数学セミナー担当者殿
初めてメールを致します。
私は、都立の盲学校で数学を教えている教員です。
先日9月号の上記の記事にてバビロニアの粘土板の話がでていて生徒と一緒に楽しみ
ました。
先週にはハムラビ法典の古代楔形文字からの直訳全訳本を入手し、生徒に呼んであげ
ました。
さて、「数学をすることの楽しさ」を生徒と共に読むうちにわからないことが生じて
きました。そこで、質問させていただきたいと思いメールをさしあげまました。
原稿の著者の中村様は17/12なる表記の粘土板があることなどから無理数近似方法の
特定を述べていらっしゃいますが、他の方法でもこの分数は出現するようです。2の
平方根を求めるバビロニアの算法の特定についてもう少し根拠をうかがいたいとおも
いメールをさしあげました。
添付のTeXソース、およびdviファイルに私のこの件に関してのメモが書いてあります
のでごらんいただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
東京都立八王子盲学校高等部普通科
数学科教諭 三崎吉剛
ここまで----------------------------------------
以下のものは添付したTexファイルをテキストにしたものです。
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2の平方根の有理数近似についてのNote
三崎吉剛
2000年9月19日
数学セミナー2000年9月号には「数学をすることの楽しさ」(中村
滋)という文章が
あり、そのなかに、バビロニアから出土したB.C.1800年頃の粘土板が紹介されてい
る。この粘土板には正方形とその2本の対角線が記されていて、その対角線に沿って
60進法の楔形文字による数値がかかれている。雑誌の記事によれば1.41421296
と
(10進法になおせば)書いてあるそうだ。
著者は2の平方根の有理数近似の方法として以下のものを紹介している。a
を 2の
平方根の近似値とする。すると2/aもそうである。次にこの両者の相加平均をとる。
(a+2/a)/2 である。求められた平均値を新たにaとして計算を繰り返すものである。
これは、ニュートン法として知られているものでもある。もちろん古代バビロニア人
が微分法を使用してこの公式を求めたとは考え難い。
ニュートン法はf(x)=0を満たすxを近似計算するためのアルゴリズムだ。結果だけを
書くと
a_(n+1)=a_n-f(a_n)/f'(a_n) n=0,1,2,3,・・・・
ここで、a_n は近似値の数列で、初期値をa_0とする。f(x)=x^2-2とすれば2の平方根
の近似公式が求まる。
実際に値を求めてみると
a_0=1/1
a_1=3/2
a_2=17/12
a_3=577/408
などとなる。
雑誌の記事の著者は、最後の分数が小数にするとバビロニアの粘土板のものと一致す
ると指摘している。さらにその一つ手前の17/12が書かれた粘土板も出土されている
ことにより、「私は間違いなく上の公式が使われたものと確信しています。」と書く
にいたっている。
しかし、連分数による2の平方根の近似をしても上記の二つの分数は近似値として出
てくるのである。
b_0=1/1
b_1=3/2
b_2=7/5
b_3=17/12
b_4=41/29
b_5=99/70
b_6=239/169
b_7=577/408
である。
連分数と同じ意味をもつ互除法はユークリッド「原論」第7巻に記載されている。こ
の部分は原論中最古の文献からのものであるといわれている。まったくこれ以外の根
拠の無い推理であるが、バビロニアにこうした算法の萌芽があったことも考えられる
かもしれない。
さらに、
y^2-2x^2=+1 or -1
を満たす整数解を求め、これから近似値を求めたのかもしれない。しらみつぶしで調
べていくと計算の量が多くなるが、バビロニアでは天体観測のためなどにたくさんの
計算がなされていたと推測される。そのための数表があったのではないかと思う。た
とえば、平方数の表が用意されていればいまのような探索は容易ではないだろうか。
以下に上記の解を並べてみる。
1^2-2*1^2=-1
3^2-2*2^2=+1
7^2-2*5^2=-1
17^2-2*12^2=+1
41^2-2*29^2=-1
99^2-2*70^2=+1
239^2-2*169^2=-1
577^2-2*408^2=+1
となる。
最後に、アンドレ・ヴェイユ「数論」8ページには写真入りでB.C.1900年から
B.C.1600年頃と推定されるバビロニアの粘土板に15組のピタゴラス数がかかれている
ことを紹介する。ヴェイユはなんらかの式を使用して求めたものだろうと指摘してい
る。
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