バースデイ

                       byよるの

 

授業は午前中で終わり、昼食後からみなちらほらとコートへ集まり出した。集合時間にはまだ時間があるのだが、レギュラー陣はほぼそろっている。

すでにコートで勝手にアップをはじめているのは、リョーマと海堂だ。二人でいるのに端と端で勝手に運動しているあたり、さすが青学テニス部のなかで協調性がないナンバー1,2であるふたりである。

手塚は昼食まで持参した上、部室で食べたのだが、乾との打ち合わせが長引いて、とりあえず練習開始は予定通りの時間になりそうだった。

「おめでとぉ〜」

耳慣れない言葉を聞いて、手塚はちらりと視線をやった。

着替え途中だった菊丸が、部屋に入ってきた不二周助に飛びついたのだ。

「3歳と2年にゃー、おめでと!不二っ」

「それ、日本語として間違ってない?」

「じゃ、あと2年で4歳までもう少しおめでとぉ?」

「はいはい、ありがとう、英二。いいから服着て?寒いでしょ」

4年に1度しかこない誕生日に不二はからかわれ慣れているらしい。その彼らしいというか、珍しい誕生日は他の部員も知っている。

口々に祝われて、不二は彼らにいつもの微笑で返している。

「手塚?この予定でいいのか?」

黙りこんだ手塚に乾が怪訝そうに声をかけた。

「あっ、ああ、・・そうだな」

それてしまっていた気を取り戻し、机に向かう。最後の瞬間、不二とちらりと視線がかち合ったような気がして余計に動揺してしまう。

慌てて練習メニューに集中する。

結局、おめでとうをいいそびれてしまったな、と手塚は不二の後姿を見送った。

 

午後いっぱいが練習だったため、通常よりも今日は早めに終了になった。

たいてい、部室の戸締りは副部長の大石がすることが多い。今日は大石が菊丸からせっかく早く終わったのだからと強引に誘われているのをみて、手塚が戸締りをかってでたのだ。

見まわって戸締りをし、ついでに片付けまですませ、部室に戻ると部屋は薄暗く誰の気配もない。誰もいないことに、逆に驚いて、つい辺りを見渡してしまった。

「だれを探してるの、手塚」

「っつ!!」

 突然かけられた声に絶句する。振り向くとドアの横の壁際に背中を預け、不二が立っていた。

彼は静かに微笑んで立っている。

その笑みは、みんなの前にいるときのものとは微妙に違っていて、手塚もいつもの無表情を作れずに不二を睨む。

「脅かそうとしたわけじゃないんだけど・・」

 白々しくいう不二に、手塚は何も答えずに赤くなってしまっているだろう顔をそむけて、ことさらにテキパキと自分の帰り支度を整えた。

まったく、暗い中わざわざあんなところに立っていて、入ってきた手塚にもすぐ声をかけず、なんのつもりだ!?と。

いいかけた文句は声にならなかった。無造作に手を取られて、拒むまもなく唇が重ねられたからだ。

驚いてのけぞったのを逆に支えられて、深く唇が合わせられる。人の舌を味わわされることにどうしても手塚は慣れない。不二に最初に教えられてから、何度も半ば強制的にされていることだが。

味には慣れなくても、感触には馴染んだようだ。そろりと中を舐め上げられて、熱が上がる。耐え切れなくて動かした舌が不二のものと絡む。お互いになであって、滑らかな感触を分け合った。

キスに夢中になりかけた手塚の、背中に回っていた不二の手が、いつのまにか背中を上下してジャージを捲り上げる。

「っ、待てっ、不二!」

「・・だめ?」

「ばか。ドア、鍵が・・」

「ああ、そうだね」

不二がそっと手塚のポケットをさぐり、鍵を探し当てた。それでかちりと鍵をかけ、手塚が見守る中、休憩用のソファベンチに腰掛けて手招きする。

手塚は深い深い溜息をついて、笑みを深くする不二のもとに足を運んだ。

 

 

 

翌日の朝練に手塚は多少、遅れた。もちろん寝坊が常で開始時間ぎりぎりに滑り込んでくる越前リョーマよりはよほど早い。

「おはよー!手塚、不二ッ」

「おはよう」

「おはよう、英二」

 自分のすぐ後ろでした声に手塚はぎくりと振り返った。さわやかな笑顔の菊丸に、そうとはいえない笑顔を浮かべた不二が手を振っている。昨晩は不二の家に泊まることに結局なってしまったのだ。わざわざ登校時間をずらしてきたのに・・。不二はどこかで時間をつぶしてわざわざ一緒に来たものらしい。

「ハイ、これ、誕生日プレゼント!一日遅れだけど」

「ありがとう、英二」

「あ、オレからも…ええと、ハイ」

小さな紙包みを英二が手渡すと、近づいてきていたリョーマも同じような紙包みを渡した。

まったく同じパッケージに手塚が不審そうな表情をうかべると、リョーマの次にそれを手渡した大石が解説した。

「不二のリクエストなんだよ。『いまこれにはまってるから買ってきてくれると嬉しい』ってさ」

「うん。やっぱりプレゼントってもらうと嬉しいでしょ」

「そうだ、誕生日だったな、おめでとう……何がいいんだ?」

手塚としては、不二がみなに頼んだプレゼントが気になり、自分も同じ物を買ってくるつもりで聞いたのだ。それに・・、二人のときに訊いては何かあらぬことを要求されないともかぎらない。

それなら、部室の部員がたくさんいるなかなら、不二もそんなことはいえないだろう、という考えもあった。

「ん?何かくれるの、手塚も?」

「ああ。何がいいんだ」

「じゃあ・・・」

くすりと不二は笑った。

「ね、微笑って?」

「なっ・・」

いきなり肩をつかまれて、手塚はうろたえる。

「手塚、僕に笑って見せてよ?きみの笑顔がプレゼント」

  

どんなに嫌がってもあきらめず、手を離さない不二に、周囲の注目のなか、冷汗を浮かべ引きつった笑顔を浮かべた手塚がいた。