雪風ファンドのJ-REIT研究室

不動産会社勤務。投資暦18年。学生時代から不動産・倉庫関連銘柄の
分析を続けてきた業界人の筆者が、J-REIT研究に挑戦します。


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当方は、この情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。すべての情報は自ら確認し、裏を取ることお勧めします。また、ここに書かれた意見は私個人のものであり、所属する団体の立場や戦略とは一切関係がありません。



 ●インフラファンドの落とし穴(2015.3.1)

J-REITに着目するタイプの投資家は、インフラセクターの株式も好む傾向があるように感じます。実際、REITの業績の安定性はインフラ株の堅実さと相通じるものがありますし、相対的な配当利回りの高さも共通する部分だと言えるでしょう。両者に似た部分があるのは確かですが、それぞれに違った課題があるのも事実だと思います。J-REITに関していえば、産みの親にとって都合の良い存在であることを求められることによって生じる“利害の相克”が取沙汰されることがありますが、インフラセクターに同様の落とし穴はないのでしょうか?

生活に必要なサービスを提供するインフラ企業は、規制に守られているケースが少なからずあります。ただ、安定をもたらしてくれるはずの規制が牙をむくケースがあるのも忘れてはなりません。これは、公共料金を支払う国民に対し、政治家が人気取りに走ればどうなるか考えるとわかりやすいでしょう。実際、原価割れのサービス提供を強いられるようになった事例なども少なくありません。主要株主が公的機関であったり、外人や投資ファンドといったケースでは、政治に翻弄され、一般株主が煮え湯を飲まされる危険度がさらに増します。

このような政治リスクは新興国において特に顕著です。みっともない話ですが、筆者自身もブラジル・中国・韓国等のインフラ投資で酷い目に遭った経験があります。こうしたリスクを回避したければ、株主の権利を重んじ、国民が豊かで政治・経済が成熟した地域へ資金を振り向けるのがベターということになるのでしょう。結局のところ、オリジネーターがJ-REITの命運を握るように、インフラセクターでは規制当局の意向が重要になります。こういった構造的な問題は、決算資料をいくら眺めても見えにくいリスク要因なので注意が必要です。

J-REITでもインフラ施設に投資する銘柄がありますが、現状では政治リスク案件は多くないとは言え、上記のような独特の怖さがあることは覚えておいて損はないでしょう。なお、東証は4月をめどにインフラファンド市場を開設すると報じられていますから、いずれは空港やメガソーラーなどで運用するJ-REITの競合商品が登場してくることになります。その選別にあたっては、オリジネーターの質が重要になるのはJ-REITと同様ですが、設備オーナーの目線で“将来の日本の政治が賭けるに値するか?”という問題も重要になりそうです。

(注-1)インフラセクターはインフレに強いか
インフラセクターに投資する投信のパンフレットには“インフラ投資はインフレに強い”との記載があったりしますが、公共セクターでは部門によってはサービス料金の価格硬直性が高いことがあるため注意が必要です。

(注-2)新型インフラファンドについて
上場するインフラファンドというのは海外市場では珍しくありません。私の知る限り、REITと同じような非課税優遇はないようですが、利回りは比較的高いため、J-REITとは投資層が重なることになるだろうと思います。



 ●巨鯨(2014.9.11)

世間でJ-REITの認知度が高まってきているようです。9月4日にはロイターが、「国内で販売されている“REITに投資するファンド”の8月末時点の純資産残高は9兆4,645億円、資金フローはプラス1,317億円で、23ヶ月連続の流入超」だと報じていました。このデータは、海外市場のREITを含んだ数字であるため、全部が全部J-REITマーケットに入っているわけではありませんが、マネーの奔流がこのセクターにも少なからず影響を与えているのは確実の情勢です。

モーニングスターのデータで、J-REITを対象とする投資信託上位50本の純資産額を集計しただけでも2.5兆円を上回りますから、時価総額が8.8兆円のJ-REIT市場で、投信経由のマネーが30%を超える圧倒的な存在感を誇っているのは間違いありません。かつて、投信マネーが膨れ上がり、株式市場の動向を大きく左右したことから“池の中の鯨”と呼ばれた時代がありましたが、昨今の鯨はREIT市場において潜在的な波乱要因として肥大を続けています。

投資主体別売買動向では、投信マネーの売買に占める比率は12%前後に過ぎませんが、機敏に売り買いを交錯させる外人や証券会社の自己売買を積雪表層の雪に例えれば、投信マネーは根雪のようなものです。今は動きの鈍い投信マネーが、相場の土台を支えているように見えますが、万年雪ではないゆえ融けだすとひたすら相場の足を引っ張ることになります。いつかは、目先筋が起こす表層雪崩よりも本格的な雪融けへの警戒が必要になりそうです。

さて、このところマーケットでは2大オフィス銘柄がやや軟調に見えますが、利回りが最も低いという観点からは、J-REITの中で最高レベルの評価を受けていることに変わりありません。上位と下位の利回り格差縮小は続いていますが、これは投資家の警戒心が緩む局面ではよくある現象に過ぎず、下剋上が起こるまでには至らないでしょう。2015年以降、オフィス賃料が本格的な上昇を見せる中で、2大REITが再び相場の主役に躍り出るものと予想しています。

(注-1)
日銀によるJ-REITの買入を“日銀砲”と呼び囃す向きもありますが、投信マネーと比べれば日銀の散発的な数億の援護射撃など豆鉄砲のようなものです。

(注-2)
「池の中のメダカが鯨になった」と投信が問題視され、市場に与える影響について真剣に議論された昭和38年当時、投信の保有株式は全体の9.5%でした。

【参考図書】
『日本証券史』 監修:有沢広巳



●30年投資(2014.3.18)

長期投資の提唱者として有名なジェレミー・シーゲル教授は、1871年から1992年の間、どの30年をとっても米国株式インデックスのリターンが債券のそれを上回っていることを発見しました。S&P500指数米国長期国債の推移については、こちらで便利な計算機が提供されているので、1992年より後の結果も追ってみると、やはり30年という期間なら株式に軍配が上がりそうな感じです。一方で、この計算機を使って1871年以降現在に至る超長期データを見てみると、債券のパフォーマンスも意外に侮れないことがわかりますから、株式と債券で構成したポートフォリオを長期間堅持するというのも悪くない戦略であると考えられます。 

この路線では、松本大氏が提唱しているという米国債を活用した投資法が興味深いです。例えば、価格35ドルのゼロクーポン債に資金の35%を投じ、残りをS&P500のETFに振り分ければ、デフォルトが起きない限り償還時にはドルベースの投資元本が100%確保され、ETFの分だけ収益の上積みが期待できるというものです。これを現時点にあてはめ、最高値近辺をうろつくS&P500に大金を投じるのはどうかとも思いますが、シーゲル教授の主張する株式の長期投資における優位性なども踏まえると、検討する価値があるとは言えそうです。至ってシンプルなやり方で資産形成が出来てしまうというのがこの戦略の強みでしょう。

もちろん、上記アイデアは債券の償還差益にかかる税などを踏まえて補正しなければなりません。それに、現実問題として物価変動を考慮する必要がありますので、ドルベースの投資元本が確保されていることにさほど意味がないという面もあります。過去の実績で言えば、2014年までの30年でドルの購買力は56%落ちていますし、2004年までの30年なら74%、1994年までなら79%も衰えているからです。このようにマネーの価値が脆いのも事実です。将来いくら得られるかよりも、得られたお金で何が買えてどんなサービスが受けられるかということの方が大切なので、長期の海外投資では為替以外の要因にも注意が必要です。

30年投資という観点では、あとどれだけ生きられるのか?という問題も重要です。これに関しては、簡易生命表平均余命が参考になるでしょう。自分や大切な人が将来困らないようにするためにどうするべきか?万人にとっての正解などありませんが、これを機に何をするべきか考えてみるのもいいかも知れません。J-REITに関しては、30年という投資期間で考えれば建物の劣化が重要な課題となりますので、不況期でも投資主価値を損なわないような形で資産の入替えを出来る経営力があるかどうかが鍵となります。株式や債券と比較してこの商品の歴史は浅いので、銘柄選びは慎重過ぎるぐらいでちょうど良いと思います。 

(補足)意外に脆いマネーの価値
2014年までの30年でドルの購買力が56.41%落ちているということは、1984年に1,000ドルで買えた物やサービスが今では2,294ドル出さないと得られなくなっていることを意味します。同様に、1974年〜2004年で物価は3.91倍に、1964年〜1994年では4.76倍になっています。余談ですが、冒頭のデータの起点となる1871年、日本では新貨条例により円が生まれましたが、当時の1円は1ドルとほぼ等しく、金1.5グラム相当の価値だったといいます。

【参考図書】 
『バフェット流投資に学ぶこと、学んではいけないこと』 著者:ヴァホン・ジョンジグヨン



●分散投資を考える(2014.1.18)

1年ほど前に公表された“日本の投資家にとってのテールリスクと金の役割”という冊子は面白い読み物でした。金のPR機関が作成した資料なので、ゴールドの魅力を訴える部分は無視して良いのですが、全20ページのうち7〜8ページの部分は一読の価値があると思います。注目すべきは、内外の株式や債券が9つの危機発生後にどう動いたかという箇所です。これを見ると、ブラックマンデー・LTCM破綻・リーマンショックのようなテールイベントが発生した場合に、国内外の株式へ分散投資しているだけでは十分なリスクヘッジにならないことが改めて実感できます。

上記の資料では、危機に強い資産として国内債券の魅力が浮き彫りになりますが、国民の多くは既に債券に偏ったポジションを持っているとも言えます。年金原資の約6割は国内債券だからです。となればリスクヘッジをする上では外国債券も有力な選択肢になるでしょう。ただ、外債はテーパリングで弱含むと見込まれますし、金利上昇局面で長期債に飛びつけば何年も無為に過ごすことになりかねないので、今は5年未満の外債が良さそうです。もちろん、危機において最強なのは現金ですから、不安なら十分なキャッシュを積んでおくことも重要になると思います。

さて、J-REITに関しては、複数銘柄でポートフォリオを組んでリスクを分散するべきだという意見もありますが、オフィス・商業・住宅などのセクターに分けたとしても、業種が不動産であることに変わりはなく、別の資産クラスに分散する場合と比較して効果は限られるでしょう。また、日本ビルファンドを例にとると、その資産規模は下位10銘柄の合計よりも多いのが実情ですから、多数の中小REITに投資するより1つの大規模REITに投資した方が、実質的な分散になるようなケースも考えられます。銘柄の数を増やすだけでリスク分散の効果が増すとは限らないわけです。

分散投資をする場合のJ-REITの適正な比率については諸説あると思いますが、どんなに多くてもポートフォリオの1/3以内に収めるのが偏りを避ける意味でも良いのではないかと思います。そして、株以上のリスクがあるだけでなく、テールイベント時の値動きなどには相関性が認められますから、J-REITに国内外の株式や海外REITばかりを組み合わせるのも“危うい配合”ということになりそうです。やはり、上げ相場でのパフォーマンスは落ちるにしても、ポートフォリオには一定割合の債券やキャッシュを組み入れるのが、資産防衛の王道ということになるのでしょう。

(補足)
債券におけるテールイベントは株式のそれとは毛色が異なるという点には注意が必要です。紹介した冊子の6ページにあるように、日本でいえばVaRショックや資金運用部ショックなどという一般には聞きなれないイベントが債券市場における大事件でした。なお、米国債に関して言えば、2012年の夏ごろから強い下げ圧力にさらされており、こうした状況はしばらく続くものと見込まれています。



●老衰REIT(2013.12.21)

グローバル・ワン不動産投資法人の運用報告書には、「一般に、築20年超の物件は、修繕費やリニューアル工事費等、物件の競争力を維持するためのコストが掛かるだけでなく、BCP対応の面等、コストを掛けても最先端のビルと競争力の面で相対的に劣る部分が存在します。」というくだりがあります。こうした観点から、築20年を超え、競争力低下の懸念がある物件を所有していくより、売却することが“投資主の利益に適う”と判断したと報告書では説明されています。グローバル・ワンは、資産の入れ替えでポートフォリオの若返りと質の向上を図ることを表明したわけです。

一方で、築年数ランキング(JAPAN-REIT.COM提供)を見てもわかるように、平均築年数の段階で20年を超えてしまうようなREITというのも珍しくありません。もちろん、ポートフォリオが多少古くても立地など他の要因でカバー出来る銘柄もあるとは思いますが、中には新規上場銘柄でありながら当初から平均築年数が20年を超えていて、付加価値もわかりにくい銘柄というのも見受けられます。物件の競争力が劣る銘柄に対するマーケットの見方は厳しく、高い利回り水準で放置されていたりします。このような下位のJ-REITにはどのような未来が待ち受けているのでしょうか?

まず言えるのは、分配金の水準が維持されるとは期待しにくいということです。なぜなら、高過ぎる利回りで取引されている銘柄は、ひとたび増資をしてしまえば、分配金を切り下げる結果になるからです。では、増資をしなければどうなるのか?含み益のある物件を多数抱えていないと、物件の入れ替えによるポートフォリオの若返りは困難になりますから“老衰REIT”になってしまうことでしょう。コストが嵩む一方で家賃収入は落ちますので、老衰REITの分配金は右肩下がりになります。にっちもさっちも行かなくなるのが運用に失敗したJ-REITの末路だと考えられるわけです。

投資のタイミング次第では、この手の銘柄で果実を得られることもあると思いますが、長期では難しい対象になるでしょう。やはり、老衰REITには最初から手を出さないのが正解だと言えそうです。蛇足ながら、今回の記事のために建物の耐用年数を見ていて面白いことに気づきました。日本ビルファンドが最大50年で償却としている一方で、野村不動産オフィスファンドグローバル・ワンが最大70年としているという事実です。後者の方が利益に下駄を履かせることができるのかも知れませんが、想定よりも早く建物に寿命がきてしまったときにはどうするつもりなのでしょうか?

(補足)
築30年を越えるようなビルでも、適切に管理されて競争力を維持している事例も少なくありませんし、50年を待たずに建て替えとなるケースも多数あります。なお、今回はオフィス中心の話でしたが、マンションの場合は鮮度を保てる期間はさらに短くなります。これについては、菅田修氏(三井トラスト基礎研究所)の「経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由」なども参考になるでしょう。



●J-REITにまつわる3つの誤解(2013.12.19)

J-REITに関する誤解の最たるものは、「株式よりもリスクが低い」というものでしょう。筆者自身も、かつてはそうした考えに染まっていた時期がありました。恥ずかしながら、リーマンショックの2年ほど前には“株式ポートフォリオに、J-REITを組み込むことでリスクを抑えられる”というような発言もしています。しかし、変動率が小さいのは上位銘柄の業績に限定される話で、投資口価格の方は市況の動向次第で激しい値動きを繰り返してきたのが、これまでのJ-REITの歩みでした。

J-REITにまつわるもう1つのありがちな誤解は、「海外投資と比較するとJ-REITはリスクが低い」というものです。為替に左右されない分、リスクが低いというのはパッと見では正しいように見えますが、これも事実とは異なります。実際、ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏による10年超の追跡調査では、国内株式はおろか新興国株式をも上回る価格変動リスクがJ-REITにあったことが実証されています。J-REITは他の投資商品と比較して値動きが小さいというのは誤りなのです。

実際のところ、投資経験の長い方ならJ-REITの価格変動が数年分のインカム程度でも軽く吹き飛ばすほどに荒っぽいことを、体験として知っていたと思いますが、そのリスクが為替変動のある外国株よりも高いというのは意外だったのではないでしょか?ただ、もちろんハイリスクだからといってJ-REITは投資不適格だと決め付けるのも乱暴でしょう。攻めの資産運用には格好の商品であると考えられるからです。ハイリスクならハイリスクなりの向き合い方があるということです。

さて、3つの誤解の最後は、「既に一通りの危機を経験している」というものです。リーマンショックは確かに大変な事態ではありました。しかし、本格的な金利上昇局面でJ-REITがどうなるかは未知の領域にあります。事実、日本では長年、国際的に見ても超のつく低金利が継続されてきましたから、下位銘柄を除けば恵まれたローン環境に安住してきたわけです。金利が上昇しだしたときに、このハイリスク商品にどのような影響が出るのかは検討すべき課題と言えるでしょう。

(補足)
リスクの面では、J-REIT投資は小口の不動産投資とは全く異なると主張する仲谷光司氏の記事も示唆に富んでいます。とはいえ、過去にハイリスクだったとしても、これからもそうだとは限らないという反論もあるでしょう。確かに、実績にばかり目を向けた投資判断は“バックミラーを見ながら車を運転するようなもの”だと揶揄されることもあります。



●J-REITはNISAに向いているのか?(2013.11.28)

年明けからNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)が始まるということで、証券業界などが沸き立っています。どんな投資対象が最適かという点については、様々な媒体で論じられていますが、期間や条件を踏まえれば、ベストの答えは自明でしょう。”利益を再投資できる無配当の銘柄”に勝る対象がないからです。5年間にわたりNISAのメリットを最大限に享受するうえでは、複利効果の妨げとなる配当など忌むべき要因でしかありません。

ただし、業績が堅く、かつ無配で値下がりしにくい、というNISAに最適な条件を備える対象というのは、そうそう見つかるものではありません。バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイのB株等が該当するのかも知れませんが、そういった先を探し出して将来性を見極めるには、能力だけでなく運も重要な要素になるでしょう。となれば、投資効率に弱点はあっても、業績が読みやすいJ-REITという選択も意外に悪くないのかも知れません。

外部環境もJ-REITに味方します。市況回復局面では、都心オフィスの空室率低下の後で賃料の上昇が始まり、その流れが序々に周辺部に波及していきますが、三鬼商事の調査資料等を見ても判るように、こうした傾向はまだ始まったばかりです。来年は余程の大事件でもない限り、東証REIT指数が2013年4月の高値を再び試す展開になると見ています。思わぬ過熱ぶりを前にして、降りるべきか迷う局面があってもおかしくないでしょう。

ただ、そもそもの話、現実にはJ-REITを買うべきでない人が多いのも事実です。実際、家やマンションを保有するような人が投資すれば多くのケースで資産が極端に国内不動産に偏ることになってしまいます。投資の原点に立ち返れば、このような一極集中はリスク分散の対極にある行動だと言えるでしょう。これは、初歩的かつ極めて重要な問題であるにもにもかかわらず、J-REIT関係の記事で指摘されているのを見たことがありません。

(補足)
投資口価格の振れ幅は株式より大きいため、J-REITはリスクの高い投資商品だと考えるのが正解でしょう。NISAにはハイリスク商品が向いているという論者もいれば、そうでないと主張する専門家もいます。なお、現時点で筆者はポートフォリオにJ-REITを組み込んでいません。



●不動産絶望未来?(2013.11.20)

余るものの価値は下がる。単純ですが、これは物事の本質を衝いた言葉でしょう。日本の不動産についても、長い目で見ればだぶつく可能性が高いがゆえに、資産としての将来性は無いという意見をよく耳にします。確かに“土地神話”は崩壊して久しく、人口動態等から推測しうる未来についても、決して生易しいものではないでしょう。ならば、J-REITの行く末もお先真っ暗と考えるしかないのでしょうか?

日本不動産研究所の全国賃料統計などを見ると、J-REITの草創期と比較して最近の賃料水準が15%あまり低いという事実が確認できます。REITの事業構造では、収入が15%減った場合、分配金は35%程度減ってもおかしくありません。ところが、上位銘柄の決算を時系列で見ると、巡航分配金が維持されているようなケースも見受けられます。逆風下でも善戦しうる理由はどこにあるのでしょうか?

J-REITの場合、良好な条件での増資と物件取得が実現できれば、外部要因が変わらなくても分配金を増やすシナリオが描けます。これは不動産を金融商品化したことによるプラスの側面であり、実物不動産投資にはない強みであると考えられます。こうした特性を活かせば、市況悪化に対して耐性が得られることもあるわけです。簡単にJ-REITの将来性が無いと決め付けるのは早計と言えるでしょう。

ただ、言うまでもなく全体の流れに逆らうのは容易なことではありません。ブームが過ぎ去った後もまっとうな姿で生き残るためには、絶妙なさじ加減で投資家に上向きの期待を抱かせ続けなければならないからです。不安視されるようなディールがあれば、たちどころに金融商品ゆえの負の側面が表面化することになるでしょう。余るものではなく、希少な存在になるための創意こそが希望をもたらします。

(補足)J-REIT草創期からの善戦に関して
不動産証券化協会のレポートによれば、過去10年のトータルリターン(配当込み)では東証株価指数が+35.6%なのに対し、J-REITは+111.7%となっています。賃料相場が軟調な中でも日本株の3倍を超えるパフォーマンスを演じたことになります。



●全天候型ポートフォリオ(2013.10.25)

いざという時に備えるためにも、インフレ保険を考えてはどうか?と問題提起してからもうすぐ1年になります。こうした観点では、日本株やJ-REITでもそれなりにヘッジ機能を果たしてくれるとは思いますが、この国自体が落ちぶれてしまう可能性があることも考えれば安心は出来ません。政府総債務残高は2013年には1,176兆円にまで増加すると見込まれており、もはや小手先の増税や支出削減では危機を少しのあいだ先送りする程度の効果しか見込めないでしょう。日本が大過なく2020年のオリンピックを迎えられるかどうかは微妙なところです。

悲観シナリオも想定するなら、外貨建て資産へのシフトは視野に入れざるを得ません。その場合、世界経済で圧倒的な存在感と流動性を誇るドル資産は外せない対象となりますので、米国株や米国債を中核に据えるのが基本姿勢になるでしょう。ただし、アメリカはアメリカで問題を抱えているのも事実です。債務上限問題は今後も出来レースの解決を続けると思いますが、これは長期でドルの信任にダメージを与えかねない要因です。本格的にドルにシフトした挙句、日米共倒れのようになっては目も当てられませんのでリスク分散は必須です。

そう考えると、ユーロ圏やイギリスなども対象に加えるべきということになってくるでしょう。いずれも債務問題が危機に発展するリスクはありますが、一極集中を避けるためには目をつぶるしかありません。債務危機を回避したいならスイスも視野に入ります。スイスフランは世界で最も安定した通貨との呼び声が高いからです。また、リスクを国家から切り離すという観点では、ゴールドのような“無国籍通貨”と言われる資産も検討対象になるでしょう。ゴールドは誰の債務でもないので、原則としてデフォルトの心配がないという点も特筆に値します。

このように、保険のそのまた保険というような発想で組んだポートフォリオは、まともなインカムの見込めない資産にも分散する必要が生じるため、傍目には面白くも何ともない形に仕上がることになるでしょう。全勝しようなどという考えを捨てないとこうした決断は出来ません。一方で、全天候型ポートフォリオを目指す運用は、ストレスフリーと言わないまでも、精神的な負荷が軽いのも事実です。日本の先行きに対する悲観的な予想が外れても生活に困るわけではない、というぐらいの割り切りが出来るのであれば、こんな運用スタイルもアリでしょう。

(補足)
保険のための運用という発想では、何があったら困るかを定義すれば必要な対応策も見えてきます。これは、「利益を少しでも伸ばしたい」とか「未来はこうなってくれないと困る」というような考えで投資するのとは真逆の理念です。



●遠景(2013.9.19) 

三井住友トラスト基礎研究所の調べによると、2013年1月〜6月に組成された私募ファンドの平均LTVが、取得額ベースで71.1%になったといいます。2011年の同時期には53.8%、2012年は61.3%でしたから、リーマンショックから5年あまりの時を経て、ファンドが再びハイリスクハイリターンを目指す姿勢になりつつあるのが見て取れます。いつか来た道です。歴史は繰り返すという先人の教えにならえば、J-REITでもこれから何が起こるのかは予測できるのではないでしょうか? 

ミニバブル期のような弛緩したディールを許す環境となれば、再び泡沫型のJ-REITが跋扈することが考えられます。そういった銘柄は、不用意にLTVを高めたり、低品質の物件を組み入れたり、利益超過分配を採り入れたり、頻繁な物件入れ替えで益出しをしたり、短期借入金に依存した経営をすることで目先の高分配を謳おうとするでしょう。しかし、近視眼的な運営手法は潮目が変われば命取りになりかねません。短期投資派でなければこの手の施策には警戒が必要です。

意外に知られていないかも知れませんが、ムーディーズやS&Pは日本ビルファンド・ジャパンリアルエステイト等に、REITとしては世界最高レベルの格付を付与しています。確かに、REITの本場である米国や豪州では借入依存度の高い銘柄が多数みられますので、比較すると一部のJ-REITの健全さが際立つのかも知れませんが、LTV規制のあるシンガポールREITよりも評価が高いのは誇れることでしょう。これは環境に左右されず長期安定を志向した成果でもあると思います。

世界でも抜群の信用力を誇るのがJ-REITマーケットなのですから、質を落とすような運用は歓迎されません。海外では珍しくない手法ですが、J-REITでは新しい手口である“利益超過分配”には特に要注意です。経営努力をせずに分配を嵩上げする手っ取り早い手段なだけに、今後も安易に検討されるケースが相次ぐと見込まれるからです。外国の運用手法が優れているとは限りません。リーマンショックでは、外資主導で組成されたJ-REITは例外なく壊滅的打撃を受けました。

(補足)
かつて外資系のJ-REITは、圧倒的知名度を誇るスポンサーの銘柄も含め、全てが市況悪化局面でボロボロになりました。目下のところ飛ぶ鳥を落とす勢いの物流銘柄がブームの後にどうなるのか?という点や、MIDリートの組成を主導したエートスグループの手になる新規上場REIT、SIA不動産が市況の波をどう乗りこなすのか?という点は注目に値するでしょう。



●とかげのしっぽ(2013.7.26)

星野佳路氏といえば、リゾート再生請負人として業界のみならず一般への知名度も高い存在です。メディアにも頻繁に登場しますのでご存知の方も多いでしょう。そんな氏が率いる星野リゾートグループのJ-REITが7月に上場を果たしました。その最大の特徴は、オリジネーターとテナントが全て同一グループであり、投資対象がツブシのきかないタイプの資産だという点ですから、身内の経営状態が極めて重要になることは容易に想像がつくところです。

ところが、そのJ-REITの開示資料には、利害関係人である一部のグループ子会社の情報に関して「取得先の承諾が得られなかったため、開示していません。」という箇所があります。身内の情報に関してこのような対応をするということは、出したくても出せない事情があると考えて間違いありません。大方、旅館のテナントとなる子会社の経営指標が芳しくないため、開示すれば投資家に無用な不安を抱かせてしまう恐れがある、といったところでしょう。

以上の話は瑣末なことのようでもありますが、投資家としては簡単に見過ごしていい話ではありません。星野リゾート・リートから見たスポンサーは運命共同体だからです。もしも再生のプロ中のプロが運営して失敗するようであれば、そうそう後継テナントは見つからないでしょう。所有と経営の分離により、REITに組み入れた旅館はオリジネーター目線では失敗しても切りやすい存在になりましたが、REITにしてみれば、切られれば一巻の終わりなのです。

J-REITという資金調達用のハコを作ったことで、星野リゾートグループは本体の経営への介入を避けつつ、未上場のままで勢力を伸ばす有力なツールを手に入れました。この都合のいい存在を“とかげのしっぽ”のように扱うのではなく、上手に育てることが出来れば、本体の持続的な成長にも弾みがつくことになるでしょう。すなわち、J-REITの活用法しだいで、今は再生請負人の男が”リゾート王”と呼ばれる日が来ることも考えられるというわけです。

 (補足) 
恐らく事業内容より担保物件の評価にこだわる邦銀の融資姿勢が星野リゾートの成長を妨げていたのでしょう。そこでJ-REITの登場と相成ったものと推測します。星野リゾート・リートを買うのは、不動産投資というより旅館の運営力への投資に近いと言えそうです。



●ゲームの行方(2013.6.11)

そのゲームは元々、ひと握りの不動産オーナーが圧倒的多数の賃借人から賃料を搾り取るような“社会の不条理”を世に訴えることを目的に作られました。しかし、持てる者と持たざる者の対比という政治色の濃い切り口は、ゲームに娯楽性を高める改良が重ねられたことによって薄れ、やがては世界で愛される不朽の傑作玩具へと成長していくことになります。モノポリーと名付けられたそのゲームを通じて、英語圏の人々は子供の頃から不動産を所有することの魅力を叩き込まれるのだといいます。

日本の不動産取引の近況を見ていると、製造業における資産のスリム化に伴って、大型物件が取引されるような事例が目に見えて増えてきているのを実感できます。受け皿の主役は言うまでもなくファンド勢です。こういった流れが続けば、不動産市場におけるREITの存在感はますます強まっていきますし、市況の浮沈のたびに弱者が強者に取り込まれるような歴史は繰り返されるでしょうから、超長期ではモノポリー(独占)と言わないまでも、勝者総取りの寡占化が進んでいくことになるでしょう。

ファンドは不動産会社の勢力拡大を支援する有力なツールですから、“J-REITを制する者がマーケットを制する”と言っても過言ではありません。遠い将来、マーケットの支配層になる可能性があるのは、メガバンクとの強固な関係を持ち、本体とその別働隊たる系列ファンドを上手に使い分けながら、地に足の着いた成長を志向できる企業グループに限定されそうです。ただし、失政により日本経済が大混乱に陥るようであれば、短期間で外資によるマーケット支配が実現してしまうことも考えられます。

さて、直近の株式市場ではJ-REITを含む不動産セクターの不振が顕著となっています。アベノミクスが見事成功するとしたらこの業種は投資先の一丁目一番地になる筈ですから、あまりに違和感のある展開ではないでしょうか?これは市場が“世紀の大作戦”の頓挫を予見していると見るべきなのかも知れません。ゲームの破産なら笑って済ませられますが、政策の失敗ではそうもいきません。帰趨がどうなるにせよ、実際に起きたら困る事態に対しては、あらかじめ手を打っておくことが必要でしょう。

【参考図書】
『マネーの進化史』 著者:ニーアル・ファーガソン



●自作自演バブル(2013.2.19)

”都心から郊外へ不動産「ミニバブル」気配”などと言われる状況になってきました。今回の業界の復調は、特に物流セクターで先行しているように感じます。一部では自社の開発した倉庫をNOI利回り5%水準でREITに買わせるような開示などもあり、どこか自作自演バブルのような様相すらあります。利益超過分配をした上に、上場から1ヶ月もしないうちにこのような開示をする銘柄が、果たして安心できる投資対象たり得るのかという疑問も湧き上がりますが、全体としてはREITが株式よりも安定した収益構造を持っているのは事実でしょう。

ただ、J-REITという商品自体に一定の安定性が認められるとはいえ、東証REIT指数は2007年5月の2612ポイントから2008年10月の704ポイントまで、1年5ヶ月で73%もの暴落を演じ、今はまた1250ポイント前後で推移しています。このような激しい値動きになる理由としては、レバレッジがリスクを増幅したり、質の悪い業者が雨後の筍のように乱立した後に、軒並み刈り取られたりしたような環境変化も挙げられますが、大きな原因は投資家の心の中にも潜んでいると考えられます。市場における価格は「投資家の心を映す鏡」だからです。

J-REITも上場している以上は移ろいやすい投資家心理に翻弄されることが避けられません。勝手に期待されたり、必要以上に失望されたりすることで起こるオーバーシュートがJ-REITに危ういイメージを植えつけるのに一役買っているわけです。つまり、供給側だけでなく、投資家サイドの問題もREITの価格推移から見た商品性を歪めているのが実態と言えるでしょう。そして、J-REITの市場規模はたかだか5.4兆円程度に過ぎないため、上げ相場に釣られたマネーの奔流に襲われれば揉みくちゃにされてしまうリスクが高いと考えられます。

最近でも、残り数百億円の枠でしかない日銀の買いをはやす向きがありますが、いま目を向けるべきはむしろ個人マネーの方でしょう。現時点で国際REIT型投信153本の純資産合計は約5.9兆円(このうち一部にJ-REITを含むタイプ約2.3兆円)です。大部分が海外に投資されているとはいえ、REIT投信にこれだけの資金が入っているのです。そして、直近ではJ-REITのパフォーマンスは海外REITを凌駕しています。隣の柿だけではなくわが家の柿も赤いとなれば、マネーの奔流が”理屈無用の上げ相場”を示現してもおかしくはありません。

(補足)
既にファンダメンタルズから見たJ-REITの割安感はほぼ消滅しており、今後のさらなる上昇には新たなストーリーが必要だろうというのが現時点の筆者の認識です。なお、今回の内容は春山昇華氏の「またホット・マネーに揉みくちゃにされそうなJリート」という記事に呼応して作成しました。



●買えるREIT、買えないREIT(2012.12.17)

J-REITデータ比較表で”IPOからの騰落率”を見れば一目瞭然ですが、上場から現在に至るまで、利回り商品としてまともに機能してきた銘柄というのはさほど多くありません。表には載っていませんが、合併などのために現存しない9銘柄でも例外なく著しい価値の毀損がありました。全体としてみればハズレの方が多いわけですから、決してローリスク・ミドルリターンなどとは言えないのがこの商品の実態だったということになります。

ただ、紆余曲折を経ながらも分配金に加えて年率3%以上の値上がりをしているREITが複数存在するのも事実です。これら一握りの成功者と言える銘柄を組成し、かつ運営するスポンサーは三菱商事・三井物産・三菱地所・三井不動産の4社ですから、言うまでもなく全てが超一流企業となっています。抜群の信用力を誇る日本企業が組成から携わってきた銘柄ばかりが運用面で優れた成果を残しているのは、単なる偶然でしょうか?

