワイヤーなどを点検しながら行うのは当然のこと、セットアップ後に、とにかく2回機体の各部を点検します。さっき点検した部分であることが分かっていても、必ず二回同じ場所を点検します。「点検したという思い込み」による事故を防ぐためです。自分自身の記憶も信じないことが重要です。
全然、関係ない話ですが、宇宙飛行の若田光一さんも昔はハンググライダーに乗っていたそうです。 朝日新聞に写真が載っていました。あの機種だと、おそらく学生時代でしょうね。
クロスチェック(クロスモニター)
クロスチェック(クロスモニター)とは、本人が点検するのではなく、第三者の目で点検してもらうことです。ハングでもテイクオフする前にアシストする人の目視による点検を受けると効果的なはずです。実際、テイクオフする前に機体を仲間に押さえてもらって一度ぶら下がる事は良くありますが、これはクロスチェックの一つです。
フェイルセイフ
エラーが発生しても事故にならない様な道具を使用することも重要です。スイングラインが予備も含めて二本のラインとなっているのは、一本が切れても安全を維持するための方法です。カラビナを二個付ける人もいます。
アンダーチューブにタイヤを付けることもランディングエラーへの備えです。外国では、ベテランでもタイヤを付けることが多いようです。それだけランディングが危険なのかもしれません。ただ、タイヤを付けると、強風時にグライダーを足で押さえにくくなります。
バイオレーション
エラーと区別されるものに「バイオレーション」があります。バイオレーションとは意図的なルール違反のことです。安全のための規則があるにもかかわらず、これ位は平気だろうとあえてルール違反を犯すことです。「これ位なら大丈夫だ。」とお酒を飲んだ状態で飛行することはバイオレーションにあたるでしょう。危険性が高いことは言うまでもありません。
リスクテイキング行動
危険性を認識したうえであえて行動すること。強風であっても「これ位なら大丈夫」と言ってテイクオフする人もあり、止める人もいる、その違いのことです。個人差もあり、また、同じ人であっても状況によってリスクテイキングになることもあります。人をリスクテイキングに追いやる要素は、たとえば、「自信過剰」「格好をつけたい状況」「久しぶりの飛行」「他の人も飛んでいる」「前にも同じ様な経験がある」など様々です。自分の性格を自覚し、場合によっては飛行を自粛しましょう。
私の場合は、同じ強さの強風であっても、前回から飛行間隔が開いているときは飛ばないし、飛行間隔が開いていないときは飛ぶ、というように、区別しています。でも、他人からみたら、リスクテイキングなのかもしれません。
フックアウトの防止
ハンググライダーでは、フックアウト(カラビナの付け忘れ)を起こすと生死にかかわる重大事故になります。こういう事故を防ぐためには、
① 第三者に確認してもらう(クロスチェック)。
② カラビナを付けたときに引っ張って確かめる習慣にする(セルフチェック)。
③ 誰かにグライダーを支えておいてもらって、一度ぶら下がってみる。
④ 必ず一度はハーネスごと前に引っ張って確認する習慣にする(セルフチェック)。
これらは誰でも普段実行していることと思います。
前開きのハーネスの場合は、ハーネスを先にグライダーに付けておき、飛ぶ前に身体をハーネスに入れるようにすると、非常に安全になります。こういうハーネスに換えるのはお勧めです。
エリアで出来る工夫としては、ランチャー台などテイクオフする地点の手前にフックするための場所を決めておき、カラビナを留めないままではその先に進入出来ない規則とすることなどが考えられます。一番いいのは、テイクオフディレクターを置くことですが、普通のエリアでは無理ですので、お互いに他人の用具を点検する習慣にしましょう。
カラビナをかけ忘れるのは、たとえば、一旦はカラビナを付けてテイクオフしようとしたところ、風が強いためにテイクオフを断念してカラビナを外した。ところが、少し風が弱まったために、あわててテイクオフしようとしてカラビナを外した事を失念していた。という例のように、テイクオフを急いでいたとか、普段と少し違った手順でテイクオフしたときなどが多いようです。こういう「普段と少し違う」というのは事故につながることが多いようです。
ランチャーをする人は、ただグライダーを押さえているだけではなくカラビナとラフラインぐらいは必ずチェックする習慣にしておく(言われなくてもクロクチェック)。
たとえば、スイングライン、ハーネスライン、レスキューパラシュートのライン、これらを全て「オレンジ色」としておけば、カラビナがかけられているときは、オレンジ色のラインが一直線につながっていることになり点検が容易になるのではないでしょうか。全てのメーカーでこういう工夫を取り入れてもらえばいいのですが。
ラフラインのひっかかり

セットアップのときに、ラフラインがバテンにひっかかることがあります。これを防ぐためには、次の手順でセットアップすることです。
① セールを広げ、テンションをかける前に全てのバテンをセールに入れる。ただし、この段階ではバテンを入れるだけにとどめる。
② テンションをかける。ラフラインがバテンにひっかかるのはこのときです。
③ テンションをかけた後で、バテンひもを留める。こうすると、バテンをとめるときに必ずラフラインのひっかかりに気がつきます。
この様に、日常的な手順を工夫することで、エラーに自然と気付くようにすると安全につながります。
