Kids lover

                             by よるの


 「くそっ・・あと、一歩で!!」

 ヘリコプターの狭い機内に嘆息が漏れる。

「お父さんは・・、じゃ、無事よね、無事なんでしょ!?」 

 コナンに詰め寄る蘭をこの中では最も紳士的な探偵、白馬探がやさしく抱きとめた。

「お嬢さん、心配いりませんよ。彼――、怪盗キッドが成り代わった人間に危害を加えたことは今まで一度もありません。彼が毛利小五郎氏とすりかわったのは、麓のガソリンスタンドでしょう。他に入れ違うチャンスは無かったはず…。すぐに連絡をとります…いや、すでに彼が連絡済かな・・?」

「えっ?」

「いやいや、なんでもありません。さあ、ヘリの無線を使いましょう」

 蘭の注意をそらし、白馬は少年の反応を窺った。

「いつから気がついていたんです、小さな七人目の探偵さん?」

「えっと、だってなんか違うもん!そりゃあ毎晩顔会せてるおじさんだから、なんとなく分かるんだよ」

 白々しく子供らしい論理でごまかすコナンを白馬が眺めている。ひょいとコナンの細い手を取り、握った。

「な、なんだよっ」

「しっ! 〈おねぇちゃん〉が見てますよ…、なぜ君が普通の子供を装うのかはわかりませんが…、そんなことは構いません。が、僕の〈彼〉との関係は気になる。彼の目は一番あなたを追っていました・・手のうちをもっとも互いに知る宿敵の僕白馬探でなく、君を警戒していた。その上、なんですこれは?」

「そう、その変な時計なんなの、コナン君?」

「わっ蘭ねぇちゃん!」

ヘリの無線で警察からぶじ小五郎が保護されたことを聞いていつもの調子をとりもどした蘭までも、コナンの文字盤から浮き上がった狙撃盤をのぞき込んでいる。

「おもちゃだよ、おもちゃ!あがさ博士に作ってもらったの。わ、悪者を狙うんだって・・」

「ふぅーん」

蘭はそれで納得したのか無線から聞こえてきた小五郎の声に答え、やり取りしはじめた。

「お父さんたら情けないわよー!」

「ふぅん、おもちゃ、ですか」

「おもちゃだよ」

コナンはすばやく時計型麻酔銃の設定を切り替え、白馬に向けた。白馬が見事な反射で回避行動をとるのに、ためらいなく発射した。

「わっ」

さすがに白馬が驚いてよけるのに、コナンは声をあげて笑った。

 いつもなら強力な麻酔針が撃たれ、あっというまに安らかな睡眠へといざなうそれがピンク色のBB弾を飛ばし、白馬の胸元から転げた。

「あは、は・・」

「こらっコナン君!ダメでしょ!!もー!すみません、ごめんなさい白馬さん」

「お兄ちゃんが撃ってみろ、っていったんだよ、ねぇ白馬兄ちゃん?」

凶悪なまでに可愛らしい笑顔のコナンに白馬は引き攣った笑いで答えた。

「ほらおもちゃだったでしょ?」

「確かにね…」

 本当は最近あゆみちゃんたち小学生組と一緒に事件に巻き込まれ、彼らのまえでこれを使うことも増えているため、なんでもコナンと同じ装備を欲しがる彼らのためにあがさが作った時計型BB弾発射装置を、コナンのものにも切り替えで撃てるように改良されたものなのだ。

「も〜、ちゃんと謝ってよコナン君。痛くなかったですか、白馬さん・・?」

「……ごめんなさい・・」

「いいえ。いいんですよ蘭さん。コナン君、君は・・おもしろい子ですね・・」

白馬の笑顔からコナンは視線をそらした。(やべー、ちょっとやりすぎかな?)ひとりごちる。コナンとてまだほんのわずかしか会話していないが白馬が並みの人間でないことは解る。

(まったく探偵ってやつは、いちばん厄介だぜ)

思わず浮かんだそんなセリフに、コナンは、――いや、名探偵工藤新一は、皮肉に笑った。

 

ヘリから蘭が勢い良く飛び降りる。先に降りた蘭が腕を広げてコナンを抱き下ろそうとするのへ、いささか焦って、コナンは自分で飛び降りた。つづいてすぐ傍らに白馬が降り立つ。

 探偵の晩餐会も、いよいよおひらきといったところだった。それぞれ一癖も二癖もあるコナンに云わせればもっとも厄介な人種たちはそれぞれ自分のフィールドへと帰っていく。とりあえず事件の幕は引かれた。黄昏の館のヴェールが剥がれ落ち、黄金の光がその幕を務めた。財宝の中でみなそのありかを探し、起こったいくつかの殺人。華やかであっけない幕切れだ。いや、探偵千間降代に罪をひかせたのは、黄金よりもその秘密だったかもしれない。

