'06/12/27
よくある誤解  目次
吉見 吉昭

 インターネットは情報の宝庫ですが,信頼できる出版社から発行される百科事典とは違って,査読が行なわれないまま公開されますので,自己宣伝であったり,誤解を招く記述であったりします。ここでは,地盤と建築基礎に関して誤解されやすい項目を取り上げます。

べた基礎

 最近は,戸建住宅の基礎に,“べた基礎”と称して,1枚の鉄筋コンクリートの板を使う例が見受けられます。日本建築学会の“建築基礎構造設計指針”によりますと,べた基礎とは,
 『上部構造の広範囲な面積内の荷重を単一の基礎スラブまたは格子梁と基礎スラブで地盤に伝える基礎』
と定義されています。スラブとは,この場合,鉄筋コンクリートの板のことです。右図には,地盤が極めて軟弱な場合の例として,地盤反力が均等分布した様子が描いてありますが,地盤が固くなるほど,地盤反力は柱の付近に集中するようになります。主として柱から加わる下向きの建物荷重と,基礎スラブの下面に分布する,地盤からの上向きの反力が釣り合うわけですが,そのとき,基礎スラブは,破線で示すように,上に凸な曲げ変形をします。変形によって,ひび割れなどの障害が起らないことを確認するためには,基礎スラブおよび地盤の特性に基づいた構造解析を行いますが,最近は市販のコンピューターソフトを使って,比較的容易に解析が出来るようになっています。このような確認が行なわれていない,見かけだけの基礎では,べた基礎とは言えません。

 住宅用のべた基礎の具体例としては,液状化対策としてのべた基礎を見て下さい。

支持層

 支持層とは,地盤・基礎の文脈では基礎を支持する地層のことですが,建物の規模や地盤条件によって,どの地層が支持層に相当するかは一概に言えません。例えば東京には東京礫層という地層があって,が50を超えることが多く,高層建物の多くが,直接または杭を介して,この地層によって支持されています。東京礫層は確かに信頼できる支持層ですが,中層以下の建物では,この地層でなくても,そこそこに強い地層に支持させれば十分です。木杭や既製鉄筋コンクリート杭を,打撃または振動によって打ち込んでいた時代には,杭が貫通できない地層が自然に支持層になりました。ところが,近年は,騒音・振動公害を起こす打撃・振動による杭打ちを避け,掘削した穴に既製杭を建てこむ埋めこみ杭や,コンクリートを流しこむ場所打ちコンクリート杭が主流になってきました。その結果,本来なら支持層になりうる地層を貫通して,必要以上に強い地層に届く,必要以上に長い杭を使う例が多くなっています。これは,不適切な行政指導と安易な設計によるもので,資源の無駄遣いだけでなく,場合によっては,負の摩擦力によって杭が破壊する原因にもなりました。金を掛けてリスクを増やすのは技術者の恥というべきでしょう。

標準貫入試験の値と換算

 標準貫入試験による値は,地盤の強さ・堅さの指標として広く使われていますが,換算値とは,文字通り値から換算したものですが,これには二通りあります。

  1. 砂の場合はとくにそうですが,同じ密度でも深いほど値が大きくなりますので,その影響を取り除くために正規化した値のことを換算値と言い,ふつうは液状化判定の指標として使われます。
  2. ボーリングをしなくても手軽にできるスウェーデン式サウンディング試験の結果から値に換算したものも換算値と言います。


 しかし,2.は,非常にバラツキの大きい試験結果の平均値を示した経験則です。とくに軟弱な地盤で,標準貫入試験による値がゼロでも,換算値が3となる場合があって,地盤の強さを過大評価する恐れがあるので,スウェーデン式サウンディング試験の生データを注意深く吟味し,さらに標準貫入試験結果を入手する努力を払う必要があります。(吉見吉昭:正規圧密粘土上の低盛土造成地の問題点と対策,戸建住宅の基礎設計における現状と問題点,日本建築学会,
20032月,p.29参照)

乱さない(不撹乱)試料

 地盤調査のページでも書きましたが,乱さないつもりで採取した土の試料を“乱さない(不撹乱)試料”と呼ぶことがあるので,要注意です。とくに,砂地盤の場合は,採取方法によって試料の品質が大幅に異なりますので,試料と原位置のせん断波速度を比較することによって,乱れの程度を確かめることが肝要です。

地盤の許容支持力・許容地耐力・許容応力度

 地盤の許容支持力とは,地盤を破壊させる荷重(極限支持力)を安全率で割った値を指します。一方,許容地耐力は,土木にはない建築独特の用語で,

許容支持力以内で,かつ,沈下または不同沈下量が許容限度以内に納まるような力

のことです。したがって,沈下を検討せずに,『許容地耐力に基づいて設計した。』と言うのは誤りです。盛土の下に極めて軟弱な地層があるような場合は,盛土の許容支持力は十分でも,軟弱層の圧密による沈下が過大になる恐れがありますので,慎重に検討する必要があります。ただし,この場合は,許容支持力で設計が決まる場合と違って,基礎の底面積を大きくすることは解決にはなりません。地盤の破壊と沈下の両方を必ず検討することを明示すれば,わざわざ許容地耐力と言う必要はないという理由でしょうが,日本建築学会・建築基礎構造設計指針2001年版からは,この用語の使用を止めました。
 地盤の許容応力度は,建築基準法施行令だけで使われる用語で,専門家の強い反対を押し切って,他の材料と形を揃えるというだけの理由で決められたようです。本末転倒というべきでしょう。例えば引っ張りを受ける鋼棒の場合の許容応力度は,それに断面積を掛けて求められる荷重までは許容できるというわけで,明快な物理的意味がありますが,地盤の場合は,基礎底面の大きさ,深さなどの条件に無関係な許容応力度なるものは定義できません。もし,これを直訳して
allowable stress of the ground とでもしようものなら,『こいつは地盤の力学を知らないな』と思われることは間違いありません。

 類似の内容については聞かぬは末代の恥をご参照下さい。

地盤と建築基礎