新年会

 

 

あ〜あ、やあーやなあっ」

むしゃくしゃと呟く。

独り言、というには大きすぎるそれ。「なぁにが、アリスちゃ〜ん、やねんなっ、きしょいっちゅ―ねん」足元がふらつく。新入社員は、ツライ。

 

呑まされるだけ呑まされて、へらへらへらへらして。笑いをとるのは嫌いじゃないが、嘲いをとらねばならないのは…いくら20代の若造だって……ぎりぎり、と歯をかみ締めて、「あ〜あ!」ともう一度大声をあげる。

大学を卒業し、就職したはいいが、これがなかなか日々しんどい。最初は仕事に夢中な分、ストレスすら感じる間もなくそれなりに充実してさえいると感じていたのだが。

ただでさえ、仕事は忙しい。定時で帰ることなどできない。そのうえこのシーズンは飲み会がとかく多い。……書きつづけている、小説の続きは一向に進まない。そのうえ、名前が名前のせいか、アリスは絡まれることが多い。また酔っ払いというものはシモネタホモネタが好きなものだ。

あまり嫌がるのもへんだから手ぐらい握らせて、ちょっとはノッて笑いをとってもやるアリスだが。結局彼らの本音は自分より目下のやつをいたぶってストレス解消しているのだから……。

「おれは女のコやないっつーねん、触るなちくしょう……」

触っていいのんはな……と、続けそうになって、よっとる、そうとう自分は酔っていると我にかえった。

まだ駅。

一応、もより駅で、やっと先輩様方から開放された後とはいっても、まだ会社の人間がいるかもしれない。大声でぼやくなんて、イカンとおもいつつも、言わずにはいられないのだ。

いちおう、自分には目標があって、これが天職と思ってついてる職業ではなく……。自分はやっぱりこういった職には向いてないのだ。

ああ、机に向かって書いてたころが…もう、懐かしい。それを、のぞいて、読んだやつがいたっけ。だれだ?なんて……それをきっかけに付き合い出していまでは友人をこえたおつきあいの火村が。

「……!」

「よぉ、遅かったじゃねえか……」

ようやくたどり着いた部屋の前に火村がいた。ずいぶん、ここでまっていたのだろう。不機嫌な声で、待ちかねてつかれきったようにぶすくれて、アリスの部屋のドアをふさぐようにもたれて、立っている。

「なんや、君っ、……寒かったやろ」

「なにしてんだよ、こんな時間まで、飲んでたのか」

文句を言う火村にアリスは微笑んだ。はよ、と促し、開けたドアの中に押し込む。そしてぎゅうと抱きついた。ごめん、とありがと、を続けてささやく。

声がみっともなく、かすれていた。

「……」

どうしたんだ、とたずねるように、ぎゅううと火村が抱きしめ返してくる。……ただ単に寒かっただけかもしれないが。

「君のこと…思い出しとった……」

「会いたかった、っていえよ」

「そういうわけやないもん……」

なんだよ、会いたくなかったってのか?ととたんに不機嫌になる火村の口をアリスは塞ぐ。逃げ場にはしたくないとか、こんな落ちこんどるときに会ったら八つ当たりしてしまいそうで、嫌だったとか…だがいろいろ考えて、連絡も途絶えていたのが、馬鹿みたいだと、思った。

火村の顔を見た瞬間、それこそ、なにもかも、どうでも良くなってしまった。この、あんまり人には言えない関係を社会人になって続けていてもいいのか……とか。

「あっ」

背広をはぐって、ズボンからワイシャツを引き出しそのすそから火村の手がアリスの背に這った。痛いほど冷たい火村の指がアリスの背中をキツクこする。

漏れてしまった声が弾んでいて、アリスは唇をかみ締めて火村の肩に顔をうずめた。そんなアリスにお構いなしに火村はアリスの頬から耳元へ濡れたキスをしかける。

その感触のあまりのいやらしさに、うっとアリスはうめいて、火村の背をどついた。アリスの抵抗を笑うように火村は反応したアリスを指でたどって、思い知らされる。そこを触られると反抗の仕様もなくアリスはそのまましがみついて、続きをせがむ。

あまり、ゆるさないキスと抱擁とそれ以上をあわただしく許し、それでも温まりきらなかったからだを、アリスがねだって、風呂に縺れ込んだ。

 

狭い浴室、バスタブは小さくて二人がとても入るような余裕はない。溜めた湯の中に立ったまま、熱いシャワーを二人で折り重なって浴びる。

暖かいしぶきの中で目を開けると、自分を見つめている火村とアリスは目が合ってしまった。「アリス…」

「火村、ここ……」

火村の肩を引き寄せていた腕を伸ばし、ざらりとその頬をなでる。

「ぶしょうひげ……」

「ん」

気持ちよさそうにお湯の中で火村が眉を寄せる。いったりきたり頬を行き来するアリスの手をそのままに、火村の手はお返しのようにアリスの背から…下のほうまでを撫で下ろしている。

「…っ、な、あ、剃ったろうか…?みっとも、ないで」

「ワイルドでカッコイイっていえよ」

「あほ…なあ」

「ああ、じゃ、頼む」

どこかいたずらっぽく笑い、火村は、浴槽に腰をおろした。その上にまたがるようにアリスも腰を下ろす。そういうことをしていないのに、まるで接合中のようなカッコウにアリスはくらくらとしながらも、シェービングクリームを火村の頬に塗りつけ、そっと安全かみそりの刃をあてがう。

「…あっ」

背骨をたどっていた指がアリスの合わせめにそっとあてがわれ。アリスは声をあげ、火村をにらんだ。

火村の頬に刃をすべらせるアリスの動きと同じくらい、火村の指はそろそろとアリスの中を確かめた。

「いたずらすんな…あぶな…い……」

「いたずらじゃない。おれも、綺麗にしてやってるんだろ?」

奥まで指は入り込み、いよいよ快感を掻き出すようにうごめいている。さっき、シャワーで、流しきれなかった火村のものが奥からあふれてくるようで、アリスはその熱さにうめいた。

「あっ、あっ……火村っ、ひむらっ」

ひげそりはあきらめてしまったらしい。さっきから、ぴくぴくと力のこもるアリスの指先にひやひやしていた火村はアリスがあきらめ剃刀を手放したのにほっとし、アリスを、抱え起こした。

「ここじゃ、のぼせる、ベッドでな」

「ん、んっ…」

可愛くうめき、火村に抱えられるままのアリスが、浴室のドアを出たらくつくつと笑った。

 

火村は鏡に映る片方だけひげの剃られた自分の顔を、見なかったことにした……。