 

 そして、別れぎわ、白馬が残したメッセージ。

「後日、連絡させていただきますよ、江戸川コナン君。このお詫びに、ひとつ僕に付き合ってくれるでしょう?」

 手まねでバン!と胸を狙撃されるそぶりを演じて見せる。

「なに・・?」

「きっと君も気になってることですよ。じゃあ、再会の日まで!」

 蘭にも惜しみない笑顔を向け、探偵は去った。

 

 

              

 

 天気の良い平和を絵にかいたような昼下がり、電話のベルが穏やかな空気を掻きまわす。

『ああ!やあ、蘭さん。お元気ですか?白馬探です』

「えっ、白馬さん?どうされたんですか、父に・・?」

『いえいえ。コナン君です。このまえ、約束してたんですが、かれ、います?』

「コナン君、ですか?ええと、すみませんちょっと待ってください」

 電話口からは、流暢な探偵の美声が流れた。蘭はいささか途惑って、通話口を手でふさぎ、本を片手にくつろいでいたコナンを呼ぶ。事件で知り合った探偵が、父毛利小五郎でなく、小学生のコナンに用事とはいったいなんなのか?疑問と不審を顔に貼りつけた蘭にコナンを慌てて言い訳しながら電話へ向かった。

「白馬さんから、コナン君へって・・」

「あ。ああ・・っと、わーっ!お兄ちゃん約束守ってくれたんだ、この前ね、僕、お兄ちゃんのおもちゃも見せてって約束してたんだよ!だ、だからきっとそのことだよ、蘭ねぇちゃん!!」

「そ、そう?なぁんだ、ちゃんとお礼いわなきゃだめよ、コナン君」

「はーい!」

笑顔で手を振ってコナンは蘭から受話器を受け取った。蘭がきびすを返して、昼食のしたくにむかったを見送ってため息をつく。ほっと、息をつき、「なんのご用ですか?白馬探偵さん」

『……知っているかな?彼女が拘置所から移った。今なら、面会は容易だよ。千間降代――怪盗キッドの腕に抱かれ、つかのまとはいえ空中遊泳を愉しんだ人物。囚われの探偵に興味はない――?』

「・・っ、会えるんですか!?」

『・・もちろん、警察も彼女に対して、キッドについて問い詰めたそうだよ。共犯説まで浮かんだそうだ。しかし彼女はキッドに関してはただ名前を借りて探偵への美味なる餌にしたにすぎない、なんの関係もないの一点張りなんだ。犯行はすべて潔く認めているくせにね…まして、彼女は・・』

 白馬の声が途切れた。これ以上はただでは教えられない……そんな意味さえひそませた沈黙にコナンは思わず工藤新一に戻ってしまったように、低くYESの答えだけを呟いた。場所を聞き、電話を切る。

「蘭ねぇちゃん!僕でかけてくるね!!」

 蘭の応えを持たずにコナンは飛び出す。いつものことだが、これは装わなくても子供じみた勢いだった。後ろも見ずにあっという間に玄関をとびだしたコナンの背を蘭は見送る。

「もう、ごはん作っちゃったのに・・」

 待ち合わせ場所には白馬のベンツがすでに待っていた。

「やあ、久しぶり。さあどうぞ」

「・・ありがとう」

お行儀のよいコドモのそぶりで、わざわざ白馬が車を降りて空けてくれたドアから乗り込む。

「どこへ連れてってくれるの、探偵さん」

「まずは花屋へ。ばあや、お願いするよ」

 スムーズに車は動き、いくつかの角を曲がり、コナンも知る米華町では大きい方の花屋の前に停まる。

「花屋?なんだよ、面会に花?」

 それにコナンは当然、彼女千間降代はまだ拘置所にいると思っていたのだ。いくらすべて自白しているといっても、計画殺人を行った人物。しかも犯人は多少は名の知れた探偵なのだ。マスコミも騒いでいる。公判までにはまだまだ時間がかかるはず――白馬は彼女が移送されたと確かに云ったが、どこへだというのか。

(ひょっとして・・)

コナンが花束をつくってもらう白馬の横で息を呑んだ。その様子に白馬もきづいて、ふっと笑った。

「なあ・・あのばあさん……」

「・・花束、君から渡してくれるかい?」

「…なんで?」

「かわいい子からの方が喜ぶだろう?それに君は彼女にとっては謎を解いてあげた言うなれば王子様じゃあないか」

(っつ、なんだって怪盗キッドの周りには、こうキザなヤツばかり・・)

 しかもかわいい子ども呼ばわりされ、あは、は・・とコナンは乾いた笑いで応えた。