不二周助はお好き
恋と毒薬編
by よるの
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期末テストの期間だけは、テニス名門校の青学といっても部活動は行なわれない。 自主錬だけでも、とリョーマは同じレギュラー陣に聞いてみたのだが、さすがに付き合ってくれるものがいなかった。桃城や海堂は一夜漬け派で、しかも赤点すれすれの教科もあるらしく、このときばかりはテニスどころではない、という普通の中学生ぶりだ。 越前リョーマも成績は優秀とは言い難い。ほどほどに出来ているという程度だ。が、本人にこれ以上勉強する意志はかけらもないらしい。 乾や手塚ならば、頭もいいし、ということで、2年部で相手を探せず、暇を持て余して3年部まで来たが、二人は口をそろえて「勉強をしろ」としごく当然なことをのたまった。 「あ、僕んちこない、リョーマくん。今日パーティしてるんだけど」 「不二。お前、勉強は?」 「いつもしてるから。特にテスト期間中も変わらないんだよ?」 手塚の突っ込みにも平然と応える。リョーマと手塚と乾は、廊下で話していたのだが、不二がその声を聞きつけて教室の窓から話に加わったのだ。 ぐいと窓から身を乗り出してリョーマの方に顔を寄せる。 「いいすけど・・テニスしたいっていったんですけど、俺は」 「テニスコートあるよ?」 ひき止めたそうな顔を手塚がしているのを横目にしながら、リョーマは頷いた。 あんまり遅くならないように帰るんだぞ、などという言葉を手塚が残した。 *
「パーティってなんの?」 「ああ、単なるホームパーティ。知ってる知り合いから、しらないのまでいろいろ。この時期はガーデンパーティなんだよね」 一応リョーマはいったん家に戻り、日本に戻ってからは着ることのなくなっていたドレスシャツとクロの半ズボンを身につけている。不二はエキゾチックな柄の立てエリの上に、下はごく普通のハーフズボンだ。チャイナっぽいシャツの裾は長くゆったりしているので、華奢な体つきが強調されて性別不明さに拍車をかけている。 ウェアでもないし、そんな気分もだいぶそがれていたので、一応フルセットでゲームはしたが、軽いテクニックの応酬で終始した。 決着もついてはいなかったが、日暮れてきて、照明をつけてまでやるほどのこともないだろうと、そこでうちきりにしてすでにライトアップされた不二家の庭園に二人は戻った。 食べ物はジャンクフードと本格欧風料理とが入り混じっている。ポテトチップの横に、氷のケースに並べられた牡蠣が、じゅうじゅうといい匂いを立てているシシカバブの横には、しまえびとホタテのゼリー寄せが並んでいる。かと思うと一角ではふつうのホームパーティそのままにバーベキューが設えてある。 たしかに見まわした限りでは、ホストもホステスもない、客もだれもごちゃまぜのパーティのようだった。アルコール類を作っているバイトたちが数人いるだけのようだ。 それでも不二がここの息子だと知ってはいるのだろう。声を駆けられては手馴れた様子で挨拶を交わし、不二はリョーマをエスコートする。 「アア・・やっぱり、目立つねリョーマくん。いちおう、気をつけてね。あのへんのヒト、目つき見ればわかると思うけど・・」 「ふーん。いるんすね、日本にも、ハイソなゲイ」 「……ま、業界のヒトには多いんだけど」 それだけ話す間にも、不二は目配せで呼ばれたり、手を振られている。 「いいッスよ?ずっとついてもらってなくても」 「ウーン。母さんと姉さんたちが出てきてないからね。いつもはそうでもないんだけど」 「……ムコウではパーティもあったし。もういっぱい食ったから、その辺で交ざってる」 耳慣れた早口の英語と、大柄な黒人が弾いているピアノに実のところ視線を引き寄せられていたのだ。 ここいい?