し・か・え・し
おしおきの続になってます。おしおき駄目だったら読まない方が…。
byよるの
「も〜別れる…っ別れたる、このアホ男っ!」
あとからあとからアリスの目には涙が浮かび零れ落ちた。
手錠は外されても腕には赤いすりむけた輪が刻まれてしまっていた。
ベッドから出て、火村に手伝われながら風呂に入れられ、パジャマを羽織って、一息ついた後だ。アリスの怒りがそう爆発した。
さすがに調子に乗りすぎたと、アリスの悲惨な様子に反省しきりであった火村にはかえす言葉もない。
「――スマン」
「すまんで済むかっちゅうんじゃ!――はよ、鍵!俺の家の鍵っ!かえしいっ」
怒りに頬を紅潮させ、手をつき出してくる――本気のようだ。おまえだって、よがってたじゃねえか、などという言葉ではごまかせそうもない。だが実際、ヨかったろうに、とも思う火村だったが。
「――イヤダ」
「返せっ」
「いやだ」
火村はアリスにまけないほど強く見つめ、いやだ、とだけ繰り返す。火村だって必死だ。
「すまねえっていってるじゃねえか。なあ、アリス、なんでも――」
「――なんでも、俺の言うこときくか、火村?」
火村が肯くと、アリスはしばし目をさまよわせた。
「……そうやなあ、君も、俺の苦労一度味わえばいいんや」
アリスの思いつめたような視線にたじたじとなりながらもとりあえず頷くしかない火村だった。
2週間のち、火村の携帯がなった。
「……覚悟はできてるぜ」
『そうか。あのときとおんなじとこで、7時にまっとる』
常とは違った抑揚の乏しいアリスの声に、深いため息を付き、火村助教授は通話を切った。
*
あのホテルは会員制で紹介なしには予約も取れないというものなのだ。アリスに問い詰められ、火村は会員証を取り上げられていた。
<高価いんだぜ、あれは>
トータルすると、入会金も入れればうん十万だったことを、問われて教えてやると、アリスは呆れ果てた目をしていた。
<なんつーアホなまねすんや!なんでそんなにするん!?>
<……つかったものはみんな買い取りだしな。ああいうのは貴族趣味なんだ>
<買取?まてや、火村、きみ……じゃあ、あれ>
<もう、二度とつかわねえよ>
<持ってるんやな?――みんな俺に渡しい>
*
待ち合わせ場所にゆっくりと歩いてきたアリスは紙袋を抱えていた。
「おい、それ――」
「うるさい!行き先はわかっとるやろ。早く車出せや」
はああ、と火村はため息をつく。アリスは一体、どうするつもりなのか。まさか、自分を――するつもりではないか?
(かんべんしてくれ)
ホテルにアリスと向かっているのに、気が重い火村だった。
アリスは部屋に入ると、眉間に皺をよせたまま、火村をじっとみて、脱いでくれ、と言った。
黙って火村が服を脱ぐ。
火村の裸体が煌煌とした電気にさらされるのに、アリスはいやそうな顔をして照明をほのぐらいものへとかえた。
(どうにでもなれ、だ、ちくしょう)
「そこに座って、ちょお、まっとれや」
「床に座れってのかよ」
素っ裸で床に座りこみたくなどない。アリスはしろい目で火村を見つめ、顎で椅子をしゃくった。
「あそこに座っても俺はかまへんけど」
「――ここでいい」
ただのイスではない。拘束椅子なのだ。足を開かせて、局部を露出させざるおえない形に姿勢を追いこむだろう。そしてその正面には鏡が置かれている。自分のそんなところを眺める趣味は火村にはない。
床のマットの上に直接あぐらをかいて座りこむ火村にアリスは文句をつけた。
「偉そうやなあ、自分。正座しいや。君はこの状況わかっとらんの」
「どういう状況だよ」
「君は俺の奴隷やで! ええ!正座しとれ」
へーへー女王様、とでも憎まれ口をたたきたい火村だったが、ただでさえ逆上気味のアリスを煽るのはよくない。なさけねえなあと苦笑しながらも正座してやる。
「――ふうん、ほんまにここなんでも揃ってるんやなあ」
器具コーナーでごそごそなにか探していたらしいアリスは目当てのものを発見できたらしく、そう呟いた。手にそれらと、紙袋から取り出したものを持ち、いよいよ火村に近づく。
「膝崩して、脚開いて――ちゃう。そーやなくて、おしゃんこ座りで尻浮かせていうとるの」
「まじかよ、おまえ、そんな縛りする気か……」
アリスが本を手にしているので、気になり、火村がのぞきこむと、アリスの指示は一発でわかった。本にはイラストで図解がしてあり、ひもの結わえ方まで指導されている。
アリスは本気だった。持ってきた1メートル弱の鉄棒の両端についたベルトをまず火村の足首にがっちり巻きつけてしまうと、本をのぞき込みながら、火村の手をそれぞれ棒に結わえられた足首に重ねるようにして縛る。
「フフ!ええかっこやなあ、せんせえ」
