魔界都市新宿1
Kiss In Blue
どくとるメーとせつらくん 99/03/06
「麻酔をかけると塞がらなくなる。この薬を使わないと完治しないが、麻酔と併用できない」
せつらはメフィストがケープの奥から取り出した二種類のアンプルを胡散臭げにみた。
「どちらがいい」
「どう違うの」
「よけい痛くなるほう」
と青い液体を差し出す。
「痛みではなく、快感中枢に感覚刺激をすりかえるほう」
と紅い液体を指し示す。
「そっち」
指し示したほうをメフィストがせつらの腕に注射した。
「――っつ」
かすかにだがせつらの口から初めて声が漏れた。メフィストは奇妙な色を湛えた目でその様子を見守っている。
彼の泣き顔など、そう見られるものではない。常人ならば気が狂ってもおかしくはないほどの痛みに生理的な涙が頬を伝っている。
そういえば、これだけ全身を傷つけられているのに、首から上はかすり傷も負っていない。
傷口ではなく、メフィストはせつらの頬を伝う涙に口をつけた。
潤んでいるがコワイ目で、せつらは睨んでくる。
やっぱりこのヘンタイ医者。
そういいたげだ。
メフィストは微笑した。
首筋に唇を落とし、ひときわ深い傷を舌で辿る。
深い傷をそうしてふさぐ間も、メフィストは指を走らせて傷を取り除けつつあった
魔界医師の治療に、せつらの身を覆っていた紅い衣装はなかば取り去られている。
肩から腰まで、背中を斜めによぎる細く深い傷が一番酷いものだ。
背後に回りこみ、首に吸いつくように顔を落とす。
月のように皓い裸身が細かく震えた。
「手を前について身体を支えたまえ」
傾いた背中に舌を這わせる。身体のうねりをせつらはついた腕で押し殺した。激痛に気が遠ざかりかけている。
――しかし、ここで意識を手放せば、おこる事態はあまりに明らかだ。
行為事態はともかく、意識のない間にされるなどせつらでなくともまっぴらだろう。
だが、そんな抵抗は空しく、長時間の激痛に耐えた身体は疲れ果てていて、痛みが消えたことに気を抜いた瞬間――全身から力が抜け落ち、メフィストの広げた腕の中に、せつらは抱きとめられてしまった。
最後の瞬間、せつらは軽い後悔を覚えた。
どうせこうなるなら――痛くないほうにしといたほうが良かったか……。