DRINK


 

青学男子テニス部の使用コートには、悲鳴の非難の声が巻き起こった後だった。また、部内訓練ゲームのバツに乾特製ジュースが振舞われたのだ。

眉ひとつ歪めないで、平然と飲み干した不二を、ちょうど目撃してしまった越前リョーマは眉をぎゅっと寄せる。

リョーマは、再び蛇口に顔をよせて口をすすいだ。さっきからしつこいほどソレを繰り返すリョーマを、不二が笑った。

「また負けちゃったんだ、リョーマくん」

「・・・あと5球だったら、絶対ぬけるんスけどね」

相変わらず小生意気な口を聞く一年のリョーマだ。ふふっと不二は笑って首をかしげた。

「負け惜しみ?」

「――やな人ッスね、あんた」

「……どうかな。その倍あればたしかに決められるかな、君なら。でも英二はこういうことに馬鹿みたいに拘るから。試合よりも集中しちゃってたでしょ?」

「――ばかで悪かったッスね」

「うーん、君もそうだよね。英二と似てるよね、リョーマくん」

「俺、あんヒトほど、単純馬鹿でないッスよ?」

くすくすと笑ったまま、不二は答えない。子供扱いされていることに、だんだん不機嫌になっているリョーマは、不二から見ればそれこそお子様だった。

菊丸の方が、自分の可愛らしさも子供っぽさも逆手にとってワガママ放題であるぶん、ある意味大人でたちが悪い。

不二は歩き出した。リョーマがコートに戻ろうとするのを、いいものあげるからついておいで、という誘拐犯か変質者まがいの言い方でひき止め、手招く。

いいものにつられたわけではないが、リョーマは先輩命令に加えて、有無を言わせない不二の笑顔に仕方なく従った。

不二が向かったのは部室棟の入り口に並ぶ自販機だった。リョーマはファンタを買い与えられて受け取った。

「頂きます」

有りがたそうでもないが、リョーマは礼は述べて、缶に口をつける。一口、口にして、やっぱり顔のほころんでいるところが、不二からしてみれば可愛いのだが。

「口惜しくないんですか?部長に負けなの」

 リョーマはフェンスに寄りかかり、遠くへ視線を投げながら喋る。不二の明らかな手加減を責めるような口調だが、さすがのリョーマも不二の笑顔に向かっては言い辛いらしい。

「僕は手塚が好きなんだよ、好きな人に負けるのはいいの。だいたい、あんなマズイもの手塚に飲ませたら可哀想でしょ?」

「・・そういうもん?」

なんか違うんじゃない?という疑問をのせてリョーマが不二を見る。

「失礼じゃん、手加減て」

「そう?本気でも手塚は僕より強いよ?」

「じゃ、あんたが卑怯なんじゃない?」

「生意気なこという口はこの口かな?」

不二がリョーマの顎をつまむ。まじかで微笑まれ、さすがにたじろいで、リョーマは不二を見返した。不二は、たしかにきれいな顔をしている。東洋的な美人というのだろうか。中性的な柔らかな美貌だ。

こういうタイプって、じゃ、めちゃめちゃモテルんだよね……。

リョーマももちろんアメリカにいるときは、男女問わずちやほやとされたが。どちらかというと可愛がられているんであって本来の意味でモテていたわけではない。もちろん、純粋な意味で可愛がられていただけでもないが。

キスするような姿勢にもリョーマは慌てない。

「もしかして、経験あるんだ?リョーマくん」

「・・ムコウでね。アンタも外人にモテルでしょ?ナンカ迫り方がムコウのヒトっぽい・・」

「ウン。じゃぁ、いいかな、ほんとにキスしても?」

 リョーマは、目を閉じて、唇は開いて、仰のいた。重なった唇よりも、入ってくる舌のほうに意識が集中する。するりと這い込んでくる舌に応じさせられて、リョーマはうめいた。

重なったときのすばやさと同じですっと引き上げられ、リョーマから吐息が漏れた。

「あ・・」

リョーマは顔を歪めて、手にしたファンタを飲みこんだ。

「アンタねー・・味残ってるんスけど・・」

「はは。だからいいのかって訊いたじゃない」

「だいたい、いきなりシタイレってマナー違反」

「そう?そうじゃないキスなんて、僕はしたことないな」

乾汁はファンタと混じってえもいわれない不味さだ。しかし、不二の舌を介したそれは、感触とあいまって、怖いもの見たさのようにリョーマをそそのかす。こういうのって、なんだろう。好奇心猫を殺す、ってとこ?