「アーリースー」
「けっこう楽しいわ。こういうん」
アリスは火村の緊縛が完成すると、数歩離れて火村の格好を眺めた。
火村は、尻の下に通された棒に脚を両外に開かれて縛り付けられている。手も足首に結わえられているというほとんど身動きならない状況である。――もっと分かりやすく説明するならば、正座して、自分の足首の右足を右手で、左足を左手でつかんで欲しい。それで足首と足首の間が、大きく開かれている、という姿勢だ。(やってみて頂ければ火村の苦しさは推察がつくでしょう)
そもそも、男には、正座して両外に脚をくずすぺったん座りすら苦しい。尻は当然浮いて床になぞ苦しくてつけない。バランスを崩したら、顔から前に倒れこみそうな不安定な姿勢だった。
アリスは、歪む火村の顔を両手で包んでのぞきこんだ。顔を近づけて、笑ってやる。
「動けへんと、なにされるかコワイやろ?――脚ひらくんも、大変やって分かるし」
「――こわかねえよ。おまえだからな」
「そうかあ? いさぎええな、君が俺にしたくらいは仕返されるん覚悟しとるって訳や?」
「……ちょっと、それはな、アリス」
「スタンダードなとこにしよ」
アリスはここへくる前までの憂鬱そうなおもいつめた様子から一変してあまりに楽しそうだ。
(あああ………)
懊悩する火村の様子をくくっと笑い、アリスはいそいそとそれをとって戻ってきた。黒い皮ひもの集合。バラムチというやつだ。先が細かくわかれ、ばらばらと打つのでバラムチというのだそうだが。
「こわい? 火村センセ? なあ」
「…ムチじゃねえか、お前本気でそれ……――うあ」
ひゅんっとアリスの手に振られた鞭がうなった。まだ当ててもいないのに、かすめるようにしなった鞭が、火村をすくませる。
ふくみ笑いを漏らしてアリスが火村の後ろに回る。火村は振り向きたくても、振り向けない。いささかじっとりと嫌な汗が伝った。
火村の背中をアリスの手が撫でさする。頬を肩に寄せられ、耳元で、ほんまに打ってもええ?と囁かれる。その声にぞくりと甘い刺激を感じて火村の肩が震えた。
火村の背中は滑らかでアリスの手に馴染む。ゆっくりと撫で下ろし、その感触を楽しんでから、アリスは手にしたものをふるった。
火村の背が震える。軽く打ったので、滑らかな背には鞭のあとが赤く付いてさえいない。右肩から中央へ鞭の当たったあたりを手でなでてなんともないことを確かめてから、今度はもう少し強くふるった。
「――っつ」
今度は赤くあとがついた。浅黒いしなやかな肌に赤い線が浮かび上がってくる様子は、妙に色っぽく思えて、もう、二度、三度とアリスはつい鞭を当ててしまった。
「いてぇな――」
「ん――赤くなってて、――キレイや」
鞭は放り出して、火村の背に顔を近づける。指でそっと赤い鞭痕をなぞりながら、唇を落とした。ひどうしたかな、という思いも手伝って、そこかしこを舌でなめ慰める。
「アリス――」
「気持ちよかったん?火村」
「……ばかやろう、こっち向けよ」
背中から正面に回りこんで、火村のおきあがっている熱に気付きアリスは頬が赤らんだ。火村は苦笑している。
「キスしてくれないか――アリス」
「う…ん、ご褒美やで……」
そうだ、火村は、いま自分からキスもできない――アリスは火村の頬をそっと手ではさんでその唇をついばんだ。
「――好きなようにしていいぜ。ほんとに、俺、あのときは酷かったな」
「そやな――俺、なんてやさしいんやろおなあ。思い出したで!もっとしたる」
ついこのまま許しかけていたアリスは、火村の言葉でようやくことの原因を思い起こした。
予定していた通り、手順を進めることにする。
「君、熱いの苦手やもんなあ〜、猫舌やし」
「舌がよわいんであって。それとなんの関係があるんだ、アリス」
アリスは赤いロウソクに火をつけていたのだ。赤いロウソクはロウが溶けたときの温度が低く、もちろん肌に垂らして安全に愉しめる程度のものだが、熱いことは熱い。
指で触ったアリスには、なんということのない熱さに感じられたが、首筋や腹、乳首やら腿の奥にそんな物をかけられている火村にはたまったものではない。我慢できずに止めろとわめき、身悶えてしまう。
「ええ〜、平気やろう、熱くないやん、そんなに」
「っばっかやろっ――だいたいなあ!そういうのは、立ったほうが、寝てる奴とかに上のほうから垂らし落とすだろっ、そうしねえと火傷するんだって!」
距離を開けて垂らせば、空中をロウが落ちる間に少しは冷める。アリスは火村の傍らに自分も膝をついて、ロウを落としていたのだ。心配げに固まったロウを指でこそげとって、火ぶくれとはいかないが、ひりつく赤さの火村の肌に済まなそうな顔をする。
