エンゼルオアデビル?――NO、CHILD!

                             ばい よるのかいが


 

 

待ち合わせ場所には不向きだったかもしれない雑踏の中、彼の姿は良く目立った。

 何気にバランスのとれた服装、文句のつけようがない体型に浅黒く男らしい顔立ち……。なかなか迫力もあるカオだが、広場にコナンが足を踏み入れたとたん目ざとくその姿を見つけ、満面に笑顔を浮かべ大きく手を振る姿は愛嬌まであって、バレンタインにはチョコが山を成しそうな人気者タイプ……。

(ばーろー、手なんざ振らなくても、俺にだってお前はすぐわかるっての)

 俯いて、腕時計を見る……というあからさまなナンパ避けの姿勢をとっていた服部だが、コナンの姿はすぐさま見つけた。注意力、観察力、カンのよさ、……じっさい服部平次はカオだけじゃなくそんな物までそろっている男だ。

(西の名探偵、さん。――俺だって、工藤新一、なんだぜ)

「おーい!なにしてんのや!――く、……」

「ばーろー! ……平次兄ちゃん!僕!」

遠くから、服部が工藤新一の名前を叫びかけたので、コナンは思いっきり子供声を作り、注意を促した。注意深い服部が、呼んではならないはずの名と知っているのに、いつも、ついどうしても、のようにそう口に出したがる。

「ああ、せやった。――コナン」

それがコナン……工藤新一には、――複雑だ。

西の服部の横に立てるのは、いまはどこにもいないはずの自分、東の名探偵工藤新一なのだ。いまは、コナンは、工藤新一ではない――新一とばれては困る、服部にすら、ほんとうは知られたくなかったはずなのに。それでも、服部が自分を工藤新一としてしか見れないようなのは――、嬉しい。

「気をつけろよな、服部、どこで誰が聞いてんのか、わからないんだ」

「ああ、すまんて、気いつけてはいるんやけど」

――遠くから眺めていれば、意識しなくて済む身長差は、声をひそめても届く範囲まで近づくと否応無しにつきつけられる。コナンが、完全に見上げなくては服部の顔は視界に入らない。

仕方ない。コナンは服部と同い年ではなく、小学生の江戸川コナンなのだ。皮肉っぽく歪めても、コドモの顔は子供だ。その可愛らしい顔にそんな表情はどうかするとよけいに彼をコドモっぽく見せてしまう。――大人を妙にほっとけない気分にさせる、というか。

「そないなカオ、せんでも、ええやん。月に一度っきりのデートなんやで」

「映画始まる。急ぐぞ」

冗談めいた服部の台詞にコナンは硬い声で言い、さっさと歩き出した。

服部は月に一度のデートというが……。付き合ってくれている、だろう。見たい映画や、買いたい本、話したいこと、すべて、小学生として暮らしていたのではあきらめるしかない。服部は、わざわざ大阪から、突然コドモになってしまった人間の唯一の同い年の、……たぶん友人として、同情混じりに付き合ってくれている。

月に多くても一度とはいえ、大阪から東京まで呼び出すのだ。悪いと思わないわけがない。誘いにくいコナンに、週に一度は電話をして、無理やりのように約束をくれるのは服部のほうだった。

今日の約束は探偵ものの映画だった。だいたい、ミステリは殺人シーンが出てこないわけがない。今日のものも、とても蘭などは見に行くことを許しそうにない物だ。

映画はなかなか本格的で面白いものだった。ずっと楽しみにしていた期待は裏切られていないのに、集中できずにコナンは画面に見入る服部の顔をうかがう。

(つまんねぇのじゃなくて良かった)

そう思わずにいられない。もし期待はずれの駄作だったら、やっぱり、服部に悪い。彼が夢中になっているようなのでコナンはほっとして、自分も映画に意識を戻した。

「どこでわかった、犯人」

「二番目の殺人の後くらいやろ。……決定的な証拠出てきたんは3番目以降やけど」

「ああ、二度目の、あれ、複線だよな。あそこより前だと……まだミスリードの証拠だけだし」

映画館を出て、軽い食事をしに入った喫茶店だ。犯人がわかった瞬間、チラッと隣の彼を見ると、服部もちょうどコナンのほうに顔を向けてきて、ウインクを寄越した。だから、お互いに犯人を推定した場所は一緒だとはわかっていたのだが。

