かつての日常 1
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――印象的出会い、の、2度目は、たしかその数日後、だった。
「よぅ、アリスガワアリス。その後どうだ」
「フルネームで呼ぶなや。ヒムラ君。……その後って?」
私のあやふやな記憶力では、定かでないのだが、たしか身振りで火村は私のノートと教科書の類とともにあった原稿の束をよこすよう要求し、さっさと私の手から奪い、歩き出したのだったと思う。座って、コーヒーを奢られたのだから、連れて行かれたのは喫茶店だったのだろう。
彼の行動にはなんだかすっかり慣れていた。とっつきやすいタイプではないのだが、妙に人を惹きつけるやつだな、とも最初から思っていた。
「アリス、思索に耽るの図、か?」
「そうや、ゆく年を惜しんどったんや」
「……そうか、邪魔したな」
なんやそのあきれ果てた顔は。むっかつく。酔っ払いのきやすさでげいんと火村の頭を引っぱたき、火村の手にしていたお猪口の酒に口を寄せて飲み干してしまう。
「あ、やったな、このっ」
「や〜や〜、呑ませんっ」
火村が私の手にしたお猪口に口を近づけるので向きになって抵抗し、もみあう。
「……なんだよ、おれのこと愛してんじゃねーのか・・」
「なっ、なにいってんねん、きみっ」
びっくりして動きを止め、思わずあたりをうかがう。そう、年越しを仲間でしようと集まって呑んでいるところで、ここは居酒屋。となりで酔って大声で遠くのやつと話しているのに聞こえなかったようだ、とほっと胸を撫で下ろしたら……。
「ひゃっ」
くくく、と火村が笑う。ぼうっとなった私の手のお猪口から酒をすすった上、ついでとばかりにひとの指を舐めていったのだ、こいつは。
「ひーむーらっ」
「三三九度のつもりかとおもったぜ」
「悪趣味な冗談はやめろっ。君酔うとるんか」
「な〜に、いちゃついてんだね!?きみらはっ?」
あ、あほ、ほら言われてしまった。ミステリ研のカズくんががしがしと私の頭を揺さぶる。
「ひーぃ、ゆるしてぇな、カズくん。俺たち愛しあっとるんだもーん」
「なにぃ、許さん。おかーさんはアリスをそんな子に育てた覚えはあらへんよ!」
むぎゅーと抱きしめられて私は少し頬が緩んでしまった。ちなみに男の胸に抱き寄せられて喜んでいるのではない。カズくんは秋田加寿子といって女性なのだ、一応。
「アリス」
呼ばれて、にへらとした顔のままそっちを向くと……うわ、まず…こわ……。火村が険悪な顔しとる。こりゃまずいと、カズくんの腕から抜けて、火村に身を寄せ、「うわーんママがいじめるんやで、おとうちゃん」
ぽんぽんと火村が私の頭をたたき、さすがに苦笑した。いや……おれも、べたなことやっとるとはわかっとるんやけどな。いちおう。まあ酔ってることだし。
まわりは受けてくれたが、火村に苦笑され、カズ君に「はあー」とやれやれのポーズをされ、さすがに恥ずかしくなって、火村から離れた。ちっ、と火村はわざと聞こえるように舌打ちをする。
……君もたいがいしつこいな。おれは落ちへんて。ちょっとやそっとじゃ、な。……気持ち悪いとまではいわんけど、押し倒されるなんて思っただけでコワイわ。
触るくらいはオッケーだし、抱きついてもやるやんか。そんくらいで勘弁しといて欲しいなあ。ほんまに……。
また、思い出してしまった。そう、じつはこのわりに親しい、いやかなり親しい親友との出会いからさかのぼって物思いに耽るような、考えざる終えないようなコトを持ち込まれているのである。
「断われんから…始末に終えない……んや、も〜……」