答えは否だと思います。4社に共通するのは、財閥の中核企業として本体の経営が長期的視野に立って健全になされている点でしょう。脈々と受け継がれてきた伝統を堅持することに力を入れてきた組織こそが、不動産の長期保有主体たるJ-REITの舵取りをするにふさわしい存在ということになりそうです。となれば、今後も三井・三菱クラスの組成するREITのIPOがあれば、それは魅力あふれる投資対象になり得ると予想できます。

近視眼的な経営主体の銘柄が失敗するのは、拙速であったり、強欲さが目に余るディールがファンドを殺してしまうからです。結局のところ、短期借入金に依存して物件を転がすようなオリジネーターには、利欲のみならず債務のプレッシャーもあるため、理性的な行動など期待できません。そういったスポンサーの銘柄は、たとえ現状の利回りが高くても、飽くなき拡大志向の果てに分配金を減らし続けてしまうリスクが高いわけです。

(注-1)NAV割れ高利回り銘柄は“逆成長株”
超々単純化して話せば、利回り7%の銘柄が5%の物件を買う増資案件では減配が濃厚となります。これは不動産が金融商品化したことで起こる付随的な問題です。長期間安定した分配が欲しいのであれば、利回りの高過ぎる銘柄は避けるのが無難でしょう。

(参考)スポンサー運用力ランキング
1位.三菱商事(IIF) 2位.三菱地所(JRE) 3位.大和ハウス工業(DHI) 4位.三井物産(JLF) 5位.三井不動産(FRI) 6位.三井不動産(NBF) 7位.三菱商事(JRF) 8位.東京建物(JPR) 9位.丸紅(UUR) 10位.伊藤忠商事(ADR)
※年率換算したIPOからの騰落率を上位順に列挙。IPO価格割れだったり、試練の時期を経験していない銘柄は除外しています。



●インフレ保険(2012.12.1)

日本人は保険好きだと言われます。実際、わが国の生命保険の世帯加入率は8割を優に超え、保険料の世界シェアでも第2位に位置します。国際比較で見ても、日本人はいざという時の備えに対する関心の高さが突出しているようです。確かにデフレが継続する世の中では保険、それに長期国債といった資産も有効に機能します。しかし一方で、これらにはインフレに対し弱い面があることも否めません。酷い場合には無力であったりもします。ならば、インフレに対する保険は掛けなくても良いのでしょうか?

将来を考える上で、最も気をつけなければならないシナリオは、日本の公的債務の問題が火を噴く形で起こる“悪いインフレ”でしょう。財政破綻は無いという論者も少なからず居ますが、彼らにありがちなのは、”個人や会社にお金があるから政府の借金は大丈夫”という考えです。要するに「いざとなれば民から召し上げるだけ。だから日本は大丈夫です。」と言っているに等しいですね。しかし、これで本当に安心できますか?国は大丈夫でも、企業活動や個人の生活は今まで通りとはいかないわけですよ?

公的債務の問題は、GDP比がどうこうなどと複雑にとらえるのではなく、「収入の倍あまり支出する日々は持続可能なのか?」と考えるとスッキリわかりやすいです。 過去の延長線上のみで将来を予想するなら、デフレ対応型の人生設計も機能するように見えます。「今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫。」という発想ですね。しかし、世事には少なからず転換点があるのも事実でしょう。政治が動きつつある状況だけに、いざという時に備えるインフレ対応の必要性が高まっているとは言えないでしょうか?

インフレ保険という目線でJ-REITを見た場合、不動産の価値上昇が評価を高めやすい一方で、家賃相場の上昇がインフレに対して遅れる側面もあるので注意が必要です。当然、長期固定賃料の銘柄は魅力薄と映りますし、長期固定金利借入の比率が低い銘柄も好ましくないということになります。収入は変動、支出は固定というパターンが理想的だからです。インフレのもとでは、一部のJ-REITが持つ希少性の高い不動産を裏付けとした長期の低金利ローンは、”値千金のお宝”に化けることになります。

(注-1)ある経済評論家の見解
荻原博子氏は、「資産の配分に関してはインフレになってから動いても遅くはない。」として、いざという時に備えるなら家族や大切な人とのつながりを深めておくことの方が大事だと説いています。


●ケネディクス・レジデンシャルの価格予想(2012.4.20)

市況悪化の影響でIPOに長い空白期間が生じたような場合、その後で最初に上場する銘柄に特に求められる条件とは、”失敗しないこと”、それに尽きるでしょう。成功すれば後に続く銘柄群に弾みがつく反面、失敗すればマーケット自体を冷やしかねませんから責任重大というわけです。4年半ぶりの新規上場REITとなるケネディクス・レジデンシャル投資法人は、果たして市場関係者の期待に応えることが出来るのでしょうか?

一流スポンサーが居並ぶ現在のJ-REIT市場では、残念ながらケネディクスの名前は見劣りすると言わざるを得ません。最も重要な運用実績の面でも、ケネディクス不動産投資法人で投資主利益を毀損する資本政策等が繰り返されたため、信頼回復への道のりは険しいと考えられます。新しいREITの運用だけは上手にやってくれると信じる理由などありませんので、やはり信用に関する評価は低く見積もる必要がありそうです。

問題の中身についても、都心5区28.2%、東京以外55.4%の地域構成ですからセクター内では下位に分類されるでしょう。初めからLTVが高過ぎるゆえに伸びしろは限定的であり、早い段階で増資に踏み切られるリスクも意識するべきです。予定の20万円に届かなかった仮条件、下限で決まった公募価格などから需要は弱いと考えられますので、今回の当初予想価格は187,000円(±3%)あたりになると筆者は睨んでいます。

投資家の立場では、何でこんなものを上場させるのか解せないとする声もありますが、小粒で低品質なREITにも利用価値はあります。旧経営主体による運営の後遺症でB/Sが傷んでいるスポンサー変更銘柄にとって、この銘柄は格好の再編ターゲットになり得るからです。負の暖簾というREITにとっての“魔法の杖”をめぐる思惑が、ケネディクス・レジデンシャルに驚くほど早い段階で光を当てる可能性もあると言えるでしょう。

(注-1)J-REITの器としての価値
物件含み損を抱えた銘柄が、形式的にケネディクス・レジデンシャルを存続法人とするやり方で合併すれば、負ののれんを持ち、簿価の切り下げを実現したピカピカのREITに生まれ変わるようなシナリオも描けます。どこに魅力があるか解らないように見える銘柄にも、器としての一定の価値は認められるわけです。


●擬似優先株仮説(2012.2.20)

J-REITの投資家なら、伊藤園第1種優先株式の存在を知っている人は多いでしょう。これは議決権が制限される代わりに、配当が普通株より25%多いうえに、飲料製品の優待までもらえるというユニークな仕組みの優先株で、伊藤園の普通株とともに東証に上場しています。この一風変わった商品は、インカムゲインや株主優待を重視する投資家などに人気があるようです。

会社側から見たこの優先株のメリットは、敵対的買収などに対する企業防衛にあると言えるでしょう。確かに、食品業界は国境を越えたM&Aが盛んですので、経営の自主性を守るために議決権を抑えた株式を発行するというのは、いい悪いは別として、有効な手立ての一つとなりえます。また、投資家にとっての選択肢を増やすという意味でも、面白い試みだと考えられます。

一般論として、同族経営の会社では支配権の維持がオーナーサイドの重要な関心事になりやすいです。伊藤園のケースでも、普通株で資金調達をすれば持分の希薄化が生じるので、配当の25%増しという大盤振る舞いを付けた優先株のような非常に高コストの方法が採られたということでしょう。この手法の最大のネックは、やはり、配当上乗せという支払いの面にあります。

その点、不動産会社は恵まれていると言えるでしょう。優先株ではなく、資金繰り用のハコとしてREITを作れば、外部資本を殆ど意のままに操ることが出来て、しかも本体の経営へ介入されずに済むからです。権利限定の代わりに投資家が得る利益は、政府公認の法人税免除で難なくクリア出来ます。オリジネーターから見たREITには優先株のような意味合いもあるのです。

(注-1)
「当局から見たREIT」に続き、「親会社から見たREIT」の一側面をまとめました。親から見たREITは、”カネは欲しいが経営に口出しされるのは嫌だ”というニーズを満たし、しかも公的なバックアップまである画期的なヴィークルだということです。


●J-REITvs.ダイビル(2012.2.16)

REITと比較するのに最も適した上場不動産会社はどこなのかと考えた場合、ダイビルは筆頭格に挙がるのではないでしょうか?業界大手はどこもマンション開発や流動化事業にそれなりのウエイトがあるため事業構成が近いとは言えませんし、京阪神ビルディングは賃貸事業の比率が高いものの、ポートフォリオが特殊ですので、やはりダイビルが比較対象としては最適だと思うのです。今回の記事では、そんなダイビルについて特集してみます。

海運の名門、大阪商船三井船舶の流れを汲むダイビルは、東西に優良賃貸物件を多数保有することで知られています。秋葉原ダイビル中之島ダイビルといった代表物件を含むポートフォリオのレベルは、J-REITの最上位銘柄に匹敵すると考えていいでしょう。経営面では、近年のミニバブルの際にも踊ることなく、着々と老朽物件の更新を進めており、特にダイビル本館や新ダイビルのような大規模プロジェクトは収益寄与が楽しみな案件です。

資産価値の面では、 本決算の“賃貸等不動産の時価等の開示”を元に計算すると、含み益が約1,000億円にもなることがわかります。ただ、実際に売却益を出すと40%近く課税されるので、含み益の60%相当を純資産に加えて試算した場合の実質NAVは約1,500円です。時価549円ではNAV倍率が0.37倍となり、本源的価値からかけ離れた価格で取引されていることがわかります。対する上位REITのNAV倍率はおおむね0.8〜0.9倍前後です。

こうしてみると、ダイビルが割安に感じられますが、親会社の商船三井が景気敏感セクターであるため、不況の折に利益を吸い上げられたり、会社ごと召し上げられてしまうような可能性も否定できません。それゆえ、ダイビル自体が景気鈍感セクターであっても、子会社としてのリスクは高めに見積もる必要がありそうです。ともあれ、数字遊びはこの辺にしておきましょう。現実問題として、株もJ-REITも所詮は“開かない金庫”に過ぎないのだから。

(注-1)
ダイビルは現在保有していませんし、当面購入する予定もありません。


●There is no free lunch.(2012.2.10)

J-REITに投資する上での最大のメリットが優遇税制にあるのは誰もが認めるところでしょう。普通の企業なら、基準となる利益の4割近くを法人税として持っていかれるのに対し、J-REITは一定の条件さえ満たせば非課税になるのですから、当然この違いは大きいです。今回はこの優遇措置に関して、投資家の立場ではなく、規制当局の目線を基準にして考えてみることにします。

そもそも、J-REITの法人税非課税は何を目的として制度化されたのでしょう?投資家を優遇するため?それともファンド事業で業者を儲けさせるためでしょうか?無論、どちらでもありませんね。世間一般からすれば不公平にすら見える特別扱いの狙いは、多くの投資資金を不動産市場に呼び込み、借入で影響力を増幅させたうえでマーケットを支えるという点にあると考えられます。

不動産マーケットを支えるということは、金融システムを守ることにつながります。言うまでも無く金融システムは経済活動の根幹をなすものです。こうした国内経済の屋台骨を支えるという大義名分があるからこそ、REITへの優遇税制が正当化されるわけです。つまり、当局サイドは見返りも無しに投資家にサービスがしたいわけではありません。厚遇は政策協力への対価なのです。

REITが不動産マーケットを支えるという役割を果たすためには、市況に関係なく資産規模の拡大を志向することが求められます。ここ数年、安値増資で投資家を切歯扼腕させるREITが後を絶ちませんが、経済全体のためという政策的見地からはファンドの安易な膨張策も有意義と受け取れるわけです。この商品の置かれた微妙な立場を踏まえると、優遇の代償は安くはありません。


●焦り無用のREIT買い(2011.10.8)

去年の年末に「余程の外的ショックでもない限りREIT指数が900ポイントに近づくような失速は見込みにくい」と書きましたが、東日本大震災が状況を一変させました。昨日の東証REIT指数の終値は881.76ポイント。世界的な景気後退懸念もあり、不動産市況の回復時期がさらに先延ばしになることは、もはや確実な情勢でしょう。ただ、そんな中においても、REITの値持ちは不動産株と比較すれば夏ごろまではマシな方でした。その主な理由として考えられるのが日銀買いの存在です。

もちろん、予算や実際の売買の規模から考えて、日銀の購入だけでREITマーケットが支えられる筈がありません。ただ、急落した日や安値圏で登場するその介入は、実質のみならず、心理的な面でも市場参加者へのサポート要因となり、価格形成に影響しているのは確実と言えます。しかしながら、単純に「日銀買いがあるからやはりJ-REITは安心できる投資対象だ」などと考えるの間違いの元でしょう。市場の歪みが生み出すデメリットというのも考慮に入れる必要があるからです。

何ら目新しい話ではありませんが、上位REITを中心とする銘柄群が日銀買いにより本来あるべき水準よりも高くなれば、その歪みは投機筋にとっての格好の標的となりえます。そして、イングランド銀行がポンド防衛に敗れたような話などを持ち出すまでもなく、中央銀行による市場介入が失敗に終わった例などいくらでもあります。買い支えの類いはマーケットの暴力にいつ売り崩されてもおかしくはないのです。仮に日銀の思惑通りに投資口価格が維持出来たとしても問題は残ります。

ETFの1%ルールでもそうですが、日銀の買い方には安い時に拾うという思想が見えます。こういった介入が成功した場合に、REITの価格は、”下がりにくく、上がりにくい”状態になりやすいでしょう。今は先行き不透明感が強く、全体として株もREITも弱含んでいますが、相場が反転するような局面ではREITばかりが出遅れることになりやすいわけです。日銀買いの影響でREIT相場が鈍重な動きになるのであれば、今後潮目が変わったと感じる局面が訪れても焦る必要はなさそうです。


●誘蛾灯(2011.2.4)

筆者は2006年の日本コマーシャル投資法人の上場前に、減価償却費に不審な点があるという指摘をしましたが、どうやら懸念は当たっていたようです。今回発表されたユナイテッドアーバン投資法人の業績予想の前提を見ると、合併時に旧日本コマーシャルの物件評価額を3割近くも落としているにもかかわらず、減価償却費が増える見込みとされているためです。期中には1物件の売却もあるのですから、前期比で3.4億円あまりも減価償却費が増加する理由は、日本コマーシャルが実質タコ配のような状態だったという以外に考えられないでしょう。

奸智を働かせ、減価償却費を過小計上することで、合法的に目先の分配金を増やすことは可能です。しかし、長期間こういったことを続けると、過剰な社外流出により実態より帳簿価格が高くなるため、含み損物件だらけになってしまいます。近視眼的なオリジネーターは、このようなトリックを使って投資家を惑わせることがあります。地に足の着かない運用の狙いは、目先の高分配につられた投資家に買い上げさせ、手っ取り早く増資を行うという点に尽きるでしょう。まばゆく見える利回りの裏側には、識別が難しい罠が潜んでいることがあるわけです。

減価償却に関しては、J-REITと事業会社の比較をしてみると面白いです。まともな企業は税負担を減らすべく法定耐用年数やその特例を用いて可能な限り早く償却することを志向します。事業会社では、課税の基準となる利益を増やせば必要以上に法人税を払うことになるので、ルールの許す範囲で減価償却費を多く計上するのが常道というわけです。一方の投資法人は、導管性を満たす限り法人税が課されませんので、法定耐用年数より償却年数を長く取って、目先の利益を多く計上することにも抵抗が少ないようです。実例はいくらでもあります。

最優良銘柄の一つとの呼び声が高い日本ロジスティクスファンドは、法定耐用年数31年の倉庫をオフィスビル並の50年で償却していますし、平和不動産リートジャパンシングルレジデンスの物件を引き継ぐにあたり、建物の耐用年数を最大64年に変更すると発表しています。これらのエンジニアリングレポートに基づく決算処理が不当だとは言いません。ただ”利益や分配金利回りだけを見ていては罠にかかるかも知れない”ということは覚えておいて下さい。透明性の高さが謳われるJ-REITにも、把握しがたい利益操作が入り込む余地はあります。

(注-1)UURの減価償却費が不自然に増加する理由
合併で旧日本コマーシャル物件を3割評価減するにあたり、いびつな土地・建物比率を見直しした結果、一部物件では建物価格が上がった事例すらあったと聞きます。さらに耐用年数も実情に合わせて短縮するそうです。これが多くの投資家を混乱させた減価償却費増加の真相です。

(注-2)倉庫とレジデンスの耐用年数
倉庫物件では50年以上立派に稼動しているケースが少なくありませんので、日本ロジスティクスの会計方針を粉飾のようなものだと決め付けるのは早計でしょう。ただ、レジデンスに関して、築後60年経ってもきちんと競争力を維持できているかと問われれば、返答に窮するところです。


●オリジネーターの黄金比(2010.12.27)
 
J-REITの最大の問題点が親会社との利益相反にあることは言をまたないでしょう。オリジネーターとの利害の相克により生じる問題が多数にのぼることは過去にさんざん書き連ねてきましたので、今さら繰り返すまでも無いかと思います。ただ、資産運用会社へ出資する会社の構成によっては利益相反リスクが軽減されるようなケースもあります。運用会社の株式がレピュテーション重視の大企業を中心に程よく分散されていれば、単独主体が運用の主導権を握れないために、REITがいいように利用され利益を毟り取られるような心配が少なくなるというわけです。
 
運用会社の株主構成が好ましい例をいくつか挙げるとしたら、グローバルワン不動産投資法人が筆頭格になると思います。このJ-REITの運用会社の株主構成を見ると、明治安田生命・近畿日本鉄道・森ビルが各10%、三菱東京UFJ銀行・三菱UFJ信託銀行が各5%、それ以外の株主は全て5%未満の所有となっており、三菱系企業への偏りはあるものの、一流企業を中心に適度に散らばっていることがわかります。この銘柄は、これまで利益相反の面で、目に余るような事例がありませんでしたので、こうした特徴が良い方向に働いていると見ていいでしょう。
 
同様にオリジネーターが分散されている事例としては、トップリート投資法人もあります。この銘柄の運用会社は、住友信託銀行38%・新日鉄都市開発31%・王子不動産31%という理想的と言っていい組み合わせです。このREITの運用は、習志野商業施設の件でオリジネーターの一社が大失態を犯したのを除けば、毀損増資もないですし、まともの部類に入るかと思います。運用会社の株主構成としては、過半数以上を保有する主体がなく、最大の株主グループが国内金融機関であり、3社以上のオリジネーターに分かれているパターンが最も歓迎できそうです。
 
運用会社の株主が分散しているケースのデメリットとして、責任ある運用が期待できないという意見があるのは知っています。確かに関係者が多いと責任の所在が曖昧になりがちなのかも知れませんが、そもそもJ-REITとは運用に失敗したからといって誰かが責任を取るような商品ではありません。親会社と呼べる存在がないと、オリジネーターが積極的に関与してこないという批判もあると思いますが、前のめりの運用では嫌な思いをさせられることのほうが多いです。複数の親が相互に牽制し合って落ち着いた運用をしてくれた方が、よっぽど安心だと思います。
 
(注-1)
今日取り上げた4銘柄は現在保有していませんし、当面購入する予定もありません。



●インフレヘッジ(2010.12.27)
 
インフレを意識すべき局面が近い、という識者のコメントを見かける機会が増えてきたように感じます。預貯金や債券のような、個人金融資産の中核を占める運用対象はインフレで割りを食うことになりますので、資産防衛のための対応策を考えておく必要がありそうです。昔から、インフレに強いものとしては、商品、株、それと不動産が挙げられるケースが多いですが、実際のところはどうなのでしょうか?今回はJ-REITを含む不動産について話題にしていくことにします。
 
筆者は、不動産がインフレに強いという説については、日本ではかつてほど説得力はないだろうと考えています。人口や経済が右肩上がりだった時期には確かにそうでしたが、今後は違ってくるような気がしているのです。もちろんインフレになれば不動産もそれなりに上昇すると思いますが、よく言われるように人口の減少が顕著になっていく中では内需の縮小は避けられませんし、土地が余るのは規定路線なので、もはや不動産でヘッジという時代でもないでしょう。
 
ただし、希少性の高い好立地の不動産に限ればインフレ対応の機能が期待できそうです。具体例として強いてJ-REITの銘柄を挙げると、日本ビルファンド投資法人ジャパンリアルエステイト投資法人のような平均賃料の高いオフィス銘柄は、優良物件を多数持っていますので、ある程度はインフレに負けない値動きを期待できるだろうと思います。傘下のJ-REITを盾にすることで本体を守れる、これらの銘柄の親会社の株もこの点では注目に値すると言えるでしょう。
 
インフレヘッジという点では住居REITはオフィスREITに太刀打ちできません。マンションなどの居住用不動産の家賃は簡単に上げられないという事情があるためです。住居の場合、物価上昇に伴い一斉に値上げするような動きが出れば社会問題化しやすいという危惧もあるでしょう。弱者救済を掲げて、物件オーナーが不利になる規制がかけられるような政治的リスクも考えられるわけです。やはり、REITでインフレ対策を考えるなら、一流のオフィス銘柄が良さそうです。
 
(注-1)
筆者自身はインフレヘッジの重要性は認識するものの、それをJ-REITで実現しようという考えはあまりありません。



●最前線のソルジャー(2010.12.27)
 
2008年1月28日付のコラム「半鐘」の最後に、”今後予想される長い低迷期も勝ち組REITにとっては物件買い叩きの好機”だと書きましたが、あの言葉は筆者のJ-REITという仕組みへの理解が不十分であったことによる失言でした。そういう時期に物件を買うためのエクイティファイナンスを試みれば、投資家にとって不都合な希薄化が生じる可能性が高いうえに、先安が見込まれる親会社の物件をJ-REITに放り込むのが最優先にされるというのが経営の実態でしたから、チャンスを生かして収益を伸ばすなど夢物語だったわけです。
 
反省を踏まえてREITの物件取得行動を見直すと、そこに明確な傾向があることが見て取れます。REITの外部成長が活発になる時期というのは、投資口価格が高値圏にある頃合いと概ね一致します。REIT市況の良い折に資金調達が活発化し、各投資法人を含めた様々なプレーヤーが物件取得の現場で競り合うことになるわけです。結果、当然のように不動産が高い時期に取得する物件の比率は高まります。野球のバッターに例えると、絶好球が何球来ても見逃し、ボール球には必死に食いついて凡退するようなものでしょう。
 
こうした習性から簿価が高くなるのが基本であるゆえに、リスク耐性のなさが問題となります。特別な例を除き内部留保が制限されているのも脆さの原因と言えるでしょう。特に、積極的に益出しをしつつ物件を入れ替え、目先の分配金を増やすことに腐心するタイプのファンドは、含み損状態への転落が最速になりますので注意が必要です。物件の長期保有を標榜しながら、ローンは短期借入に偏重するタイプの銘柄も刹那的な運用をしている証拠ですので泡末型REITと判断できます。こういった銘柄の末路はあまりに悲惨でした。
 
J-REITへの投資は、不動産マーケットという戦場において最前線で戦うことを志願するに等しい行為です。内部留保等の身を守る物がないままで、指揮官のために突撃するREITという一兵卒は、連戦連勝ならヒーローになる反面、旗色が悪くなれば真っ先に玉砕する立場でもあります。前回の記事で“風向きが変われば派手に崩れる”と書いたのはJ-REITにこうした特性があることを強調するためです。この商品に関しては”常在戦場”のつもりで油断をせず戦局の状況しだいで退却するようでなければ、犬死にすることになります。



●くもり・のち・はれ(2010.12.27)
 
不動産市況に薄日が差してきました。まず、最大の懸案だったローン調達の問題は、金融機関の姿勢の軟化が各投資法人の契約条件に如実に表われてきていますので、もはや過去の問題と言って良いでしょう。投資法人債の発行が再開されたのも明るい材料です。不動産にローンが付くようになれば、物件の売買相場が上昇するのがこの業種の常識です。それゆえ、質の高い不動産の流通価格は既に反転上昇を始めています。
 
オフィス賃料についても、直近では都心部に回復の兆候が見られますので、時間をかけてジワジワと周辺部へも波及することになるでしょう。不動産からの収益の面でも、相場の底打ちが近いと言える環境になってきたわけです。ただ、オフィスの賃貸借契約は2年更新が中心ですので、J-REITの決算では2011年の終わりから2012年の春にかけて公表される予想で、ようやく収入の好転を実感出来るようになるだろうと考えています。
 
このような変化に敏感に反応してか、このところ投資口価格は堅調に推移しています。今回の上昇は、REIT組入投信の拡大や、日銀の思い切った施策といった要因だけでなく、資産・収益のトレンド転換というしかるべき裏付けもありますので、目先の調整はあっても中期的な回復傾向がしばらくは続くと見ていいでしょう。当面は、余程の外的ショックでもない限り、東証REIT指数が900ポイントに近づくような失速は見込みにくいです。
 
上位銘柄群は、増資で分配金を増やせる価格帯ですので、好循環型の資本調達が実行に移される日も近いでしょう。大型物件の購入を発表しただけで投資口価格が上昇するような、4〜5年前には良くみた光景なども2011年には再現されるだろうと想像しています。ただし、J-REITは借金したうえて不動産を最も高く買う従属機関ですので、風向きが変われば派手に崩れます。投資家との蜜月は、もって数年といったところでしょう。

(注-1)実物不動産市場の反転上昇
アッと驚くような安値で売買が成立する事例があった時期は、リーマンショック直後から2010年の前半まででした。著名な研究者である川口教授によると、2010年の3月頃に明確に底を打ったという話です。但し、私の知る限り偏った比率での合併銘柄を除けば、買い叩きに成功したJ-REIT銘柄は皆無です。
 