とだけピアノを囲んで腰を下ろしている一人の金髪のタキシードに訊くと、片目をつぶって『もちろん』と言う答えとともに大げさにそのあたりの汚れを払うフリに、プリーズまでつけて促された。 口々に話しかけられるのへ、適当に応え、ピアニストからリクエストをせがまれて、リョーマは最近よく耳にする曲を口ずさんだ。 ピアニストは、にやっと笑うと、弾き始めた。 ガーシェインの中でも難曲のラプソディーインブルーだ。最近日本でもこれに歌詞がついてCMソングに流れている。 つづけてピアノはややメロウに魅惑のリズム、サマータイムあたりを奏でている。 あたり触りのない音楽についての会話が、妖しくなってきたのは軽いアルコールを勧められるままにのんで、リョーマの頬がほの赤くなってきたときだった。 夏の音楽は恋の歌が多い。 『惚れ薬ってあるんだよ』 『トリスタンとイズー?おとぎばなしだろ』 『あれは結局毒薬だったけどもね。でもいい線だ。そう、一口飲めば恋に落ちる安全で最高な奴だよ』 『ふーん・・』 『信じないの、ボーイ?』 『まぁね、それこそ、毒薬でもなきゃ、そう作用しないんじゃない?』 『試してみる?』 二〇代後半くらいの、嫌味なくらいスマートな男がリョーマを覗きこんだ。胸ポケットから手帳を引き出し、その隙間の紙包みを指に挟んでひらひらとウェイターを呼ぶ。 「レシピね。OK? コレドオリ、OK?」 ふう、とリョーマは溜息をついた。やばいクスリを勧められるかと思ったがどうやら違う。これは単なるやたらとキザなくどき文句だったらしい。 しかしオリジナルカクテルのレシピを持って歩いている男とはぞっとしない。唐突に惚れ薬が・・などといいだすから何事かとリョーマは思っていたが、要はこのタイミングで自分のカクテルのレシピを出して飲ませたかったのだろう。 『さあ、恋に落ちる魔法の媚薬だよ』 『ぞっとしないね』 『しぃ、嘘だと思って、飲んでご覧。静かに、目を閉じて、ゆっくり・・』 ピンク色のカクテルは甘く、ほのかにオレンジの味がして飲みやすかった。不味かったら飲んでやらないつもりだったのだが、とりあえずそのグラスを飲み干してしまう。 『まだ目を開けないで・・そう、体が溶ける、手足には力が入らない、まだ目を開けないで・・開けたら、恋に落ちてしまうよ、落ちてしまうよ・・』 唄うように囁きかける「――fall in」という繰り返しがだんだん遠ざかって聞こえる。
リョーマが自分の体の異変にマズイとふと思ったときには、その体は力を失って男の広げた腕の中に落ちていた。
意識はぼんやりと霞がかっていたが、続いていた。ただ男の腕に逆らうほどの力を込めることができなかった。抱えられるようにして、だんだん人のいない方へと連れこまれる。 『さぁ起きて、これを嗅いでごらん、ほらゆっくりと息を吸いこんで』 差し付けられるビンからはプンと刺激臭が漂っている。吸いこむと、即座にそれがやばいものだということは身をもってわかった。 カッと熱くなる体。気だるく力の入らなかった体が、ひどく熱を持ち始める。 『よく吸って・・そして私を見るんだ――リョーマ?』 「その辺までにしておいてもらえないかな、ミスター。それは貴方の趣味には子供過ぎるんじゃない?」 「アア、シュウスケ」 リョーマは目を閉じたまま二人の会話を聞いた。しつこくリョーマの頬を這いずっていた手は意外にあっさりと退いた。 『タイムアップだね残念・・また今度?』 「NO・THANK!!」 「リョーマくん、平気?」 「ちょっと・・ドジっちゃったかも……」 声が震えるのが判る。体がふつふつと焼けていくように熱くなる。目を閉じたまま、リョーマは不二に抱きついた。 不二が溜息をつく。
