立石・千住




 東京で暮らしていても、知り合いもいなければ出かける用事もないような、縁の薄い場所ってのがあるものだ。私の場合は、足立区、葛飾区、荒川区、江戸川区、なんてあたりがそれだった。

 ところが最近、それらの区に行く回数が増えてきた。きっかけは、太田和彦氏の「居酒屋紀行」である。
 太田和彦氏は本業はデザイナーだが、居酒屋マニアとして、居酒屋を探訪する本やテレビ番組で有名だ。これに私も触発されてしまって、時々同好の仲間と、太田氏推薦の居酒屋や、渋いと評判の居酒屋を訪ねて歩くようになった。

 太田氏の推薦する居酒屋などは、もちろん日本全国津々浦々にあるのだが、仕事の帰りに寄り道できて、それもなるべく安く旨いものを、という条件になれば、いきおい、荒川、葛飾、足立などの下町情緒に溢れる庶民派の地域が候補に挙がってくるのである。

 というわけで、今回はそんな居酒屋をちょっと探訪しよう。
 まずはフーテンの寅さんの故郷、葛飾から1店。目的地は京成立石駅から南に向かって伸びる古臭いアーケード街(ここを歩くだけでも価値あり)にあるモツ焼屋「宇ち多゙」だ。これはウチダと読む。要するに内田さんがやっている店なのだな。店内は昭和22年の開店からなにも変っていないとか。

 店は2時から空いているらしく、6時ころに着くと、もう店の前には行列が出来ている。
 でもご安心。この店、一人客が圧倒的に多く、みな黙々と食べ、かつ飲み、回転が極めて速いのだ。
 さて、席についたらまずは焼酎の梅割りと煮込みを注文。
 焼酎とモツ、これ、下町(というか場末)の飲み屋の一つのキーワードだね。
 ところで焼酎の梅割り、と聴くと、梅干入りの焼酎を想像する人も多いだろうが、これは別物。コップに焼酎を注ぎ、そこに甘酸っぱい真っ赤な梅シロップをチョロっとたらして飲むのである。これ、下町独特の飲み方だ。

 ここの煮込みは豆腐だのコンニャクだの余計なものは一切入っていない、モツオンリーの煮込みだ。味はやや暗く調子が低い、とでも言おうか。旨み、甘み、辛みなどの恣意的な味付けがあまりされておらず、シンプルで地味な味。でもこれはクセになる味でもある。

 さて、焼酎の梅割りを一口キューと飲み、煮込みを味わったら、次は焼き物を注文しよう。レバー、シロ、ガツ、カシラ、アブラなどがあるね。これを味付けと焼き加減を言って注文する。味付けはシオ、タレ、ミソ。焼き加減はヨクヤキ、ワカヤキ、ナマ。たとえば「レバ、シオでワカヤキ!」と言って注文するのだね。
 アブラというのはカシラの部分の脂身らしい。これの「シオのヨクヤキ」は絶品。
 ところでここの焼き物はかなりの大串だ。この大串が2本一皿になっている。これで170円。焼酎も煮込みも170円だ。これは安い。

 立石に行ったら、ついでに寄りたいのが線路沿いにある「串揚げ100円ショップ」。ここはその名の通り、すべての串揚げが1本100円だ。そしてやはり旨い!。


 さて次は足立区だ。目指すは北千住の駅から徒歩数分の居酒屋「大はし」。
 この店は数年前までは、東京でも有数の建築の古さを誇る店だったようだが、今は立て替えられている。
 この「大はし」は一般的な居酒屋であるから、モツ専門店のようなディープさはないが、逆に季節の旨いものが楽しめるのがいい。
 さて、ここでも席についたら、まずは焼酎の梅割りを注文しよう。ここでは梅シロップを自分で注ぐので、量の調節ができるのが嬉しい。なおかつこの店の焼酎は通好みの「キンミヤ焼酎」だ。これも嬉しい。
 手始めの肴は豆腐の煮込み。これは大なべでモツと豆腐を一緒に煮込んでいるもので、その味は絶品。いや、「大はし」で出てくる料理は、この豆腐煮込みに限らず、すべてがなかなかに美味。そしてさらに嬉しいのが、注文すると待たせる間もなく、すぐに料理が出てくること。そのスピードたるや神業。これなら気の短かい江戸っ子もイライラしないですむ。
 ここの料理は旨いだけではなく、珍味も多い。一例を挙げると「エボダイの刺身」。こんなもの初めて食べたが、これまた旨かったなぁ。
 ここは件の太田氏ご推薦の店でもある。

 さて、一杯飲んだら、街をのんびり歩いてみよう。立石にしても北千住にしても、なかなか「濃く深い」街だ。観光客気分でほろ酔い散歩を楽しめば、これもちょっとした小旅行だ。


 大はしの正面と店内。一切の装飾なし。こざっぱりとして清潔。

 今回は紹介できなかったが、北千住には他にも居心地のよい居酒屋が多数。
 左はメニュー豊富な永見、右は永見の隣にある串カツの天七。どちらもお勧め。



(2007年5月)


「日本の旅」メニューに戻る↑