(注-2)オフィス賃料回復の兆候
CBREのオフィスマーケットレポートによると、S・Aクラスビルの空室率低下が確認されたということです。また、三鬼商事の調べでは先行指標と言える新築ビルの空室率にも改善傾向が出ています。余剰感が薄まれば価格は上昇しますので、優良物件から順に賃料が上昇していく素地が整いつつあります。



●イヌイレジデンシャル(2010.06.27)

今回はイヌイ倉庫について扱います。普通の事業会社ですが、REIT投資の参考になる話もあるかと思います。中央区勝どきを中心に80年あまり事業を展開しているイヌイ倉庫ですが、その社名からは縁遠いマンション賃貸事業の重要性が高いという特徴があります。利益面に至っては、ほとんどをマンションに依存しているため、倉庫会社と言うより、実態は“イヌイレジデンシャル”だと言っても過言ではありません。イヌイ倉庫も、以前に取り上げた東宝不動産と同様に、土地再評価法を適用していないため、一部土地の簿価が非常に低くなっています。

主要物件の、プラザタワー勝どき(512戸)やプラザ勝どき(454戸)などの大型マンションを含む都内の賃貸施設について調べると、27,731uの底地が僅か86百万円の簿価であることがわかります。言うまでも無くREITではありえない激安簿価です。このように主要物件の資産計上額が低いことから、建物含めて試算しても簿価ベースのNOI利回りは20%に近い水準となります。高い資産価値を裏付けるデータとして、先月開示された賃貸等不動産の時価情報でも、簿価243.64億円に対し時価592.54億円、即ち含み益が348.9億円とされています。

ここまで読むと非常に魅力的な投資対象に思えるかも知れませんが、やはり落とし穴もあります。それは平成19年の秋から冬にかけてという最悪のタイミングで投資を決めてしまった福岡と神戸の案件です。福岡アイランドシティのプロジェクトには既に優先出資などの形で31.62億円あまりを投じていますが、最新の事業報告書における“次期の見通し”でも状況について一切触れられていません。特別損失が発生するような懸念は無いのでしょうか?もう一つの問題案件である神戸みなと倉庫については、状況はさらに厳しいと言わざるを得ません。

この物件の76,000u級という規模は物流系REITの保有物件と比較してもかなりのサイズですが、テナント募集状況からみて昨年2月の竣工以降、入居があった形跡が全くありません。100億円以上を投じたプロジェクトにもかかわらず、まともな収入が無いまま1年以上経過してしまうところに、潰しのきかない資産タイプの怖さが如実に現れています。イヌイ倉庫には優良レジデンスがありますから、問題プロジェクトの分を割り引いても魅力ある資産内容だとは思いますが、特損発生などで調整するリスクがあるのが、いささか気がかりではあります。

(注-1)NOI利回りのラフな試算
通年の数字を拾うため、平成21年11月期のデータを用いると、主要な設備のうち不動産事業に分類されるのは137.58億円。同事業の営業利益と減価償却費の合計は29.4億円。29.4÷137.58=21.4%。平成22年3月期(4ヶ月の変則決算)にあてはめると19.9%になります。
 
(注-2)神戸みなと倉庫について
オフバランス前提で開発された物件ですが、購入予定だったAIG系ファンドが契約を守らなかったため、イヌイ倉庫がリスクを負う結果となっています。この件では、違約金等の支払いについてAIGグローバル・リアルエステート・アジアパシフィック・インクと係争中とのことです。



●書生論的ファンド商売(2010.06.26)

その仕事に本当に誇りが持てるのだろうか?J-REIT等の運用について、こんな疑問を抱かずにいられないような事例が世に溢れています。物件の維持管理コストを、効率化のレベルを超えて、本来必要な部分まで削って数字を作る行為(注-1)。鑑定評価の仕組みを熟知しつつ、その性質からくるタイムラグなどの限界を悪用する行為。物件を購入する際の仲介手数料が割高でも、スポンサー関連会社に上限で支払う行為(注-2)。スポンサー関連会社を周辺相場と比較して格安で長期間入居させる行為。細かく挙げていけばきりがありません。

こういった技巧を考える頭脳を持ったり、実行に移せるような倫理観を持った人材をファンド業界で有能と言うのかも知れませんが、その優秀さというのは率直に言って「詐欺の才能がある」とか「スリの技量が優れている」というのとそう変わりないように思えます。合法か非合法かという違いはありますが、他人の財産を奪うという点で根っこの部分は同じでしょう。だから、業績への貢献などで少々稼ぎが良かったとしても「それは悪銭ではないのか?」「その仕事に誇りが持てるのか?」「良心は痛まないのか?」などと疑問に感じてしまうわけです。

彼らは、情報は出してるんだから自己責任だと言うかも知れない。騙される方が悪い、スキだらけだからお金を奪われるのだと。無論、投資家サイドにとって、投資が自己責任なのは言うまでもありません。しかし、スポンサー企業の関係者は自己責任原則だけで、良心の呵責もなくファンド事業における”いやらしい利益相反行為”を正当化するべきではないと思います。青臭い意見ではあるけれど、まずは後ろめたいことをしてきたという自覚を持ち、そして出来ることなら現状を変えて欲しい。狡猾ではない、誇りが持てるような運用をして欲しい。

無遠慮な書き方をしましたが、筆者はファンド商売とは本来、とてつもない社会貢献になる可能性を秘めた仕事だと考えています。この国に誠実かつ安定運用が期待できるREITが存在すれば、人々の生活そのものが変わり得るからです。そんなファンドがあったら、結婚や出産といった人生の局面に応じて適切な間取りの賃貸物件を転々としつつ、家賃の何割かをREITの分配金でまかなう、といった選択もしやすくなるでしょう。J-REITは、いち金融商品の枠を超えて、我々の生活に変革をもたらす潜在能力すら持っています。期待値は高いのです。

(注-1)
森トラストの森章氏は一部ファンド物件における近視眼的な支出の削減を痛烈に批判し「単に効率化の数字を追ってはいけない費用というものがあり、それを見極める力が大切」と述べています。(月刊「BOSS」12月号)

(注-2)
ニューヨークの窓から 一考察における「REITのビジネスモデルは限界」でも語られていますが、仲介手数料が交渉により下げられるのは、大口取引であったり、市況が冷え込んでいる折であれば、そう珍しくありません。

(補足)
極論すると、住居を買うか借りるかという問題は、儲けさせる相手が銀行なのか大家なのかという違いだとも言われます。REITを活用したライフスタイルに応じた住み替えは、それらの中間の”新しい選択肢”となりえます。



●嵐の海で(2009.11.28)

少し例え話をしましょう。ある人が4,000万円でマンションを購入したとします。財産権を尊重する普通の世界であれば、購入したマンションの所有権は守られますが、リートの世界では一般社会の常識など通用しません。突然現れたヨソ者にマンションの半分を1,000万円で持っていかれ、しばらくしたら残った権利の大部分も合法的に安く召し上げられる、というような事態が少なからず起こっているからです。噛みくだいて話せば、J-REITの”安値増資”や”格差合併”は上記の例え話の拡大版に他ならないでしょう。

繰り返されるこうした事例は、見様によっては財産権の侵害とみなされても仕方ないような部分があります。J-REITと実物不動産投資との対比については、様々な媒体で語られていますが、REITの財産権が事実上限定されるという点をデメリットとして挙げている論者にはあまりお目にかかったことがありません。しかし、制度がこういった略奪紛いの行為を適法とする以上、仕組みが何ら変わらない限りにおいては、それもこの世界の摂理なのだと心にとどめておくことが、REITと付き合う投資家には求められます。

最近、J-REITの増資ラッシュが起こっていますが、これには当局者の方針転換が影響しているのかも知れません。以前は、差し迫った危機を回避するような理由によらない安値増資を歓迎しなかったものが、親会社からの物件取得が目的と見られる案件でも難色を示さなくなっているように感じられます。ケネディクス不動産投資法人野村不動産レジデンシャル投資法人のような、投資主価値を損なう安値増資の事例が俄かに増えてきているのがその証です。恐らく暫くはこうした潮流が止まらないのでしょう。

もしも、当局がJ-REITを通じて不動産市況を下支えしようとするあまり、投資家保護は二の次にすることにしたのであれば、「値下がりしても長く持っていれば何とかなるだろう」というような考えは危険極まりないものとなります。既存投資主の切り捨てを是とする政策は、好不況の波のたびにREITに回復が見込めない傷を負わせ得るからです。以上を踏まえると、10年単位での投資など恐ろしくて出来たものではありません。今やこの市場は、大波を乗りこなす覚悟のある者だけが集うに相応しい荒海そのものです。

(注-1)REITの投資スタイル
未来志向も結構ですが、過去の投資主を犠牲にするようなことが将来にわたり繰り返されるなら、投資スタイルはタイミング重視で、期間は最大でも数年を目途にするのがベターでしょう。もちろん、リスクとリターンを秤にかけ、投資をしないというのも尊敬出来る判断です。

(注-2)増資ラッシュの行く末
今回の増資ラッシュには、突然にタガが外れたかのような勢いがありますので、先行した銘柄が立て続けに公募価格を割り込み、もはや上位銘柄でも資金が集まらないというような事態にならない限り止まらないでしょう。この荒天の中、どれだけ続けられるか見モノです。



●スポンサー狂騒曲(2009.10.20)

「物件オーナーが潰れたためこの商業施設は閉鎖します。」「債務超過額が大きいので敷金・保証金は返せません。」「もうすぐ電気の供給も止まるから早急に商品などを撤収してください。」昨年9月ニューシティコーポレーションの私募ファンドが破綻したあおりで、日立市の商業施設“さくらシティ”が閉鎖されることとなり、上記のような異常事態が発生しました。その数週間後にはニューシティレジデンスが民事再生法申請、2009年5月にはついにニューシティコーポレーション本体までが特別清算を申請するという経緯をたどったことは、記憶に新しいところです。これは、スポンサーに力が無いと傘下のファンドが危機的状況に陥っても何ら手を打てず、最悪の場合は共倒れになるという実例として、教科書的なものと言っていいかも知れません。

かつての不動産ブームを主導したのは、新興企業を中心とする強気の経営で鳴らした企業群の存在でしたが、それを支えたのが責任財産限定特約付の融資”ノンリコースローン”と、実行部隊としての”ファンド”の存在でした。ノンリコースローンとは、一言で言うと返済原資を担保資産に限定した借入ということになります。これは、仮に返済不能となっても借り手は担保物件を提供するだけで、それ以上の責を負う必要が無いという日本では比較的歴史の浅い融資形態です。系列ファンドのローンというのも、有担保・無担保にかかわらずスポンサー企業と別勘定でなされているという前提ですから、本来は融資の結果がどうなろうと母体にとってはノンリコース(非遡及)であるはずですが、実態は少々違うのではないかとする説があります。

銀行にとって、デフォルトで物件を押さえたりファンドを潰すという行為は、証券化商品に投資した多方面の利害関係者の資本等を毀損することから、そうそう代物弁済に踏み切れるものではありません。たとえ契約に基づく正当な行為であっても、積極的に物件を取り上げれば怨嗟の対象となりかねないために動きづらいわけです。そこで、物件評価の下落等で出口やリファイナンスの実現が怪しくなってきた段階で、銀行はデフォルトを回避するためにスポンサーやその親密先に、総合的な取引関係の見直しを匂わせるなどして圧力をかけることになります。こうなると、追加出資などでサポートが出来なければ、本体を含めた他の取引でも不都合が生じるため、スポンサー企業はビジネスの生命線を守るべく必死で対処する他なくなります。

いざとなればノンリコースだろうが別法人だろうが締め上げられるのだとすると、本来スポンサーとは切り離されている筈のREITに対する融資条件に、母体企業の信用力と強い関係性があることにも説明がつきそうです。要するに、スポンサーの別働隊という位置づけのファンド事業も、その母体にとっては実質的なリスクの隔離にはなっていないのが現実なのでしょう。特に市況が厳しい折にはそうした傾向が強まっているように見受けられます。昨今のREIT市場における、保有資産価値などよりスポンサーが全てと言わんばかりの価格分布には、こうした事情が色濃く反映されていると見て間違いありません。最上位級の信用力を誇る関西電力による、母体企業買収が報じられただけで跳ね上がったMIDリートの価格もそれを証明しています。

(注-1)代物弁済事例について
ひとたびデフォルトを起こせば、それがノンリコースだろうがあまり意味がなく、結局のところビジネス全体に影響が及ぶというのが本邦の不動産ローン事情だとすると、代物弁済事例の先に何があるのか注目が集まることになりそうです。



●獅子現わるか(2009.6.15)

国土交通省や不動産大手主導によるJ-REITの資金繰り破綻に対する予防策が明るみになってきました。最近、読売新聞で“資金難「J-REIT」支援へ、官民で8月にも基金設立“と題する報道があったのはご存知の方も多いでしょう。記事では、3,000〜5,000億円規模の基金をREITのセーフティネットにすることで不動産市況を支える当局の意向が示されていましたが、一連の施策には一定水準以上の信用格付というハードルが課される可能性が高いため、単純に下位銘柄が救われると判断するのは早計と思われます。

確かに、国土交通省などの当局者はリファイナンスの不調によるREITの経営破綻を極力避けようとしているという考えに間違いはないでしょう。しかし同時に、金融当局は高い金利や融資手数料などにより、銀行がREITを“生かさず殺さず状態”にするケースを黙認しているようにも見受けられます。生ける屍とさせられたREITは低い収益に甘んじ、浮上が困難な状況に陥りやすくなりますから、結果としてセーフティネットという名の罠へ追いやられ、最終的には強い銘柄に捕食されるほかなくなるのではないでしょうか?

このときになって初めて、高格付が条件ゆえに使い勝手が悪くなると言われていた官民基金が活きてくる可能性があります。なぜなら、上位銘柄が下位銘柄を飲み込む際にネックとなる、被買収側のローン(特に投資法人債)という重大な懸案が、買収側を基金が支援することで解消されることになるからです。即ち、一連のREIT改革は下位銘柄を救うというより、淘汰を促進させ、強者をより強くするための方策だと考えられるわけです。そのために業界大手なども加担して、資金を拠出するというのが事の真相でしょう。

さて、複数の財閥系企業などが名乗りを上げていると報じられ、注目の集まる日本レジデンシャル投資法人のスポンサー決定が来月に控えています。3ヶ月で5倍に近い急騰を演じてもなお、妙味ありとみてM&Aに動く企業があるのだとしたら、ローンスターによる立て直し策の承認を待つばかりとなったニューシティレジデンスが、俄かに脚光を浴びる展開も十分に考えられます。官の意向により、自然界よろしく適者生存が定められた世界の中で、ハゲタカから獲物を奪い取るライオンが登場する場面はあるのでしょうか?

(注-1)破綻REITの帰趨について
日本レジデンシャルなどに時価に近い水準で応札するような先があると仮定すれば、現時点でより有利な案件となったニューシティレジデンスに再建案を覆すような”強者”が登場してもおかしくありません。なお、筆者自身は、いわゆる”ハゲタカ”に負のイメージを持つべきではないと考えています。堂々とリスクを取ってリターンを狙う彼らは、むしろ尊敬に値する存在でしょう。

※7月15日、大和ハウス工業がニューシティレジデンスのスポンサーに名乗りを上げました。大和案は大口債権者が支持しており、投資主にとってもローンスターが提示した以上の条件であると報じられています。ただ、4月5日付コラムで書いたように、運用会社が”役職員の保身のために、投資主利益を無視した選択を志向するリスク”などもあり、状況は予断を許しません。



●J-REITvs.東宝不動産(2009.6.9)

これまでにも実例を挙げつつ述べてきたように、上場不動産会社において土地の資産計上額が時価よりも大幅に安いような事例は、そう珍しいものではありません。特に、設立年が古い企業ではそういったケースが目立ちます。ただ、よく誤解されるのですが、「社歴が長い会社だから何十年も前に取得した土地がそのままの価格で帳簿に載っている」と短絡的に考えるのは正しくありません。なぜなら、上場する不動産会社の多くは今から7年ほど前にこぞって“土地再評価法”で帳簿価格を洗い替えしたという経緯があるためです。

土地再評価法とは、正式名称を「土地の再評価に関する法律」といい、かつて平成10年から14年までの間に適用することが認められていました。その内容は、棚卸資産を除く事業用の土地の全てを再評価し、その評価損益をB/Sに反映することを可能にすると同時に、損益に対する課税を繰り延べるというものでした。この土地再評価法を適用した主要な企業の例としては、三井不動産・三菱地所・東急不動産・東京建物が挙げられます。ダイビル・サンケイビル・京阪神不動産なども、同様にこの時期土地の評価替えをしています。

これらに対し、土地再評価法を使っておらず、結果的に土地の含み益が完全な形で温存されている不動産会社というのも、一部の例外として存在します。そのうちの一社、東宝不動産では、皇居近くの好立地にそびえ立つ帝劇ビルの敷地が、平米あたり73,647円という破格の安値で資産計上されていますし、渋谷東宝ビルの土地に至っては僅か平米28円となっています。一部J-REITで、含み益率が何十%といった開示方法を目にすることがありますが、そうした尺度で測るなら上記の土地などは何万、何億%にもなるでしょう。

これまでは、こういった含み資産銘柄を探すのにそれなりの煩わしさが伴いましたが、そんな労力は間もなく緩和されることになりそうです。2010年3月期から、遊休地を含めた不動産(主として賃貸用)の時価情報が、財務諸表の注記事項とされる運びとなっているからです。表面的なP/LやB/Sを見る事ももちろん大事ですが、重要な情報は意外に見落としがちな細かい注記の中に隠れていたりします。いつしか不動産ブームが再来すれば、こうした開示資料の片隅に埋もれたガラクタが、宝の山と人目に映る日が来るのでしょう。

(注-1)東宝不動産のリスク
(1)主力物件の築年数が40年前後、(2)主要取引先である親会社との契約条件等の適正性、(3)大規模再開発のためと称して会社ごと親会社に召し上げられる可能性、(4)飲食事業などの非不動産部門の赤字体質、(5)含み損物件が存在する可能性、以上の要因が筆者としては特に気懸かりです。

(注-2)土地再評価法について
純資産の部に土地再評価差額金という科目が存在すれば適用済みと判別可能。含み損が大きく再評価に踏み切れなかった大手もあったと聞いています。なお、評価方法は各社によってまちまちであったため、当時の経済誌では余力を残した三菱と益を吐き出した三井というような書き方をしていました。



●無責任な楽園(2009.4.5)

昨年8月に倒産したアーバンコーポレイションの子会社アーバンコミュニティは、親会社破綻後に経営陣による自社買収(MBO)を決めて周囲を驚かせました。マンション管理会社として業界中堅の規模を有する同社は、多くの管理組合との契約にもとづき比較的安定したキャッシュフローが見込めるため、外部の買い手により買収されるだろうと思われていたためです。ただ、当のアーバンコミュニティの内部者なら、新スポンサーの登場でリストラに怯えるよりも資金調達を成功させてMBOにより現体制を維持する方向に努力するのが、むしろ当然だと考えていたのかも知れません。

同様のことが破綻した親会社を持つREITの運用会社で起こらないと言い切れるでしょうか?公的な支援の動きもあってREITの資金調達環境の厳しさが薄まってきているのは周知の通りです。仮にスポンサー無しでも危機を乗り切れるという状況になれば、そして自身の買収資金の確保に目処がつくのならば、資産運用会社のMBOがなされる可能性もゼロではありません。現時点では、破綻企業系ファンドにはスポンサーがつくという考え方が支配的ですが、一部が役職員の保身のために、投資主利益を無視した選択を志向するリスクも頭の片隅に置いておく必要がありそうです。

無論、上記のような見方は例外的なもので、今後のメインシナリオはREIT界の合従連衡が進むという線で間違いないでしょう。そのための制度改正が進み、深刻だったリファイナンスリスクも軽減の方向にあるため、事態は確実に改善に向かっているように見えます。しかし、J-REITの最大の問題点は「構造的欠陥」にあります。違約金支払いなどの運用の失敗に対する「無責任体質」も課題として残り続けます。これらの根本的な問題にメスが入らない限り、いずれ同じ過ちが繰り返されるだけでしょう。改善なくば、J-REITは長期投資に耐えうる商品ではないと言うしかありません。

厳しいことばかり書いていますが、筆者はJ-REITという仕組自体は、不動産市況を支えるなどという当局の意向以上の、べらぼうな可能性を秘めている金融商品だと考えています。しかし、その潜在能力抜群の商品を生かすためには、やはり資金支援のみならず、抜本的な制度の見直しが不可欠だとも見ています。理由は簡単です。リスクを取り過ぎた挙句にリファイナンスに苦慮し、毀損増資やむなしという状況に陥ったような明らかな失策のときでさえ、運用報酬返上などで責任を取る姿勢を見せなくても許される物に、それでもまた長期間資金を預けたいと誰が思うのでしょう?

(注-1)構造的欠陥と無責任体質
適正なガバナンスが働きにくい構造的欠陥があるために、一部のたちの悪い運用会社は無責任体質になりやすいと考えられます。ただ、欠陥があっても運用失敗の際に責任をはっきりさせる姿勢が見せられれば、ある程度は信頼を得られるでしょう。一つ言えることは、無反省なぬるま湯体質が変わらないままでは、支援にいくら資金をつぎ込んでも根本的な解決策とはならないということです。なお、本文中で触れたREITの潜在能力については次回以降のコラムで扱う予定です。

※5月13日、破綻したニューシティレジデンスの総会において、役員の新井潤氏が破綻後も月額100万円の報酬を得ていることが明るみになったといいます。また、運用会社は解約となりますが、現在のスタッフは変更後の新しい受託先へ移籍するとのことです。



●J-REITvs.空港施設(2009.3.30)

個別不動産銘柄を扱った記事が意外に好評だったので、J-REITの話題をからめつつ、久々に不動産株について書くことにします。今回取り上げる空港施設は、北海道から沖縄まで全国10ヶ所の空港において格納庫やメンテナンス設備等から賃貸料収入を得ながら、熱供給・水処理施設などの関連サービスも提供している異色のインフラ企業です。最重要拠点である羽田空港関連の売上構成比は中間期で全体の86.7%となっており、来年10月に予定されている新滑走路を含む大幅拡張事業の完工により、メリットを享受しうる立場にあります。

J-REITでは、羽田の空港設備と神戸の熱供給施設がポートフォリオの約6割を占める産業ファンドが類似銘柄ということになりそうです。産業ファンドの2つの主要物件のNOI利回りがどちらも4%台なのに対し、空港施設の賃貸事業部門のNOI利回りは15.4%程度になると筆者は試算しています。その割には営業利益が少ないように見えますが、これは同社の減価償却費の計上額(前期は償却資産の約9%)が極めて大きいことに起因しています。並のREITなら赤字になるような償却方法を採用しているために、真価が見えにくいという訳です。

不動産市況との関連性が薄く、収益が安定しているように見える空港施設にもやはり大きなリスク要因があります。最大の問題は、主要テナントであり大株主でもある航空会社の業績不振でしょう。不況が長期化するようであれば、突発的事態により収益の安定性が損なわれるリスクも意識しないわけにはいきません。支配力を背景として、関連当事者との不利な取引に巻き込まれる可能性も無いとは言えないでしょう。羽田空港の再編にからんで発生する、設備の余剰への対応策がいまだ見えていないという点も、留意する必要がありそうです。

当然と言えば当然ですが、J-REITだけが一般投資家にとっての手軽な不動産収益を得るための金融商品というわけではありません。今回紹介した空港施設も、法人税負担があり、上記のような問題点を抱えてはいるものの、J-REITの対抗馬たりうる器量を備えていると筆者は考えています。個別不動産銘柄では、これ以外にも隠れた好財務企業の事例は珍しくありませんので、今の市況にあって簿価ベースのNOI利回りが5〜6%前後というJ-REITに飽き足らないのなら、視野を広げて各社の有価証券報告書と格闘してみるのもいいでしょう。

(注-1)NOI利回りのラフな試算
空港施設の不動産賃貸事業部門は、有価証券報告書の「主要な設備の状況」を確認すると、未竣工物件(建設仮勘定)を除いた稼動資産が524億円、「事業の種類別セグメント情報」で営業利益41.26億円、減価償却費39.52億円となっているので、NOI利回りでは15.4%程度になると試算しています。

(注-2)スピード償却の理由として考えられる要因
(1)格納庫・整備工場等の対象資産の法定耐用年数がオフィスビルやマンションなどと比較して短い、(2)償却限度額を上回る費用の計上、(3)主として定率法を採用、(4)取得価格の5%に到達した資産の5年均等償却、(5)その他、耐用年数の短縮制度等の特例が認められている可能性もあります。



●周回遅れの参考値(2009.1.18)

約1年前に書いたコラム「半鐘」で筆者は、“長い低迷期も勝ち組REITにとっては物件買い叩きの好機となり得る”と述べました。資金調達力で勝る銘柄は、市況が悪化したとき、得たりや応とばかりに値下がりしたビルの購入に動けると踏んでいたからです。ところが実際はどうでしょう?売り物件の情報が錯綜する昨今のマーケットで、J-REITが購入する物件に、冷え切った市況を反映した条件のものがあったでしょうか?過熱が著しかった2007年の前半なら、あと3割は高かったはず、というような事例はあったでしょうか?

