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腸内でできる有機酸:健康の要

私たちの腸内には100種類以上もの細菌が生活している.
100種類もいれば,腸内で作り出すものもそれ相応にたくさんあっても不思議ではない.
そのうちの有機酸についての話である.
今日の話はちょっとかたいが,教養がつく話

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腸内細菌がつくる有機酸の種類
主な有機酸:
酢酸,プロピオン酸,酪酸,ギ酸
乳酸,コハク酸
量的に少ない有機酸:イソ酪酸,吉草酸,イソ吉草酸,カプロン酸

これらの有機酸は糖分から主にできるが,アミノ酸からもできる.
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有機酸の働き
(1)感染防御
有機酸は酸だから腸内のpHを下げ,酸性にする.それによって病原菌の腸内増殖を抑制する.特に,酢酸,プロピオン酸,酪酸は抗菌性が強く,pH6以下の酸性で病原菌の増殖を非常に強く抑えるのだ.だから,腸内が酸性状態に保つようにすると,病原大腸菌,サルモネラ,赤痢菌んどの病原菌の感染にも強くなるのだ.
 腸を酸性に保つには腸内発酵の元になる野菜やご飯を食べるのがよい.オリゴ糖を使った食品を取るのもよい.
 ところで,意外にも乳酸はpH6程度ではまったく抗菌性を示さないのだ.コハク酸も同様だめ.もっともこの二つはpHを下げるので無用というわけではない.

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有機酸の働き
(2)カルシウムの吸収促進
お年よりはちょっと転んだだけで骨折する.カルシウムが骨から抜ける.カルシウムの補給が追いつかないからだ.今は若い女性もカルシウムの摂取が不足して骨が弱いといわれる.このような現象を骨粗しょう症という.
 予防にはカルシウムの補給を十分にすることが大切であるが,これも吸収されないことには無駄骨折りになる.ところがよくしたもので,腸内細菌が助けてくれる.腸内細菌が腸内発酵によって酢酸やプロピオン酸を作る.これらの酸がカルシウムの吸収を促進するというのだ.オリゴ糖を食べると,カルシウムの吸収が増加するというデータがあるが,それは酢酸やプロピオン酸の働きなのだ.
むかしから,牛乳はカルシウム吸収を助けるという話があるが,これは牛乳に吸収のよいカルシウムが多いからというだけでなく,牛乳中の乳糖が腸内で発酵されて有機酸ができるからだ.

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 有機酸の働き
(3)大腸を丈夫にする
大腸では酪酸という有機酸もかなりの量できる.ヒトの大腸では酢酸,プロピオン酸についで多い酸だ.この酸は今有望株として保健,医療面で注目されている.酪酸が大腸粘膜のエネルギー源の80%を賄うといわれている.この酸は腸内細菌によって食物繊維やデンプンから生成される.
 今,大手術が行われることが多いが,こんなときに輸液でからだの栄養をつけようとするのが一般的だ.しかしこれがよくないこともあるということが分かってきたのだ.これでは大腸の細菌に栄養が回らない.酪酸の生成量も少なくならざるおえない.大腸粘膜は弱り,そのために予後が悪くなる.感染しやすくなるのだ.だから,手術で弱っているからだには輸液を,腸には経口的ないし腸内に直接に食物繊維やデンプンのような腸内細菌のエサを与えるのがよいと考えられるようになってきた.
  
 有機酸の働き
(4)コレステロールを下げる
食糧が豊かになり,高たんぱく高脂肪の肉料理を食べることが多い.肉料理はおいしいから,ますます拍車がかかる.こうして生活習慣病の一つである高脂血症や高血圧が増加し,心臓病が増えてきて,その死亡率もうなぎのぼりだ.腸内で細菌がつくるプロピオン酸は肝臓での脂質合成を抑制するというデータが多い.
 
肝臓の細胞を培養して,それにプロピオン酸を加えて細胞が作るコレステロールやトリグリセリドなどの脂質の合成を調べると,プロピオン酸は抑制的に働くという.動物実験で飼料に消化耐性のデンプンを加えやると,プロピオン酸が腸内にたくさんできる.と同時に血清コレステロールやトリグリセリドの濃度も低下が見られるというのだ.
 消化耐性のデンプンは生のジャガイモやごはんに多いので,生ジャガイモをすってあるいはミキサーにかけて食すると目的を達成する.目的というのは腸内発酵でプロピオン酸や酪酸がより多くできることである.腸を丈夫にし,生活習慣病からも体を守ることが期待できるのではないか.
 
