今夜だけ――NO、CHILD!? 2
1午後の時間 99/03/07 ばい よるのかいが
はずみでコナンが服部にキスしてしまったあのときから、1ヶ月後。泊まりがけで大阪に来いという服部の誘いにコナンはまだ返事をしていなかった。
あのあと、舞い上がった服部からは毎日のようにラブコールが届く。
「コナンく〜ん、また電話だよー、服部くんから」
(いないっていってくれていいのに、蘭ねーちゃん……)
と、コナンは思ったのだが、なぜと聞かれてはとてもこまる。
(まさかヘンなことする、ともいえね―しな)
そんなことを言ってみたら、たちまち服部との付き合いをやめさせられてしまう。
だいたい、それをしたのはコナンの方であって、服部ではないのだ。
(キスなんか、するんじゃなかったぜ……)
『あ、工藤? なあ、来れるやろ、ふたりそろって暇なんてめったにないやん、なあ』
「うーん」
『迎えにいったるって、なあ、今週末やで。どうするんや?』
「俺、学校あるし――」
断ろうか、どうしようか、自分でも迷っていたのだ。結局、行くと返事してしまった。
迎えには来なくていいと言う。
約束した瞬間、どうしようかと重かった気分が軽くなった。週末が待ち遠しいとすら感じられる。断りたくなかったんだな、とあまりにも思い知らされて、コナンは――工藤新一は苦笑した。
コナンのまま、服部と会うのは、やや辛い。これだけ――年の離れた外見で――対等ではいられないから。
好きだと意識したときから、もっと辛くなった。
服部が無理しているんじゃないかとつい勘ぐる。
*
両親が帰ってきたと嘘をつき、博士にも口裏を合わせてもらい、一人でコナンは新幹線へと乗りこんだ。
大阪駅では、服部が待っていた。
手放しの笑顔で手が振られる。
「待っとったで!工藤」
「服部……、コナンて呼べよ」
「ああ、スマン」
工藤新一ではないことを意識させられて、そう呼ばれるのが、今はとくに嫌だと感じたのだ。
本当に工藤新一だったら……、なにも断ろうかなんて、思い煩うこともなく、服部の誘いに乗れるのに。
「コナン――抱っこしてええ?」
「いいけど、……おまえ友達とか会ったらどうするんだよ」
「そんなん関係あらへんわ。久しぶりのチュウはないんか?」
「……っ、ばーろー!」
抱き上げて、笑われる。
服部の腕に、悔しいほどすっぽりと収まりながらコナンは彼の顔を見た。
どういうつもりなんだよ、と服部に尋いてみたいが、それもややためらわれるのだ。
あのキスは半ばジョークだ、とコナンからすれば言い訳してしまいたいところなのに、服部はいったいどう思っているのか。
「はよ、俺んとこ行こ。――だーれも、おらへんから」
「はっとりぃ……」
やっぱ、おまえ、そういうつもりなのか?
うきうきとした笑顔でいう服部にコナンはとても複雑だった。
いや、まったくそういうつもりがなくても、そういうことを考えてしまっている己が嫌になるだろうが、まるきりためらいなくそんなコトを迫られるのも――どうしたって、俺の身体は小学一年生だぞと注意を促したくなってしまうのだ。
*
「好きやで――新一」
玄関をくぐったとたん、狙っていたように耳元で服部がそう囁いてきた。ただでさえ、二人きりになるということに緊張気味だったコナンはびくっとなってしまった。
服部の首に回していた手に力がこもる。
「――新一って呼んでもええやろ?」
もっと低いかすれ声で囁かれて、ぎゅっと抱きついてしまう。
「いまだけ、やから。新一って呼ばせてや」
黙りこんだまま、しがみついているコナンに、もういちど囁いてくる。
「服部……でも、俺、今は、――工藤新一じゃねえ」
「おまえは工藤や。すぐ、戻れるて!――戻れんかて、工藤は工藤やないか」
服部は強い口調でそう言いきった。迷いのない眼差しで見つめられ、頬にかすかな笑みがのぼる。コナンのそんな笑顔に、服部はもどかしそうな顔で強く抱きしめてくる。
「……そうだな。おまえには、――いいよ、新一って呼べよ」
「そうや、俺には、工藤もコナンも――おまえなんや、新一」
囁かれると、まだ胸が痛むが――どこかそれは甘い。
「なあ、そいで、もういっこきかしてくれへんの?」
気を取りなおしたように、いつもの明るい笑顔がコナンの顔に寄せられた。
「……なにが」
「好っきや、新一って、いうとるんやで?」
「だからどうした」
「かーっ、冷たい、冷たすぎるわ。俺のこと、好きやろ、そうならそうとなー、だーりんとか、平次〜とかいうてくれんと」
「……はずかしいやつ」
と、コナンはジト目で脳天気に明るい服部の顔を見返してやった。
「とにかく、下ろせよ。靴脱げねえじゃねえか。おまえの家って土足で上がっていいのか?」
服部はコナンを抱き上げたまま、自分の靴だけ脱ぎ捨てて家に入ろうとしていたのだ。
「脱がしたろうか?」
「やめろ、このおおばかやろー、天然ボケ」
*