不思議なことに、そんなものは殆ど見当たらないというのが現実だと思います。市況と噛み合わないREITの取得事例の謎を解く鍵は、売り手の素性にありそうです。市況悪化が本格化してきたここ半年ほどの間、REITの物件取得に如実に表れている特徴は、親会社の息のかかった先から購入する割合が極限まで高まったということです。こうした背景には、不動産の先安が見込まれる中ゆえに、一刻も早く本体の関係するリスク資産を傘下のREITに移したいという、オリジネーター側の事情があると考えるのが自然でしょう。

親会社関係からの取得が目立つ理由は、鑑定評価のタイムラグにもあると思います。言うまでもなく、鑑定評価額というのは市場における実勢価格の先を行く性質のものではありません。評価の際は取引事例を参考にして、その後を追う形となるため、市況が急速に悪化したうえに売買が細るような時期には、実勢価格と鑑定価格に大きな隔たりが生じやすいのです。この時間差により生じる価格の開きが今は激しいので、鑑定価格近辺でREITに物件を買わせたい親会社が自社案件を優先している可能性もありそうです。

税制優遇があるREITは、健全な運営がなされるという前提に立てば、圧倒的に有利な運用商品となります。しかし、その利点を上回りかねないマイナス要因が散見されるのも事実です。それゆえ、親切な赤の他人が忠実にお金を運んできてくれるありがたい商品だなどとは絶対に考えるべきではありません。やはり、REITの実態はオリジネーターの利益捻出のための道具だと肝に銘じる必要がありそうです。だからこそ、優良と目される銘柄も資金枠を親会社の為に使い切り、物件買い叩きの好機を活かせないのでしょう。

(注-1)税制優遇について
法人が受け取るJ-REITの分配金は、株式の配当と異なり受取配当等の益金不算入の対象とならないため、REITの非課税メリットが減殺されることになります。ゆえに、REITは本来的には個人有利の投資商品だと言えます。



●指標通覧(2008.12.30)

オフィス空室率が上昇しています。定期的に市況データを提供する、オフィス仲介大手の三鬼商事の調べによると、2008年11月末時点の都心五区の平均空室率は前年比2.07%上昇し、4.56%となりました。9月7日付コラム「激流」でも少し触れましたが、不動産市況のトレンドは容易に変わることはありませんので、空室の増加傾向は実体経済の悪化に並行する形で、当面は続くと考えるのが妥当でしょう。空室率の上昇に一定期間遅行して賃料の下落が起こるのがこの業界の常です。余剰が生じれば価格が下がるのは他の商品でも同じですから、これは容易に理解できるかと思います。

実際に、東京地区の平均賃料データを見ると、先行指標である空室率の反転上昇からやや遅れて、賃料の下落が始まっていることがわかります。景気が急速に冷え込みつつある直近の空室率推移から判断しても、今後は賃料の値下げがさらに拡大すると判断せざるを得ないのが実情です。一般的な賃貸借契約の期間は2年ですから、即座に売上が減少するわけではありませんが、J-REITへもこれから徐々に影響が出てくることになります。その結果、来年の夏以降の決算発表の席で初めて、オフィスを主力とする銘柄の収益悪化が表面化することになるのではないかと予想しています。

利益率が高く、安定しているように見えるJ-REITですが、維持管理費や減価償却費等の主な費用が収益に関わらずほぼ一定となる事業の特殊性ゆえに、賃料下落の影響は軽視出来るものではありません。大まかに言って、営業収益に対する純利益率が40%のファンドが10%の収入ダウンに見舞われれば、純利益は約3/4になると考えられます。単純計算で売上の2.5倍近い割合で分配金が減少するわけです。10%の減収など非現実的と思われるかも知れませんが、東京の平均賃料は3年前には今よりも20%以上低い水準にありましたから、あながち無理な想定とも言えないでしょう。

かつては、既存のテナントへは度を越した値上げをしないのが業界の慣習でしたが、一部の勢いに乗った勢力がそれを覆しました。しかるに、趨勢は逆転し目先の浮利を追うことに腐心した案件が報いを受ける時が訪れています。転売を前提としてテナントとの関係構築をないがしろにし、あとは野となれとばかりに強引な増額をしたケースほど、のちの反動が厳しくなるのは明白でしょう。ツケを払わねばならないのは最終処分場の所有者です。オフィスREITは収益が安定しているということが、なかば常識のように語られることがありますが、来年はそのジンクスが崩れる年になると思います。

(注-1)空室率データについて
個別銘柄の稼働率も大事ですが、賃料相場の先行指標である地域ごとの空室率推移もREIT投資家ならチェックしておきたい項目です。なお、今回書いた空室率の問題は何ヶ月も前から判っていたことですので、既にある程度は投資口価格に織り込み済みとも考えられます。



●J-REITvs.京阪神不動産(2008.11.9)

筆者はかつて、REITとは“漕いでないと倒れる自転車”だという忠告に、非常に違和感を覚えていました。確かに、アメリカやオーストラリアのREITは借入依存度が高過ぎるものが多く、倒れやすいのかも知れないけれど、シンガポールや日本の銘柄はLTVが低いのでいささか事情が異なると考えていたからです。しかし、J-REITが比較的健全だとする見方が甘かったことが、ニューシティレジデンス投資法人の民事再生法申請や、借入条件の悪化により銀行に生き血を吸われるだけの“生ける屍”となりつつある下位銘柄群が出てきたことで明らかとなりました。このような状況になった以上、J-REITという金融商品に対する評価にも大幅な見直しが必要なのは言をまたないでしょう。

信用力回復のために増資を、とする声もありますが、安値増資で生き永らえた場合、市況が好転してもかつての価格へ回復する望みは絶たれます。反面、増資無しで市況の回復まで耐えられれば復活の目もありますが、その前に息絶えてしまう可能性も否定できません。袋小路に迷い込んだかのような状況を目の前にして痛切に感じるのは、J-REITは長期投資に耐えうる商品ではないということです。グローバル・ワン投資法人のように、市況の波を巧みに乗りこなしてきた銘柄もありますが、基本的には環境次第であえなく窮地に追い込まれ、分配金が蒸発するのがこの商品の正体と見ていいでしょう。市況が悪化する今後は、より慎重な姿勢で価値判断するしかありません。

J-REITの資産を評価する際に便利な指標の一つに表面利回りがあります。これは、年間の賃料収入が物件価格の何%にあたるかを調べたもので、決算期末の土地関連資産と翌期の営業収益等を用いて算出可能です。表面利回りでは、まずまずの物件を揃えるプレミア投資法人が8.0%なのに対し、質で劣るクレッシェンド投資法人が6.4%になるなど、資産価値からみたリスクの温度差があらわになり、中々興味深い結果が得られます。物件のクオリティが低いにもかかわらず、この指標が類似銘柄に劣るようなファンドには警戒が必要だと言えます。ただ、一般の不動産銘柄と比べると、REIT同士の比較が取るに足らないように思えるのも事実です。具体例を挙げましょう。

京阪神不動産の有形固定資産は、中間期末で63,052百万円ですが、それに対し半期の賃貸事業の収益は5,512百万円でしたので、年換算では物件の表面利回りが17.5%になります。これだけ利回りがあれば実質的な資産価値は帳簿価格を相当上回っていると見て間違い無いでしょう。旗艦物件と呼ぶに相応しいビルは持っていませんが、信用力の高いJRAを主要取引先とする企業ですから、それなりに長期投資に耐えうる安定性も認められそうです。このような競合相手がいるのですから、不実な物件売買や無様な資本政策を続け、「市況の好転する時以外に保有するのは危険極まりない」という現状を打破できなければ、J-REITが市場に見捨てられるのも時間の問題です。

(注-1)京阪神不動産のリスク
ポートフォリオには競争力の劣る古い中小物件も多く、将来的には建て替えなどに伴う費用発生が懸念されます。また、財務諸表から物件含み益の存在は推定されるものの、指定格付機関の評価はさほど高くはありません。京阪神地区の市況の先行きにも不透明感が残ります。10月10日の安値236円からの反発が大きいため、投資を検討するなら再度の大幅調整を待つのが無難だろうと判断しています。

(注-2)表面利回りについて
単純利回り・グロス利回りとも言います。厳密には無形固定資産に含まれる借地権などもカウントする必要があります。不動産投資の指標としては、表面利回りよりも諸経費を加味したNOI利回りのほうが重要性が高いですが、一般不動産銘柄のNOI利回りが出しにくいのであえて表面利回りを使用しています。今回は京阪神不動産を取り上げましたが、他にも50%を超えるような上場企業が存在しています。



●真冬のステージ(2008.9.12)

このところ、受け入れがたいディールがやたらと目に付きますが、J-REITの問題点ばかりにとらわれていると、意欲が萎えそうなので、今回は趣向を変えて一般の不動産銘柄の話題を絡めてみます。REITでもよく物件の帳簿価格と鑑定評価額の差が話題となりますが、初期のREITを含めた全ての銘柄は歴史が浅く、右肩上がりだった不動産価格に沿って順バリを繰り返してきたので、ポートフォリオ全体で20%も含み益があればかなり良い部類に入ります。とは言え、この程度の割合では不動産価格が本格的に下向くとたやすく蒸発し、余裕があるなどとは言えなくなるでしょう。

一方、社歴の長いサンケイビルのような企業では、REITなどとは比較にならない程の含み益が確認できるケースがあります。大手町にある東京サンケイビル(2002年9月竣工)の敷地を例に取ると、有価証券報告書の簿価(380.33億円/6,038u)をもとに算出した単価はuあたり629.9万円ですが、公示地価では2,500万円の評価となっています。即ち公示地価ベースですら、倍率にして約4倍、1,129億円もの含み益が確認されるわけです。直近の純資産が502億円の企業に、これだけ資本余力があるのですから、同社は不況抵抗力が非常に強いと考えて差し支えなさそうです。

さらに、サンケイビルは大阪駅近くの一等地にも優良物件を所有しています。最新鋭のブリーゼタワー(2008年7月竣工)のプロジェクト総額は約300億円のようですが、これは近隣で最近ジャパンリアルエステイト投資法人が取得した新藤田ビル(1995年4月竣工)との対比から、500億円程度の評価になってもおかしくない物件です。含み益という観点では、ギンザTS・サンケイビルや大阪新サンケイビルもありますので、会社全体では少なくとも1,400億円程度になるのではないでしょうか?これは時価総額393億円(9/12現在)の企業にしては、驚くべき数字と言っていいと思います。

ただ、筆者は何も「サンケイビルは今すぐ買いだ!」などと吹聴したいわけではありません。それどころか、こういった銘柄でも不動産市況がこれから冬の時代を迎える中では、どうしようもなく売り込まれるだろうと予想しています。J-REITでは到底実現不可能な高品質ポートフォリオ、かつ無闇やたらと増資を強行しようとしない、こんな企業ですら株価がNAVに対してあきれるほどに低迷している現実があります。にもかかわらず、雪嵐が吹き荒れようとするその時に、無法者の巣窟のようなREITという舞台で踊り続けることにこだわる意味が、一体どれほどにあるのかと思うのです。

(注-1)サンケイビルのリスク
フジサンケイグループの持ち株比率が高いため、支配証券としての魅力は乏しく、ガバナンス面を不安視する向きもあります。目先、マンションや資産流動化部門が、追加損失発生等で足かせとなる可能性もあります。言うまでも無く、開発事業への傾注も度が過ぎれば屋台骨を揺るがしかねません。今後1年間の最安値は350〜450円程度と想定しています。

(注-2)研究室の方針
J-REITについては某案件のお陰で堪忍袋の緒が切れました。もはや余程のことが無い限り不信感はぬぐえないと思います。研究室では、今後もREITの問題などを主に扱いますが、今回のように不動産関連銘柄を引き合いに出すような記事も増やしていけたらと思っています。もっとも、当面は不動産という選択肢自体が最も愚かしいのかも知れませんが・・・



●嗚呼リプラス!(2008.9.11)

リプラスレジデンシャル投資法人は、資金繰りに窮したために増資したという見方があります。これは一面において真実かも知れませんが、もしそうであれば、いくつか問題となりそうな事柄があります。そもそも、今回の案件は初のREIT買収事例であり、その複雑な内容から判断して、1ヶ月程度の短期間でまとまる話とは考えにくいです。つまり、8/12に発表された一連の増資やM&Aの細部を詰めるために、当事者達は数ヶ月前には交渉のテーブルについていたと見るのが妥当でしょう。

そんな微妙な時期と重なる5/26と6/27に、オリジネーター関係の物件(計3棟/21.9億円)を、リプラスレジデンシャルに取得させる発表がなされていますが、これでは資金の借り換えが困難だから一連のディール受入れとなったという話は、出発点から矛盾してしまわないでしょうか?さらに、どういうわけか増資の払込から10日以上経過しても、「借入金の期限前弁済のお知らせ」が出されていません。DAオフィス投資法人などの事例では、即座に返済に動いているにもかかわらずです。

仮に、遠くない時期に調達資金の一部を、リプラス関係の物件購入に振り向けようとしているなら、資金難ゆえの増資という話は明らかに矛盾となります。親会社が抱える物件処分の都合でJ-REIT に安値増資をさせたのだとすれば、投資主に対する裏切り行為とみなされても仕方ないでしょう。今回の出資単価は従来の約1/3であるが故に、理屈の上では増資による新規物件は、投資額に対する純利益率がこれまでの3倍程度なければ、既存投資主への背信的な行為となりえます。

さすがに、何年も取得を控えるべきだとまでは言いませんが、少なくとも今回の流動性危機が去り、資金繰りに何ら懸念が無いという状況になるまでは、自社関係物件を卸すのを控えるのがリプラスに求められる”常識的な経営判断”でしょう。ただ、同社をめぐっては、レントゴー等での支払遅延が続き、全国賃貸管理ビジネス協会が会員に、「取引の継続については各位のご判断にて」などと通達をするような一幕もありましたので、REITの現金を直ちに求めないという保証はなさそうです。

(注-1)微妙な時期の物件購入
週刊ダイヤモンド9月6日号には、リプラスレジデンシャルに関し、”早くも春頃から本当にリファイナンスできるのかという危機感が高まっていた”とする記述があります。この通りであるとしたら、親会社関係の物件引き受けがダメ押しの一撃になった可能性もあります。

(注-2)リプラスの支払遅延について
送金の遅れについて会社側は、7月分はシステムトラブル8月分は収納代行会社との契約未整備が理由とし、資金的な問題ではないと弁明しています。なお、一部でハウスコム関係の9月10日分の支払が遅れていると取り沙汰されており、公式発表が待たれます。



●激流(2008.9.7)

営業現場の人間に言わせると、オフィス賃料相場の動きは大型タンカーの航行するさまに似ているのだそうです。大型タンカーというと、舵が切られても容易には方向転換をせず、また一度進んだ進路はそうそう変わることがないというイメージがありますが、確かに家賃の推移にはそういった“鈍重”な傾向が認められます。この理由としては、景気変動による需要の波はあるものの、その増減は急なものではないということが挙げられるでしょう。今の日本では、好景気だからといって賃貸需要が爆発することはありませんし、業績悪化で企業が部屋を減らそうとしても、契約期間(主に2年)の縛りがありますので、各地でオフィスが突然に余りだすという現象も起こらないわけです。

賃料相場の推移が、同方向に続きやすい原因は、供給サイドにもあります。それは、普通の製造業などと違い、物件の完成までに数年を要し、出来上がれば30年以上稼動するオフィスビルでは、需要に応じた供給の調整が起こりにくいという点です。「空室率が上がったからビルをバンバン取り壊そう」とか、「ニーズが旺盛だから今月は何棟も竣工させよう」といったようなことはありえませんから、オフィスの総量がほぼ固定された中で、価格が変動するしかないわけです。一部例外はあるものの、土地自体が生産できないというのも供給を制限する要因です。こうした理由により、賃料相場は株式マーケットのような上下動を繰り返すことなく一方向に突き進みやすいと言えます。

このような不動産の特性を踏まえると、賃料の面からも今後の業界の先行きには、明るい材料が見当たらないと言わざるを得ません。各種メディアで報じられているように、既に賃料相場は頭打ちとなり、下落傾向が鮮明となりつつあります。反転は何年先になるのか見当もつきません。下降局面では、これまで契約期間中にもかかわらず値上げを迫ったり、価格改定のために訴訟も辞さないといった姿勢を貫くことで知られた企業の物件には、ライバルのテナント誘致部隊が押し寄せるでしょう。市況の激流は、長く続いたオフィス賃料の好調という環境に甘え、テナントとの信頼関係を無視してきた層を飲み込み、根本的なビジネス手法の転換を迫ることになるに違いありません。

J-REITに関しても、賃料相場のトレンド転換による影響は大きいので状況は芳しくないです。既に大幅に調整しているため、ある程度は環境悪化を織り込んできているとも考えられますが、リプラスのディール発表以降、東証REIT指数は不動産株指数に対しても弱さが目立ちますので、REITという金融商品そのものへの疑念が高まり、資金逃避が加速している可能性も否定できません。そんな中で、上場を18日に控えた東証REIT指数連動型ETFは、ハイリスク銘柄の構成比が低いものの、オフィス賃料の動向に影響されやすい、上位銘柄の価格推移に振り回される商品です。もし買いを検討するなら、以上に書いたような大きな流れなども踏まえて、慎重に拾っていくべきでしょう。

(注-1)東証REIT指数連動型上場投信について
年4回分配。ローコストが魅力のETF。1万数千円から投資できるため、単価の高い上位優良銘柄を手がけにくい個人にはありがたい新商品です。ただ、不動産流通価格は弱含んでおり、賃料収入も先安が見込まれるうえに、個別銘柄の水面下の動きについて良からぬ噂も耳にします。将来的には、この商品がJ-REITの人気に再び火をつけることもありえますが、目先は浮上の要因が見当たりませんので、焦って一度に購入する必要は無いと思います。



●緊急避難(2008.8.16)

法律用語に緊急避難という言葉があります。これは急な危険から逃れるため、やむなく他者の権利を侵害するような行為に対し、罪を問わなかったり、軽減することを指します。一例を挙げると、溺れそうになったときに、他人にしがみついたところ、自分だけ助かりその人を死なせてしまったというようなケースが該当します。翻って、現在の市場の制度下においては、親会社が窮したときに、なりふり構わず傘下のJ-REITを犠牲するというような事態が起こり得ますが、それにより投資主の権利侵害が起こるとしたら、断じて許されるべきことではないでしょう。いかなる事情があろうとも、資本関係すら希薄な親会社の手引きで、一般のREIT投資主の利益が強奪されるなど、絶対にあってはなりません。

さて、前回のコラムで取り上げたREITのM&Aが、リプラスレジデンシャル投資法人において遂に実現しようとしています。ただ、悲しいことに一般投資主の利益を守るための施策は充分ではないようです。今回のディールの最大の問題点は、必要性に疑問符の付く安値増資にあると筆者は考えます。リプラスレジデンシャル決算からは、高い利益率と良好なキャッシュフロー創出能力、比較的安定した財務基盤と当座をしのぐには充分な手元流動性が認められますので、リファイナンスが不可能となる要素は見受けられません。即ち、安値増資をしてまで資金調達を急ぐ意義は見いだし難いです。仮に財務構成を立て直す必要があるなら、一部物件の売却で資金手当するのが最善の方法でした。

物件売却を選択した場合、損失発生で一時的に分配金が減少する可能性はありますが、大幅な一口あたりの純資産の毀損で低分配が恒常化するよりも、長期では投資主に報いる結果となります。オリジネーターの視点から考えると、規模の縮小が運用報酬による実入りを減少させ、自社物件をREITに買わせるのも難しくなるため、これは避けたかったのかも知れませんが、公募投資主の利益を重んじるという意識が少しでもあれば出来たはずの選択でしょう。投資主価値の継続的な拡大を謳う傘下のファンドを、突然現れた金主に安値で売り渡すなど、レピュテーションを重視すべき上場企業における合理的な判断とは思えません。リプラス内部で何が起こっているのか非常に興味があります。

ところで、今回のタイトル「緊急避難」には文字通り、アクシデントから逃れようとするという一般用語としての意味もあります。かつて著名な投資サイトで、「満員の映画館で誰かが火事だと叫んだら、出口に人が殺到して大惨事になる」という話が引き合いに出されていたことがありましたが、この話をREITにあてはめると、紳士的運営で信頼を集めたファンドであっても、市況の悪化で親会社の業績が振るわなくなれば豹変する可能性を秘めているということになります。いま市況はまさに、不動産業者が”出口”に殺到するという局面にあるからです。現行法制下において投資主価値の軽視がまかり通る以上、緊急時には紳士も、ならず者も、難を逃れるべく必死になって踏みにじるでしょう。我々を。

(注-1)投資サイト「いちカイにヤリ」について
新興国投資の話題を中心とした、有意義な情報が満載のブログで、およそ1年も前にJ-REITの受難を示唆されている記事があるのに驚かされます。US-REITの話なども必見でしょう。高い見識と、投資家教育にかける情熱には頭が下がるばかりです。今回借用した映画館での火災の話は、別の切り口で扱われていました。

(注-2)投資主軽視について
一般に、親会社の経営リスクが高い銘柄ほど、極端なディールが起こりやすいと考えて良いでしょう。そうしたJ-REITでは特に注意が必要です。一部優良銘柄でも見られる、オリジネーターの開発予定物件の購入を早期に決めさせるという行為も、不動産の先安懸念がくすぶる中では、あまり誉められたものではありません。

※9月24日付でリプラスは破産手続き開始の申し立てを行ないました。



●二つの裁定機会(2008.7.14)

思えば、去年の今頃までの数年間は、物件を集めてREITを組成しさえすれば、純資産価値(NAV)の何割も値上がりして取引されることが珍しくありませんでした。端的に言えば、不動産物件をREIT投資口に替えるだけで大儲けが出来たわけです。投資口に過剰なプレミアムが付いたのは、不動産市況の追い風を背景として、多くの先行銘柄が好循環型の増資を重ね、分配金を増加させ続けていた為でしょう。この頃は、ファンドの成長神話により、ビルや商業施設をREITに仕立てるだけで差益を抜けるという、ある種の裁定取引が有効だった時期です。

やがて、実物不動産との裁定を狙った安易な参入が相次ぎ、業者のモラルが低下したところに、ファンドの規制強化や市況の悪化が重なり、環境は劇的に変わりました。デススパイラル型の安値増資の横行や、借入金利のスプレッド上昇といった逆風も、一部の勝ち組を除く多くの銘柄において、分配金の右肩下がりを予感させつつあり、今では無残にNAVを下回る銘柄が殆どとなっています。大幅なNAV割れ銘柄は理論上、解体して物件を処分すれば利鞘を稼げることになりますので、REITバブルの頃とは逆の裁定機会が生まれているわけです。

このところ新規上場が何例も頓挫していることから判るように、物件をREITにすると価値が下落してしまう環境においては、買い手を募るのは困難ですから、新たな組成案件は殆ど商売になりません。裏を返せば、鞘取りの為にREIT解体を狙う向きが、買収に向けた動きを活発化させる素地が整いつつあるとも言えます。6/22付の日経ヴェリタスでも“高まる再編機運、外資が食指”とする特集記事が組まれていました。投資口価格の行き過ぎたディスカウントに後押しされて、J-REITにおけるM&Aの実現可能性が高まっているのは間違いなさそうです。

最近では、仕入不動産等の減損処理をする企業が相次いでいますので、今年以降、レジデンシャルONEに似たような事例が、物件を高値掴みしたまま償還を迎える私募ファンドで多発する恐れがあります。市況の最悪期は、まだまだこれからだと思うべきでしょう。そのような中、当面の相場の起爆剤となりそうな材料は、買収や再編の話題ぐらいしか思い浮かびませんので、NAV割れ銘柄周辺の動向には注目したいところです。再編劇の渦中において、いかにして投資家の利益が守られるのかを見極めるべき局面が、遠からず訪れるかも知れません。

(注-1)レジデンシャル−ONEについて
住居用不動産投資ファンド匿名組合。運用期間は3年。レバレッジは出資金の3倍だったとのことですが、レジデンシャル−ONE(05年4月号)は、1口あたりの出資金1,000,000円に対し償還時の返還額が199,907円になったといいます。公開情報に乏しく、数値の確証は得られていませんが、元本割れの事実は電話にて確認済です。



●信用収縮打開策(2008.7.13)

元々J-REITは、「安定した利回りの下支えがあるからミドルリスク」だと各所で言われてきました。しかし、拙速な規模拡大や物件の高値買いなどでオリジネーターが舵取りを誤ったことにより、最近では巡航分配金を大幅に落とす銘柄が増加しています。一部銘柄の運用の失敗により、利回りの不安定さが露呈したことで、下値の目途は見えなくなりました。今では利回り8%を超える銘柄が約1/3に達しているだけでなく、底なし沼状態のREITさえも散見されます。

このように、分配金利回りが下支えにならないのであれば、いっそ内部留保を優先してしまってはどうでしょうか?REITは利益の90%以上を分配することで、法人税非課税となるわけですから、裏を返せば最大10%の内部留保は可能なわけです。これまでのように利益を殆ど分配するのでは、不動産価格下落で担保価値が下がると融資調達が厳しくなるのも当然ですが、一定の資本蓄積がなされるのであれば、金融機関の姿勢も変わってくるものと思われます。

投資家からは、内部留保を確保するような運用方針は、不動産マーケットが好調の折にまるで評価されず、非難の対象にすらなったでしょう。しかし今は違います。市況が陰の極へと向かう中、「J-REITの価格は破綻リスクをも織り込みつつある」とする見方まであるのが昨今のマーケットです。特に下位銘柄では、潰れる懸念で投資口価格が下落するよりも、分配金が10%減る替わりに、幾ばくか信用力が回復するほうが、投資家も喜ぶのではないでしょうか?

2009年以降の配当課税強化が、既に決まっていますので、内部留保の導入は節税効果を高めることになります。増資ばかりに頼らず、利益の蓄積をもとにした成長を志向すれば、僅かですが複利効果も生まれます。より高い見地では、岩佐浩人氏の言うように、信頼性向上と市場の規律ある発展のための制度改正が必要でしょう。ただ、今ある枠の中で出来ることもあります。筆者はその手始めとして、下位銘柄による内部留保導入が適当であると進言します。

(注-1)岩佐浩人氏について
ニッセイ基礎研究所のアナリストにして気鋭のJ-REIT論客。ディスカウント増資に対する痛烈な批判や、信頼回復のための施策に関するレポートはもちろんのこと、運用報酬に関する調査結果なども必見です。



●病める構造(2008.6.15)

先日、「J-REITには構造的欠陥があるという話だけど、それはどういったものなのか?」という趣旨の質問を頂きました。良い機会なので、この場で説明することにします。J-REITの最大の問題点とは、資産運用会社が、投資法人の大株主でなくても、それを殆ど意のままに操れる仕組みとなっている点です。そうした事を可能にしているのは、“議決権を行使しない投資主は、投資主総会に提出された議案に賛成したものとみなしてよい”という投信法第93条第1項の規定にあると考えられます。

議決権を行使しない方が悪いという考えもあるでしょうが、言うまでも無く普通の企業では「賛」に票が投じられなければ、賛成とみなすことなど出来ないわけで、ここにJ-REITに適正なガバナンスが働きにくい根因の一つがあると見て良いでしょう。何割もの賛否不明の票が賛成扱いになるからこそ、一部のモラルに欠けたオリジネーターは投資主を軽視し、踏みにじり、不可思議な物件売買や市況無視のデススパイラル増資を繰り返すなどして、自己の利益のみを追求出来るというわけです。

ただ、投信法の規定は諸刃の剣でもあります。もしも、多くの投資主にとって有益な、“1口あたりの純資産額を下回る増資に(何らかの)制約をかける”といった類の投資主提案がなされた場合、どうなるでしょうか?取引先との持ち合いなど皆無のJ-REITのことですから、反対票を確保するのは容易ではない筈です。構造的欠陥を逆手に取り、投資口の1%以上を保有する投資主により、真に価値ある提案がなされれば、総会で承認される事例が出ることも考えられるのではないでしょうか?

さて、最近の市況ですが、増資の発表やその懸念で急落する中位以下の銘柄も増えてきました。安値増資銘柄は、通常下げ止まらないので無理もありません。分配金や1口あたりの純資産額の減少率以上に堕ちゆくのは、信用を犠牲にしたことに対する市場の鉄槌です。今の状況なら、好循環型増資が出来る優良銘柄以外は、投資口の発行を白紙に戻すべきでしょう。もしも増資が不可避なら、大幅なプレミアムを乗せて、親会社が第三者割当を引き受けるぐらいの覚悟が求められます。

(注-1)投資主提案権について
発行済投資口の1%以上を6ヶ月前から所有する投資主は、一定の事項を投資主総会の目的(議案)として提案する権利を有しています。

(注-2)第三者割当増資の好例
今年2月の、フロンティア不動産投資法人におけるJTの引き際は見事でした。三井不動産が増資を一手に受けたことにより銘柄に対する信頼度が上がり、その後もマーケットでの高い評価が継続されています。



●大和ハウスリートの価格予想(2008.6.8)

大和ハウスリートですが、「随分と意外なタイミングで出てきたな。」というのが第一印象でした。新規上場が立て続けに頓挫した後であり、市況も決して芳しくない時期に発表がなされたためです。ただ、中身に目をやると、物件の取得条件が比較的優れているうえに、運用報酬体系も非常に低く抑えており、近年稀に見る清廉高潔な仕立てとなっています。市況の良い折に粗製濫造された拙劣なファンドとは一線を画した内容であり、さすが堂々と大和ハウスの名を冠するだけのことはあると得心させられます。

今回も、J-REIT分析の第一人者の方が、とびきりの記事を書かれていますので、補足説明に徹することにします。まず、ファンドの問題点ですが、目玉となるような物件に欠け、リスクの高い資産に偏った構成となっているため、S級鑑定事務所のみに依頼された物件評価で、一定の利回りは確保できているものの、それが現在の投資家の要求に見合うものであるかは微妙だと言えます。また、空室発生が致命傷となりうる資産内容にしては、中途解約に対する縛りが甘くなっている面も否めないかと思います。

好意的に見ることが出来る部分としては、高いレバレッジが忌避されるようになった最近の傾向を反映し、標準的なLTV水準を40〜50%にすると明言し、保守的な運用を志向している点が挙げられます。オリジネーターの信用力が金利に反映されている実情も加味すると、好条件での借入が約束されていると考えて差し支えないでしょう。ただそれ以前に、殆ど全てのJ-REITが直近の公募価格を下回っている現状は、予断を許さない状況であり、上場まで漕ぎ着けられるかが最大の焦点と見る向きも多そうです。

さて、価格予想は一応上場されるという前提で行います。公募価格50万円未満の銘柄というのは、プレヒアリングで機関投資家の引合いが充分でなかったものと考えられますが、過去の例ではこうした銘柄は苦戦するケースが殆どでした。仮条件は46〜48万円となっており、これが上限の48万円に決まらないと底割れの可能性がさらに高まりそうです。そこで今回は、上限で決定ならブランド価値が見直されたと見て当初予想価格46〜48万円、48万円未満で上場なら42〜45万円という見通しを示しておきます。

※6月10日付で大和ハウスリートの上場中止が発表されました。



●オフィスリート不要論(2008.5.15)

「業者のモラルに賭けるって?悪い冗談だ。」

J-REITが登場した当初から、不動産業界には、REITへの投資を”愚の骨頂”と言ってはばからない人間が少なくありませんでした。業界事情に精通したプロフェッショナルが、この商品を馬鹿にしてきた主な理由とは、不動産投信が親会社の言いなりになって、いいように使われる恐れがあるという、構造的欠陥を抱えているためでした。

J-REIT否定論者は今頃、したり顔でいるのかも知れません。なぜなら、市況が良い折には見えにくかった歪みが、このところ続々と明るみになってきたからです。透明性に疑問符がつく親子間取引や、デススパイラル型の増資がかくも続くなら、「J-REITは無法地帯で、買う奴は愚か者だ!」と言い放たれても、反論のしようがありません。

このセクターでは、日本プライムリアルティ投資法人のようにコンプライアンスを重視し、真面目に運営努力を重ねてきた事業者が多いのも事実ですので、一部のオリジネーターの不品行は本当に嘆かわしい限りです。事ここに至ると、REITで利益相反に怯えるよりも、直接不動産会社に投資するほうが合理的だと嫌でも実感させられます。

まだ充分に安いとは言えませんが、下落基調にある不動産銘柄も少なくありませんので、今年の後半から来年にかけては、良い仕込みどころがありそうです。三井・三菱・東京建物といった財閥系大手以外では、サンケイビル・京阪神不動産も面白そうです。これらは、オフィスリートよりも余程気の利いた投資対象になると睨んでいます。



●半鐘(2008.1.28)

不動産市況を牽引してきた証券化商品が岐路に立たされています。とりわけ、私募ファンドの先行きに注意が必要な環境となってきました。不動産証券化協会の調べによると、近年私募ファンドの規模は右肩上がりの成長を遂げ、2006年12月末時点では既に8.2兆円に達したといいますが、ここまで膨れ上がることが出来たのは、ひとえに不動産市況の好調という追い風があったからに他なりません。

私募ファンドはREITと違い、償還期限があるため、そのセクター全体が安定推移するためには、不動産が値下がりせず、エクイティとデットの提供者が永続的に現れなければなりません。しかし、数年で償還を迎え、その度ごとに出資者を募り、融資を引っ張って来る自転車操業が必要ということは、不動産市況が悪化して資金の逆流が始まると途端に失速し、倒れる危険性すらあるということです。

既に昨年後半にはそうした軋みが不動産取引の現場で生じ始めていました。今となっては、最終的に不動産を売却しようにも、受け皿となる予定だったファンドの資金調達失敗により、計画が頓挫したなどという話も珍しくなくなっています。私募ファンド以外に買い手を求めたところで、外資はサブプライム問題の後遺症で動けず、REITも上場や増資が極めて困難な状況に置かれていることは明白です。

こうした中で、私募物件の大量放出がなされれば、マーケットが崩壊する恐れがあります。最悪の場合、私募ファンドの元本割れが多発する可能性も否定出来ません。そうなると、ファンド事業への依存度の高い新興企業だけでなく、J-REITも無事では済まないでしょう。ただし、今後予想される長い低迷期も、限られた一部の優良企業や勝ち組REITにとっては、物件買い叩きの好機となりそうです。

(注-1)不動産マーケット変調の兆し
今月上旬、ある有力企業の決算説明会の席上で、「市場が急悪化したせいでメザニンが全く付かない。ついても金利10%を要求される。」「エクイティのボリュームが集まらない。」といった生々しい発言がありました。また、ダヴィンチの金子修社長は、日経の取材に対し「金融機関の融資厳格化で3月にかけて資金の借り換えが難しくなった物件が大量に売りに出るとみている。」とコメントしています。



●妄想利回り(2007.12.2)

今度上場するジェイリート投資法人は、一見すると鑑定ベースの還元利回りが高く、立地もそれなりに良いファンドに見えますが、分配金額が少な過ぎるので何かあるなと感じた方が多いのではないでしょうか?筆者もその一人でした。疑問を解くべく目論見書を見直すと、想定収益が高く見積られており、実際の契約とかけ離れているという意外な事実が見えてきました。具体例を挙げます。AIGタワーの入居者はAIG本体ですが、現状では月額賃料は15,733千円、つまり年額では188,796千円となっています。ところが、鑑定評価の想定では年額が247,267千円であり、3割以上も高い前提で計算されていました。

こうした仮定で算出された還元利回りは、実績と大きな開きが出て当然です。これで本当に高い賃料が実現出来なければ、想定利回りもただの“妄想利回り”に成り下がります。程度の差はありますが、ジェイリートの名を冠するこの投資法人には、他にも似たような物件が多数含まれていますので確認してみるといいでしょう。ただ、筆者は賃料の上昇を前提に鑑定するのがいけないと言いたいわけではありません。もしそうするのであれば、もっと判りやすいように想定と実際の違いを表示するべきだと思うのです。賃料が上昇すると見込む明確な根拠も、目論見書では省略せずに開示する必要があるでしょう。

「高い想定=悪」とは限りませんが、例外もあります。ビルの売主もテナントもオリジネーターの息がかかっているようなケースです。上記のAIGタワーの例がこれにあたります。外部のテナントの場合には、想定通りの賃料に出来なくても鑑定書の内容は参考に過ぎないと言い訳が出来ますが、AIGタワーのような取引ではこの理屈は通りにくいです。AIGが、自主的に鑑定書が示す相場並の賃料に引き上げることが、社会通念上求められるといっても過言では無いでしょう。さもなくば、倫理観に欠ける外資系企業が、姑息なやり方で傘下のJ-REITに物件を高値掴みさせた、などという批判にもさらされかねません。

(注-1)AIGタワーの賃貸借契約に関する企業倫理上の問題
目論見書P71及びP77よりテナントは親会社1社と特定。区分所有権の売主も、P62よりAIGグループに属するものと確認しています。同社が大和不動産鑑定に適切な情報提供をし、作成された鑑定評価書を精査して問題が無いと認めたのであれば、相場並の賃料への値上げが至当でしょう。

※12月3日付でジェイリート投資法人の上場中止が発表されました。



●狼と羊(2007.11.10)

”REITは構造上、狼に羊の番を一任するようなもの。狼のモラルだけに頼っていても、狼は腹が減るたびに増資をし続けることでしょう・・・”(「REIT掲示板」より)

前回筆者は、ジョイントリートの増資強行により、J-REITマーケットが壊れる可能性があると指摘し、中止が賢明と示唆しましたが、結局のところ残念な選択がなされました。ジョイントリートの財務方針には、増資について「中長期的な観点から、本投資法人の運用資産の着実な成長を目指し、金融環境を的確に把握するとともに、投資口の希薄化に配慮しつつ実施するものとします。」と明記されているにもかかわらずです。投資法人にデス・スパイラルの泥沼に入り込みかねない選択をさせ、投資主に甚大な損失を蒙らせながら、REITに物件を買わせたオリジネーターは不動産流動化事業で空前の収益を上げているのですから、怒りを通り越して呆れてしまったという人も少なくないのではないでしょうか?

