この男不二周助につき


 

「どんな感触なんだろ・・」

「そりゃ、気持ちいいよ。うん、へたな子と普通にするより好いよ?」

「うわ、ちょっとふじぃ・・」

エロ本読んでる時に話しかけないで欲しいよね、と菊丸英二は頬を膨らました。その愛らしいさまに不二周助は微笑む。その爽やかな微笑みに菊丸は首を振った。しかし、これイイよ、と手渡された表紙からして危ない本を下校途中に電車のなかで読み始める菊丸も菊丸だ。

「ね…ということは、さ。不二はやってもらったコトあるのかにゃ!?」

「ウン」

いとも簡単に頷く。

「ちゅ、中学生のくせして〜ずっこい、ずっこいんだー!!」

「ズルイって、えーじ・・」

「あああ、ズルイ〜俺もされてみたいーあうーいいにゃあ、ひと舐めでいいなー」

「ふぅん、じゃ、されてみる?」

完全に美少女顔の不二が小首をかしげて微笑みながら悪戯っぽく菊丸を覗きこむ。菊丸はぱっと顔を赤らめた。

「あ、ただし、相手が英二のこと気に入ったらね。もちろん英二も会ってみてヤだったら断って?それでどう」

「あの…いくら…それって?俺今月シューズにつぎ込んじゃってるん」

「ばか。いつ僕が女衒してるっていったかな」

「えっと、ぜ、げんって、ナニ?」

ふぅ・・と不二は溜息をついた。肩を竦めて、英二の頭をぽんぽんと抱え込み、耳もとに囁く。

「女の子を仕込んで、他の男に売るヒトってこと。そんなことしないよ、僕は」

「あ、ああ〜やめてぇ不二ィ〜」

「なぁに、どうしたんだよ、えーじ」

「ま、また、いけない言葉を教えてもらっちゃったよぅ〜やめてくれってばー」

「……教養の範囲じゃないかな。これは」

駅に到着し、二人は降りた。目的の店まで、菊丸のふらふらする足取りに合わせてゆっくりと歩きながら不二はあらためて訊いた。

「で、英二、どうするの。後腐れはないけど、恋人候補紹介するわけじゃないから一回きりだし、名前もきいちゃダメ。エッチもだめ。アレだけ。で、会ってみる?」

「う、うーん・・」

菊丸だって、どんなにお馬鹿っぽく見えようと、こんなに美味い話には裏を疑ってみるくらいの知恵はある。ただ、不二は酷い人間だとは知っているけど、なんだかんだあっても、菊丸にはそう不二に酷いメを見せられた記憶はなかった。ただ単に鈍くて忘れっぽいだけかもしれないのだが。

「ちょっと・・会って見たいかなぁ・・」

「はいはい、オッケー。じゃあ、そのうちに」

「あ、ね、不二ィ、その子って可愛いの?」

「まぁ可愛いよ」

「あ。ふぅん・・ウン、じゃ、えっと、ありがと?」

調子がいい菊丸に不二が苦笑する。スキップするような勢いで歩き出した菊丸の背中にくすくすと不二が声を漏らした。

 

今日でいい?と尋ねられて菊丸は不二が何を指しているのか思い当たらなかった。どっか行くって約束してたっけ、と首を捻る菊丸に、不二は微笑んだ。

「ほら、ヒトナメの件」

「あ、あれー!!ウンウンもちっ」

「なに?英二、今日・・」

「あ、ゴメーン!大石っ俺、不二と約束あったんだ〜明日でいいよね、映画?」

「ま、いいけど。ヒトナメって何なんだ?」

不二に向かって、大石は尋ねた。ええとね、と微笑んだまま、説明しようとする不二の気配に英二は慌てた。

「いいのいいの!こっちの話。明日ね大石、バイバイ!」

 部活終了後、大石は着替え終わって、帰ろうとしていたのをどうしても今日映画を見に行くという英二の主張で英二の着替えが済むのを待たされていたのだ。無理やりに部室から追い出されて、相棒のいつものワガママに大石は溜息をついた。が、もちろん聞こえもしないし、聞いて気にするような情のある人間になら文句のいいがいもあるのだが。とっくに大石のほうがそんな気遣いを諦めているからこその仲のいい二人でもある。

「あ〜なら、俺シャワー浴びた方がいいのかな?すぐ映画見たくってシャワーしてない」

「ああ、いいよ、別に。平気だよ」

それよりも、早くと促されて菊丸は急いで着替えた。

向かったのは不二の自宅だった。驚く菊丸に不二は部屋に待たせてあるんだ、とこともなげに言った。玄関のローファーは安っぽくて不二家のブランドものしか並んでいないそこで目だった。

「早くしないと、姉さんが戻ってきちゃうからさ。どうした、英二?」

「いや、えっとそのう」

「僕の部屋分かるでしょうに、待ってるって早く。まぁ一目見てダメだったら戻ってきなよ。あ、向こうもやだったら帰っていいって言ってあるからね。無理やりやっちゃったりしたらだめだよ?」

