Kiss to yourhand……。

 

……火村が声を上げて飛び起きる夜があることを知っている。

肌を重ねない夜には、火村はソファで眠ろうとする。

いささか事件に疲れた私たちは、キスすることだって忘れ、何も無いやすらかな眠りへ落ちていったはずなのに、同じベッドに寝ていても、そんなふうに夢も分け合えない夜に限って火村にだけ悪夢が訪れる。

身体をこわばらせ、私が起きてしまったことにも半ば気が付かず、身動きしない君。

じっと自らの手を見ている。「火村……」我慢できずに名前だけ呼ぶ。

「……アリス」

――そんな目で見てほしない。いやや――。ごまかそうとして、ごまかしきれない火村の目。私は火村の腕を取る。火村は咎めるような、拒絶の目で私の行動を見守っている。

――なにも聞いたりせえへん。聞けへんけど――
火村の手をゆっくりと口に運ぶ。 火村の手にあるはずは無い、彼を苦しめるその幻影は私にだって見えるような気がする。
でも、君の手になにがあったって君の手なら、私は――、かまいはしないのだ。

ゆっくりと口付けて、火村の表情を見守る。火村が笑った。苦笑と自嘲の中間点の笑い。舌を出してぺろりと舐めとる。汗ばんでいたのか、少ししょっぱくて、ほんとうに無いはずの血を舐めとっているような気がする。火村の目つきがやっと緩んだ。ほっとすると共に、ひどく恥ずかしいことをしているような気になる。火村が目を細めて、私を覗きこんで来る。ちゅっと音を立ててキスをして火村から目をそらした――――。

 


Kiss to yourhand……。2

 

「――アリス」

もう外そうとしたのに、火村の手は私の顎をつかんで、離れなかった。私の口を手でふさいだまま、火村が耳元に唇を寄せてくる。囁かれて、体が震えた。

「いいんだろうな」

なんでそない脅すような口調でこんなことを言うんやろう、この男は。まったく。頷きにくいことこのうえない。それでも、気づかぬ振りで彼から背を向けて狸寝入りしなければならなかったいままでの苦痛を思えば、……そのくらいなんだっていうんだろう。

俯きながら頷いた私の耳に火村の唇が落ちてくる。舌が首筋から耳元まで這っているのがわかる。首を振ってその妙な愛撫から逃れようとするのを、火村の私を捕まえた手が許さない。

「脱げよ、アリス」

火村の指が、私の口内に挿入ってこようとする。受け入れて、舌を絡めていたら、そんなことを火村が言った。……俺の手はふさがっているから、早く自分で脱げ、といいたいらしい。

火村の右手は私の口の中をなぶったまま、左手がもどかしそうに服を引っ張る。

 ああ――、もう――……。なにがどうして、男の指を咥え、耳朶をなぶられつつ、服を脱いでいく、などという状況に陥らねばならないんだろう。火村とこんな関係になった事は後悔し尽くして、もう納得しているが、こんな状況はまだ私をひどくうろたえさせる。

私がパジャマのボタンを外してしまうと、火村が片手でズボンをずり下げてくる。下着ごと剥ぎ取りかかるのを、嫌とも言えず腰を浮かせて脱ぎ去り、蹴り落とす。  

火村の長い指が、私の中からなにか掬い取るように動き、引き出される。生暖かな感触が一点に落ち、ひやっとしてくる感触に背筋がこわばった。

「火村、な、なんで?」

唾液に濡れた火村の指が、小さな突起でしかない私の乳首を弄っている。

「――そないなとこ、っ、ひゃ、嫌、やっ」

「ん…?朝まで時間あるしな、ゆっくりしたっていいだろ、アリス」

「うっ……」

抗議の声がまた火村の手に阻まれる。指が押し入ってきて、また私の唾液を掬いとって出ていく。今度はもう一方のほうにぬるりとした感触が落ちてきて、摘んで、こすられる。

「アッ……」

私の跳ね上がる声に、火村の笑いをこらえているような気配がする。

かなり悔しかったが、ののしることも出来ない。口を噛み締めていなければ、もっと恥かしい声を上げてしまいそうな気がする。彼の背をどつくにも、火村の肩にすがった私の手はそんなことをする余裕もない。

「ア、はあ…っ」

また、火村の指が私の口に進入する。それをどうされるかわかっているのに、強引に割りこんでくる彼の指に舌を絡めてしまう。

「んう、……!」

「噛むなよ、馬鹿アリス」

私の口を指でなぶったまま、火村は私の胸に顔を寄せてきたのだ。舌で疼いていた突起を舐め上げられ、歯を立てられて、私は仰け反った。全身に力が入って火村の指に歯を立ててしまう。

