「情事後」

 
 

 重く垂れたカーテンの端が白んできている。わたしはぼやけた視界のすみで、縋るようにその光を見つめた。そろそろ終わるはず、・・いや終わったのか。

 彼をみればはっきりとするのだが、わたしの目は恐ろしさに白い光を追うばかりで、それを見ることがどうしてもできない。

 ギシとベッドが弾んだ。

 広いベッドの端に身を起こして座る背中が見える。真っ白い冷たく磨かれた大理石のような背中に一筋の朱線が走っている。

 挿入って来られたとき、珍しく両手を抑えつけられていなかった。そのために、私が刻んでしまった微かな抵抗だ。

 憎しみさえ込めて抹消線を引くように掻いたそれに、メルカトルは顔をしかめた。

 胸が一瞬すっとしたのもつかのま。

 引き裂くように、その雄大な凶器を、すっかり両脚の間に押しこまれ、わたしがうめくのと同じに、その指を取り上げられた。

 力を込めているようにも見えなかったが、中指を挟まれ曲げられると激痛が走った。かんたんに折られてしまうような痛みに全身をのたうたせて暴れると、メルは楽しげに腰を使い、二度三度と指を歪曲させられた。

 涙を浮かべて許しを請うてしまった私にやさしく頷いて、メルはその指を離した。ほっと力を抜いたとたん次の指をそっとつかまれた。

 泣いても喚いても止まないそれは、同じことを十指全てに丁寧に繰り返され、その上でようやくその拷問以外の何物でもない愛撫は止んだ。

 指は今も痛い。これではしばらく仕事にならないだろう。

 わたしはしがない小説家をしている身である。指が動かなければ仕事にならない。しかしその前にしばらく起きあがれるかどうかも判らないが。

 メルカトルは立ちあがって出ていった。

 残されたのは使い物にならない残骸のようなくたびれ果てたこの身体だけだ。

 こらえきれない嗚咽を意気地無くもらして、わたしは豪奢なベッドに起きあがった。全身にはしる痛みに、涙が滲む。情けなさを通りすぎて憐れを催すとでも、メルカトルならば言うだろう。

 下半身はほんのちょっとの力を加えるだけでも、激痛と痙攣を起こした。腿は強張って震え、おびただしい精液の白濁に毒されて痺れている。

 それでもなんとか半身を起こした姿に、ようやく自分の身体からさらない痛みの原因を目撃して、わたしは目の前が赤くなった。激しい屈辱と怒りにメルカトルの名を呪詛さえこめて叫ぶ。

 醜悪な男性自身を模した玩具がそこには置き去りにされている。

 ジンワリとこみ上げる涙を激しく瞬いて散らし、自分から尻尾のようにのぞくコードを掴もうとした。砕けるほどに苛められた指がままならず空を切る。

 癇癪を起こして喚き、口を極めて悪罵をつく。

 「うるさいな。なにを喚いてるんだ」

 幾何学模様を彫刻された重々しい扉がひらいて、メルカトルという人間らしいところの一つも無いこの人非人に相応しい名前をもつ男が入ってきた。

 わたしは押し黙り首を振った。

 無思慮にも、声を上げてしまったことへの後悔に青ざめる。

 「なんだい、云いたい事があるならはっきりいい給えよ、美袋くん?」

 「・・なんでもない、放っておいてくれ」

 「そうもいかない。辛そうじゃないか?どうして欲しいんだ」

 私は肩を震わせて俯いた。メルカトルの浮かべているだろう涼しい笑みを目撃してしまったら、きっと私は喚きさらにみっともないありさまをさらすだろう。

 ただ彼が用の済んだ私にいつもどおり興味をなくし、背を向けて部屋から出ていってくれることだけを願う。

 だが虚しく彼の足音は近づいてきてその指は酷く優しく私に触れた。

 「辛かったのかい、美袋くん・・」

 笑いをひそめた声が耳もとに落ちた。私はただ俯く。だれのせいだ、と開き直れたらどんなにいいだろう。

 「ああ、指が腫れている。可哀想に。冷やして置くといいよ」

 「・・ふざけるな、メルっ」

 「ふざけてなんかいないよ。ほら、ココもどうしたの?抜かなくていいの?」

 ぐいと押しこまれて私はうめいた。同時にスイッチの入ったそれはわたしの腹の中で暴れまわる。ベッドの中にもう一度倒れ込み、丸くなって震える私をメルカトルは心底楽しそうに見ている。

 「きっと切れてるからちゃんと治療をすべきだよ。ちゃんと病院へ通い給えね。使い物にならなくなったら、困るだろ?」