促されるまま、不二の胸に顔をうずめて歩いた。 奥庭の外階段は不二の部屋に続いている。ようやく庭園の騒々しい喧騒から逃れられてリョーマはほっと息をついた。 不二の部屋でベッドサイドに腰掛けさせられ、不二が離れていこうとする。目をひらけない状態では不安で思わずそれを退きとめた。 「……目、どうかしたの?」 さすがに不二の口調が険しくなる。自分でも何故ひらかないのか判らず、リョーマは口篭もってしまった。 「どうしたの?開いて見せて」 「・・・やだ」 「ああ・・ホレグスリ?大丈夫だよ」 「嫌だ。いいよ、クスリが抜けたら目開けるからっ」 「・・抜いてあげるから、目を開けて。あれは一種の催眠暗示なんだよ。カクテルの中に入ってたのは、向精神薬の睡眠剤と聴覚刺激を過敏にする成分。これを酔った人間に服用させながら、刺激語を口にすると、だんだんそんな気分になって来る。ね?種をあかせば怖くもなんともないでしょ?」 あくまで合法ドラッグだが、アッパー系とダウン系を一緒にしたクレイジーカクテルのこの効用にもっとも早く気がついて、最初に散々悪用したのは不二なのだ。 「大丈夫、いいよ、目を開けて、リョーマ。いいじゃない、僕に恋に落ちたとしても。ほらキスしたら開くでしょ?」 不二の猫なで声に首を竦めてリョーマは首を振った。血の気を失って青白い瞼はそれでも開かない。不二はリョーマのその顔にゆっくりと近づけて、涙のたまった目尻を舌でなぞった。 「――・・!」 絶対に開くものかとリョーマは唇を噛んだが、耳もとでそう囁かれながらベッドに横たえられると、瞼が開いていってしまう。 開いて、不二を映し出したリョーマの目は口惜しさに涙で潤んでいた。 なんだか、ぜったいにまだおかしい。頭がふらふらして、いわれるがままの状態だ。 「・・体がアツイよね、ほら」 「あっ、あっ・・」 いわれただけでリョーマの体はほてりを増し、熱さに耐えかねた喘ぎが口を突いている。 「僕が好き?欲しいのかな」 「んっ・・」 リョーマはゆっくりと頷いた。まだ震えの残る腕をさしだして不二の頭を抱え込む。 「じゃあ、いきなりココでも平気なんだ」 いいながら、キツイ動きで不二が下肢を弄る。酷い仕種なのに興奮し切ったからだでは拒むことが出来ないし、ココロもなにかに縛られていやだ、と思うことができない。ただどうしようもない胸の痛みに涙が零れる。 「リョーマくん、入らないよ、それだと。脚を抱えて?」 「はぁ・・やぁ」 やだやだ・・と思っているのにそう思えば思うほど、不二の言葉に逆らえない、という焦燥感が増す。リョーマは片方づつ膝を抱えて、不二のいうとおり脚を開いた。リョーマの紅く脹れた果実が不二の前にさらけ出されている。それには触れもせず、自分とリョーマに潤いを与えただけで、不二はゆっくりと挿入してきた。 ほぐされていないソコは、不二を締めつけてなかなか入らせない。それでも不二はゆっくりと押し開いて身体を進めていく。 「気持ちがいい?すごくキツくなってるよ…」 「・・っ!やっ」 耳元に囁かれた言葉に、どくんとリョーマが反応した。蠕動したそこが不二をみずから呑み込むように受け入れる。 「・・・・リョーマくん。ほんとうに気をつけた方がいいよ。君、この手の暗示に弱すぎる・・っ」 こらえ切れない、というように不二が笑った。忍び笑いがくすくすという笑いに変る。奥の奥まで入っているそこから笑い声が響いて、リョーマはそれどころではなかった。リョーマに深く指し入れたまま、その腹の上で不二が身を震わせて笑うたび痙攣が走るような感覚に悩まされる。 リョーマにしたら災難以外のなにものでもないこの状況を一因を作った男に笑われて面白かろうはずはない。薬のもたらす暗示のせいで奇妙な恋しさの募る中、ふつふつと滾る怒りも降り積もっている。 それでも不二の言葉通りになってしまう体に、リョーマは夏の長い一夜を散々に弄ばれて過ごす羽目になったのだった。 |