「不二〜紹介してよ〜いきなり無理だよー」

「しょうがないな、もう」

仕方なさげに不二は溜息をつき、菊丸の前に立って歩き出した。その確かな足取りに、英二は尊敬の眼差しをおくっているが、自分の部屋へ向かうのだし、こんなシュチュエイションでためらうような不二ではないので当たり前なのだ。

ノックもせずにドアを開け、菊丸を招き入れると不二はさっさとドアを閉めた。

「英二、この子だけど、どうするの?」

椅子に腰掛けたまま、その少女は多少気まずそうに俯いた。それでも菊丸の方をちらちらと見ている。

「え・・かわいー」

 綺麗に色を抜いたロングの茶髪で、顔は小さい。唇にピンクのリップをつけている。綺麗に弧を描く眉。大きな杏型の瞳が、部活で一番可愛い後輩の誰かさんを想わせる。見なれないセーラー服に長いソックスが愛らしかった。

菊丸のセリフに少女は、ぱっと顔を赤くし、泣きそうな顔で不二を見つめている。

「ウン。可愛いっていったでしょ。じゃあいいよね?」

最期の不二の笑顔は少女に向けられていたようだ。彼女はこくんと頷いた。

それを見届けて、不二はさっさと部屋から出ていった。パタンとドアが閉まれば、この部屋に二人きりだ。

「えっと、英二っていうんだよ俺。君は・・?」

「……」

黙って怒った様に首を振った。どういう流れで、こういうことに至るのが自然なのか知らない菊丸さえ、途惑うほどの唐突さで指をのばしてくる。ウエストにつかまられ、そこに顔を押し当てられて、直接的な刺激にたちまち若い菊丸のそこには熱が集まった。

自分も何か応えたりとか、本当だったらちょっと触らせてもらったり脱がさせてくれるともっと楽しいんだけど、などと考える一方で、慌てすぎてどうしたらいいのか分からないところもある。

それに、不二にはヤっちゃダメだと言われている。まあいいかおまかせで、と、ちょうど促されるまま菊丸は不二の勉強用の椅子に座った。

仰のいて待っていると、ベルトを解かれて、細い指の感触がする。的確に触られて、あっという間に上り詰めそうになって、菊丸は顔を赤くした。

「ぅ、くぅ・・っ」

吐息をかみ殺すのに精一杯で、少し漏れてしまった声がハズカシイ。でもここでイったらすごくもったいない気がする。ぎゅうっと目を閉じて、堪える。

先端に滲んだ液体、ちゅっと擦り取られる音がした。柔らかな唇に穂先を含まれる感触にあっけなく、英二は身体を震わせた。

「あ。あ――」

「……」

通りすぎた早すぎる熱に、呆けて見る英二の視線の先で、こくん、と相手はソレを呑みこんだ。不愉快そうに寄った眉の下の、挑戦的なまなざしは、誰かに本当にそっくりだ――と、いうか……。

「あ、あれ・・おチビ?おチビなの!?」

「――……。サイッテー・・。あんた、鈍すぎッスよ」

「いや、シテもらえるって思ってたからあの・・頭に血が上っちゃって・・え、あ、ほんとにリョーマなの?うそ・・」

「うるさいッス。今気が付かれても意味ないし。ほっといてください」

越前リョーマは、身を起こし、セーラー服のミニスカートで仁王立ちになったまま英二を睨みつけた。

くるりと身を翻し、リョーマは、丸出しのせいで追いかけられない英二を部屋に残し乱暴にドアを開けて部屋を出ていった。

 菊丸が動悸を抑えて、みなりをただし、不二の部屋から出ていくと、居間のソファに不二は座っていた。その膝の上には、リョーマが先ほどまで身につけていたはずの、長い茶色のヘアウィッグとセーラー服がある。

「不二ィ〜どうしよーおチビにしてもらっちゃったんだけど」

黙ったまま、不二は笑って、菊丸を手招きする。不二のおいでおいでに素直にソファに寄った菊丸は、不意に抱き寄せられて不二の上に倒れこんだ。

「――リョーマくんが君に、伝言だって」

「チョット!!やめてくれよー!まずいー!バッチイ!」

「菊丸のだよ?だって」

青臭い味が二人の間を行き来した。顔を背けるのに、執拗に不二の唇は追ってきて、しっかりと舌を絡められる。そんな場合ではないのに、不二の舌は熱く柔らかく、たやすく菊丸に唾液ごと呑みこませた。

涙目で抗議するこんなときだけは純情少年みたいな様子に不二はくつくつと笑う。

「ねぇ、どうして、オチビがあんなカッコして、アンナコトしたワケ」

「うーん。ゲームだったんだよ。英二があのリョーマくん見て、すぐリョーマくんだって気がついたら、僕の負け。気がつかなかったら、して上げなきゃダメだよ?っていう約束だったんだよ」

さらりと言う不二の顔を菊丸が見つめる。その顔は不審に満ちていた。いったいどうしてリョーマがそんな不二ばかりが楽しい遊びに付き合わなければならないのだろう……不二という男について考えれば、答えは出ている。

「オチビちゃんのどんなネタ握ってるの不二?」

「嫌だな、人聞きが悪いよ、英二」

耳もとで不二はくすくすと笑った。もう一度駄目押しにキスされて、菊丸は俺も同罪かな、と不二のそのキスに答えた。