「ごめんな、へいきなん、火村」
「――なめてくれよ、ひりひりする」
ちろっと鎖骨のくぼみに唾液をなするようにして、アリスがいわれたとおりにした。胸元のもロウをこすり落とし現れた赤い皮膚に舌を這わせてくれている。
「そこのも」
腿の奥――火村の熱のすぐそばに一筋たれた赤いロウは、指でこすり落としただけでキスしようとしなかったアリスにすかさず火村が声をかけた。
「うっ……」
口篭もって顔を赤くしていたが、その部分の皮膚の赤さに、アリスは仕方なさそうに身をかがめて、火村の脚の間へ顔をうずめた。舌でていねいになめてくれている。
火村のムスコがぐっと張り詰めた。つい、そのすぐそばにあるアリスの上気したピンクの頬に、それをすりつけてしまう。
「うわっ、君いきなりなんちゅうこと……」
怒って顔を上げたアリスの目を、火村は目を細めてのぞきこみながら、
「我慢できねえよ。アリス――お前だって辛くねえのか、キツイだろ、ジーンズじゃ」
もうこれ外してふつうにやろうぜ、とアリスの耳元で火村は囁いた。
「このまんまじゃ、ヨクしてやれない。――それとも、アリス、コレどうにかしてくれるか」
コレ、の様子にアリスは目をそむけた。そのアリスの仕草にもうひと押しと、つい、火村の口が滑った。
「なあ、外せよ、アリス――可愛がってやるって」
普通の時でさえ、可愛がってやる、などと言われるのをいやがるアリスだ。
「〜〜!!そおか、ええわ、可愛がって?」
アリスはすっくと立ち上がった。火村の顔の前でズボンの前ボタンを外し、チャックを下ろして自分を引き出す。
膝立ちのような高さの火村の前に立つとアリスの腰はちょうど火村の顔の位置だ。
両耳をつかまれ、目の前にアリス自身をつきつけられて、さすがに火村はたじろいだ。
「可愛がってくれるんやろ?ひむら……しゃぶってえ」
ぐっともうたちあげっているアリスのそれが唇に突きつけられる。
なかなかすげえ状況だな、と口を開いてアリスのそれを口腔内に吸い入れながらチラッと火村は考えた。この体勢――手足をまとめて縛られ、ひざまずかされたうえ、目の前に腰を突き出されて、ソレを咥えさせられる、とは。
「ふっうっ――ひむらあ」
手で支えることができないので、顎も疲れる。それでも、きつく吸ってやるとアリスが鳴く。夢中になったアリスは、火村の息苦しさなど考えもせず、火村の頭を抱え込んで、腰を押し付けてくる。
「う、ううんっ」
喘ぎながらアリスが、自分を咥える火村の顔を見下ろしてくる。
「アッ!」
アリスが短く声を上げ、腰を引いて達した。
「あ…ひ、ひむら……」
火村の口元、細く通った鼻筋、頬に白濁した雫が飛び散っている。
「……顔に出されるとは思ってなかったけどな」
「ご、め……あ、」
あわてて火村の顔を拭おうとするアリスに、火村はひょいと唇を重ねた。アリスの頬にもそれがつく。
「あ、だめやって――うっ」
「いまさらだ」
目を細めて言った火村に、アリスはとにかくあわてて火村の顔をぬぐう。アリスの頬についたのは、火村がなめとってしまった。
「ひむらあ」
アリスが我慢できなくなったように火村の肩へ抱きついてきた。はずせよ、これ、と火村が囁く。
「イヤ。外してやらへん」
「じゃ、どうすんだよ、アリス」
意地になっているらしいアリスに火村は苦笑する。火村を欲しがっているのはもうはっきりしているのだが。
アリスはジーンズを脱ぎ捨て、火村の膝の上にまたぎのった。
「アリス――」
「んっ」
潤滑剤を自分の指でそこに塗り付けだす。火村は自分の膝の上でそんな作業をされ、手を出せないもどかしさにじりじりしてくる。したさに、火村はもう一度、はずせったら、と繰り返したが、アリスは首を振るばかりだ。
アリスの淫靡な姿に見入っていると、自分のものに今度はアリスの濡れた手が絡んできた。火村にも潤滑剤を塗りつけてから、アリスはようやく火村のものを自分の後ろに導いた。腰をそろっと落としてくる。
「ふぁ…あ、んん……」
熱く湿っていてきついアリスの中に呑み込まれる感触は酷くよかったが――腰さえゆすってやれない状況は火村には不満だった。
「んん……あ、あ、ん……」
かすかな喘ぎをもらしつつ、アリスはゆっくりと腰をゆらめかせる。火村がおかしくなるほど、ゆっくり、ゆっくりとした動きで、少しずつ高まっていく。
「もっと、うごけよっ、アリス」
「イヤ…あ、あ、」
アリスはその動き方から、激しくならない。まだ一度も出していない火村は早く極めたくてもどかしく、イイのだが、辛かった。
いくらよくても、ほんとにツライということもあるのだな、と手足の痛みともどかしすぎて、気が狂いそうな快感の中、火村は思ったのだった。