これも懸念されたことですが、ジョイントに続けとばかりに、相次いで悪循環型の増資が発表されています。イーアセットを例にとると、今回のラサールインベストメントマネージメントによる一連のディールにより、1口あたりの出資金は実に8%も低下します。さらに、増資後の物件売買で、借入依存度が従来より高まるにもかかわらず、予想分配金は下方修正されました。低価格増資ゆえのデス・スパイラルの一つの典型と言えるでしょう。不動産投資の収益が、いい意味でも悪い意味でも安定している以上、一発逆転のような事を期待するのは困難です。だからこそ、ファンドを誠実に運営し、増資のタイミングには慎重に慎重を重ねるようでなければ、負け組はとめどなく負け続けることにもなりかねません。

無論、J-REITの組成をしているのは、慈善団体ではありませんから、ファンドに不動産取引をさせ、規模を拡大させることで、物件売却益やインセンティブ報酬、資産や収益に連動した報酬などを稼ぎたいと思うのは当然のことです。そして投資主の権利は、株式と比べて実質的に制限されていますので、冒頭の例えにあるように、REITに構造上の問題があるのも事実です。けれども、それを盾に目先の利益を追うあまり、ファンドを殺すかのようなディールを続けていては、いずれ「狼」は飢え死にしてしまいます。旧約聖書の時代、羊は生贄とされる動物だったといいますが、マーケットの「羊」は誰も進んで犠牲になどなりたくないのです。裏切られ、共存の道が無いと悟れば、群れをなして逃げゆくでしょう。

(注-1)ジョイント・コーポレーションのセグメント情報
11月7日付の中間決算短信によると、最も好調な部門は不動産流動化事業であり、ファンドへの物件売却が寄与して、売上高が前年比54.6%増となっています。このセグメントは、売上構成比でも分譲部門を追い越すまでの成長を遂げました。



●デス・スパイラル(2007.10.17)

日本では一般に、転換価格(下方)修正条項付転換社債のことを、Moving Strike Convertible Bond(MSCB)と呼びますが、これは和製英語なのだそうです。アメリカではこの悪名高い商品を、Death Spiral Convertible Bondと称するといいます。恐怖の悪循環をDeath Spiralと表現するセンスには、まさに脱帽といったところです。悲しいことに、J-REITの世界でもこういった表現があてはまりそうな事例が出てきたので、ここで紹介することにします。ただ、その前に、J-REITの勝ち組ファンドが生まれるメカニズムから説明していきます。

極力単純化して話を進めますが、50万円で上場し、利回り5%、つまり年25,000円の分配金を出すファンドがあるとします。これが50%値上がりし、75万円になると市場で買った場合の利回りは3.3%に低下します。この75万円で公募増資が行われ、さらに物件の購入がなされると、分配金は年31,250円に増加します。50万円で25,000円分配出来たということは、75万円で増資して純資産の平均を62.5万円とした場合、その5%は31,250円になるからです。増資により分配金が増加し、75万円での利回りは3.3%から4.2%に改善されます。

そうなると、さらに買い上げられて利回りが低下しやすくなり、再び3.3%の利回りになる頃には、投資口価格は94万円まで上昇しています。ここで再度増資&物件購入をすると、さらに1口あたりの分配金が増加して、それはまた買い材料となり・・・・。わかりやすいよう説明では細部を省略しましたが、こうした好循環こそがJ-REITの好調を支えた、“勝ち組ファンドの成長方程式”とでも呼ぶべきものでした。ただし、これは歯車が逆回転した場合には、ズルズルと右肩下がりになってしまうことにもなりますので、危険な公式でもあります。

ジョイントリート投資法人は、53万円で上場しましたが、批判を浴びながらも最初の公募増資を477,260円で実行し、今また40万円前後で資金調達をしようと目論んでいます。まさに絵に描いたような転落ぶりです。果たして、このような状況下でも投資主は増資を望んでいるでしょうか?親会社の経営はそうまでしないと苦しいというのでしょうか?良識ある経営陣なら、何をすべきかは自明です。中止か実行か、ジョイントコーポレーションのみならず、J-REITという商品全体の信用にかかわる決定が、一両日中にもなされようとしています。

(注-1)J-REITという商品全体の信用にかかわる決定
本日から19日までが、ジョイントリートの価格決定日です。”デス・スパイラル”を地でいく増資が横行するようなら、REIT市場における投資家離れが加速する恐れがあります。



●産業ファンドの価格予想(2007.10.13)

今日現在、筆者のポートフォリオのうち約27%が株式ですが、その半分以上はガス・電力・通信・空港・港湾事業などに携わる企業が占めています。このように、公共セクターには強いこだわりがありますので、産業ファンド投資法人については、大きな問題の無さそうなメインの物流施設部門ではなく、注意すべき点のある準主力のインフラ施設部門に焦点を当てて書いていきたいと思います。全体の解説については、毎度おなじみの株式投資と茶道の方が抜群のコラムを書いておられますので、そちらを参照するといいでしょう。

久しぶりの上場銘柄で、これまでにない産業用資産も組み込むファンド、しかもスポンサーは三菱商事・UBS連合となれば、おのずと注目が集まるところですが、その中身はあまり面白くなさそうです。問題は取得価格181億円のコア物件であるIIF神戸地域冷暖房センターにありました。この施設は、好立地とは言い難い物件であるにもかかわらず、鑑定評価によると還元利回りが4.1%となっていますので、減価償却費(約2.5〜3億円)や金利負担(約1〜1.5億円)を加味すれば、実質的な投資利回りは2%程度にしかなりません。

仮に益回りで比較するとすれば、5.7%ある大阪ガス株式の半分にも満たない低収益物件という計算になります。産業ファンドの取得価格は、土地を購入して対象不動産をもう一度建てた場合の価格(積算価格)の実に4.8倍という強烈な水準となっていますので、採算性に問題が出てくるのは当然と言えば当然でしょう。公的バックアップもあって建てられた熱供給施設は、極めてリスクの低い資産であることは認められますが、法人税負担のある大阪ガス本体にボロ負けしてしまうようでは投資案件として魅力的とは言い難いです。

さて、今回の当初予想価格ですが、来期の利回りで3.7〜3.9%となる493,000円〜520,000円にしておきます。借入依存度が高いにもかかわらず、利回りが低いのが気になりますが、三菱・UBSの実績とブランド価値も侮れませんので、公募割れは考えにくいです。ただ、海外募集を予定数より減らしたうえに、仮条件を50万未満にしていることから、内外の機関投資家の引き合いは微妙であったと思われます。先の森ヒルズリート野村不動産レジデンシャルのように、当初から火の点いたように値を飛ばすこともないのでしょう。

産業ファンドのような、インフラ施設を投資対象とするREITの存在が、官に代わってこの国の公共設備の充実を後押しする展開もあり得るという意味では、かなりの潜在力を秘めたファンドであるとも考えられます。ファンドの拡大が我々の生活向上の役に立つ可能性があるわけです。しかし、そのためにはファンドに多くの投資家の資金を呼び込むだけの魅力が備わっていなければなりません。筆者から見て、今回の取得条件には期待外れの感がありましたが、今後の運営次第で輝くことも可能でしょう。三菱商事なら出来る筈です。



●野村不動産レジデンシャルの価格予想(2007.2.3)

野村シングルレジデンス投資法人?思わずそう呼びたくなってしまうほど、コンパクトタイプの単身者向け住居の比率が高いのが特徴です。立地では、都心5区の割合が33.4%と低いのも目に付きます。目論見書には、開示データの定番といえる、地域別構成比の図表が掲載されていませんが、これは他のレジデンス系上位銘柄との格差が明るみになってしまうのを恐れてのことでしょう。個別物件の公開情報についても、同系銘柄と比較すると、非常に簡素化された内容となっているため、人によっては投資家に対して不親切という印象を持つかも知れません。

月刊宝島のJ-REIT特集で用いた、クオリティ重視の方式で試算すると、住居系11投資法人中6位にランクインします。プラウドブランドで知られる野村不動産のファンドにしては物足りない順位ですが、その理由は組入物件を見れば納得できるでしょう。野村の開発物件が、僅か18.2%(平成19年3月末では4.8%)であり、数少ない自社の手がけたマンションも、高級とは言えない内容だからです。看板倒れの理由は、分譲マンションの販売単価の値上がりが急であるため、高級物件はファンドに回さないほうが儲かるという経営判断によるものだと思われます。

ポートフォリオの質はアドバンス・レジデンス投資法人以下、ジャパン・シングルレジデンス投資法人以上といった水準ですが、両銘柄と比較した場合の物件取得条件は概ね妥当だと言えそうです。資産残高に対する運用報酬は、住居系としては安く設定してあります。インセンティブ報酬もあるのでトータルでの評価が難しいところですが、その発動条件はジャパン・シングルレジデンスなどと比べて厳しくなっています。野村不動産レジデンシャルの詳細についても、株式投資と茶道の方が極めて有用な記事を書かれていますので、ぜひ参考にしてください。

さて、1年前なら公募割れ濃厚という内容ですが、最近のREIT市況は薄気味悪い程にヒートアップするばかりですので、ここもさぞかし買い上げられることでしょう。何にせよ、この状況ならマーケットで既存銘柄を買うよりも、野村不動産レジデンシャルをIPOで取得するほうが、よほど健全だとは思います。今のような市場環境で、真面目に考えて予想することにいかほどの意味があるのか判りませんが、ブランド信仰や、投資口の品薄さで、当初の価格は652,000円〜685,000円(第2期基準利回り3.9%〜4.1%)程度にはなるんじゃないですか?投げやりです。

(注-1)新築優良マンションがファンドに流れなくなった背景
新築優良マンションの分譲単価は「新価格」「新新価格」などと呼ばれる大きな値上がりを見せており、先高感を見込んだ売り控えも出てきています。その一方で、賃貸マンションの家賃相場は落ち着いているため、利回りを投資基準とするファンド勢は、高騰する新築物件を無闇に買い上がることが出来ません。開発業者にとって、ファンドに売るより、分譲するほうが利益につながるケースが増えているため、J-REITにも新築優良物件が入りにくくなってきています。



●森ヒルズリートの価格予想(2006.11.26)

森ヒルズリート投資法人については、今回も株式投資と茶道の方がハイレベルなレポートを作成されています。概要はこちらで充分過ぎる程に良く解りますので、今回は客観情勢と需給要因をメインにして書くことにします。この銘柄のマーケットにおいて予想される評価ですが、都心部の開発事業において不動の地位を築き上げてきた森ビルの実績や、今後予想される追加物件の立地の優位性・グレードの高さなどを勘案すると、かなりの水準が期待できると考えてよいでしょう。今年上場した銘柄のうち、勝ち組筆頭格である、トップリート投資法人ジャパンエクセレント投資法人を凌駕する評価であってもおかしくないと思います。

無論、両銘柄と森ヒルズリートとの違いは、前者は市場で高い評価を得られるまでに、IPOに参加した投資家が大きな果実を手にしたのに対し、後者は最初から森ビルとその親密先が大幅に利鞘を抜いており、一般投資家はあまり儲からない可能性が高いスキームだという点ではあります。ただし、侮りがたい“ヒルズ”のブランドイメージには、後発銘柄では完全に抜きん出た賃料単価と安定したキャッシュフローという目に見える裏付けもあり、しかもこれにムーディーズの発行体格付A3(Stable)や、高いテナントクレジットによる安心感も加わりますので、幅広い投資家層に人気化する要素に満ちている点は認めざるをえません。

森ヒルズリートの注目点としては、総発行投資口のうち約28.1%が、6ヶ月間のロックアップ(売却制限)のために、市場に出回らないことが挙げられます。IPO時に取得する法人投資主の持分が固定化されやすいことなども鑑みると、規模の割にマーケットで品薄となる可能性が高いと言えそうです。これは、いわゆる投信買いのインパクトを押し上げる要因ですから、年末にかけて値を飛ばす展開も十分に考えられます。今回の当初予想価格は748,000円〜792,000円(第2期基準利回り3.4%〜3.6%)としますが、以上に書いたような状況を見越して、先回りの買いが集中した場合、スタートからさらに上ブレする展開もありそうです。

注意事項としては、固都税を納税時点で費用化する会計処理を取るため、第2期に3ヶ月分の128百万円しか見込んでおらず、巡航ベースの分配金は12,500円未満と試算されることや、三井不動産が主導する六本木の防衛庁跡地再開発プロジェクト”東京ミッドタウン”の開業で、来春には三種の高級賃貸住居が近隣地域に出現することなどが挙げられます。また、LTVの上限が65%と高い点も要注意でしょう。森ヒルズリートの物件供給者は全て森ビルで、同社との共有物件が多く、かつ運営管理も全てオリジネーターが受け持つという体制ですので、投資する前にその命運を握る親会社の誠実さを良く吟味する必要があります。



●森ヒルズリートについて(2006.11.18)

春先に1株あたり1,000円の出資で起業した会社の株式を、その年の冬に1,500円で市場に放出するなどという拙速な行為は、株式市場では不可能ですが、J-REITの世界では規制の網にかからずに実現可能です。今回上場する森ヒルズリート投資法人は、2月から7月にかけて50万円で発行した投資口をこの度75万円で大量に売り出しますので、まさにこのパターンです。これにより、オリジネーターの森ビルやその親密先には、短期間で多額のキャピタルゲイン(又は含み益)が転がり込むことが保証されていますので、彼らにしてみれば本当に笑いが止まらないところでしょう。

このように、上場スキームはあまり誉められたものではありませんが、ポートフォリオを見ていくと、好立地に限定された組入物件のクオリティは、J-REITの中でも高いレベルとなっています。しかも、その売買価格の適正性については、全てを信頼度の高い日本不動産研究所に鑑定させていることもあり、疑問を差し挟む余地はまずないと言っていいかと思います。数字をいじって姑息なサヤ取りを狙うどこかの業者と比べれば、堂々と利益を追求していると考えられないこともありません。運用報酬については、キャッシュフロー連動分がないため、微妙に安めの設定となっています。

ポートフォリオについて、若干の懸念を述べると、森ヒルズリートに多い家賃50万円を超えるようなプレミアム住居のストックは都心部にも多くはないものの、これに入居できる層というのも非常に限られるという問題があります。この手のマーケットはある意味ニッチであるため、景気変動や新規供給による影響を受けやすい傾向があります。超高級物件は生活必需品というわけでもないため、賃料相場の安定性が高いという一般的な賃貸マンションの常識が通用しないわけです。無論、これは裏を返せば、時流に乗るとアップサイドが取り易いという側面もあるということになります。

それにしても、目論見書の筆頭に載せる物件は、通常そのファンドの目玉物件となるわけですが、ここのアーク森ビルを前面に出すやり方はどうなのでしょうか?もちろん、築年数は経過しているものの、物件の質は最高級と言っていいとは思います。しかし、森ヒルズリートに組み込まれるのは、目論見書にそれとわかる記載がありませんが、たかだか全体の2%台でしかない僅かな持分です。しかも、この区分所有物件の入居者は、月坪2万円の5年固定契約で森ビルということになっています。本来ならあと4〜5割は取れる優良物件ですので、これでは投資主がかわいそうです。

(注-1)アーク森ビルの契約について
目論見書P116のデータから、賃料・共益費込で月坪19,988円。全て森ビルの自社使用。鑑定評価書の想定賃料は月坪3万円。昨年2月の日経不動産マーケットの記事には、リニューアル後も「3万5千円以上の賃料が維持できた。」とする森ビルのコメントが掲載されています。


●出口戦略の名のもとに(2006.10.21)

これまでの記事で、類似銘柄との比較などを試みながら書き連ねてきたように、私募ファンド事業を主力とする、新興オリジネーター系のJ-REITが、好条件で物件を購入できない傾向が強いのはなぜでしょうか?その理由は、彼らの収益構造について考えることで、理解可能なのではないかと思います。1つ例を挙げましょう。仮にA社というその手のオリジネーターが、好条件で物件を取得できる算段が整ったとします。その場合、A社はそのまま物件をREITに買わせてくれるでしょうか?

実のところ、そのような経営判断が下される可能性は極めて低いと考えざるを得ません。なぜなら、A社が利益を追求する上で、より有利な方法が他にあるからです。私募事業を主力とする多くの企業においては、こうしたケースでは物件を自社の投資勘定か、あるいは上流の私募ファンドを経由させるなどして、利鞘を抜いたうえでREITに放り込むでしょう。その方が、会社の利益につながりますし、主要な顧客である私募ファンドを購入してくれる上得意先にも報いることが出来るからです。

転売を重ねた物件は、最後にあらゆる手を尽くして評価額を高めた上で、REITに放り込まれる結果となるでしょう。REITが物件の”最終処分場”と呼ばれるのはこのためです。外部から直接REITに組み込まれる物件とは、単に仕入価格が高く、利鞘の抜けないものであると考えるのが妥当だと思います。彼らも慈善事業をしているわけではありませんから、こういった経営判断が下されるのは、別に驚くにはあたりません。この手のREITに勝ち組が存在しないのは、無理からぬことでしょう。

強いてこのグループの勝ち組候補の名を挙げれば、ケネディクス不動産投資法人ということになりそうです。ケネディクスの物件取得傾向からは、オリジネーターが利益をむしり取るのではなく、REIT投資家にもほんの少し分け前を残すような賢明さが見受けられますので、まだ救いはあるでしょう。実績を前向きに評価すれば、次点は日本レジデンシャル投資法人だと思いますが、PMCの取組姿勢に変化の兆しがありますので、先行きについては慎重に見ていく必要があるかも知れません。


●日本コマーシャルの価格予想(2006.9.24)

日本コマーシャル投資法人については、既に「オフィス部門の取得価格」と「減価償却費」の話題を取り上げましたが、問題はこれだけにとどまりません。商業部門の主力物件である心斎橋OPAの取得価格は、費用を差し引く前の表面利回りで4.2%ですので、実際のNOI利回りは3%程度と見込まれます。3%というのは、普通は都心部でも限られた地点でしかお目にかかれない数値です。現行賃料が立地の割に安いので、収支改善の可能性は認められるものの、テナントが経営再建中のダイエーの完全子会社である十字屋の100%子会社ですから、過度の期待は出来そうにありません。

ただ、不動産ポートフォリオ全体については、トップリート投資法人ジャパンエクセレント投資法人と同等の、最近の銘柄にしては高いクオリティであると見ていいでしょう。これで物件取得条件も両銘柄のように優秀であれば、新たな勝ち組銘柄の誕生となったはずですが、収益性を測る指標で見ると、残念ながら日本コマーシャルの低さが際立つ形となります。一部物件の購入価格の適正性について、オリジネーター内部でも議論があったとする週刊文春の報道や、不動産鑑定について、信頼度の高い大手に依頼している割合が何故か低いという2点も覚えておいたほうが良いでしょう。

コストの部分では、この規模のオフィス・商業系ファンドにしては、非常に高い運用報酬・取得報酬になっているのが目に付きます。トップリートの料率を基準にすると、運用報酬は約3割増し、取得報酬は倍近くもオリジネーター側が取れるように設定されています。また、前回問題にした減価償却費については、資産規模に対する適切な計上額を、トップリートジャパンエクセレントと同等の割合と仮定して計算したところ、第二期で468〜477百万円の費用増となりました。この前提では、日本コマーシャルの真の分配金支払能力は、実に1,900円あまりも切り下がることになってしまいます。

今回は、第2期基準利回り5.1%〜5.3%、432,000円〜448,000円を当初予想価格としますが、筆者はこれまで書いてきたようなリスク要因を重視し、適正水準はさらに下だろうと見ています。大規模上場なら評価されるというジンクスは既に破られており、公募における不人気や、週刊誌の取り上げた海外機関投資家の敬遠という話もありますので、簡単に底割れとなる可能性もあるでしょう。「IPO及び上場後の株価の行方には厳しいものがあるという認識があったはず」「もっと慎重に事を運ぶべきだった」とするREITアナリスト山崎成人氏の見解には、筆者も大いに賛同したいところです。


●日本コマーシャルの問題点(2006.9.8)

日本コマーシャル投資法人の概要については、「株式投資と茶道」の方が完璧な記事を書かれていますので、私は開示資料から浮き彫りになる問題点について掘り下げることにします。まず、根本的かつ重大な問題ですが、このファンドを資産の質が近い他の銘柄と比べると、物件取得価格が非常に高いのではないかという疑念が浮き彫りになります。以下の表は、各投資法人のオフィス部門のデータを抜き出し、坪あたりの月額賃料と、物件取得価格の坪単価を比較したものです。基準値として、ジャパンエクセレント投資法人(月坪賃料15,685円/坪単価2,407,018円)の数値を用い、これを1.000とした場合に他の銘柄がどうなるかを並べてあります。

コードa@月坪賃料. 坪単価     名称(平均築年数)
---------------------------------------------------
 8987   1.000   1.000   ジャパンエクセレント(14.8年)
 3227   1.093   1.006   MIDリート(20.6年)
 3229   0.955   1.281   日本コマーシャル(15.6年)
---------------------------------------------------
※上場時開示資料を使用、平均築年数は上場日時点のオフィス部門の数値。

この表を見ると、MIDリート投資法人が優良そうに見えますが、5〜10%程度の賃料減額リスクがありますので、さほど好条件による取得という訳でもありません。それよりも、日本コマーシャルの突出ぶりが、嫌でも気に掛かります。ロケーションが良いから、坪単価が高くても仕方がないという意見もあるでしょうが、そもそも月坪賃料から明らかなように、収益性が高くはありませんので、立地の優位性に言及するのは無理があります。そして、随分と高く物件を買っているように見える割に、分配金利回りが悪くないので、何かカラクリがあると思い、減価償却費の項目をチェックしたところ、タコ足配当を連想させる非常に興味深いデータが得られました。

日本コマーシャルの減価償却費は、賃料単価が近いファンドと比較して不自然な程に低く見込まれています。試しに上場翌期のデータを使って、「減価償却費÷物件取得価格」をトップリートジャパンエクセレントと比較すると、38%も少ないことが明らかになります。この疑問を解く論理的な解答がタコ配以外に存在するでしょうか?仮に、物件価格の土地の比率を高くしたり、償却期間を長めに見積るなどの会計操作で、無理に利益を捻出するのであれば最悪です。高い物件取得価格と過小な減価償却費がセットになると、将来の減損リスクが飛躍的に高まるからです。ある実務家の方は「減損発生でREITが破綻する」という記事を書いておられます。

以上の問題点について、REIT投資家に少しでも早く知らせる必要があると感じたので、今回は前倒しで新規上場銘柄特集を組みました。パシフィックマネジメントについては、これまで各所で「ケネディクスと双璧をなす、数少ない信頼の置ける新興不動産ファンド会社」だと発言してきましたが、日本コマーシャルを調べていて、これが単なる幻想に過ぎなかったと思うに至りました。一体全体、何がPMCを変えてしまったのでしょうか?日本レジデンシャルで積み重ねた実績を、フイにしても構わないのでしょうか?最近のJ-REITの市況は比較的好調ですが、少し長いスパンで考えれば、悪貨が良貨を駆逐してしまうような悲観シナリオも想定するべきでしょう。


●優良物件に縁が薄い理由(2006.8.30)

全く同一の設計による建物を都心と地方都市に建てた場合を比較すると、建築コストや維持管理コストは場所にそれほど左右されずに一定の範囲内に収まるため、会計上の費用はどちらもそう変わるものではありません。それに対し、収入の部分は立地次第で数倍も変わることが珍しくありませんので、同じ建物なら、家賃相場の高い地域に建てたほうが利益率は高くなります。つまり、賃貸経営において最も儲かる物件とは、賃料単価の高い好立地の物件ということになります。

しかし、残念ながらオリジネーターにとっての最優良物件がJ-REITに組み込まれるケースは殆どありません。なぜなら、親会社としては、最も利益率の高い物件は、最後まで手放したくないものだからです。これこそが、J-REITに1.5流以下の物件が溢れている最大の理由と言えるでしょう。もしも、オリジネーターが虎の子の資産を手放すとしたら、それは売却をしなければ生き残りもままならないときや、何らかの事情で将来の“バリューダウン”を察知したときなのかも知れません。

オリジネーターの最優良資産がJ-REITに組み込まれた稀有な例としては、福岡リート投資法人MIDリート投資法人があります。福岡地所は、ファンド組成時期の決算で自己資本比率が7.2%でしかなく、利益も特損で大幅に減少するような状況でしたので、切羽詰った経営だったことが推察されます。MID都市開発についても、再建計画を策定するに当たって銀行などに債権カットを強いた手前、優良資産を切り離して生き残った本体に余裕があると考えるのは無理があります。

MIDリートの物件群については、主力テナントである松下系企業の賃料減額が、引続き松下IMPビルなどでも出てくる可能性が高いので、オリジネーターのバックにいるエートス・ジャパンが、これを早々に売り抜けたいと考えたとしても不思議ではありません。こうした背景から、世間でバリューアップだ、賃料値上げだ、と騒がれる中で、全く逆を行く物件をハメ込まれたファンドが登場したというのが実情だとしたら、市場の見方が厳しくなるのは無理からぬことなのかも知れません。


●MIDリートの価格予想(2006.8.26)

MIDリート投資法人のオリジネーターは、松下興産の流れを汲むMID都市開発です。同社は元々、松下電産の創業者一族の資産管理会社でしたが、バブル期の過剰投資の失敗で経営が立ち行かなくなり、紆余曲折の後に米系投資ファンド“エートス・ジャパン”の出資を受けるに至っています。松下家や松下グループとの資本関係は、最近解消されましたので、新生MIDと松下の関係は非常にドライなものとなっているようです。事実、それを裏付けるように、7/11付でツイン21OBPパナソニックタワーの賃料減額が取り交わされています。

ここで気がかりなのは、MID都市開発が2年半以上も先の契約更新後の値下げに同意するなどという異例の対応をしている点です。通常では考えられない、はるか先の減額をするために、この時どのような「取引」がなされたというのでしょうか?おそらく裏では、複数の投資家が指摘するように、値下げを先延ばしにする替わりに、更新後の大幅減額を飲むといったやり取りがあったのではないかと思われます。もしもこの推測が当たっていれば、MIDリートは目先の分配金の数字を良く見せるための小細工をしているということになります。

さらに、この投資法人は6月までには取得物件の不動産鑑定を済ませていると言いますので、前述の7/11付の減額が鑑定に織り込まれていないことになります。実際、森井総合鑑定による4/1付の鑑定評価書の概要を見ると、ツイン21の想定収益は過去の実績の数値を、ほぼそのままで踏襲しています。コア物件の評価額に多大な影響を与えうる契約変更がなされたにもかかわらず、再鑑定もさせずに上場を強行しようとしているのであれば、見方によってはオリジネーターに重大な手続き違反があるということにはならないでしょうか?

