はり灸の話
     
1.はり灸の起源   
2.つぼと経絡
3.経絡の運用
4.未病を治す
    5.はり灸の作用
  
6.はりはほとんど痛くない
  
7.鍼と針のちがい

     
1.はり灸の起源
◆はり灸は,今から約3,000年の昔、中国で生まれた治療法です。

中国南部の大地は豊かで、たくさんの植物が生い茂り、その結果、漢方薬を中心に
 した医療がよく発達しました。しかし、中国北部の土地は荒れていたため、とがった石
 を体表に刺したり、よもぎの葉を乾燥させて作ったモグサで皮膚を焼いたり、あるいは
 導引・按摩のような手技を使ったりして、痛みをとる治療法が発達したのです。

◆はり灸は奈良時代に仏教とともに日本に伝えられました。『医疾令』という文献のなか
 に、鍼師、鍼博士、鍼生等の記録が残っています。それ以後、はり灸は漢方薬ととも
 に伝統医学の一翼をになってきました。

 

2.つぼと経絡
◆頭が痛くなったり、おなかが痛くなったりしたとき、私たちは無意識にそこに指や手を
 当てて、押したり、もんだり、さすったりします。そうすると、ある場所を押したとき、フッ
 と痛みがやわらぐことがあります。

◆肩がこっているときも、ある一点を押してもらうと、いっぺんに楽になることがあるとい
 うのは、誰もが経験していることではないでしょうか。坐骨神経痛の痛みは、お尻の一
 点を押すだけで驚くほど軽くなることがあります。そういうところを「つぼ」と言います。
 いわゆる急所です。

◆つぼは一定の規則性をもって並んでいます。血管や神経に沿って並んでいるところ
 もあれば、それらとは無関係に並んでいるところもあります。古代の中国人は、それ
 を生命エネルギーである「」の通り道と考え、「経絡」と名づけました。

◆経は上下に走る縦の本線、はそのあいだを網の目のようにつなぐ支線、というのが
 もとの意味です。

◆本線は正経十二脉と呼ばれ、陰陽各6本のルートをもちます。陰に臓を、陽に腑を
 配し、この12本の経絡が、それぞれ六臓六腑につよく関係していると考えます。五臓
 六腑に心包を加えたものが六臓六腑です。

陰経(六臓): 肝  心    脾  肺    腎    心包
陽経(六腑): 胆  小腸  胃  大腸  膀胱  三焦

◆正経のほかに奇経八脉と呼ばれるルートがありますが、通常はそのうち、からだの
 前後の正中線を走る妊脉督脉の2本のルートを加えた14本の経絡を重視します。

 

    十四経

1. 手の太陰肺経
2.手の陽明大腸経
3.足の陽明胃経
4.足の太陰脾経
5.手の少陰心経
6.手の太陽小腸経
7.足の太陽膀胱経
8.足の少陰腎経
9. 手の厥陰心包経
10.手の少陽三焦経
11.足の少陽胆経
12.足の厥陰肝経

13.妊脉(前面の正中線)
14.督脉〈後面の正中線)


     手の太陰肺経              足の少陰腎経

 

3.経絡の運用
四総穴
古典的な針灸医学は、経絡の要所である「つぼ」を上手に刺激し、気の流れを調節して
病気を治そうとしました。

たとえば、『鍼灸聚英』という本にはつぎのような歌がのっています。手足の四つのつぼ
で、全身の治療ができるというのです。このつぼを「四総穴シソウケツ」といいます。

肚腹三里留 腰背委中求 頭項尋列欠 面口合谷収 

これは「肚腹とふく三里に留め、腰背ようはい委中いちゅうに求む。
頭項ずこう列欠れっけつをたずね、面口めんこう合谷ごうこくに収む」
などと読みます。

おなかの病気は、足の三里に鍼や灸をすると楽になり、
背中や腰の痛みは、足の委中(ひざの真後ろ)の鍼が効く。
頭や首の後ろは、列欠(手首のやや上・肺経)がいい。
顔や口の中の病気には、手の合谷がよく効く。

頭部や体幹の苦痛を、手足のつぼに鍼を刺してなおすというのです。 
   

 
 
交会穴
明代の『医経小学』という本には八脈交会八穴の歌がのっています。
これは手足のつぼを組み合わせて、体の前後内外の苦痛を取り除こうというものです。

いわゆる「奇経治療」は、これを活用している流派ですが、正経でもまったく同様の治
療ができます。

  公孫衝脉胃心胸 内関陰維下総同 臨泣胆経連帯脉 陽維目鋭外関
  后渓督脉内眦頚 申脉陽橋絡亦通 列欠妊脉行肺系 陰橋照海膈喉龍

  胃心胸の病気は、足の公孫(親指のつけ根)と手の内関(手首の内上側)、
  からだの側面は、足の臨泣(小指のつけ根)と手の外関(手首の外上側)、
  背中や腰の痛みは、手の后渓(小指のつけ根)と足の申脉(外くるぶし下)、
  手足の内側やのどは、手の列欠(手首親指側)と足の照海(内くるぶし下)、

  このように手足のつぼを組み合わせて治療すると、効果が倍増するというのです。

 
 