自覚とうらはらに、リョーマはもう一度、今度は自分から不二を抱き寄せた。抵抗もみせずに、リョーマのキスを受け入れてさりげなく応じてくれるスマートさが、リョーマを嬉しがらせる。

「リョーマくん。それ以上すると困らない?」

「ンッ・・、っと、先輩、一緒にフケルっていうのは・・」

「だぁめ。早く練習戻ろうね。今度ウチお出で?」

力をこめたようでもないのに、不二が動くとリョーマの腕は簡単に解かれてしまった。不二はそのまま、テニスコートに向かって戻っている。

「俺も……まだまだだね」

 ふうっと溜息をついてその後姿を見送った。リョーマは、缶を殻にしてくずかごに放ってから、テニスコートに走り戻った。

            *

部活の終了の挨拶にリョーマは汗だくになって、座りこんだ。着替えに行く元気すら残っていない。慌てて戻ってみたものの、部長の待つ限界点に触れてしまったようで、同じく罰の乾ジュースを飲まされて、逃走していた桃城と二人、グランドを走らされた。

不二は同じく抜けていたくせに、部長の目にとまらなかったらしくランニングの刑は免れている。さすがに、付き合いの長さで不二には手塚が大目に見る限界の範囲というものがよくわかっている。

ムキになって走ったせいでかなりの体力を消耗した上、その後の乾のエグい練習メニューのせいで、くたくただった。

「越前、やたら張りきってんな?」

「そうでもないッス・・」

 リョーマのハイペースに引き摺られた桃城が、横にへばっている。

「あー、腹減ったよなー。なんか食って帰るか、越前」

桃城の言葉を聞き流しながら、リョーマは不二を目で追っている。練習中は、さすがにそんな余計なことには気を取られなくても、終われば、アレが忘れられない。

「欲求不満かな・・」

「越前?」

「なんでもないッスよ、桃先輩、じゃ、俺お先に失礼します」

「おーい、越前、ラーメンは?」

「・・また今度!お願いします」

越前は座りこんだままの桃城を残し、さっさと部室へ向かっている。取り残された桃城は、「だれが奢るって言ったよ」などと呟いたが、じっさいリョーマとなにか食べて奢ってしまわなかった試しがないので、本人にとってもその呟きは虚しい。

身体は疲れているのに、どこかでくすぶる熱が、焦燥感じみて、行動を促している。

男性諸氏ならば、お馴染みの感覚だ。桃城に言ったって別に構わないが、せいぜいがアダルトビデオでも提供してくれる程度の解決方法しか期待できない。

日本の肝心なところは全然映ってないそれでは、刺激に慣れたリョーマには、全然無駄でなんの役にも立たないのだ。

自分はタンパクだ、とリョーマは今まで思っていた。

とりあえず、やりたくて仕方なくて女の子追い掛け回す、などというみっともないマネとは無縁だったのだ。ムコウでは、そう言う場所に行きさえすれば、奢られ放題の、してもらい放題だったのだから、当然なのだが。

ティーンエイジャーがやるたいていの無茶はスポーツ第一優先のリョーマには論外だった。飲酒も喫煙もクスリも、体力を削ぐ。

じゃ、なにをして遊ぶか、というと身体には悪くないイケナイコトだったので、有態に言って、リョーマは年より、見かけよりも、あっちのことには場慣れしている。

「やっぱり、発散し切れない・・」

スポーツで解消しよう、なんてまっとう過ぎる考えに今日の部活を張り切ってみたものの、疲れた体が余計に性欲を昂進させているみたいだ。

着替えて部室を出ると、珍しいことに不二が一人で立っていた。だいたい菊丸か手塚と帰っていることが多いのだが。

頭を下げて、通りすぎようとしたリョーマに、不二は当たり前のように並んで歩きだす。

「・・もしかして、俺待ってたんですか、アンタ」

「ウン」

「今日、行ってもいいワケ?」

「いいよ?」

「それって、続きしてくれるってコト」

「ン? いいよ、したいならしようか」

不二はいつも通り平然とした顔で歩いている。さすがに、こんな日のあるうちの中学校の帰り道にするハナシではないよな、という思いに顔が赤らんでしまったのは、逆に越前リョーマのほうだった。

不二の自宅は、モダンな建築の2階建てだ。室内装飾はクラシックと前衛的な装飾品の入り混じるとにかく金はかかっているだろうこと、間違いはない。

2階の一室が不二の部屋で、かなり広い。ベッドはセミダブルの上に、造り付けの大きな書棚、小さ目のものだがクラシックピアノまで据えられている。

「これ、アンタの一人部屋?」

リョーマとて自宅にテニスコートを持っているし、裕福な部類の家庭育ちだが、不二の部屋は非常識なまでに金がかかっている。

「ピアノは飾りだよ?姉のはもっとちゃんとしたのがあるんだ。ここも防音だけどね。シャワーしてきちゃったら?そっちの奥」

「部屋にシャワーまで付いてるワケ・・」

「ああ、洋風建築だから。ここだけね。全部の部屋には付いてないよ。ほんとだとここが主寝室の位置でしょ?僕が使うことになっちゃって」

一緒に入ろうか?とにっこり訊かれて反射的にリョーマは首を振った。ついたての陰に入り、逃げ込むようにシャツを脱ぎ捨ててシャワールームに飛びこむ。

シャワーから出て、周到に用意されていたバスタオルを羽織って出ていくと、不二もシャワーを浴びてきていた。

ベッドに腰掛ける不二のそばに行き、途中になっていたキスをこころゆくまでリョーマは味わわせてもらった。

唇を合わせていると自然に手が恋しがっていた人肌を求めて不二の背中に回ってしまう。いままでは欲しがらなくても貰えていたから、自分から動くこと未経験で、リョーマはどきついている自分に羞恥しそうだ。