MIDリートの詳細については、「株式投資と茶道」の方が素晴らしい記事を書いておられますので、補足に徹し、(1)全体の平均築年数は17.2年だがオフィス部門に限ると20.6年、(2)物件取得価格が微妙に高い、(3)運用報酬は高い、(4)物件拠出後のMID都市開発に目ぼしい物件が殆ど残らない、という4点を挙げておきます。なお、今回の当初予想価格は、大型オフィスビルを中心とした、地方分散ニーズに応えるファンドであることを評価し、第二期を基準とした利回りで4.8%〜5.0%となる、512,000円〜534,000円にて提示します。


●日本アコモデーションファンドの価格予想(2006.7.30)

6/19付のコラムで、クレッシェンド投資法人の差別増資の話題を取り上げたことがありましたが、今度上場する日本アコモデーションファンド投資法人も似たようなスキームによる上場となってしまいました。約8ヶ月前に、1口50万円で大量に発行された投資口の一部が、今回の公募・売出と同時に58万円で市場に放出されるからです。この間に、レジデンス系ファンドが大幅に上昇した形跡は無く、むしろ低迷しているのが現実であるにもかかわらず、このような挙に出るということは、自社のブランド力に余程の自信があるということなのでしょう。強気な価格設定をした挙句に、58万円を割るような評価しか市場で得られないようだと、三井不動産の看板に傷が付くことになりますが、本当に大丈夫なのでしょうか?

ただ、ポートフォリオの中身については、「さすが三井だ」と唸らせるような一流物件を見事に揃えています。主力物件である大川端リバーシティ21の賃貸棟は築17.3年で、レジデンスとしては古い部類に入りますが、高級分譲物件に引けを取らない仕様と管理体制になっていますので、資産価値は高いと考えていいでしょう。その他の物件も、高品質のパークアクシスシリーズを中心に築浅・好立地のもので固めていますので、隙のないポートフォリオ構成となっています。類似銘柄との比較でも、物件取得価格に異常値は検出されません。その他の面では、借入金を長期固定金利中心で調達している保守的な財務戦略や、万が一物件に瑕疵があった場合の売主の責任負担能力に安心感があると言えるでしょう。

全体の平均築年数は、大川端賃貸棟が足を引っ張っているため5.9年になりますが、これは住居系銘柄の中では標準的な数字です。残念な部分としては、運用報酬が同じ三井不動産系列の日本ビルファンド投資法人と比較して、非常に割高となっている点が挙げられます。しかし、それを加味しても、トータルでは高い評価が出来るファンドです。それだけに、上場前の大型差別増資によるマイナスが価格推移に暗い影を落としそうで勿体無いという気がします。今の市場では、直近の上場・公募増資の価格をレジデンス銘柄9投資法人全てが割り込んでいるという厳しい現実があるからです。三井は、アルティスシリーズを擁する伊藤忠ブランドのアドバンス・レジデンス投資法人の低迷なども参考にするべきでした。

さて、今回の当初予想価格ですが、548,000円〜573,000円としておきます。これは上場翌期の利回りで4.3%〜4.5%というレベルですが、先駆者である日本レジデンシャル投資法人の今期予想よりも0.5%前後低い水準ですので、無難な評価ではないかと思います。日本アコモデーションファンドよりも単位面積あたりの収入が高い、高額家賃物件中心のビ・ライフ投資法人や、先に述べた伊藤系REITの状況なども踏まえると要求利回りはもっと高くなりますが、不人気の住居系にもかかわらず、ブックビルディングの上限で価格が決まったこともあるので、他銘柄のような暴落は想定しにくいと言えそうです。機関投資家を中心に、幅広く人気のある三井ブランドゆえに、上離れの可能性も多少は残されているでしょう。


●ジャパンエクセレントの価格予想(2006.6.24)

Excellentなどではなく、トップリート投資法人の劣化コピー版ファンドだというのが第一印象です。みずほグループに巨額の債権放棄を強いる形で生き永らえた、旧興銀系の興和不動産が中心となって組成され、コアスポンサーには第一生命と積水ハウスも名前を連ねています。平均築年数14.8年のポートフォリオは、都心の比率が低く、大森・川崎といった競争力で劣る地域の比重が高いのが特徴となっています。興和不動産は、優良物件を多数保有していますが、拠出した興和の名を冠する4物件はいずれも規模が小さいものや、立地の見劣りする物ばかりであり、しかも平均築年数は22.8年という体たらくです。それなりのビルを拠出した第一生命に申し訳が立たないとか、これから物件提供で協力を仰ごうとしている積水ハウスに示しが付かないという発想はないものと判断せざるを得ません。

ただ、モルガン・スタンレーの拠出した中小オフィスビル3棟のu単価が少し高い点を除けば、全体としては好条件で物件の組入れが出来ていると考えて良さそうです。実際に、平均築年数が20年超のクリード・オフィス投資法人DAオフィス投資法人の上場時データと比較してみると、この傾向は鮮明となります。ジャパンエクセレント投資法人の賃貸可能面積1uあたりの営業収益を100とした場合、クリードが81.7、DAが88.4となり、ざっと見たところポートフォオリオの質ではJエクセレントに優位性が認められますが、同様にuあたりの物件取得価格を比較すると、Jエクセレント100に対しクリードが90.0、DAに至っては130.0という結果になります。以上の相対評価から、一部の例外を除けばJエクセレントが極めて真っ当な価格で物件を購入するという推測は、恐らく間違ってはいないでしょう。

これは、資産運用会社にみずほコーポレート銀行やみずほ信託銀行の資本が入っており、興和不動産も銀行の強い影響下にある企業なので、たかだか数十億程度の転売益のために糾弾されるリスクを取りたくないという、グループの意向が色濃く反映された結果であると思われます。この部分は、取引時点における利益を脱法スレスレまで追求する、長期的視点の欠落した一部の私募ファンド系とは一線を画していると言えるでしょう。ただし、Jエクセレントもしっかりしたもので、資産残高連動型の運用報酬については、他の同系ファンドよりも約5割増しに設定し、利益確保には抜かりない体制となっています。ここの場合、物件取得報酬をゼロにした点は評価できますが、資産残高に応じた報酬が高めなので、結局のところ長い目で見れば投資家が負担するコストが割高となるのが難点です。

さて、Jエクセレントは公募当選により既に筆者のPF上位銘柄になっていますが、価格予想では中立を目指し、厳しくいきたいと思います。みずほグループのブランドイメージはあるものの、連続公募割れにより疑心暗鬼に陥ったマーケットでは、立地の面で優位性が低いこのファンドに強気で臨む個人投資家は少ないと考えられます。反面、上場前にムーディーズの発行体格付けでA3格を取得済であり、かつ借入条件が良好である点は機関投資家受けしやすい要素と想定できます。これらに加え、IPOで容易に入手できたことや、需給が崩れやすい大型上場であることなども勘案すると、当初は価格が低迷する可能性が高いということになりそうです。波乱含みのREIT市況ゆえの難しさもありますが、今回の予想レンジは第2期基準利回り4.6%〜4.8%、即ち502,000円〜524,000円としておきます。


●リプラスレジデンシャルの価格予想(2006.6.19)

かつてクレッシェンド投資法人は、1口44万円で第三者割当により投資口を大量発行した直後、IPO価格50万円で資金を募るという挙に出たことがありました。このケースでは前者の単価が低かったことから、一般投資家が割を食う格好となり、1口あたりの純資産はもちろんのこと、分配金にも悪影響が出ています。その後遺症もあり、上場時から保有し続ける投資家が最近の価格低迷で苦しめられている裏で、いまだに含み益を保持する上客が存在するというのも不条理と言えば不条理です。無論、投資は自己責任であり、差別増資のことも目論見書を一瞥すればわかる事なのですが、誠実さに欠けるやり口であることは否定できないでしょう。

上記の例とは逆のパターンになっているのがリプラス・レジデンシャル投資法人です。リプラスグループは、この投資法人の投資口を既に18,000口も保有していますが、出資価格は1口あたり50万円であったため、今回45万円に決まった上場時公募価格は、帳簿上の1口純資産に対して微妙にディスカウントとなる見込みです。つまり、一見すると、リプラスがみすみす損を被ってまで、一般投資家のために安く投資口を発行するようにも見えます。しかし、試しにファンドの中身を類似銘柄柄と比較してみたところ、大部分をリプラスの息がかかった先から仕入れる物件の取得価格にカラクリが潜んでいる可能性があるということがわかってきました。

今回は比較対象として、平均築年数やuあたり賃料&取得価格がほぼ同等であり、総合的なクオリティも近いレベルになると推定されるスターツプロシード投資法人の上場時ポートフォリオ及び開示資料を使います。リプラスレジデンシャルの賃貸可能面積1uあたりの営業収益は、地方の比重が高いことが影響して、スターツプロシードよりも8.6%低いのですが、uあたりの物件取得価格では逆にリプラスレジデンシャルが11.5%も高いという計算結果となりました。ここでは物件の個別性が全く考慮されていませんが、幅広く分散されたポートフォリオが全体として高値買い的な傾向にあるということは、気にしておいたほうが良いかも知れません。

リプラスレジデンシャルの特徴としては、オリジネーターの得意とする滞納家賃保証システムの積極活用が挙げられます。このサービスはキャシュフローの安定化に寄与するという意味で、小規模経営の大家さんにとっては確かに魅力的なのですが、J-REITのような大きなポートフォリオでは既に一定のリスク分散がなされているため、メリットは限定的であると思われます。キャシュフローの安定性については、わざわざムーディーズからCFV-1というお墨付きをもらっていながら、上場前の段階で21.4%の入居者が契約しているというこの契約をさらに拡大させようというのは、単に受注を拡大したい誰かの意向を汲んでいるからなのでしょうか?

さて、今回の価格予想ですが、いつも基準にしている上場翌期の利回りで5.9%〜6.1%、即ち409,000円〜423,000円といった水準を当初の価格帯として提示しておきます。相変わらずマーケットで低評価の住居系ですので、残念ながらやはり公募割れは避けられないでしょう。ただ、あえてクオリティにこだわらず高利回りを狙って地方にもよく分散させたポートフォリオというのは、インカムゲインを特に重視する層などには受けがいいのではないかとも思います。マイナス面ばかり強調してしまったので最後に少しフォローすると、運用報酬の面では他の同系ファンドよりも若干ですが低めに抑えてあるのが、特筆すべき点ということになります。


●日本ホテルファンドの価格予想(2006.6.10)

「違法改築は既に治癒済みであり、騒動により一時期落ち込んだ稼働率もすでにほぼ回復しています。万が一、賃料を負担する東横インに不測の事態が起きるようなことがあっても、JR博多駅にほど近い集客力のある立地なので、新たなオペレーターを確保することは可能だと考えています。」

以上が、筆者が東横イン物件を含むことについて切り込んだときの、日本ホテルファンド投資法人の対応でした。確かに、このREITの取得物件は、沖縄のリゾートを除けば、ビジネスホテルが主力となるため、全体としてそれなりに交通アクセスが良好であり、仮にホテル運営で躓いても、オペレーターの切り替えや用途変更などでそれなりの収益を狙えるのではないかと思います。つまりテナント代替性の高さという観点では、ジャパン・ホテル・アンド・リゾート投資法人などと比較して、若干リスクが少ないと考えても良さそうです。

売上歩合賃料の比重が、実績ベースで賃貸収入の1%未満(目論見書P41参照)となっており、かつ長期契約が中心ですので、収益の安定性でも日本ホテルファンドの側に軍配が上がります。大部分が固定賃料契約となっているため、ホテル運営の巧拙が直接業績に影響しにくいこともあり、業績予想の信頼性も高いでしょう。

ただ、物件取得価格については、好立地とはいえ築25年以上経過しているスターホテル東京のu単価が新鋭Aクラスレジデンスと同等となっている点と、ザ・ビーチタワー沖縄の利回りがリゾート物件にしては不十分と思われる点が気がかりです。これら2物件でポートフォリオの46.5%を占めますので、筆者の抱く疑念が妥当だとすると、ファンドが台無しになっている可能性もあります。また、平均築年数13.4年というのは、一般的なレジデンス銘柄などと比較すると古い印象が拭えませんし、当初は低く抑えると明示しているものの、運用報酬の上限値が高すぎるのも全体のイメージを悪くしています。

さて、ホテルファンドはサンプルが1つしか無いので予想が難しいと言い訳した上で、恒例の価格予想に入ります。ジャパン・ホテル・アンド・リゾートがそれなりの価格を維持している点から、マーケットにおいてはホテルREITに対する引き合いは一定程度あると考えて差し支えないでしょう。ただ、日本ホテルファンドの核となるビジネスユース型の物件については、これを含む住居系REITの苦戦もありますので、割り引いて評価する必要がありそうです。ファンド規模が小さいことや、東横インを含むことなどは、機関投資家に敬遠されやすい要素ですし、ブックビルディングの結果も上限価格では決まらず、芳しくはありませんでした。オリジネーターのブランド力が不十分であるというのも不安要素として挙げられるでしょう。

これらの点を踏まえると、実質運用期間が約9ヶ月半の今期(第2期)ではなく、第3期を基準とした利回りで4.6%〜4.8%、即ち483,000円〜504,000円あたりが客観的に見た場合の落ち着きどころになるのではないかと思います。ただし、筆者の本音を口にすると、低迷する他の後発REITと比較して日本ホテルファンドに特別な魅力があるとは考えられませんので、現状のマーケットなら少なくとも5.0%程度の利回りは欲しいということになります。なお、怒涛の4連続上場がありますので、予告してある「修繕費と資本的支出」のコラムは7月以降、落ち着いてから掲載することにします。


●エルシーピーの価格予想(2006.5.20)

耐震偽装問題などの外部環境に配慮し、半年近くも上場を延期したにもかかわらず、残念ながらエルシーピー投資法人の前途には暗雲が立ち込めています。昨年12月と同様に、住居を多く含む後発銘柄の市況が、悲惨の一語に尽きる様相を呈しているからです。この投資法人の場合、せっかく半年ほどの時間が出来たにもかかわらず、取得物件は全く変わらず、それ以外の内容についても、工夫の手が加えられた形跡が見当たらないのが残念でなりません。そのままでも市場に受け入れられるという自信があったということなのかも知れませんが、上限価格から2万円もマイナスとなったブックビルディングの結果から明らかなように、現状で投資家の評価が芳しくないのは紛れもない事実でしょう。

ただし、筆者はファンドの中身を検討した結果、これは意外に面白いのではないかという感触を得ました。物件は平均築年数8.52年、コアのレジデンスをはじめ、老人ホーム・商業施設・オフィスビルといった多種多様な構成で、地方のビルも多く、全体的なクオリティは率直に言って二流以下です。しかし、購入価格がそれなりに妥当なので、開示資料によれば高い分配金利回りを実現できる見込みです。谷澤総合鑑定所日本不動産研究所といった信頼に足る鑑定機関を中心に、無理のないレベルで拠出物件の評価を依頼したのがその理由と思われます。現時点では推測の域を出ませんが、この点からオリジネーター連合が短期的な利益のみを追求するタイプとは異なる可能性もありそうです。

さて、意外に面白いのでは、とは言ってみたものの、上場当初から苦戦が避けられないだろうというのが、今回の筆者の考えです。いま市場で不人気のレジデンスが過半を占めるポートフォリオですから、第2期を基準とした利回りで5.6%〜5.8%、即ち424,000円〜439,000円といった水準まで売られることは想定しています。オリジネーターにブランド力がありませんので、さらに売り叩かれる展開も考えられないことはありませんが、利回りもここまでくるとさすがに魅力的ですから、インカムゲイン狙いの層が支えるのではないかと思います。勝ち組ファンド入りの可能性は低いので値上がり期待はあまりできませんが、暴落して6%近い利回りが実現するようだと、かなり面白い投資対象になるでしょう。


●コラム再開にあたって(2006.5.7)

例の問題を扱って以来、コラムの執筆を中止していたにもかかわらず、4月度のアクセス数は、過去最高を大幅に更新しました。これもひとえに立地評価研究所の対応に注目が集まっていることの表れなのでしょう。今日までの間、先方からは何も言ってきていませんが、名誉毀損で訴えるとしてプロバイダに接触したからには、現在も当サイトが立地評価研究所の監視下にあるのは確実と思われます。

このような中で、再び同社の鑑定に対して意見を述べるのは得策ではないのかも知れませんが、投資家保護の観点から無視できない、”興味深い事例”が出てきましたので、いずれコラムで取り上げることにします。タイトルは「修繕費と資本的支出」(予定)とし、クリードオフィス投資法人追加取得物件であるCOI渋谷神山町ビルを実例として扱いますので、立地の担当者の方は、予めご了承ください。

もしも筆者の見解に誤り等があるようでしたら、裏から手を回すようなことをせず、鑑定士の誇りにかけて正々堂々と反論文をお送りいただければ幸甚に存じます。もちろん、上記のキーワードから、筆者が何を言いたいかは容易に推察できると思いますので、事前にご連絡の上、鑑定士の見解を送付頂くことも可能です。その場合、筆者の意見と並べて、読者に公平なジャッジを求めることを確約します。

さて、ただその前に、新規上場銘柄としてエルシーピー投資法人が出てきましたので、J-REIT研究室では先にこちらの話題を取り上げる予定です。悲運の出戻りファンドの評価やいかに?詳しくは、5/20頃に掲載予定の「エルシーピーの価格予想」をご笑覧ください。現段階では、一部のファンドに見られるような救いようのなさは感じられないものの、あまり高い評価も出来ない、とだけ言っておきます。


立地評価研究所の担当者の方へ

当方には、御社が侵害されたとする名誉を回復するための”意見表明の場”を提供する用意があります。正々堂々と反論していただく機会を設けるにあたっては、あらゆる労を惜しまないつもりです。ご連絡いただけた場合、頂戴した文面は、担当者名を伏字としたうえで、間違いなくJ-REIT研究室に全文を掲載することを約束します。メールアドレス yukikaze_type2@yahoo.co.jp まで、早めのご連絡をお待ちしております。


●立地評価研究所への反論(2006.4.2)

プロバイダ経由で、1週間以内に何らかの回答がなければ、送信防止措置(サイトの強制的閉鎖)を取るとの文書が届きました。立地評価研究所が「上記情報(筆者註:当サイト)は「勘ぐりたくなる」「予感がする」などと全く根拠を欠いた推測に基づくものであり、そのような全くの推測に基づき、『プライドのかけらもない鑑定事務所』などと侮蔑的発言がなされたことにより、社会的評価が著しく傷つけられたから。」(原文のまま掲載)という理由で、名誉毀損による損害賠償請求訴訟を提訴する予定だとしているためです。

指摘された8つの侵害情報のうち、7つまでは同社とプロバイダであるニフティの努力に敬意を表し、表現をマイルドなものに修正したり、全文削除することで対応しましたが、権利が明らかに侵害された理由として挙げている「プライドのかけらもない鑑定事務所」(2.18付コラム上段参照)という語については、架空の案件を例示する文脈から、具体的に実在する機関を指しているのではないことは明白であり、これをもっていかなる企業も社会的評価が著しく傷つけられる事はあり得ませんので、手を加えてはいません。(注-1)

立地評価研究所の担当者の方は、このサイトをご覧になっている筈ですから、コチラまでご連絡いただくか、REIT掲示板への意見表明をお願いします。

(注-1)
仮に文末の「断定は出来ませんが、もしも上記のようなトリックが使われていたとしたら、5年後の契約更新の際に、賃料減額などの形で歪みが噴出するかも知れません。」という表現が名誉毀損に該当するのであれば、「もしもソニーのコア事業が計画未達になれば、経営者は失脚するかも知れない。」というような“仮定の話”を書いただけで訴訟沙汰になり、濫訴から収拾がつかない事態になります。

     ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

当面はニフティ法務部がどう対応するか次第ですが、J-REIT研究室は誕生から約10ヶ月目にして早くも存亡の危機に立つことになりました。筆者はこれまで、いかなる金銭的利益を得ることも目的とせず、投資家の立場で公正・誠実に不動産投信に意見を述べる存在でありたいと願い続けてきたつもりです。若輩者ゆえ至らない面も多々あったと思いますが、REITという金融商品に関心を抱く多くの人々との交流のなかで切磋琢磨しつつ、ともに向上していくことを目指した歩みは、決して無駄なものではなかったと信じています。

言いたいこと、伝えたかったことは、まだまだ山ほどあります。しかし、更新をいつまでも続けられる保証はありませんので、今回は今もっとも強調したいことを書いて締めくくることにします。これが筆者の最後の言葉にならないことを祈るばかりです・・・

        REIT市況は 警戒を厳に 半身の構えで 足元を掬われるな
           危機を乗り越えれば チャンスは有る きっと 有る


●ある聖戦・前編及び中編(2006.3.26)  ※前編部分は2006.3.5公開

親会社による子会社資産の収奪 ----- 、それが100%子会社に対するものであれば、トラブルに発展する可能性は小さいですが、外部の株主が少なからず居る場合には事情が全く異なります。市場で起こる様々な事件の影響により、株主の権利にかかる話題が異様な盛り上がりを見せる昨今、投資先が大株主に利益供与するような茶番を黙って見過ごせる程の“お人よし”ばかりではないからです。

今回は日本ビルファンド投資法人のオリジネーターである三井不動産とその関係会社、国際観光会館を舞台に繰り広げられた不透明な不動産取引に対して憤り、立ち上がることを決意した、ある男たちの熱い戦いを紹介します。この事件は、オリジネーターとの利害の相克に苛まされるJ-REITについて考える上でも、重要な意味を持つ事例であると筆者は信じます。

ことの始まりは2000年9月、国際観光会館が東京駅八重洲口前に持つ土地の権益の47.42%を三井不動産に差し出し、代わりに芝の土地・建物の一部を得るという資産の交換が実行された時に遡ります。この取引に疑念を抱いた大株主の一人が不動産鑑定士に取引の正当性について調査を依頼したところ、八重洲の評価はほぼ妥当だが、芝の物件は不当に高く押し付けられている可能性があるという結論に至りました。

国際観光会館に多額の資金を投入していた彼やその仲間が激しく憤ったのは言うまでもありません。しかし、2004年7月には、そんな彼らをあざ笑うかのようなリリースが、三井不動産と国際観光会館の連名により出されることになります。そのリリースとは、国際観光会館が東京駅八重洲口前に保有していた権益のうち、残りの部分を三井不動産が主体となって開発予定の物件の一部と交換するというものでしたが、問題はその取引における評価額でした。

     ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

不動産関連のニュースに目を光らせていなくても、普通に新聞を読んでいる方なら先刻承知だと思いますが、この4年あまりの間で都心などの利用価値の高い土地は不動産ファンドの物件取得競争を背景に、大きく値上がりする例が目立っていました。それだけに、東京駅の目の前という最高の立地に国際観光会館が保有していた権益は、客観情勢から見ても評価が高まっていて然るべきものです。ところが、驚いたことに両社が新たに出したリリースから算出した評価単価は、同場所の路線価がこの間に3.4%上昇し、実勢相場はさらに高騰していたと想定されるにもかかわらず、実に11%あまりも下落しているという、俄かには信じがたい内容でした。

「一般株主を馬鹿にするにも程がある!これは親会社に対する利益供与だ!」

個人大株主たちの怒りは頂点に達し、とうとう会社への様々な働きかけに動くことになります。決断した後の彼らの行動は迅速でした。2004年8月には、上記契約の差止のため警告を発し、それでも会社側が取引を強行したので、翌月、監査役に対し提訴を求める文書を送付、一方、この手続と並行して同年11月、帳簿閲覧権を行使して証拠固めのため会社へ乗り込み、2005年2月には、監査役が法定期限内に訴えなかったことを受けて、ついに株主代表訴訟の提訴が現実のものとなりました。請求額は約18.2億円、訴えられたのは三井不動産出身者を中心とした、国際観光会館の役員、及び元役員の計4名です。

これに対して三井不動産が選んだのは、国際観光会館にTOBをかけるという奇策でした。同社では、訴訟とTOBの関連を否定する筈ですが、訴えられた直後にこのような挙に出るのは、やましい部分があったと言っているに等しいでしょう。三井不動産が総株数の2/3超を確保した翌月には、株式交換による完全子会社化の発表が待っていました。完全子会社化されると、提訴した株主の保有する株式は三井不動産株式となり、国際観光会館の取締役への提訴権は失われます。原告資格喪失 ----- 、経済暴力装置により、大企業の利益相反取引に異を唱えた勇気ある個人株主たちの訴えは、こうして闇に葬られていったのです。


●ビ・ライフの価格予想(2006.3.19)

以前にネットを徘徊していた折に、とあるマンションについて、「何だかJ-REITの物件みたいだなぁ」と言っている人を見かけたことがあります。書いた本人は、何の特徴も無いありふれた仕様について皮肉っていたようなのですが、ファンドの組入れ物件には確かにそういう側面があることは否定できません。しかし、この分野に限らず他の業界でもそうであるように、ソツがない代わりに、特別なセールスポイントもないというような“規格化された商品”では、競争激化が即座に価格(賃料)にはね返る可能性があります。

ビ・ライフ投資法人の組入物件には、そんな画一的マンションに対し、デザインや意匠を工夫することで差別化を図ろうとする姿勢がうかがえます。ありふれた住居にはない独自の生活空間を提供することで、勝ち残りを目指す姿勢には、筆者も共感を覚えますが、問題はやはり売買価格が適正なのかどうかという部分に集約されるでしょう。今回は比較検討の対象として、平均築年数や1部屋あたりの規模、地域別分布状況が比較的似通っている、アドバンス・レジデンス投資法人の上場当初のポートフォリオを使います。

ビ・ライフの平均築年数は2.56年、アドバンスレジデンスも余計な物件を追加する前は、ほぼ同等といっていい数値です。立地はどちらも都区内のウエイトが86%ですが、個別ではビ・ライフに若干の優位性が認められます。実際に、両者の購入物件のu単価を算出してみたところ、ビ・ライフの方が4割も高くなりました。物件の質から考えて、ビ・ライフが多少高くなるのは当然なのですが、その差が4割ともなると判断が難しくなります。モリモトの代表取締役の親族企業を経由するマンションの単価が高いのも気がかりです。

さて、恒例の価格予想ですが、ビ・ライフは既に第2期に入っているため、今回は第3期(固都税負担見込額:9百万円)のデータを基準にした利回りで4.9%〜5.1%、価格帯470,000円〜490,000円といった水準を提示することにします。現在入手可能な情報だけでは詳細は解りませんが、留意事項として、第3期の費用の割合が他の住居系REITと比較して不自然に低いため、税負担の先送りや修繕・維持管理費の過少見積等の、何らかの特殊要因によって、純益が嵩上げされている可能性がある点を指摘しておきます。


●クリード・オフィスの価格予想(2006.3.12)

あるファンドの目論見書に、他の投資法人が開示しているデータが掲載されていなければ、それはそのREITの弱点とみていいでしょう。クリード・オフィス投資法人の場合は、物件の築年数別構成比のグラフがどこにも載っていませんので、これが隠したい部分であることが容易に想像できます。事実、取得予定物件の平均築年数は20.9年、上位5物件に限れば32.3年ですので、図表を出し渋るのは無理もありません。目論見書には、「重要なのは築年数ではなく立地環境である」というようなコメントもありますが、好立地の物件を揃えているわけでもないファンドが、竣工から年月が経っていても交通至便であればよいなどと言うのもおかしな話です。

物件取得価格については、時としてアグレッジブとなりうる鑑定に惑わされないために、数字のマジックの入り込む余地の少ないu単価を用い、イーアセット投資法人のオフィス部門(平均築年数15.7年)のデータを比較検討に使います。イーアセットの1棟あたりの取得単価は22.6億円、対するクリードオフィスは19.5億円とほぼ同レベルであり、クリード側が若干首都圏寄りですが、いずれも地方に分散されたポートフォリオとなっていますので、比較対象としては悪くない選択かと思います。

さっそく計算してみると、イーアセットが取得した9物件の賃貸可能面積1uあたりの単価は51.4万円ですが、クリードオフィスは実に65.5万円になるという少々意外な結果となりました。はっきり言って、筆者はイーアセットというREITを白眼視していますが、それを3割近くも越える売買単価が出てくるとは、予想していませんでした。物件をファンドに嵌め込むクリードグループは、一連の目まぐるしい転売(目論見書P55参照)で、一体どれだけの利鞘を抜こうというのでしょうか?