六部定位脈診
これは経絡を流れる気の状態を左右の手首の脈で読み取り、やはり、手足のつぼを
中心に治療をする方法です。

左の手首で、肺大腸、肝胆、腎膀胱を、右の手首で、心小腸、脾胃、心包三焦、の経
絡を診断します。脈はおもに次のことをみます。

脈の強さ=エネルギーの過不足
脈の速さ=熱と冷え
脈の浮沈=病の表裏

そして、五行説にもとづいて配置された手足のつぼに鍼を刺し、脈を整えます。これは
全身治療であり、うまくいくと局所の症状もとれてしまいます。

手首の脈と人迎(頚動脈)の脈を比較して調整する人迎脈診という方法もあります。

 
 
遠導刺
他にも「巨刺コシ」といって、患部の反対側の対称点を治療する方法などもあります。
このように患部から離れた遠い部位に鍼を刺して治療する方法を、一般に遠導刺と
いいます。現代医学の立場から見ると、非科学的な部分もありますが、実際に効果が
あるのですから、これを使わない手はありません。いくつか例をあげてみましょう。
  • のどの痛みが、親指と人差し指のあいだの「合谷」の針で瞬時にとれる。
  • 首の横の太い筋肉のこりが、肘の針で数分後にはやわらかくなる。
  • 脇腹の緊張が、内くるぶしの下のつぼに針を刺すととれる。
  • 腕の上がりにくいのが、反対側の膝のつぼの針で上がるようになる。
  • 腰が痛くて曲がらないのが、手の甲の針でほとんど瞬時に前屈できるようになる。
  • 痔が、頭のてっぺんの灸を続けているとなおる。
  • 足の底の灸で、むかつきがとれる。

 
4.未病を治す
◆つぼは治療のポイントですが、同時に内臓の異常を知らせる反応点でもあり、病気
 になる前に警告を発します。ですから、定期的にはり灸の治療を受ければ、こりや
 痛みをとるだけでなく、病気をひろく未然に防ぐことができます。

◆このことを、古人は「未病を治す」といい、最高の医療であるとしています。
 
 
5.はり灸の作用
現代医学でも、はり灸には次のような効果があることが科学的に証明されています。

1.鎮痛・麻酔
2.血行促進
3.自律神経の調整
4.ホルモンの活性化
5.免疫力の強化

 

6.針はほとんど痛くない
◆針というと注射針や木綿針を思い浮かべますが、治療に用いる針は髪の毛のよう
 に細くてしなやかで、ほとんど痛みを感じることはありません。

◆痛みを感じる神経は皮膚のごく表面にあり、ここを一気に通りすぎれば、あとはほ
 とんど痛みを感じません。針を筒に入れ、針の柄のほうを軽くたたくと、瞬時に皮膚
 を通すことができます。初めての人は、「もう刺したのですか」などと言って驚きます。
 そのあとは心地よいひびきを感じ、眠気を誘われることもしばしばです。

                

◆まれに痛みに非常に敏感な方がいます。その場合は、ごく細い針を使ったり、針数
 を少なくしたり、あるいは、手技療法や真空浄血療法のみで治療いたします。

◆灸も、もぐさの大きさは数ミリで、熱さはほんの一瞬です。まったく痕を残さない方法
 もありますし、小さなやけどを残して持続効果をねらう場合もあります。

◆わたしは10歳のころ、胃腸が弱いというので背中に大きな灸をすえられ、長いあい
 だ膏薬を貼って膿みを出していたことがあります。たしかに、からだは丈夫になりま
 したが、そんなに大きな灸をすえなくてもじゅうぶん効果はあるのです。

 

7.鍼と針のちがい
◆はり治療のハリを表すのに、針という漢字と鍼という漢字を使うことがあります。
 今ではどちらも「はり」とか「しん」と読み、同じような意味で使っていますが、語源は
 まったく異なります。

◆針は「金」と「十」からなり、「十」が音符の役割をしている形声文字です。
 十の「ジュウ」や「シュウ」の音が転化して、「シン」になったものだそうです。
 十はもともと、細長いものを全部一本に集めて束ねることを意味します。
 金は金属を表わします。そこで、針は「先のとがった一本の細いもの」、縫い針や
 入れ墨用の針などを表します。

 「針シン」は、「深シン」、「沈チン」などと同系の言葉で、「深くはいりこむ」という意味を
 もっています。

◆鍼は「金」と「咸」からなります。「咸」の音はカンで、口(くち)と戈(ホコをもつ)から
 なる会意文字です。その意味は、「刃物で強いショックを加えて相手の口を封じる」
 ことです。転じて「おしなべて、みな」の意に用いるようになりました。

            

 したがって、鍼の原義は「とがった石で身体にショックを加えて病を封じる」という
 意味になります。鍼という字は、最初から「病気を治療する道具」として定義された
 漢字なのです。

 「咸カン」は「含ガン」「合ゴウ」「禁キン」と同系の言葉で、いずれも「閉じ込める、封じこ
 める」という意味をもっています。

 「薬石効なく」などというときの石は、鍼治療のことを表わしています。

咸のなかま

緘ー糸で封じて閉じること。 
感ーつよく心にこたえること。
憾ーつよく残念に思うこと。
鹹ーつよく刺激する塩辛さ。
喊−大声で相手にショックを与えること。 
減ー水源を封じて、水の量をへらすこと。

 

1.はり灸の起源   
2.つぼと経絡
3.経絡の運用
4.未病を治す
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6.はりはほとんど痛くない
  
7.鍼と針のちがい
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