ラインのすり切れ
私は、グライダーの翼端のバテンひも(正式な名称を知りません)が切れかかっていたことがありました。原因はバテンのアルミの切断面のごく一部に面取り不良の部分があったようです。セットアップ中にバテンひもが半分ほどほつれて切れかかっていることに気がつき、バテンのアルミとこすれたのだろうと推測して良く観察しましたが、目視と指で触ったときには、面取り不良箇所が分かりませんでした。ほとんど気がつかないような僅かな部分の面取り不良にもかかわらずエンドバテンだったので強いテンションがかかり切断したのでしょう。
セットアップ時に気づいたので実害はなかったのですが、そもそも前回飛行した後ブレイクダウンするときに気がつかなければいけなかったと感じました。そのときに気づいていれば早く修理できたのです。「ああ無事に降りた。」と安心してばかりではなく、きちんとブレイクダウン時にも点検すべきでした。
バテンカーブの点検
私は、ランディング後にブレイクダウンするとき、左右のバテンを同じ長さのものを2本ずつ、重ね合わせてまとめていきます。手間はかかりますが、こうすることで毎回、左右のバテンカーブが同じかどうか点検することができます。長期間使用することによりバテンカーブが変化することは仕方ないとしても、左右同じであれば、それほどひどいことにはならないのではないか、と考えてこのようにしています。また、こうするとバテンを無くすことがありません。
アルミ製カラビナの安全性
数年前にハンググライダーでアルミカラビナが破損した事故がありました。それ以後、鉄製カラビナに交換するか、アルミ製のカラビナを使う場合は、ダブルとすることが一般化しました。もし、昔から飛んでいる人で、今でもアルミ製カラビナ一個掛けとしている人がいましたら、見直した方がいいかもしれません。とくに、金属疲労や腐りは外から見ても分かりません。また、カラビナのロックは必ず締めなければいけません。締めないで飛行すると、飛行中カラビナの変形量が大きくなるので金属疲労を大きくします。
レスキューパラシュート
レスキューパラシュートの寿命は何年か?私も知りませんが、自衛隊のパラシュートは7年で交換だそうです。しかし、ハーネスに入れたまま自動車のトランクに入れっぱなし、真夏は数十度の高熱にさらされる、などという環境に置いておくと、もっと寿命は短くなるかもしれません。メーカーあるいは試験団体による情報提供が欲しいところです。私のパラシュートは、もうすぐ20年近くになるので、危ないかもしれません。
なお、何年もレスキューパラシュートのリパックをしていない場合、パラシュートが開くかどうかという以前に、パラシュートバックのベルクロ(マジックテープ)が固着して開かないことがあるそうです。時々、コンテナだけは開けておくべきです。
吹き流しの確認
ランディング直前には誰でも吹き流しを確認すると思います。私の経験ですが、上空100mから見たときは吹き流しが真下に垂れていた(様に見えた)ので無風と思い、いつものとおり北から進入したのですが、ファイナルターン後、高度約20mで、何となく気になって、もう一度吹き流しを見たところ、確かに下向きに垂れているのですが、ようく見ると、吹き流しが垂れながらも少し南側に斜めに傾いていました。極めて弱い北風だったのです。そこで、それまではそのまま北から進入するつもりだったのですが、急遽、90度右旋回を加え、横風進入としました。風が弱い場合は風向が見ずらいので、注意が必要なようです。
指示は誤解なく
随分前のことですが、福島県の雄国エリアが開いて間もないころ、ランディング上空で、先に降りた仲間に風向を聞きました。「テイクオフから見て右からか、左からか」と聞いたところ、「左から吹いている」と言われたので、右から進入しました。ところが、真後ろからのフォローで、アップライトを二本折る結果となりました。「左からだ。」と言った本人に問い詰めたところ、「左からだろ」と言いながら右を指さしました。「テイクオフから右、左」という点でそもそも認識が違っていたのです。どちらが正しいという問題ではなくて、こういう誤解は常に事故の危険を含むということです。相対的な方向の表示である「右」とか「左」ではなく、方位や目的物などの客観的な方向を基準とすべきです。
雄国は、観光客の増加で道路に規制がかかってしまったそうで、どうなったのでしょうか。
水中に墜落した場合
水中に降りることが必至となった場合は、まずは風上に向かって安全に着水することです。できれば、着水前に、カラビナのロックを外す、ハーネスの肩ベルトを片方だけでも外す、など機体から早く離れる方法を準備できればベストですが実際には難しいでしょう。
海や湖などにグライダーが着水するのを目撃した人の場合は、水の上では目標物がないので、自分の目撃した位置と着水した機体の見える方向(方位)を記録することが必要です。二人の目撃者が別々の場所から着水地点の方位をとってあれば、機体が水没した後でも、着水地点を知ることができます。そうしないと沈没した機体を捜索すること自体困難となります。
船の世界では、誰か落水した場合には、とにかく救命浮環を投げろ、と教えられます。荒れた海で(落水するのはたいてい荒れた海です)、黒い髪の毛の頭一つ水から出ていても、それを船から見つけることは困難なので、目印にするといを意味もあり、とにかく救命浮環を投げ入れるのです。