『びゅーねしましょ?』
「あー!!もう、いややーっ!かけへん!ぜんぜん、できへんっ!!」
机の上から原稿用紙を投げ飛ばすとわしゃわしゃと頭を掻き毟った。静かな夕陽丘のマンションの一室に響き渡る悲鳴。
原稿用紙の舞い散るさまをソファにくつろぎ、黙ってみていた男の溜息。
スランプに泣く作家アリスと原則的には平日にしか仕事のない助教授火村の二人である。
白い原稿用紙を乱暴に落としただけでは足りず、一枚一枚丸めて放り投げている。火村の顔面に直撃しそうになった一つをさすがの反射神経でひょいと避けると、火村はもうひとつ溜息をついた。
アリスがワープロもパソコンも脇へのけて、古式ゆかしく原稿用紙を相手にしているのもあながち無意味なことでもないわけだ。
と、とおくから、いわば愛しい恋人の苦しむさまをゆっくりと眺めていた男の感想。
なにせ、パソコンのキーボードをぐしゃぐしゃに丸めて投げ飛ばす、なんてことはできないわけだから。
その点だけは原稿用紙に勝るものはないわけだな、と。
声に出していったら原稿用紙のかわりにされそうなことを無表情に火村はおもって、やがてやれやれ、というカオで彼は立ち上がった。
「なに、イラついてんだよ」
いじましく原稿に向かってやつあたりし続けるアリスをひょいと肩にのせて運んでしまう。
アリスは苛立ちに興奮したまま火村の肩の上でワーワー喚いて暴れる。
どさりと、ソファまで持ち帰ると、そのまま頬に顔を寄せた。
「おとなしく・・」
囁かれた言葉にアリスは顔を赤くして、火村にぎゅっとしがみ付いた。
おとなしく、何するかって?ビューネですビューネ!!ああ、火村にビューネしてもらいてえ!!
・・・・・・あのCM実はかなり好きなんですよネ・・。
さて、蛇足ですが・・。
「・・ヒムラ、これ、きもちええわー」
「だろ?」
火村のいいだした冗談に『おお、やってもらおうやないか!』と応じたアリスである。
しばらく無言でアリスの顔を見詰た後、目を閉じろ、といい、そっとアリスの髪をタオルでまとめあげるや、その頬をゆったりとマッサージして・・本当に『ビューネ』してしまったんである。
「しっかし、きみ、そんなんどうしたんや?まさか買ってきたんやないやろな?」
「・・・ばーか。ここへ来る途中、配ってたの貰ったんだよ」
化粧水自体の、なんだかすっとしてそれでいて柔らかな感触も十分に気持いいが、火村はこんなことにも器用だ。まぶたを柔らかくマッサージして、こめかみまで、疲れてささくれ立った精神まで、それこそ逆立った猫の毛を毛繕いするみたいに見事になだめてしまう。
「んっ・・」
すっと火村の指先がアリスのサーターの襟口から鎖骨へ滑りこむ。
「ひっ、ひゃっこいやんか・・」
指のあいだに挟まれたビューネを染み込ませた綿がアリスの首すじを撫でる。
火村の手はアリスの大きめのセーターの中へどんどん潜りこんで、きゅっとその乳首を摘み上げた。
「・・や、や。せーたーが伸びてまうやん・・」
アリスの抗議に、指を戻して、今度は下からわき腹をなぞり上げ、とろけきったネコさながらに火村の腕の中で正体をなくしてやわらかくなるアリスの体を自分の膝に抱き上げる。
「俺も、気持いいこと、させてもらわねぇとな・・」
火村の要望は、首をもたげてその唇を塞いだアリスのキスで応えられた。