物件高値買いの疑念は、収益性を同時期上場のトップリート投資法人(平均築年数13.9年)と比較するとさらに深まります。トップリートは現状で出資金772.17億円、物件取得額1,043.86億円、第2期の利益は19.57億円を見込んでいますが、クリードオフィスはそれぞれ、470.02億円、740.50億円、11.51億円と公表しています。クリードオフィストップリートと違い、第2期に固都税4千万円を費用化する予定なので、同列で比較しやすいように、どちらも税負担なしとして、出資金10,000あたりの物件取得額と第2期の利益を並べてみます。

以上の前提では、トップリートの物件取得額が13,518、クリードオフィスは15,754となりますが、第2期の利益はどちらも253という数値になります。つまり、クリード側はトップリートよりも積極的に借入れをして物件を組入れる予定で、しかもその質が誰の目にも明らかなように劣るにもかかわらず、あるべき利回りを確保できていないという結論が導かれるわけです。15%以上高く物件を買っているのであれば大体辻褄が合うことになりますが、本当のところはどうなのでしょうか?仮に物件価格の15%分だけ無意味にオリジネーターを儲けさせるのだとしたら、公募価格500,000円での実質PBRは1.22倍程度ということになってしまいます。

さて、批評はここまでにして、価格予想に移ることにします。今回は、J-REITの分野では同じ穴の狢であるイーアセットDAオフィスの市場における評価を参考にすると、第2期を基準とした利回りで4.7%〜4.9%、即ち472,000円〜492,000円あたりが妥当な水準となりそうです。多少の外部成長余地もありますので、素直にそれを評価すれば、もう少し上もあるかも知れませんが、どちらかと言うと先々のことよりも直近のブックビルディングにおける不人気の方を重く見るべきですので、やはり底割れの可能性が高いと言わざるをえません。


●ある聖戦・前編(2006.3.5) ※3.26付で中篇と一緒にしました。


●トップリートの価格予想(2006.2.26)

今まで様々なファンドについて、厳しい批評をしてきましたが、これは必ずしも筆者が本意とするところではありませんでした。新たに登場するREITの多くが、余りにも醜悪であったために、そうせざるをえなかったというのが実情です。心の中では賞賛に値する本物を待ち望んでいた筆者にとって、今度上場するトップリート投資法人はまさに“期待の新星”と呼ぶべき存在となります。伝統ある大企業3社、住信・日鉄・王子紙のコラボレーションが生み出す輝きは、目先の利益にとらわれた愚か者達が散々に踏み荒らした市場の中では、ひときわ眩しい光彩を放っているように感じられます。

コア物件である日本電気本社ビルトリトンスクエアのオフィス棟や、ファンドの運用報酬などのコスト部分については、大きな問題点はなさそうです。取得価格や鑑定評価にも、これといった不審な部分は見受けられません。細部では、若干気になる点もありますが、全体としてはやはり、最近上場しているREITとは比較にならない程の誠実さで作り込まれた高品質ファンドであると言えるでしょう。

ただ、長期では多少意識しておいたほうがよいと思われる要因として、商業施設の競合の問題があります。ポートフォリオの11.5%を占める準主力物件、イトーヨーカドーを核テントとする相模原SCの隣にイオングループでも売上上位となるジャスコの巨大店舗がそびえ立っているからです。同時期・同規模で開業し、初めは共栄共存の関係にあったものの、平成12年にジャスコが大規模な増床をして以来、イトーヨーカドーの旗色が悪いため、将来的には敗退する可能性があることも念頭に置く必要があります。

さて、最後に今回の価格予想をします。筆者の高評価とは反する格好で、ブックビルディングへの応募は低調だった模様ですので、当初は第2期を基準にした利回りで4.0%〜4.2%、即ち600,000円〜630,000円といった水準からの滑り出しになるのではないかと思います。ただし、低LTVで外部成長余地が大きいことに重点を置けば、さらに上もあると考えて良いでしょう。「TOPの名に恥じぬ大器」、筆者をしてそう言わしめるだけの風格を、当初から備えるこのファンドが、価格面でも他の後発組を圧倒し、誉れ高き名門企業群を背景とした“格の違い”を見せ付ける展開もありそうです。


●濡れ手で粟の錬金術(2006.2.18)

セール&リースバックという売買形態をご存知でしょうか?これは文字通り、前所有者が物件売却後、引き続きテナントとして入居するような形式をいいます。通常であれば何の変哲も無いありふれた手法ですが、貪欲すぎるオリジネーターとプライドのかけらも無い鑑定事務所が組んでこれを悪用すると、驚くべきトリックが成立してしまうことがあります。以下は単純簡略化した“濡れ手で粟の錬金術”の例です。

物件価値100億、売上45億、賃料9億というホテルが仮にあったとしましょう。売上の20%に相当する賃料は、無難なレベルです。ところが、セール&リースバックのもと、売主であるオリジネーターが買い手の投資法人と自社系列のテナントをコントロール可能なのを利用して、賃料を12億、契約期間は5年、といった設定にすると、どうなるでしょうか?現行契約を基準としたDCF法メインの鑑定では、正当な割引率を用いなければ、賃料が1/3上がると物件価値も大幅に跳ね上がるという現象が起きてしまいます。

即ち、物件そのものは何も変わらないにもかかわらず、契約を操作するだけで評価額が何十億も上昇し、賃料増加差額を差し引いても、巨額の売却益がオリジネーターの懐に転がり込む計算になるわけです。オリジネーター系列のテナントは、契約更新時に賃料を妥当なレベルに落とさせたり、ノウハウやブランドを提供するホテル運営支援会社に経営権を譲るなどしてしまえば、無事に逃げ切ることが可能でしょう。こうしてセール&リースバックならではの錬金術が完結します。利益額は勿論“お手盛り”です。

このような脱法的操作は、(1)ホテル売上高に対する賃借料の比率が不自然に高くなっていないか、(2)鑑定評価額が積算価格よりも異常に高くなっていないか、等を調べることで、ある程度は見抜くことができるかと思います。実際に、これをジャパン・ホテル・アンド・リゾート投資法人の旗艦物件であるホテル日航アリビラにあてはめて見ると、賃借料の対売上高比率が27%、鑑定評価額は積算価格の3倍以上となっています。断定は出来ませんが、もしも上記のようなトリックが使われていたとしたら、5年後の契約更新の際に、賃料減額などの形で歪みが噴出するかも知れません。

(注-1)ホテル日航アリビラについて
実際のテナントはゴールドマンサックス系列。JALグループが運営支援。沖縄ではトップクラスのリゾートホテルだが、(1)料飲部門(推定原価率30%台)のウエイトが高い、(2)宿泊特化型と比較してスタッフの職種・人数が多い、(3)建物以外に広大な敷地やプールなどを抱える、という特徴があるため、ランニングコストが損益分岐点を高くしていると思われる。


●ジャパン・ホテル・アンド・リゾートの価格予想(2006.2.12)

本邦初のホテル特化リートとして、間もなくジャパン・ホテル・アンド・リゾート投資法人が上場します。目論見書には、色彩も鮮やかに“光り輝く白亜の城”の魅力が余す所なく掲載されていますので、すっかり魅了されてしまったという人も少なくないのかも知れませんが、実際にファンドの中身を見ていくと、いくつものおかしな点が浮かび上がってきます。疑惑を抱いたまま見ると、美麗なホテルを写すカラー写真も、すっかり色褪せた巨大な構造物のそれと感じられてしまうから不思議です。

詳細は今回だけでは書ききれないので、次回以降にまわしますが、「敷金の不足」「ワシントンホテルのリスク」「契約条件と鑑定評価」といったキーワードを柱に、今後数回にわたってジャパンホテルアンドリゾートの問題を特集していきます。初のホテルREITは、後発の同系ファンドに与える影響が大きいだけに、今回のゴールドマンサックスグループの所業は本当に残念だというのが、各種情報から判断した筆者の意見です。

さて、マイナスイメージのことは一旦忘れ、気分を切り替えて価格予想に移ります。市場では郊外型商業施設や物流施設のようなテナント代替性の低い、即ちハイリスクな物件を組み込んだファンドでも、低い利回りまで買い進まれているという、動かしがたい現実があります。そういった傾向は、いつか中核物件で解約が生じ、どこかのファンドの収益が大幅に悪化するという事態を見るまでは続くと考えて差し支えないでしょう。この点で、今回のジャパンホテルアンドリゾートも、リスクは高いものの、当初から買い進まれる素地は十分にあると思われます。

現状では、J-REITを取り巻く市場の環境は熱気を帯びていますので、筆者の懸念など何処吹く風で、第2期を基準にした利回りは4.6〜4.8%程度になってもおかしくはないと思います。それゆえ、当初予想価格としては540,000円〜565,000円といったレベルを想定しています。無論、地域分散需要とホテルという資産種別への引き合いのことまで考慮に入れると、さらに上まで行ってもおかしくはありません。ただし、実質的な資産価値から判断して、50万円台やそれ以上での投資は、到底リスクに見合うものではないというのが、筆者の偽らざる感想となります。


●バリューアップは儲かる?(2006.1.29)

バリューアップとは、不動産から生み出される収益を最大化することにより、その価値を高めることをいいます。具体的な手法としては、耐震補強工事や内装・空調・電気設備などのリニューアル、需要を勘案してオフィスビルをマンションに用途変更をするようなコンバージョン、空室率改善のためのテナントリーシング活動などが挙げられます。広義では、管理コスト削減によるキャッシュフロー向上なども、その範疇に入るのではないかと思います。

バリューアップという言葉自体、ここ数年よく耳にしますので、以上に書いたような内容は既に知っているという方も多い筈です。中には、“不動産のバリューアップ=儲かる”と思い込んでいる人もいるでしょう。しかし、世間のイメージとは裏腹に、残念ながら現実はそんなに甘くはありません。バリューアップで多額の転売益を得られた時期は、確かに過去には存在していましたが、不動産を取り巻く環境は既に大幅に様変わりしてしまっているからです。

最近では、バリューアップを売り物にしている業者が、雨後の筍のように乱立気味です。その結果、売買の現場では、急増した参入業者が物件を落札しようと押し寄せることにより、価格がバリューアップ後の収益を前提としたものに吊り上ってしまっているという現実があります。この辺の流れは関係者以外でも推察できるかと思いますが、要するに、現在の市場では落札した物件をバリューアップしても、転売益を得ることが難しくなっているわけです。

変化の帰結として、バリューアップを収益源にできなくなった業者は、自ら設立したファンドに物件を転売して稼ぐという方向に舵を切りました。この手の企業の挙動が、J-REIT全体の信用を失墜させる危険性をはらんでいるのは言うまでもありません。3/1上場予定のトップリート投資法人は、そういった業者ではなく、新日鉄や王子製紙を設立母体とする総合型リートですので、久々に真っ当なファンドにお目にかかれるのではないかと期待しています。


●弱気の株式市場、強気の鑑定評価(2006.1.22)

ライブドアショックにより、日経平均株価は1週間で663円あまりも下落するという、最近では珍しい展開となりました。国内の取引終了後、シカゴで売買される日経225先物は、大阪・シンガポール市場の終値と比較して485円ものマイナスとなっていますので、週明けの株式市場も厳しい滑り出しが予想されます。このところ、新興市場の商状なども悲惨の一語に尽きますので、場合によっては“自殺者が出る相場になる”ということも想定しておくべきでしょう。状況が状況なだけに、株価が崩落する中においても、割安と見れば高笑いしながら買い向かえるだけの資金的・精神的なゆとりを保持することが、やはり勝ち残るための鍵となりそうです。

混迷を極める市場においても、東証REIT指数が比較的堅調に推移していることからわかるように、弱気相場ではJ-REITがディフェンシブ銘柄として脚光を浴びる展開も考えられます。ライブドア事件に押し出される格好で、問題マンション関連の報道も下火になってきましたので、目先的には住居を含むREITに中立以上のスタンスで臨んでも良さそうです。ただし、今後新たな耐震偽装マンションが出てこないという保証はありませんし、一部の高PBR銘柄については、資産価値による株価の下支えも期待しにくいことから、もちろん過度の楽観も禁物でしょう。

ゴールドマン・サックスグループの新規上場REIT、ジャパン・ホテル・アンド・リゾート投資法人については、筆者も調べようとしたのですが、物件の購入利回りを見て一気に意欲が霧散しました。筆者同様に、目論見書のキャップレートを見た瞬間に放り出す人間が続出するような予感がします。鑑定した立地評価研究所によると、難波や浦安の築10年クラスのホテルが、都心の新鋭レジデンスと同等の利回りでも良いらしいです。立地評価研究所については、阪急リート投資法人の高槻城西ショッピングセンターの評価を見たときも幾分違和感を覚えましたが、今回のホテル案件もアグレッシブな評価を連発しているように感じられます。REIT投資家は、インリックスに続いて、立地評価研究所の名前も心に刻んでおく必要がありそうです。


●それぞれの冬支度(2006.1.14)

世界各国の株式市場が好調に推移しています。一部のマーケットに例外はありますが、日本だけでなく、欧米やアジアの指数を見ても年明け以降、昨年来高値の更新が続いているケースが目立ちますので、「もう笑いが止まらない!」、というような人が少なくないでしょう。しかし、好調なときにこそ、はたと立ち止まって考えてみるべきです。相場の世界ではとりわけ、”失敗の芽は絶頂期に、ひっそりと、しかし確実に育まれる”という性質があるからです。

真夏の熱狂の中に身を置けば、やがて訪れる秋のことなど憂えたりしないのが世の習いなのかも知れません。ただ、そんな環境においても、長い冬の時代を知る角山氏KEN氏といった尊敬すべき個人投資家の代表選手たちが、冷めた目で市場を見つめているという事実を忘れてはなりません。熱狂に身を任せた挙句、焼き出されるようなことのないよう、自ら冷静さを取り戻し、市場から退場させられることなく、末永く投資を楽しんで欲しいと思います。

好調な時は資金にもゆとりが生まれますから、後で躓かないための備えをするいい機会となるでしょう。ポートフォリオが値動きの激しい銘柄に偏っているような人なら、REITを一部組み込むことで全体のリスクを抑えることも可能です。REIT未経験者にはスターツプロシード投資法人などが手がけやすく、面白いのではないかと思います。他にも冬支度の選択肢は無数にありますので、これを機に自分に合った資産防衛法を検討してみてはいかがでしょうか?

(2006.11.25付追記)
スターツプロシードは、拙速すぎる連続増資で株主資本をすり減らしたため、初心者にお奨めできる対象とは言えなくなりました。


●同じ轍は踏ませない 〜日銀の英断〜 (2006.1.8)

日本では、不動産証券化ビジネスを拡大させるための法整備や規制緩和が、今から6〜8年前に矢継ぎ早とも言えるスピードで進められました。流動化スキームの導入が急がれた背景には、地価が下がり続けるために不良債権の増加が止まらず、疲弊しきっていた金融機関の救済が喫緊の課題であったという当時の経済情勢がありました。そんな状況を打開するために、幅広い層の資金を不動産市場に呼び込むことで、地価の反転を促し、金融システム不安解消の一助にしようという狙いで急遽舞台にあげられたのが、J-REITなどの不動産ファンドだったわけです。

この目的は見事に達成され、旺盛なファンド関連の買い意欲により収益物件の価格は上昇の機運に乗り、最悪期の何倍にも上昇したメガバンクの株価が象徴するように、銀行の信用不安も遠い過去の話になりつつあります。ここへきて、日銀による不動産融資への監視強化を報じるメディアが目立ってきましたが、主要な金融機関の健全化が実現した今、将来を見据えてバブルの芽を摘む方向に舵を切るという政策は、経済全体で見れば合理的であると考えられますので、投資家はJ-REITを含む不動産関連銘柄に対する警戒レベルを若干引き上げる必要がありそうです。

不動産への過剰融資抑制策が現実のものとなれば、リスクスプレッドの反転、即ち借入金利の上昇という形で、影響は殆ど全ての不動産ファンドに及びます。ただ、物件の競争力とキャッシュフロー生成能力、さらに含み益でも優位にあるジャパンリアルエステイト投資法人のような信用力の高い勝ち組に対する影響は軽微ですが、反対にムーディーズやR&IでA格を取得できないJ-REITや、LTVが60%を超えるタイプの私募ファンドなどには、想定外の金利負担が重くのしかかるケースも充分に考えられます。今後は一層、ファンドの優勝劣敗の構図が鮮明となりそうです。

※「日銀による不動産融資への監視強化」関連報道の流れ
12/31日経新聞が第一報、1/5ロイターが否定、1/7毎日新聞が日経を追認


●オリックス不動産の外部成長試算(2006.1.1)

今年最初のターゲットはオリックス不動産投資法人とします。この投資法人は当初、規模の半端な物件を多数組入れていましたが、最近ではそうした中小ビルを一括売却し、競争力のあるやや大きめの物件を組入れる動きが続いています。運用報酬の面では、グローバル・ワン投資法人ケネディクス不動産投資法人とほぼ同等の標準的なレベルですので、新興REIT全般と比較すると無論かなり安いフィー体系ということになります。

試算にあたっては、第9期(平成18年8月期)の公式データを活用します。期中に取得予定の2物件の実質稼動期間が約4ヶ月なので、苦肉の策として、両物件の取得価格に2/3を掛けた金額が現状のポートフォリオに加わり、そこにさらに未発表の物件取得が上乗せされるということにして計算します。

結論から言うと、相当に低い利回りとなりますが、これは市場がこの投資法人のポートフォリオ戦略や運用実績を高く評価していることの表れなのでしょう。ただし、利益率の高い物件を外して、良質ではあるけれど利回りの低い資産の組み入れを続けた結果、ファンド全体としては、収益性が悪化している点に注意が必要です。

〔 試算の前提 〕
  1)第9期の公式予想データを使用する
  2)1.59倍のファンド膨張率は物件購入で1.75倍に拡大する
  3)追加物件の利益率(純利益/取得価格)は現保有分を100とした場合75

〔 計算結果 〕
  1)外部成長後予想分配金 12,918円(上乗せ幅904円)
  2)外部成長後予想利回り 3.35%(時価771,000円)
  3)利回りから逆算した価格
   3.2%→807,000円  3.4%→760,000円  3.6%→718,000円
   3.8%→680,000円  4.0%→646,000円  4.2%→615,000円


●ジョイントリートの外部成長試算(2005.12.25)

ジョイント・リート投資法人は目下、筆者のPF1位銘柄となっています。分散された資産種別・立地を評価し、ケネディクス不動産投資法人に対する相対的な値ごろ感を根拠に買い進みましたが、構造計算書偽造問題の影響がどこまで波及するのかが未だ見えない中ですので、リスクが極めて高い投資行動である点は否定のしようもありません。偽造問題では築浅の方が危ないというのが通説となっていますので、住居の平均築年数が1.92年であるジョイントリートは、やはり割を食う格好となっています。例の事件は既に、野村不動産系の非上場ファンドが所有するアーバン武蔵小金井に累が及ぶにまで至っていますので、引き続き関連ニュースからは目が離せない日々を送ることにそうです。

ジョイントリートは上場後に物件の追加取得を公表していますが、それに合わせて業績予想を修正してはいませんので、公式予想の分配金データは全くあてになりません。ちなみに、大和総研の中川雅人氏による新規に3物件が戦列に加わることを加味した試算では、平成18年3月期15,625円、同9月期12,321円となっています。一般事業会社と違い、精度の高い予想が出せるのもREITの特徴の一つですから、アナリストの予想は決して的外れなものではないと考えられます。なお、追加物件の利益率を25%割り引いて計算する筆者の単純なやり方では、新規3物件以外に追加取得がない前提で9月期12,104円、ファンド膨張率が1.75倍まで拡大すると仮定すると、以下のような数値となります。

〔 試算の前提 〕
  1)第2期の公式予想データを使用する
  2)1.58倍のファンド膨張率は期首までに物件購入で1.75倍に拡大する
  3)追加物件の利益率(純利益/取得価格)は現保有分を100とした場合75

〔 計算結果 〕
  1)外部成長後予想分配金 13,117円(上乗せ幅1,745円)
  2)外部成長後予想利回り 5.30%(時価495,000円)
  3)利回りから逆算した価格
   4.6%→570,000円  4.8%→547,000円  5.0%→525,000円
   5.2%→505,000円  5.4%→486,000円  5.6%→468,000円


●警戒を要するイーアセットの資産取得動向(2005.12.18)

今回の検討対象は、このところ軟調に推移しているイーアセット投資法人です。既にご存知の方も多いと思いますが、イーアセットは住居の比率が33.2%であり、そう高くはないにもかかわらず、耐震データ偽造問題で揺れるレジデンシャルREIT並に大きく値を崩しています。これは以前に他の方や筆者も言及した(注-1)、物件取得価格に対する疑念を、警戒心の強い市場参加者も感じ取っていることが一つの要因であると考えられます。

さらに悪いことに、オリジネーターであるアセットマネジャーズの決算説明会資料を見ると、イーアセットが追加取得を行っていないにもかかわらず、毎月100億円規模で同社が受託する不動産関連資産の積み上げが続いていると書いてあります。これは主に私募ファンドによる取得でしょうから、従来路線で行くと、その相当部分はいずれまた可能な限りの高い利幅を乗せてイーアセットに移し替えられると考えるのが妥当です。

REIT投資家から見れば、わざわざワンクッションおいて、中間搾取された後にイーアセットが購入するなどという流れは、デメリット以外の何物でもありませんから、市場がこの投資法人の先行きに悲観的になるのは無理もないことでしょう。さすがに、これだけ下落すると利回り採算を基準に投資に動く層が出てくることも考えられますが、より慎重を期するなら、イーアセットの“次なる一手”を見極めてからでも遅くはないのかも知れません。

(注-1)物件取得価格に対する疑念
アセットマネジャーズ系列から購入した5つのレジデンスの、賃貸可能面積1uあたりの単価は115.6万円(平均築年数2.47年)です。代官山や白金台・南青山といった好立地であるとはいえ、ファーストクラス物件への集中投資を謳うFCレジデンシャル投資法人のホテル・サービスアパートネントを除いた六本木・麻布十番などの11棟の平均が1uあたり83.4万円(同2.01年)であるのと比較すると、割高さが際立っていると考えられます。


●LCPに望むこと(2005.12.11)

前回のコラムを書くにあたって、12月2日に電話取材をした折には、「上場延期は検討しないのか?」との問いを即座に否定していましたが、結局エルシーピー投資法人は12月6日の日経朝刊にも報じられている通り、上場の一時延期を決定しました。「世間のマンション等の安全性に対する不信感の高まりに配慮した」としていますが、一連の騒動が、全物件の建物状況調査報告書を作成させた日本ERIに飛び火したことも、恐らく無関係ではないでしょう。

問い合わせの際、エルシーピーは「33物件には日本ERI以外にもデューデリジェンスさせているものがある」という事を強調していました。オリジネーター連合からの取得物件については、確かにそういうケースも十分に考えられますので、再調査をするにしても、さほどの手間にはならないかも知れません。今回の件は運がなかったとしか言いようがありませんが、あのまま上場しても悲惨な結果になっていたでしょうから、延期という判断は賢明だったと思います。

エルシーピーにはこれを期に、上場に失敗しないための“ファンド自体の設計の見直し”に期待したいところです。具体的には、@物件取得報酬を1.0%からケネディクス不動産投資法人と同等の0.5%に変更する、A購入価格の割高さが目障りなデザイナーズマンションカーザ・エルミタッジオを取得対象から外す、B地方の物件か或いはシニア物件などを追加して投資法人の独自色を強める、という3点を筆者が考える改善ポイントとして列挙しておきます。

一連の騒動以前からレジデンス銘柄に対する市場の評価が芳しくなかったことから判断して、投資家が“都心の良質なマンションを中心に投資”などと謳うファンドに飽き飽きしているのは確実です。今回の上場延期にあたり「物件を入れ替える可能性がある」と説明するエルピーシーには、ただ黙って嵐が過ぎ去るのを待つのではなく、臨機応変に最善の道を模索するチャンスを得たものと考えて、果敢に従来案を見直すだけの度量を見せて欲しいものです。


●迷走する日本ERI、不運のLCP(2005.12.4)

姉歯建築設計事務所による耐震データ偽造問題に絡んで、アドバンス・レジデンス投資法人などの建物エンジニアリングレポート作成者でもある、建築確認検査大手の日本ERIが揺れています。実際、同社では、この問題について当初は無関係とするリリースを出しておきながら、突如、現在調査中という内容のものに差し替え、その後は次々と欠陥物件を見逃していた事実が明るみになっています。

また、イーホームズ社長が国会中継で「日本ERIは偽造の問題を知っていたのに隠蔽した」と語ったのに対しては、怒りも露わに刑事・民事両面で告発することも辞さない構えだとしていながら、別方面からも問題を表面化させなかった事実を指摘され、大々的に報じられるに至っています。

日本ERIが精査した物件でも、休業や工事の中止に追い込まれるものがチラホラ出始めていますので、同社のこれまでの検査全般に対する信頼が揺らいでいるのは間違いないでしょう。今話題となっている、建築基準法に定められた建築確認と、J-REITのデューデリジェンス業務とは、同列に述べられる性質のものではありませんが、偽装を見逃したのと同じ建築士が関わっている可能性もあることは頭に入れておきたいところです。

既にニュースにもなっているように、偽造問題で名前の出た業者が関係していると発覚した為に、安全確認が取れるまで営業を中止しているホテルが全国各地にあります。販売予定のマンションで建築確認がイーホームズや日本ERIとなっているようなケースでは、大慌てで再調査に動く業者もあるでしょう。J-REITの場合はどのような対応となるのか、何が出来るのか、全ての取得予定物件を日本ERI に精査させているエルシーピー投資法人の、今後の動きに注目したいところです。


●スターツプロシードの特徴&価格予想(2005.11.27)

スターツプロシード投資法人の特徴を一言でいえば、二物以下の小型物件の寄せ集めにより、高利回りを実現するファンドということになるでしょう。事実、立地は郊外や地方のウエイトが高く、最寄り駅へのアクセスも良好ではありません。また、平均築年数11.95年は、住居特化型の中では圧倒的に高い数値です。運用コストもJ-REITでワースト3に入りますが、これについては「資産規模との関係で相対的に高い」として、投資法人自らも認めています。(目論見書P110参照)

建物状況調査報告書の作成は、全ての物件を一流ゼネコンの前田建設工業が担当していますので、深刻な瑕疵を見逃している可能性は低いと思いたいところです。しかしながら、取得物件は、全体としてPML値が高くなっているため、地震災害に対して比較的脆弱なポートフォリオとなっています。ただし、これはJ-REITの中でも珍しいケースなのですが、スターツプロシードは全ての物件に地震保険を付保する予定であると、運用方針の中で明言しています。(目論見書P51参照)

耐震データ偽造問題が騒がれる中ですので、上場のタイミングは最悪と言わざるを得ません。ただ、東京グロースリート投資法人のようなファンドでも値を保っていることから解るように、中身よりも利回りを重視する個人を中心とした層による買いも期待できると考えられますので、公募割れは回避されるだろうというのが今回の筆者の見方です。市場が求める第二期の利回りを5.5〜5.7%とすると202,000円〜210,000円(推定PBR1.06〜1.10倍)が当初価格の目安となります。

留意事項としては、@JASDAQ上場ゆえ東証REIT指数連動投信の買いがない、A当初からファンド膨張率が高く分配金の増額余地が限られる、B上記予想価格は先行住宅系REITのPBRから判断して割安ではない、という3点を挙げておきます。


●アドバンス・レジデンスの特徴&価格予想(2005.11.20)

「原則として、取得時において築15年以内とします。」

これはアドバンス・レジデンス投資法人の投資基準に書かれている言葉ですが(目論見書P39参照)、言行不一致となっていることは、旗艦物件の日吉台学生ハイツ(築年数36.6年)の例からも明らかです。前にも述べたように、この物件が遠くない時期に問題が表面化しそうな既存不適格物件であり、しかもその前所有者が伊藤忠不動産だったとなれば、アドバンス・レジデンスがオリジネーターによる“体のいい厄介払い”に利用されたと考えるのが妥当かも知れません。(注-1)

ファンド全体を見渡しても、特に優れた要素は見出せませんので、伊藤忠グループの総合力を活かした組成がなされたという感じではありません。これといった特色のない住居系REITで、しかも運用報酬が高めとなっていますので、やはり価格面では苦戦を予想する向きが多そうです。他のレジデンス銘柄との対比で考えて、順当にいけば公募価格から10%程度は簡単に下落するところですが、伊藤忠ブランドの威光により、どのあたりで踏みとどまれるかが注目点となります。

第一期中に取得予定の2物件を加えたファンド膨張率は実に1.88倍となるため、早い段階で増資を意識しなければならないものの、当然の結果として見かけの利回りは高くなっています。少々甘口という気もしますが、筆者は今回、第2期を基準とした利回りで5.0〜5.1%となる440,000円〜449,000円(推定PBR0.95〜0.97倍)を当初予想価格とします。

(注-1)日吉台学生ハイツについて
目論見書には、建築基準法上の瑕疵を治癒するための処理をすると記載してあります。しかし計算上容積オーバーが解消されるとは思えないので、「治癒されるとあるが完治するのか?完治するならどういう特例が適用されるのか?」と問い合わせましたが、返答は「目論見書に記載されている以上のことは言えない」というものでした。ただ、「アスベストの問題はない」との回答はすんなり引き出せています。


●FCレジデンシャルの外部成長試算(2005.11.13)

