「明かりがなくてもできること」喜多×犀川

            

 

 学生時代のある日のこと。

 

ビデオを観よう、ということで、喜多は犀川の部屋に来ていた。今年話題の映画で、喜多はわくわくとしていた。本日レンタル開始で、いかに面白そうな映画かということを熱心に犀川に向かって話す。彼の心ない友人は、「ふぅん」と云った。一緒に観よう、というといいよと応えてはくれたが、「面白いの?」と訊かれる。・・ちなみに主演はSという女優だ、と付け加える。実は犀川がその女優をわりに好きな事を喜多はしっていたのだ。「へぇ」

というような経緯をへて、本日両親ともに出張で出かけている犀川のへやへと喜多は来ているのだが。

テレビは点けられていなかった。画面は暗い。画面どころか部屋も暗い。テーブルの上には直径5センチのクリスマスキャンドルが季節はずれに光っているだけだ。

なぜこんなものが犀川の家にあるかということをまず疑問に思った喜多だったが、どんな人間にだって相応しくないモノの2,3個持っているものだ。だいたい、懐中電灯がないのが信じられないが、それはただ単に犀川が在り処を知らないだけなのだろう。

外には嵐が吹き荒れている。

午後から雨、風雨は強くなるでしょう、ということで警報も出ていたのだが、雷一発で停電してしまうとは、予想外だった。

 

「どうしようか」

「今帰るのは危ないと思うよ」

「・・帰させる気か、創平」

「危ないと思う、と言ったんだよ」

「ビデオが観れないなってさぁ」

「そのうちつくだろうけど」

まだ本来は日のある時間のため、厚い雲に覆われていても外はほの明るい。そんなわけで、キャンドルをごそごそと探してきた犀川が明りを灯した。

「暇だよな〜どうしようか?」

「どうもしない。じゃんけんでもする?」

唐突な提案に喜多は首を傾げるが、犀川の動作に合わせて自然にチョキをだした。犀川の勝ち。

「じゃあ、コーヒを淹れるのは喜多」

「なんだよ、最初に言わないの卑怯だぞ」

「ひまつぶしだから」

「理由になってないぞ、創平」

ぶつぶついいながらも喜多はコーヒを入れる。カップについで持ってきながら、喜多はにやりと笑った。

「創平、あっち向いてほい」

「あ・・」

「……意外ととろいよね、お前」

うるさいな、と決まり悪げに喜多の指につられて右を向いてしまった犀川はそっぽを向く。

コーヒを手渡しながら、フーフーして、と喜多がふざけた。

「引っ掛かったから。俺の為にコーヒを冷ますこと」

素直にコーヒを二つ受け取り、仕方なさそうに息を吹く。その様子が犀川の顔を子供っぽいものに見せて喜多はニヤニヤと悦に言った。

それから、コインの裏表を当てて、喜多は犀川にタバコの火をつけさせた。犀川が咥えて慣れない煙に顔をしかめながらつけた煙草をもらって嬉しげにふかす。

リベンジにコインを投げ上げてキャッチし、

「右か左、どっちかな?」

「・・っと、右」

「こっち」

犀川は友人になど見せることはないがマジックのたぐいが得意である。こういうことには器用なのだ。喜多は、犀川のメガネを磨き、コーヒのお代わりを温め、さらに夕飯の支度をした。といってもカップメンだったが。

運は喜多の方がひょっとして良いのかもしれない。幸運に助けられて、喜多は四度目に勝った。

「キスして。風呂一緒に入って」

犀川は無言で喜多の唇に自分のそれをぶつけて「なんで2つなわけかな?後半は却下」

「えっとじゃあ・・」

「コイン投げ飽きたね」

ひょいとメモ用紙にマスメを作った。変則マルバツだ。

「そろそろ負けると危険かな?僕は」

「たぶん・・」

真剣にしてばかばかしいゲームは粛々と進む。

「・・・ハイ、じゃお風呂先にいいよ。ローソク要る?」

停電はまだ終わりそうになかった。もうキャンドルが点るテーブルの上以外は暗闇に沈んでいる。

喜多が風呂から上がって交代で犀川が入った後も、停電は復旧していなかった。

「創平〜マルバツめちゃくちゃ強くないか・・?」

犀川は黙ったまま微笑んでうなづく。

 

24回目をあっさり負けて、25回目当たり、追い詰められて喜多が頭を抱えたころ、キャンドルがじゅっという音を立てて燃え尽きた。

「あ・」

「創平の番」

「ちょっと・・見えないんだけど?」

「見えなくても創平の番」

「・・ペンは?」

「ここ」

暗闇のなかで、犀川の手を喜多がとる。指にペンを握らせて、紙を示した。

ためらうような犀川の指を喜多が悪戯する。

「時間切れ――俺のゆうこと、きいて?」

「ん――」

ちゃんと、バツはつけたのだけど。どうも思ったところに描けた確信が持てなくて、仕方なく、犀川は抵抗しなかった。