「不意に耐え難くなる冬の日には。」
轟音を立てて貨物列車が通過した。ざあっと髪がなぎ、そしてまた反対の風に引っ張られる。私の鈍い視力には果てのみえない線路は、どこまでも伸びて、やがてぼやけて消えてしまう。過ぎ行く電車を眺めると決まって物悲しくなるのは…陳腐な事を思いかけて私は首を振った。
なんだよ、という火村の視線に、「さむいなぁ」とだけいう。
「ああ・・」
時刻表に視線を戻して彼は頷く。私は首をすくめると強張る指にさっき買ったばかりのタバコを挟んで火をつけようとした。
暖かい色がゆらめいてすぐに消えた。・・なかなか点かない。
カチカチとライターは着火音だけをたてている。だんだん苛苛してきて、唸りたくなる。
「…アリス?」
「あー。風が強うて、かなわんわ・・」
いいわけめいたつぶやきを飛ばして、かちかちとやり続ける。だんだん虚しくなってきた。
火村は私の目前でひょいとタバコを取り上げ口に咥えるとカチリと火をつけた。暖かな煙が上がる。
美味そうに一口吸うと、思わずぐうでなぐってやろうか、などと考えていた私の思案も知らなげに、その火の点いたタバコを差し出して寄越した。
思わずさしつけられたそれを貰ってしまう。
火村は、私が煙をくゆらせ始めるのを横目に、自分のタバコを咥えてやっぱり器用にそれに火をつけた。