今日と明日だけはわたしは彼にあいたくなかった。もしも明日の予定をかぎつけられれば、くそ意地の悪い彼がこう要求してくることはわかっていたのだ。電話でメルカトル鮎探偵事務所に呼び出され、強引かつ巧妙な誘いに抗いきれずわたしがそこを訪れると、彼は車にわたしを引っ張りこみ彼の自宅へと向かった。 彼の要求をひたすら拒む。 わたしの声は震えていた。 いつだって嫌だ。仕方のないことだけれど、やはりいやだ。 どうしてこんな男に、こんな男に……。しかし今は、ひたすら彼に哀願するしかない。 「明日は、本当に用があるんだ。大事な用なんだよ。こ、今夜だけは――」 「私はかまわないよ。そら、お帰りはあちら、シャワーならあっち、美袋くん。どちらにしろ、気の毒だが君の約束は破られてしまうね。大切な彼女に電話をかけるくらいの時間はあげるよ」 「……どっちにしろって」 メルカトルはすでにタキシードを脱ぎ出していた。長身でモデルのように整った容姿の彼は、タキシードを仕事着にしていることからしてキザだが、日々の仕草もかっこうつけがはげしいのだ。みせつけるような脱ぎ方に、わたしは叫びだしたくなる。 「君の明日の予定は二つに一つさ。留置所のなか、オア、ベッドのなか。ま、動けないこともないだろうけど、まずお勧めしないね」 「なにも今夜でなくたっていいじゃないか、たのむよ、メル。明日以降なら、――なにされたって文句はいわないから」 両手を強く握り締め、わなわなと震わせながら、かきくどく。 「時効まであと13年6カ月と、ええと、2週間プラス9時間だね」 わたしはこうべを垂れた。怒りに震える指で自分のシャツのボタンを外しだす。 「君は悪魔だ」 「君は犯罪者」 メルは薄い唇を吊り上げて笑った。かっとなったわたしは、思わず脱いだシャツをその顔に投げつけてしまった。 彼女が待っているのに。愛する女性が、わたしの手に縋ってこようとしているのに。明日の約束を破れば、彼女はもうわたしを許しはしないだろう。這っていっても、どうせだめだ。こんなときのメルが、わたしの身体に痕をつけないわけがない。 プライドの高いあのひとが、自分から男をホテルに誘い、断られたら……。 先のことなど考えず、この男を殴り倒して部屋を出て行きたかった。しかし、この残忍で鬼畜生のようなメルカトルは、こんな関係がなくても10年来の友人であるわたしを、警察にたたき出すにちがいない。 というよりも、彼の握っている証拠と、警察関係への政治力で本当に明日までにわたしは指名手配されるであろう。 「美袋くん、チャンスをあげようか」 メルのベッドは豪奢だ。その自宅も、かれひとりの住居としては不相応なほど広い洋館で、必ずわたしがつれてこられるここは居間とベッドルームとシャワールームが備わっている。装飾の施されたおおきなベッドに腰掛けて、メルはそういった。 諦めて、シャワールームへと向かいかけていたわたしは振りかえった。希望を込めた目で彼を見つめこくこくと肯く。 「ここへおいで」 彼はゆったりと足を開いてその間をわたしに示した。顔を歪ませながらもわたしはいわれた通りにする。 「口でしてご覧。私を満足させられたら、それだけで今夜は勘弁してあげるよ」 「……わかった」 わたしはメルのまえにひざまずいた。 まだ、メルのものはたちあがってもいないのに、力強く大きい。 その凶器をわたしは手にし、撫でさする。口にするのなんてごめんだった。手だけでいってくれないだろうか。 「時間制限をしようか。一時間。それくらいじゃ、私は勃つのも無理だろうな。へたくそだよ、美袋くん」 わたしは仕方なくくちづけた。にくいにくい男のそれをいっぱいに口を開いて咥えこむ。 噛みきってやろうか。 ――どうして、かれを欺くことができなかったのだろう。 完璧なトリックだったのに。警察にはまるで疑われずにすんだのに。 どうして彼はわたしにこんなことを強いるのだろう。 わたしが犯した犯罪。かれがあばき、かわりにだされた要求。 「1時間だね、そろそろ」 わたしの顔はひどいありさまだった。あごが痛い。大きくなったメルを含まされているだけで、苦しい。もう満足に舌を使うことも、くちびるをすぼめることもできなくなっていた。彼の両膝に手をつきすがりつき、彼が腰を使うのを口を開けて受け入れているだけで精一杯だった。 「もう降参なの?ほんとうにきみは学習能力はひくい、頭が悪い、そのうえ不器用極まりない。しかも……無謀なかけをする。私がなかなかイかないのなんて、この半年で思い知っているだろうに?」 わたしの口からひきぬかれる。息の詰まる感じに滲んでいた涙がぬぐわれた。ベッドに引き上げられ、はげしく口付けられる。 もう、女のことなんか、どうでもよかった。わたしは泣きわめき彼の背に爪をたて、彼の愛撫を受け入れるだけだった。 |