「このあと、どうする」

「……んー、六時に駅につかんとならなくてな。今日はちょお時間ないんや。駅からあんま離れられんのやけど」

 あと三時間ちょっと。仕方ない、日帰りなのだし。

「じゃ、とりあえずここ出よう」

「ああ、本屋いくやろ」

日曜の街は、人通りが激しい。もちろんはぐれやしないけれども。

「なあ、――コナン」

「わっ!なにすんだよ、はっとりっ!」

「だってやな、こうせんと、お前の顔みてしゃべれんやんか。顔みて話したくて、来とるんやで。声だけなら電話と変わらんやん」

服部がコナンの身体を抱き上げたのだ。軽々と小さなからだを腕に収めて、服部は歩き出す。

「……ガキ扱いすんなよな」

「ええやん、今だけやで。さすがに工藤新一抱き上げて、街んなかは歩けんやろうしな」

「なに言ってんだよ!」

どう言う意味だ?以前から運命の相手だとか、さんざん口説くようなことは言われていたけれども。

「まわりから見たら微笑ましいだけの話や。照れんでもええって」

コナンはジト目で服部を睨み上げた。半ば呆れている。男子高校生が、小学生抱いて連れ歩くののどこが恥かしくない、だ!危険な誘拐犯と間違われてもしらねぇぞ、と本当にまったく中身は子供ではないコナンは思うのだった。

まわり、特に女性からの、とおりすがりに投げられる『クスッ』を気にしなければ、その体勢はなかなか便利ではあった。歩調を気にしなくてもいいし、あまりに外見と不釣合いになってしまう自分の口調にも気をつけなくていい。服部が工藤と呼ぶのも止めなくたっていいのだ。

「まあ、お前がいいならいいか」

抱き上げられて街を歩くのも。

「ん、なんや?」

「なんでもねえよ」

コナンはにっこりと笑って、服部の腕から飛び降りた。本屋がすぐそこまで近づいたからだ。本屋へ駈けより、入り口で手を振って服部を急かす。

「平次兄ちゃ〜ん!はやくぅ!」

視線を集めるような可愛い声を張り上げて、服部が苦笑を浮かべるのを確認し、コナンは店の中へ向かった。

 

服部とコナンがわかれるところは、だいたい待ち合わせ場所だ。駅まえの広場で待ち合わせ、そこまでもどってきて別れる。夕刻、人通りが余計に激しくなっている中、顔を寄せ合って、最後の、服部と工藤新一としての会話を交わす。

「また電話するで」

「ああ、お前がひまなときに、な。……無理しなくていいぜ」

「無理なんかしてへん。ほんまにもっと逢いたいねん。工藤が、嫌やなかったら」

「……行けよ。新幹線乗りおくれたら、シャレにならねえだろ」

「ほんまに、またな」

時間には少しの余裕があったが、服部は笑って手を振ると駅へ向かって歩き出した。

「嫌なわけねえのに」

そんな囁きはもう届きっこない距離が二人の間には開いている。服部はこんなときでも歩くのが早い。

仕方がない。ちょっと苦笑を浮かべ、すぐそれをコドモっぽい作り笑顔に変えて、

「平次兄ちゃん!ほんとに、また来てくれる?」

コナンの声で叫び、走り寄って抱きついた。飛びあがって、驚く服部の顔にキスをする。

「ま、まてや、くど……コナン」

「約束」

駄目押しに頬にも口づけて、服部の顔がカ―ッと赤くなったのを確認して、飛び離れた。

子供にしかできないというほど無邪気な笑顔で、バイバイと手を振り、くるりと向きを変えて、後も見ないで駆け出す。

もう一度、服部がどんな顔をして、あんな一幕を見せられた人込みのなかに取り残されているか確認したい気もしたが、諦めた。自分の顔もピンクになっていることは体温の上昇から簡単に予想がついたからだ。

 

 

 


 街中デートが書きたかった、という……。なるべく声を思い出しつつ呼んでいただけるとうれしいです(はあと)ここはあの声、これはあのトーン♪  コナンの声めっちゃ好きです!