火村の指が抜き去られ、彼の手が下の方に下りていく。喋りながらも、火村は私の乳首を口にしていて、思わず転げまわりたくなるようなもどかしい快感に翻弄される。

私のそこは、もう自分で慰めてしまいたくなるほど張り詰めているのに、火村は触れてくれなかった。

「ひ、むら…」

「……すぐイっちまいそうだな、アリス」

火村の濡れた指は、私の哀願を無情にも無視して、後ろへ触れる。

「ひむら、あっ、あかん、もっ……」

「我慢しろって」

声と共に火村の指先がもぐりこんでくる。入り口を掻き回すように丹念にたどられて、腰がゆれてしまう。

「あっ!ふぁ、アッ…!」

ぐい、と奥まで刺しぬかれて、どうにもならなかった。火村の肩にぎゅっとしがみつき私は達していた。

「………」

私の頬を伝った涙を火村が無言で舐めとっている。

「は、あっ…」

私は唇を噛み締め、目をきつく閉じて、自分に手を伸ばそうとした。なにも包まれずにイったそれはまだとても熱を収めきれずに息づいていて、どうしようもないほど苦しい。

「アリス……」

火村に呼ばれて、びくんとすくむ……あまりに、恥かしい。

「っも、君なんか、いややっ」火村の手が私を捕らえた。指であふれた私のを掬いとってくれる。また、疼いている個所に火村の指が戻る。

「まだ、キツイぞ……。もう、すこし、だ」

もっとぬるついた指が入ってくる……。

「んっ、あっ、んん……」

深いところまで、まさぐってくる。奥の一点をえぐられて、びくびくと私が痙攣する。

「ひっ、もう、ええって、ひむらっ、ひむらあ」

すっと指が抜かれて、火村の熱い塊が押し付けられたのがわかる。

「……っ」

予感に息が詰まる。だが、なかなか火村は進んでこない。

――どうして、こんなひどうするんや。

「も、欲しいッ」

泣くように言った私に、ようやくじりじりと侵入してくる。震える私のにも手を回してくれ、私は火村の背へすがってやっと息がつけた。

目を開くと、火村の顔がぼやけた視界に映る――。

 

君は、まだ――、君の手には、まだ、俺以外のものが映ってたんか――?

 

涙があふれるのがわかった。火村がそんな私に笑う。自嘲の笑いだ――。

「ああ――っ!」

最奥まで貫かれ、激しい律動がいきなり始まる。涙もどこかへすっ飛んでしまった。君の夢のことも。また、胸を弄られ、腰をゆすぶられて、もう私はそれ以上なにも考えられず、頭の中までも嬌声に落ちた――。

 


 

 

Kiss to yourhand……。3

 

 

 

 火村は憑かれたような目をして、アリスの中を穿っている。

 

 火村の手に口付けてきたアリスは優しく慰めるような目をしていた。思い出すと、また、激しく突き動かしてアリスが壊れるくらいその身体を思うままに貪ってしまいたくなる。

 

アリスは意識を飛ばして、ただ火村の動きに甘い鳴き声を上げている。

 

 どんなに慰められても、火村の中にある悪夢の残骸は消えない。薄皮一枚にやっと覆われただけの火を吹きそうな精神外傷は、触れられると、自分でさえ思いもよらぬ強い衝動が巻き起こる。

 

 慰めに心が緩むどころか、むしろ、弱みをさらけ出されたことへの反動で、ことさらアリスに我を忘れ悶えさせたくなってしまう。

 

 アリスのものに限界が近い。鳴き声が高くなる。腿で火村の腰を締めつけて、辛そうに火村へ自分の高ぶりを押し付けて、腰がゆれている。

 

火村は、自分の顔にあまりたちの良くない微笑が浮かぶのを止められなかった。

 

 

 

アリスの身体から身を離し両足を手で掴んでやる。ひざ裏に手を差し入れて、アリスの足がM字型に開くように折り曲げさせた。

 

「う…?あ、ひむらぁ」

 

涙でぐちゃぐちゃになった目をぼんやりと開いて、アリスが火村を見た。

 

「ヒッ!い、いや」

 

膝立ちになった火村と腰を持ち上げられて繋がっているので、半ば下半身が浮き、火村を見上げたアリスの目には、結合した部分が丸見えなのだ。

 

自分のほころんだところに、出入りしている火村自身を見せつけられて、アリスは身をよじって逃れようとする。

 

「あう、ああっ!」

 

同時にアリスの抵抗を見計らって、奥まで突きいれ、押しつぶすように挿入を始めた火村にすすり泣きながらアリスも応えはじめる。

 

「あ、や、ややあっ」

 

ほとんど、繋がっている部分しか触れ合っていない。アリスの熱にも触れてやる気がない。放りだされたそれが涙を溢して震え始める。

 

「ひむら、ああ、ふぁ、ひむらぁ」

 

アリスの手が空を掻いて火村を求めている。それも無視して、もっとベッドに押し付けるように腰を押し付けてぐりぐりと掻きまわす。

 

「んんうっ!」

 

アリスが達した。上気したアリスの白い膚の上にそれが振りまかれる。

 

痙攣して締めつけてきたアリスの中へ自分もぶちまけながら、まだ動かしつづける。火村のものはアリスの中で、すぐさま熱を取り戻しかけている。

 

 うなだれたアリスも手に収め、きつく弄る。

 

「ひ、むら、ええ、かげんに……っ」

 

火村は応える気もない。アリスの中のもう熱い自分を押し付け、アリスを見つめながら、手の中のそれを握ってやる。

 

「ほんまに、もうかんにんや……」

 

熱を帯びてきた自分から逃げるようにアリスは目を閉じた。

 

願いが聞き遂げられるわけがないことへの、諦めのすすり泣きがもらされる。

 

いささか気が咎めた火村は、アリスの目じりへキスを落としたが、どうしてもまだ止めることはできそうにない。

 

 

 

結局、何度いかせ、なんどアリスに欲望を吐き出したのか。わからなくなるほどどろどろに攻め立てて、空が白むころ、本当に意識を飛ばして昏睡してしまったアリスに火村も倒れこむように重なって眠りこんだ。