少し古い話になりますが、日経ビジネス2005年9月5日号で「誰も知らないマンションバブル」と題する特集が組まれていました。記事では、供給過剰だった分譲マンション業界に不動産ファンドの一棟買いという神風が吹いた結果、販売用在庫が容易に捌けるようになった代わりに、賃貸向けに転用された物件が大量に出回っている構図がわかりやすく解説されています。高級物件への急激な賃料下落圧力という、一般にはあまり知られていなかった業界事情に青ざめた投資家も多かったのではないかと思います。

さて、今回はこうした事業環境を反映してか、公募価格比で軟調に推移する住宅系REITの一つ、FCレジデンシャル投資法人について、外部成長試算をします。この投資法人はファーストクラス物件を多数組入れていますが、実質上固定賃料型となっている物件(ファルコン心斎橋を含む)が全取得価格の63.0%に上るので、比較的賃料の下げ圧力には強いと評価して良さそうです。FCレジデンシャルの投資判断にあたっては、11月9日に公表された要約版説明資料も、良くまとまっていますので参考になるでしょう。

〔 試算の前提 〕
  1)第2期の公式予想データを使用する
  2)1.63倍のファンド膨張率は物件追加取得により1.75倍に拡大する
  3)追加物件の利益率(純利益/取得価格)は現保有分を100とした場合75

〔 計算結果 〕
  1)外部成長後予想分配金 10,440円(上乗せ幅559円)
  2)外部成長後予想利回り 4.88%(時価428,000円)
  3)利回りから逆算した価格
   4.2%→497,000円  4.4%→475,000円  4.6%→454,000円
   4.8%→435,000円  5.0%→418,000円  5.2%→402,000円


●既存不適格物件にご用心(2005.11.6)

アドバンス・レジデンス投資法人の取得予定物件の中に“時限爆弾”があります。物騒な言い回しを使いましたが、近い将来問題が表面化するであろうという意味で、やはりこの表現があてはまるのではないかと思います。私が言う“時限爆弾”とは容積率の規制により既存不適格となっている日吉台学生ハイツのことです。

この物件は第一期中の取得予定資産に含まれていますが、収益への貢献度という意味ではポートフォリオ内最高額のアルティスコート赤坂桧町よりも高くなると見込まれますので、アドバンス・レジデンスの旗艦物件と言って差し支えないでしょう。築年数36.6年という老朽化が進む物件ゆえに、そろそろ建替えを意識する時期にさしかかっています。

しかし、この日吉台学生ハイツですが、建替えを実施しようとする際には容積率の問題が顕わになると考えられます。土地面積4706.63uに対し、指定容積率が100〜200%に過ぎませんので、新築できるのはせいぜい現状の延床面積(15,801.61u)の半分程度の建物でしかないからです。リニューアル後は貸付面積が大幅に減少しますので、収益も当然落ち込むことになるでしょう。

建替え実施による建築資金需要の発生と、2年前後にまたがる賃料収入のストップ、新築後に満室稼動してもかつての収益に遠く及ばない・・・、私が“時限爆弾”と言ったのはこのためです。以上のようなケースがありますので、ファンドが築30年を超えるような古い物件を取得する際には特に、土地の容積率についても目論見書でチェックしておいた方が良いでしょう。

なお、同様の問題は既存不適格物件であるダイエー碑文谷(築年数30.6年)への依存度が高いユナイテッド・アーバン投資法人も抱えています。


●ニューシティレジデンスの外部成長試算(2005.10.30)

以前に中期目標株価試算と題するシリーズを連載していましたが、当時の計算方式は前提条件が少し甘かったように思うので、より厳しい見積もりで各投資法人の外部成長による収益の上乗せ幅について試算してみることにします。第1回は、新規上場の住居型REITに足を引っ張られるような形で軟調に推移するニューシティ・レジデンス投資法人が対象です。

同投資法人の運用報酬は、運用資産が1,000億円に達するまでは年率0.35%と安く、それを超えると0.5%に跳ね上がるという仕組みでしたが、案の定、すごい勢いで1,000億円まで積み上げて、資産運用会社の受取額を急増させてきています。取得報酬などの面でも高コスト体質となっており、のちの住居型REITの悪しき手本となっているような側面があります。

11月上場のアドバンス・レジデンス投資法人がこれを見習ってしまったのは残念な限りです。

〔 試算の前提 〕
  1)第3期の公式予想データを使用する
  2)1.63倍のファンド膨張率は物件追加取得により1.75倍に拡大する
  3)追加物件の利益率(純利益/取得価格)は現保有分を100とした場合75

〔 計算結果 〕
  1)外部成長後予想分配金 12,407円(上乗せ幅607円)
  2)外部成長後予想利回り 4.64%(時価535,000円)
  3)利回りから逆算した価格
   4.0%→620,000円  4.2%→591,000円  4.4%→564,000円
   4.6%→539,000円  4.8%→517,000円  5.0%→496,000円


●阪急リートの特徴&価格予想(2005.10.23)

10月18日の日経金融新聞1面で「資産運用の旗手たち」と題して、福岡リート投資法人の特集記事が組まれていました。福岡リートといえば1口50万円で発行した投資口を、あろうことか88万円というスッ高値で投資家に売りつけるという悪辣な手口で物議を醸し出したのが記憶に新しいところです。インタビューでは臆面もなく「正当性をアピールするため地元財界を巻き込んだ」とか「投資家のニーズにも答えていける」などと応じていますが、現状で上場時の公募・売出に応じた投資家に大損をさせていることについては、もちろん何ら触れられていません。

残念ながら、今週上場予定の阪急リート投資法人もこれとほぼ同様の手法を使って上場することになります。ただ、阪急リートの場合は50万円の投資口を62万円で売出すということですので、悪質さのレベルは相当に異なります。しかしやはり、投資口価格が「大幅に値上がり」して58万円になっても上場時に取得した投資家が含み損を抱えるという上場スキームには、えもいわれぬ嫌悪感を覚えずにいられません。こういうことをする企業グループに、果たしてクリーンな投資法人の運営が出来るのでしょうか?

目論見書を見ると、旗艦物件のHEPファイブの鑑定評価額が取得時よりも22億円あまり上がっていますが、利回りから考えて、含み益があると捉えるのは早計のようです。その他の物件では、鑑定評価額よりも高く取得することになる高槻城西ショッピングセンターの利回りが低すぎるのも気になります。なぜかこの物件だけ、評価をしているのはあまり名を聞かない立地評価研究所という会社ですが、高い売買価格に正当性を持たせるために、あえて高評価を提示する鑑定機関を選んだのではないかと勘ぐりそうになります。

阪急リートの特徴の一つとして、株式新聞では売上歩合契約の比率が51.1%にのぼるため、「景気拡大局面では賃料アップが期待できる」とコメントしています。これだけ読むと、店舗売上が悪いと収入の大幅減に見舞われるような印象がありますが、年間賃料の内訳(実績値)を見ると、売上歩合契約分2,130百万円の中には固定徴収部分1,805百万円が紛れ込んでいるため、実質上は総収入の約92%が固定賃料によりカバーされていたことになります(目論見書P65参照)。収益の安定性を確保しつつ、店舗売上の伸びによるプラスアルファを狙えますので、これはなかなか面白い仕組みです。

運用報酬・取得報酬はフロンティア不動産投資法人の約3割増しですが、福岡リートとはほぼ同等となっており、特に安いということもありません。3銘柄連続の公募割れという環境での出発となりますので、当初はそれなりに自己の投資判断に確信のある胆の据わった投資家以外には目立った買い主体が不在となる可能性があります。売出価格の62万円は、類似銘柄である福岡リートとの対比ではかなり割安となりますが、地合に引っ張られてこれを割り込むこともありそうです。筆者は今回の当初予想価格として、第2期を基準とした利回りで4.1〜4.2%となる605,000円〜620,000円(推定PBR1.21〜1.24倍)を提示します。


●DAオフィスの特徴&価格予想(2005.10.16)

数年来、輝かしい急成長の足跡を残してきたダヴィンチ・アドバイザーズが組成するJ-REITということで、一部に期待する向きもあったのかも知れませんが、蓋を開けてみたらとんでもないシロモノが飛び出してきました。DAオフィス投資法人は、平均築年数20.67年の古い都心のオフィスビルを中心に投資するファンドですが、既に述べてきたとおり、物件の取得価格が尋常でないこともあって、魅力薄の投資法人となってしまっています。なぜこのようなことになったのかは、同社の得意とする私募ファンドビジネスの実情を探ることで把握できるでしょう。

そもそも、ダヴィンチの運用する私募ファンドの想定利回りは他の業者と比較してあまりに高すぎるものが多いのです。パシフィックマネジメントが10%以上、森ビルが8%以上、とか謳っているのに対し、ダヴィンチの私募投信は先日発表された1兆円ファンドもそうですが、25%以上を目標にしていたりします。レバレッジだけではこんな数字は達成できませんので、利回りの実現には、確実な出口を確保して物件売却益で稼ぐほかありません。つまり、そのしわ寄せを受け、犠牲となるのがDAオフィスや今後上場予定のダヴィンチ系ファンド群というわけです。

J-REITの運用報酬は、特定の投資法人の決算データに各項目ごとの設定料率を代入することで銘柄間の比較が可能ですが、DAオフィスケネディクス不動産投資法人と比べて、およそ5割もの高コスト体質となっています。また、資産運用会社に支払う物件取得報酬は、オリジネーター関連からの取得の場合は、外部の半分程度の費用に抑えるというのがこれまでの通例でしたが、DAオフィスはこれをも破ってきました。私募ファンド物件を押し付けるだけでなく、取れるところからはいくらでも利鞘を抜こうという意欲に溢れていることの証左と言えるでしょう。

新興REITの価格が振るわない中での上場ですので、やはり当初からの苦戦が予想されます。ただ、「地獄に堕ちろ!」と叫びたいのを我慢して客観的に評価すれば、ダヴィンチ・アドバイザーズの堂々たる過去の運用実績を背景としたネームバリューに支えられて、それなりの水準でとどまる可能性も高いのではないかと思います。第二期の利回りで4.3〜4.4%に基準を設定すると、当初予想価格は481,000円〜492,000円というレベルとなりますが、これでも筆者推計による株主資本の毀損を加味した実質PBRで判断すると、決して安いとは言えません。


●悪徳商法とビジネスの境界線(2005.10.15)

先日読んだ朝日新聞の記事に、大胆すぎる手口のために、すぐに社会問題となり、結局は行き詰る悪徳商法がある一方で、海外から持ち込まれるその手の商売(主に化粧品販売)の中には、無茶な利幅を取らないために違法性の判断が難しく、長く続くものがあるという記述がありました。こうした傾向は、通常の商いの世界でも同様と考えて良いのではないかと思います。即ち、極端な暴利を貪るようなやり方では必ずどこかで綻びが生じ、遠からず挫折に見舞われるということです。

国内屈指の私募ファンド運営会社であるダヴィンチ・アドバイザーズが組成するDAオフィス投資法人を調べていて感じたのは、まさにそういった懸念でした。同社が経営の柱に据える私募ファンド事業の受け皿という使命を帯びて設立されるDAオフィスの物件購入価格や運用報酬体系等のスキームが、目に余る惨状を呈していたからです。96億円で取得した旧銀座OMCビルとその東館を私募ファンドからDAオフィスに171.5億で”転がす”という案件たるや、その最たる例と言えるでしょう。

ダヴィンチ・アドバイザーズが目標とする「投資家とともに成長する」という企業理念を長期にわたって実現していくことを真に望むのであれば、「川上・川中・川下戦略」の川下を担うJ-REIT事業に対する取り組み方針を根本から見直すことが不可欠です。さもなくば、ダヴィンチが計画する出口戦略において重要な役割を果たすはずのJ-REITの資金計画に狂いが生じるのは、時間の問題となるのではないかと思います。 “出口”が詰まれば何が起こるのか、考えておく必要がありそうです。


●FCレジデンシャルの特徴&価格予想・後編(2005.10.10)

取得予定資産のうち、東京23区内にある16物件の賃貸可能面積1uあたりの購入単価は82.2万円ですが、同地域内におけるジャパン・シングルレジデンス投資法人ジョイント・リート投資法人の住居の数値がそれぞれ84.4万円、83.3万円ですので、それほど違和感はありません(注-1)。ファーストクラスの物件に特化すると謳っているだけあり、それなりに好立地の物件を確保することになっています。平均築年数は2.23年ですので、既存のどの投資法人よりも真新しい物件で構成されたポートフォリオとなる見込みです。

資産運用会社に支払う運用報酬のうち、総資産にかかる部分は当初年率0.2%と安く、第2期0.3%、第3期以降は0.4%と、段階的に値上げしていきます。物件購入時にかかる取得報酬は日本レジデンシャル投資法人プロスペクト・レジデンシャル投資法人もそうなのですが、物件価格の1.0%となっており、かなりの高コストです。その他の運用報酬の事も考慮に入れると、トータルでは後発組の中では標準的ですが、全J-REITの平均と比較すると、高めの運用コストとなっています。

類似銘柄としてはジャパン・シングルレジデンス投資法人(平均築年数3.32年)が挙げられますが、公募割れが続くこの銘柄と比較して、FCレジデンシャルが特に優れている要素は見出せませんので、上場当初の価格はやはり弱含む展開となりそうです。借入比率が高く、分配金の伸びにはあまり期待できませんが、第2期を基準とした利回りで4.2〜4.3%が求められるとすると、価格帯459,000〜470,000円(推定PBR1.01〜1.03倍)といった水準が一つの目安になりそうです。

(注-1)違和感のあるレジデンス購入価格
イーアセット投資法人が投資する中古レジデンスの賃貸可能面積1uあたりの購入単価は115.6万円と、一般的な新築物件以上の価格となっています。売主である前所有者はオリジネーターのアセットマネジャーズが設立したSPCであり、前々所有者も同様に系列SPCとなっています。


●FCレジデンシャルの特徴&価格予想・前編(2005.10.9)

公募価格が仮条件価格帯の上限ではない水準に決定されたこともあり、FCレジデンシャル投資法人の価格推移については、厳しい予想をする向きが多いのではないかと思います。筆者もポートフォリオの中身やファンドスキームなどを調べましたが、残念ながら弱気のコンセンサスを覆すような材料は発見できませんでした。ただ、一部の投資法人にみられるような、「えげつなさ」も見当たらないという意味で、粗悪品が増えてきた後発組の割には、まともな投資法人に成長していくだけの潜在力を秘めているという見方も出来るのではないかと思います。

ファンドクリエーションが、2003年11月に運用を開始したオープン型投信レジット不動産証券投資信託から、最優良物件をFCレジデンシャルに持ってくる狙いは、経営資源をJ-REITに集中し、この分野で運用実績を積み上げることで同社の知名度を上げ、ファンドビジネスの業容拡大を目指すという意図があるものと推察されます。このように、J-REITに広告塔のような役割を担わせるという手法は、日本レジデンシャル投資法人を使ったパシフィックマネジメントによる成功事例がありますので、ファンドクリエーションがそうしたスタイルを目指すのであれば、それなりに誠実な運用が期待できると言えるでしょう。

ただ、同社は業歴が浅く、これまでの不動産ファンドの運用実績も、開示情報だけでは評価が難しいという面がありますので、もちろん過度の楽観も禁物です。つまり、オリジネーターについては、現段階では信頼に値する企業かどうかは未知数ですので、この点ではFCレジデンシャルの評価も低めに見積もっておくのが無難であると思われます。


●インリックスとDAオフィス(2005.10.1)

ダヴィンチ・アドバイザーズが組成するJ-REIT、DAオフィス投資法人の取得予定物件を調べていて、購入利回りに異常値が見つかったので、その理由を探ったところ、ある特定の鑑定評価会社の名前が浮かび上がりました。その名もインリックスです。同社に鑑定評価が任された物件は取得価格ベースで392.3億円、全体の49.3%にも上りますが、このポートフォリオの大きな部分を占める8つのビルの鑑定評価と取得価格が、ダヴィンチ・アドバイザーズのJ-REITに対する今後の取組方針を知る上で非常に重要な意味を持っています。

DAオフィスに組み込まれる物件の取得価格を加重平均した平均築年数は20.64年であり、既存の投資法人と比較しても相当に古い物件を買うという傾向が鮮明です。前出のインリックスに鑑定評価が依頼された8物件に限るとその数字は26.91年と、さらにきわどい数字になりますが、これらの物件のDCF法ベースによる鑑定評価を見ると、好立地のファーストクラス物件への特化を標榜するFCレジデンシャル投資法人(平均築年数2.20年)よりも低い利回りの、非常に割高なDCF価格が堂々と提示されているのに唖然とさせられます。

さらに驚かされるのは、DAオフィスの22物件は全て鑑定評価額と同額での取得となるのですが、この価額がDCF価格よりも高いのはインリックスが評価した8物件のみであるという点です。高すぎるDCF価格をさらに5%以上も上回る価格での購入を強いられることにより、DAオフィスの株主資本は当初から大幅に毀損することが避けられないでしょう。破格の高利回りを謳うダヴィンチ系私募ファンドの“出口”として物件を引き受け続けなければならないDAオフィスには、今後もこの手の取引が頻発すると考える必要がありそうです。

 ・インリックスが鑑定した8物件
   平均築年数 26.91年
   DCF価格   372.80億円(最終還元利回り5.04%)
   鑑定評価額 392.30億円(左記価格で取得)

 ・中央不動産鑑定所・森井総合鑑定が鑑定した上記以外の14物件
   平均築年数 14.55年
   DCF価格   403.43億円(最終還元利回り5.84%)
   鑑定評価額 403.43億円(左記価格で取得)


●水面下の脅威(2005.9.23)

いまだ投資法人からは何のアナウンスもありませんが、不動産業界はこのところアスベストの問題で揺れています。安価で耐火・断熱・防音性能等に優れていることから、アスベストはかつて、建造物の材料として当たり前のように使用されてきました。その使用時期は、東京都環境局の資料によると1963年〜1988年頃という長い期間にわたる為、ポートフォリオの大部分が中古物件であるJ-REITにおいても、この問題の影響は軽視できません。

ただ、「アスベストの状態を見極め、むき出しなら除去し、飛散しないなら解体時まで傷つけずに使うのが現実的」という専門業者の弁もありますので、即座に除去作業をする必要があるのは、危険性の高いと言われる「吹き付けアスベスト」やアスベストを混入したタイプの「吹き付けロックウール」に限定されると考えてよいでしょう。これらの使用時期は前者が1975年、後者が1980年頃までと前述の東京都の資料では指摘されています。

それゆえ、1963年から1980年前後に竣工・改修された物件を保有する投資法人は、アスベストの使用の有無を公表し、危険性の度合いや対応方針・除去費用等についても開示する必要がありそうです。特需により、処理工事費用が高騰しているものの、その負担はせいぜい分配可能利益の数%程度で済むでしょうから、該当物件の投資比率が高い投資法人は特に、情報開示によりおぼろげな不安も速やかに”除去”して欲しいものです。

 DAオフィス投資法人 (ダヴィンチ銀座/アネックス 21.6%)
 日本ビルファンド投資法人 (JFEビルディング 16.2%)
 森トラスト総合リート投資法人 (三田MTビル 12.3%)
 ユナイテッド・アーバン投資法人 (ダイエー碑文谷 11.3%)
 野村不動産オフィスファンド投資法人 (イトーピア日本橋本町ビル 10.3%)

※「吹き付けアスベスト」の使用された期間(1963〜1975年頃)
  に竣工・改修された物件の投資比率が高い投資法人


●ファンドクリエーションは臆したのか?(2005.9.18)

目論見書を注意深く見ている人なら先刻承知だと思いますが、J-REITは新規上場時に発行する投資口の一部を、オリジネーターやその関連企業に割り当てるのがここ数年、通例となっています。7月上場のプロスペクト・レジデンシャル投資法人では総発行分の実に13.4%(9,698口)もの投資口を上場時にプロスペクトの関係会社が引受けるという形でしたし、この割合が低かった日本ロジスティクスファンド投資法人でも、3.0%(1,800口)をオリジネーター連合がIPOで取得していました。

例外は、上場前に安値でオリジネーター側に投資口を大量に割り当たために、こうした手法が不要だった森トラスト総合リート投資法人福岡リート投資法人ぐらいのものでした。いずれにせよ、オリジネーターが投資口の相当割合を保有することは、彼らが部分的にREIT投資家と利害を同じくすることにもなるわけですから、誠実なファンド運営や価格の維持・上昇対策へのインセンティブとなるという意味では、歓迎してよいのではないかと思います。

ところが、このような数年来続いた流れを止める投資法人が現れました。10/12上場予定のFCレジデンシャル投資法人がそれです。目論見書によると、オリジネーターであるファンドクリエーショングループは投資法人の設立時に最低限の出資をしたのみで、上場時には1口も引き受けないことになっています。IPOに応じる投資家とリスクを共有するという従来型スキームを選択することが出来たにもかかわらず、そうしなかった理由とは何でしょうか?

多くの人は、先行する住居型REITの苦戦を目の当たりにして、躊躇したと考えるのではないかと思います。しかし、もしもリスクが高すぎるから自社ではIPO分を引き受けないというのであれば、そのような自信の持てない商品を市場に出そうとする行為自体、あまり誉められたものではないでしょう。なお、FCレジデンシャルの翌週に上場予定のDAオフィス投資法人は上場時の総投資口の11.6%(11,596口)をオリジネーター側が引受ける予定となっています。


緊張感がもたらすもの(2005.9.10)

上場後3日が経過しましたが、イーアセット投資法人はいまだ公募価格を一度も上回ることなく軟調に推移しています。これまでは、ファンド膨張率を高めて利回りを水増しするだけで投資家の資金が集まりましたが、イーアセットの例からもわかるように、今後はそのような単純な手法だけでは市場が評価しない可能性が出てきました。

かような状況を受けて、上場準備の途にある投資法人の中には、戦略の大幅な見直しを迫られるところも出てきているのではないでしょうか?ともあれ、隙があれば簡単に売り込まれるような緊張感あふれる中でファンドが組成されるとしたら、それはJ-REITという商品の将来にとっては好ましい結果をもたらすと言えるでしょう。

10/12上場予定のFCレジデンシャル投資法人は、利回りによるアピールを狙ってか、当初からLTVを高くしてありますが、これとて価格対策として充分であるとは言い切れなくなってきました。資産構成に類似性が強くオリジネーターが格上のジャパン・シングルレジデンス投資法人ですらブックバリュー割れする中だけに、FCレジデンシャルについてもかなりの苦戦を強いられる展開となりそうです。


イーアセットの価格予想(2005.9.4)

8月20日付コラムで言及した、子会社を使った物件転がし紛いの行為について、イーアセット投資法人のオリジネーターであるアセット・マネジャーズに疑問をぶつけましたが、問い合わせから2週間経過した今も、何ら回答を得られていません。後ろめたい事情がなければ、その取引の理由を簡単に答えられる筈なのですが、一体どうなっているのでしょうか?歯切れよく明るい将来見通しを語る同社の”もう一つの顔”を垣間見たような気がしてなりません。

さて、私情をはさまずにイーアセットの価格予想をすることにします。同投資法人については、運用報酬のスキームが物件総額よりも、キャッシュフローにウエイトを置いた形になっている点は他の投資法人と比較して評価できるのではないかと思います。いたずらにファンド規模を拡大させるだけでオリジネーターが儲かる仕組みとは、一線を画しているからです。

今回は総合型REITとして先行上場したケネディクス不動産投資法人ジョイント・リート投資法人のPBRと第2期を基準にした利回りを参考にします。外部成長を考慮しない公式発表ベースでは前者の利回りは3.85%、後者は3.95%になりますが、この差は財務指標から見てケネディクス不動産に拡大余地が大きいことで説明可能です。イーアセットの場合はジョイントリートよりも当初からファンド膨張率が高いため、さらに高い利回りが求められると考えて差し支えないでしょう。

その水準を4.1〜4.2%とすると、当初予想価格は551,000円〜564,000円(推定PBR1.15〜1.17倍)になりますが、さて今回はどうなるでしょうか?筆者はこんな値段で上場後にイーアセットを購入するぐらいなら、ニューシティ・レジデンス投資法人の公募増資に手を挙げたほうがより良い結果になると思いますが・・・


●指数組入イベントを検証する(2005.8.29)

今春TOPIXなどの算出方法が変更されたのに伴い、東証REIT指数も新規上場銘柄を翌月の最終営業日の前日の終値で指数に組入れることになりました。このため7月の新規上場銘柄については、8月30日の大引が一つの大きな節目となりそうです。これに前後して、東証REIT指数の連動を目指す投資信託が市場のかく乱要因として暴れまわる展開が予想されます。

8月27日現在、投資信託評価で著名なモーニングスターのサイトで東証REIT指数への連動を目指すファンド上位10本を検索し、その純資産を合計すると、1,241億円になります。これはJ-REIT全体の時価総額2兆4,868億円の4.99%に相当しますので、これだけでも以下のような買い需要が新規上場銘柄に対して発生する計算になります。(算出式:総投資口数×0.0499)

 プロスペクト・レジデンシャル投資法人   3,747口
 ジャパン・シングルレジデンス投資法人  1,702口
 ケネディクス不動産投資法人.        3,960口
 ジョイント・リート投資法人          2,794口

この数量を8月30日の引け際だけで確保するのは殆ど不可能ですので、インデックスファンドの運用者はそれに前後して買いを分散させる作戦を取らざるを得ないでしょう。即ち、パッシブファンドの新規銘柄への引き合いは先週あたりから既に始まっており、基準日以降も数日は続くと考えるのが妥当であると言えそうです。

※東証REIT指数への連動を目指すファンド上位10本
〔1〕DKA J-REITインデックスF(毎月決算型) 〔2〕ダイワJ-REITオープン(毎月分配型)  〔3〕新光J-REITオープン 〔4〕ダイワJ-REITオープン(年4回分配型) 〔5〕中央三井Jリートファンド 〔6〕しんきんJリートオープン 〔7〕日興インデックスファンドJリート 〔8〕新光J-REITパッケージ 〔9〕DC・ダイワJ-REITオープン 〔10〕DKA J-REITインデックスF(DC年金)


●イーアセット投資法人の特徴(2005.8.20)

自称投資銀行のアセット・マネジャーズグループがオリジネーターです。同社は不動産証券化の分野では実績のある企業ですが、貪欲に拡大を求める経営姿勢がイーアセット投資法人の行く末にどのような影響を与えるのか、注意深く見守る必要がありそうです。

取得予定物件の平均築年数は6.90年(オフィスビル15.13年、商業施設0.77年、住居2.14年)となり、オフィスビル部門にやや古さが目立ちます。クオリティ面では、オフィスビルには大したものがありませんが、商業施設・住居はそれなりのものを確保しています。ただし、購入価格が高いために、後者の利益率は残念ながら低いものとなっています。つまり、低収益な商業施設・住居部門を、ハイリスクであるために利益率の高い、地方の中規模オフィスビルが補うというのが、イーアセットの基本構造になっています。

この投資法人特有のリスクとしては、オリジネーターのM&A事業に絡んで、出資先企業の再生やキャッシュフロー向上という”大義”のために、協力を強いられる可能性がある点を指摘しておきます(目論見書P32参照)。また、自ら設立したSPCの間で短期間に物件の転売を重ねたのち、イーアセットに取得させようとしていますが、こうした取引については、その必然性について合理的な説明を期待したいところです(目論見書P54参照)。

イーアセットについて筆者はかなり懐疑的な見方をしていますが、実のところ以上に述べたような不安要素は価格には殆ど影響しないとも考えています。当初からファンド膨張率を高く設定して、利回りを嵩上げしていますので、恐らく上場後は公募価格に対して強い値動きとなるのでしょう。


●筆者の投資判断・8月号(2005.8.13)

このところ軟調に推移しているREIT市況ですが、逆相関の強い長期金利の動向しだいでは、調整局面が長引きそうな展開となっています。プレミア投資法人を例にとると、アナリストミーティング資料の2006年4月期業績予想が前提とするファンド膨張率は1.77倍と、当サイトの中期目標試算の際に使う「1.75倍」に近い数値ですが、予想分配金は12,800円、 単純計算による利回り4.0%になる価格水準は640,000円(推定PBR1.26倍)でしかありません。

筆者の主観を入れて要求利回りを3.7〜3.9%に設定しても、価格帯656,000〜692,000円が投資判断でいう”ニュートラル”な水準となり、時価の691,000円と比較すると幾分厳しい評価となります。ただ、これは何もプレミアに限った問題ではなく、多くの先行上場組が、外部成長余地を考慮に入れても、似たり寄ったりの状況であることを付言しておきます。

このような環境下ですが、一部に相対的割安感が出始めている投資法人も存在します。日本レジデンシャル投資法人・東急リアルエステート投資法人・フロンティア不動産投資法人、さらに日本ロジスティクスファンド投資法人などもそれに該当します。これらの銘柄は7月の新規上場組には劣るものの、試算ではそれなりにいい評価がはじき出されますので、そろそろ買いを検討しても良い水準だと筆者は考えています。

その他の気になる事柄としては、目論見書でLTVの上限を60%と明記しているニューシティ・レジデンス投資法人の増資が近い将来見込まれること、分配金の権利確定が目前であることを考慮してもオリックス不動産投資法人のPBRに違和感があること、の2点を挙げておきます。なお、9/7付上場予定のイーアセット投資法人については、中期目標価格試算も集計済ですので、折を見てコメントしていく予定です。


全てのJ-REITが投資家のためを第一に思って誠実に運営されているわけではありません。むしろその多くがオリジネーターの利益最大化のために利用される道具と化しています。投資判断をするにあたっては、そうした事情をまず理解しておくことが出発点となります。

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