ノーマル
今夜は、火村はソファで寝ていない。アリスと共にベッドに横たわっている。まだずいぶん眠るには早い時間だ。はじめてしまったのが早すぎたのだ。一通りことは済ましたが、眠くはなく、ベッドから起きあがるには気だるい。
火村は、汗ばんだ体から身を離し、黙ってタバコに火をつけた。アリスはそれをしばらく眺めていたようだが、唐突に喋り出した。
「昨日なあ、テレビ見てて思ってん。なあ火村、ホモっておかしい思うか? 男が男見て発情するって、まちごうとる?」
「別れ話か?アリス」
火村の内心を代弁するなら、テレビなんぞに影響されてそんな理由でそうなるのは勘弁してくれ、情けない、だろうか。
それにしてはアリスの口調は生き生きして、トリックを考え出して得意そうにきかせる、あるいは謎を解いた!とでもいうときのような表情なのだ。
「ちゃうちゃう。昨日なムツゴロウさんと愉快な仲間たちやったか?あの動物王国のスペシャルやってたんや。それ見てちぃともおかしくないおもうたん」
火村はアリスがなにを話し出すのか、皆目検討がつかず、黙ってきいていた。それにしても、ムツゴロウさんだと?ありゃあホモだのなんだと考えつかせるような番組か?
「ハスキー犬だか狼犬だかをな、ムツゴロウさんがなつかせてん。その犬、オス犬だったんやけど、ムツゴロウさんに恋してしまったわけや。……ほんま見てるだけで切なくなるくらい好きで好きでってな」
火村にはまだ話が見えてこない。こいつはなにを言うつもりだ?と見守っている。
「オス犬やから、そのな、
Hを、させてえてねだるわけや。ほんまにそういうふうに惚れてしもうてるわけ。んでな、ムツゴロウさんは『ほんとに僕のことが好きなわけですね〜、じゃあ思いをかなえてあげましょう』みたいなこといってな」「…それで……」
ベッドから気分的にすべりおちそうになりながら火村は促した。アリスはムツゴロウ氏の声真似までするほど熱を入れて話している。
「まあ、思いをかなえてあげたんやな」
「どうやってだ?」
「手でしてあげた見たいやな、テレビには映らんかったけど。その後のこともけっさくやったんやけど、それはまあいいんや。なあ、思わんか?」
「なにを思えっていうんだよ。いっとくが俺とウリたちとの間には何もないぞ」
「ちゃうって!犬でも、人間のあのムツゴロウさんに発情してしまうわけやで。しかもムツゴロウさんでないとあかんのや。男が男に発情するて、動物として間違ってるておもうてたんやけどな。人間よりよっぽど本能に忠実な犬かてそうなんや。愛は種族も性別も超越しとる思うてん」
「……ほんとにそう思うのかアリス」
「えー、なんで?そう思わん?動物を発情させたり、惚れさせるのは異性への繁殖本能だけやない思うと、気いらくになるやないか。とりあえず俺は動物として間違ったことはしとうないんや」
「…人間としてはどうなんだ、アリス?」
「えっ…とな、うん。とりあえず法律には触れてないやん」
アリスを積極的に押し倒しているのは火村だ。だからアリスがそれを肯定してくれるのならば、犬にでも、ムツゴロウさんにでも感謝すべきなのかもしれないが。
なぜだか心にわだかまる物があって、火村は喉の奥でうなった。
「いややな、火村、犬みたいにうならんといて」
アリスは笑っている。火村に背中を向けて、笑いつづけるアリスの背を火村は片手の指で辿った。
「けっさくなことってなんなんだ、アリス?おまえ、にやついてたろ」
「あんなあ…オスのサガなんやて。イったあと、それまでべったり引っ付きまわってた犬がな、急にムツゴロウさんから目えそらすねん。そういうのオスのサガやろ?なんか面白いやないか」
火村はタバコをベッドサイドの灰皿に押し付けてやると、震えつづけているアリスの背中に覆い被さって抱きしめた。
「……俺は犬だってのか。いいかげんにしろよ、アリス」
そういえば終わってすぐ火村が、アリスの身体を離し、タバコを吸いはじめたのを見て、アリスはこんな話をはじめたのだ。ムツゴロウさんにねだる犬とは、賭けてもいいがこの話をする間、火村のことを思い浮かべて、アリスは話していたに違いない。
「そんなつもりやないって、あっ……」
「けだものなのがイイんだろ? え、アリス」
後ろにのしかかり、アリスの腰を持ち上げて、今までした事の無かった体勢をとらせる。
「おまえも犬の気持ちがわかるようになりたいんだろう」
アリスの息が荒い。小さく、いやや、とつぶやいたようにも聞こえた。
「なんだよ、イヤなのか。これ、リクエストしてたんじゃないのか、今までの話は」
「…っ、ちゃう!もう、あほ、ひむらぁ」
「よく鳴く犬だな。ほら……」
アリスが犬の気持ちになったかどうか詳しくは謎である。
彼らが動物として正常であるのかもなぞであった……。
動物王国…いつだったかテレビでほんとに見たのだけども。記憶に頼ってますので少しちがうかも録画保存しときたかったです(笑)ところで後半はアブノーマル。
謎について詳しいことは→