 有機酸の働き
(5)大腸癌を予防する
大腸癌が年々増えている.生活習慣が欧米化してきたためだ.食生活の変化は著しい.いなかの人は,大腸癌の検診はしなくてもいいだろうというのは大きな間違いのようだ.話してみると,大腸癌で死んだという人が多いという.いなかだと食生活はご飯中心の植物性食文化だと思いきやどうもそうではないらしい.これは学校給食を経験してか,おしなべて食の好みが西洋化したためであろうか.
 東京オリンピックがあった昭和39年頃から急速に米の消費が落ちている.日本食離れ急速に進んだことを示している.その頃に比べると穀類の消費量はほぼ半分になった.
 ご飯中心の食事が減ることで腸内にどんな変化があるかというと,有機酸のうち酪酸が減ることになるのだ.この酪酸は上記のように正常な細胞の増殖をエネルギーになるが,大腸癌の細胞を自然死させる(アポトーシスという).また,癌細胞を正常な細胞に変身させる(細胞分化).このような変化は酪酸が細胞の核内に入り込んで,そこにあるヒストンというタンパク質を変質させるのだ.たとえば,ヒストン上にアセチル基を増加させる(ヒストンの過剰アセチル化).このときp21という細胞増殖を抑制する遺伝子が目覚めるというのだ.そのほか細胞外から増殖ファクターが作用して細胞は増殖しているが,酪酸はそのようなファクター,たとえばEGFのようなファクターの作用を阻害するのではないか,などなどデータが出ている. 

 有機酸の働き
(6)匂い
有機酸には強烈な匂いを振りまくものもある.特に,別名,揮発性脂肪酸と呼ばれる有機酸はその名のとおり,揮発性で空気中にどんどん蒸発する.酢酸やプロピオン酸までは問題ないが,酪酸,イソ酪酸,吉草酸,イソ吉草酸などは匂いがきつい.手にでもくっ付くとその日はその匂いに悩まされる.イソ酪酸,吉草酸,イソ吉草酸などはアミノ酸のデアミネーション(アミノ基が取れる反応)によってできる.腸内細菌のうち糖分を利用しない菌種がアミノ酸を利用して生活するときにできるのだ.肉料理をたくさん食べた時に大便やおならの匂いが悪くなるのはこのアミノ酸のデアミネーションによるのだ.歯周病菌にはこの手の細菌が多いので,口臭が臭くなるのだ.
 細菌の中にはこれらの揮発性有機酸を栄養素として必要としているものもあるが,糖分の宝庫であるデンプンやオリゴ糖などを摂取することによって悪臭の揮発性脂肪酸必要最小限に抑えることもできる.
 しかし,犬猫その他の動物は匂いがナビゲーターの役割をしてくれるので,匂い物質もけっして捨てたものではないという理解もあってよいのではないか.最近の犬は道に迷って主のところに帰ってこれないものもいるが,エサが画一化したためであろう.

 有機酸の働き
(7)大腸の潰瘍の原因か
潰瘍性大腸炎の原因は明らかでないが,この原因あるいは促進因子としてコハク酸に注目している研究者がいる.これはバクテロイデス・ヴルガタスというコハク酸を生成する嫌気性細菌が,カラギーナン(食品添加物の一つ)を経口投与する実験で増加し,コハク酸も増加する事実に基づくものである.これには結論は出ていないし,異論がある.小生はもしかしたらギ酸が関連が深いのではとひそかに思っている.いずれにしても,刺激性が強い有機酸は潰瘍ができている粘膜にとっては痛みの原因になりかねないのは当然である.したがってこういう病気をもっている人はおなかの調子が悪いからといって,おなかの調子を整えるとうたっているオリゴ糖を不用意に摂取しないことである.なにごとも適材適所.
  つづき もっと有機酸についてはお話があるが,別のページにしよう.

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