まだ濡れているリョーマの肌に不二の手のひらが這う。首筋を強く吸われてその刺激に肌が泡立つ。

不二の確実な動きに翻弄されながらも、リョーマは自分から求めることも止められそうになかった。

初めての交わりで、呼吸も合っていない上に、すでに頭の芯が発情に熱くなりすぎているリョーマでは、上手く快感が得られずに気持ちばかりが上滑りしている。

お互いの手がかちあったのを、不二が苦笑した。

「リョーマくん、慌てないで。逃げないよ?」

「ん・・っ」

不二はくすくすと笑いを漏らして、自分のバスローブをベッドのそとに押しやった。そのままリョーマをかぶさるように抱き伏せる。

「はぁっ」

ときときと脈打つ中心が触れ合って、全身に刺激を受けてリョーマは喘いだ。あせりすぎてたどたどしい触れ方で不二の背中からウエストを辿る。不二はやんわりと受け入れて、リョーマの好きなようにさせてくれていた。ずっとくすぶっていたもやもやを吐き出すように、不二にしがみついたままリョーマは身体を揺すって、果てた。

短い吐息を繰り返すリョーマの耳元を、首筋を、宥めるように不二は吸い上げて放す。

たりないでしょ?

囁かれた言葉に、リョーマは顔を赤らめながらもこくんと頷いた。

ベッドサイドから不二が取り出したのはチューブ入りの潤滑剤だった。

「リョーマくん・・」

 ベッドの上に座らされ、囁かれたうなづきに察して掌を差し出す。不二はそこへ透明なジェルを捻り出した。

 リョーマの掌からすくい出して、不二は膝の間の小さく尖ったリョーマ自身をたっぷり濡れた指でくるむ。冷たさに竦んだのは一瞬で、すぐに過剰なほど塗られた潤滑剤でぬめりながら擦り上げられる感触に恥ずかしいほど上ずった声が漏れた。

二度目の絶頂も近かった。まだ自分の手にもぬるつく粘液がのっていて、手の置き場もないまま、座りこんだまま、膝の間を不二の両手に攻められて泣いた。

達する間際に唇に舌を入れられて、歯も食いしばれなかった。口をあけて舌をからませながら行くとほとんど息ができず、苦しさと良さにボロボロと泣きながら声を上げる。

手指から潤滑剤が抜き取られても、座りこんだままベッドに突っ伏して快感に震えるリョーマは動けなかった。不二の熱く濡れそぼった指が、お尻のあたりをさまよっても、朦朧としていた意識が警告警報もださなかった。

緩み切ったガードにやすやすと不二の指は、リョーマの蕾にはいこんで、掻き回した。

「アッ、あ、あっ、やだ、ソコっ。あ、あ・・」

ダメだと思ったときには、中の男子共通の弱点が不二の指に探り出されて、突き上げてくる快感に嬌声が上がった。腿が瘧にかかったように震える。

「・・いい?」

いつのまにか股間を抑えてベッドに這いつくばるように顔をうずめた状態で、背中から不二に覆い被さられている。

耳もとで、ソコを噛まれながら囁かれた言葉に「ウーッ」という獣みたいな声でしか応えられず、ガクガクと頷かされた。

やがて進入される痛みとかけぬける強すぎる快感にリョーマは意識が遠ざかるのを感じた。

            *

意識が遠ざかったのは一瞬だったが、あまりのダルさに身動きする気力がなかった。不二がタオルを絞ってくれ、体を吹いて、ファンタまで用意してくれるのを黙って受け取る。

一缶のみ干すとようやく身を起こす気力が出来た。不二はリョーマの隣りでベッドサイドに身を起こして、テニス雑誌を読んでいた。

「……不二先輩、部長とは?」

「うーん?」

「それとも菊丸先輩ですか?」

「ん?気になるの?リョーマくん」

「・・いや、だって行きなりふつう・・アンタやたら慣れてるし・・」

「リョーマくんも好きだよ、好きだったらしたいでしょ」

「・・・俺には不味い乾汁のませたくせして」

「不可抗力だしあれは」

「くせになりそう・・」

最後の呟きはリョーマの口のなかだけで呟かれた。すこしぴりぴりするし、ちょっと腰にきていて、多少の後悔がないわけでもなかったが。その上、本当はアレは未体験ゾーンの快感でリョーマには、そこまでしてしまう気はなかったのだが。