'03/5/20
地盤沈下と建物の不同沈下  目次
吉見 吉昭

地盤沈下
 地殻変動以外の原因による地盤沈下は,関西空港のように,盛土の重量によって,その下の地層の間隙水が押し出されるか,または,東京の下町のように,地下水位の低下によって間隙水が吸い出されることが原因でひきおこされ,“圧密沈下”と呼ばれます。粘土層より上の水位が変らないで,下の水位が下がると,粘土層の中を下向きに流れる水の流れが起りますが,水が粘性を持つことにより,土粒子に,引きずり下げようとする力(浸透水力)1)が作用する結果,粘土層が圧縮するという見方もできます。圧密沈下はどんな土でも起りますが,粘土の場合は,圧縮性が高いので沈下量が大きく,かつ,透水性が低いので沈下がゆっくり進行します。

 東京や大阪では,第二次大戦前から地盤沈下が起っていましたが,1955年頃から,新潟平野,濃尾平野など全国各地でも目立つようになり,年間
20cm の沈下量が記録されることもありました2)。東京下町の地盤沈下は,粘土層の下の砂層から,主として工業用水としての地下水の過剰汲上げが原因で,場所によっては,20世紀中に4bを超えました。下図の曲線は,東京都土木技術研究所の資料3)によるもので,沈下が下へ向かうのに合せて下向きにプロットされています。 1923年の関東大地震の時,急な沈下が起りましたが,それは地震時の地殻変動が原因と思われます。このことが,沈下の原因が地下水の過剰汲上げだけとは言い切れないという慎重論の根拠となったようです4)

東京都江東区における地盤沈下 その後,図示のように,
1930年前後の昭和恐慌と1940年代前半の終戦前後の2回,沈下がほとんど進行しない時期がありましたが,それは工業活動が停滞して,工業用水の汲上げが少なくなった時期と一致しています。沈下が地下水の汲上げによるという結論に,もっと早く達しておれば,戦後の高度成長期に入ってからの2メートルもの沈下が防げたはずですが,前に述べたように,地下水位の低下だけが原因ではないのではないか,という「疑わしきは罰せず」的な慎重論が災いして,みすみす“ゼロメートル地帯”を百平方キロメートルを超えるほど広げてしまったのです。防潮堤の建設や橋の嵩上げなどに膨大な金がかかった結果,安いと思った井戸水が大変高くついたことになります。行政が重い腰を挙げて,196070年代に,工業用井戸転換と天然ガス採取停止が行われた結果,地下水位が回復して,やっと沈下が止りました。対応が遅れた理由は,学界や行政の事なかれ主義(不作為)であったと言えましょう。

 1970年代から,地下水位の回復とともに,地表面が隆起していますが,土の圧密は不可逆現象なので,隆起量は沈下量より1桁小さく,それ自体には問題はありません。(テレビで,長い年数がたてば元の高さまで戻ると言った解説委員がいましたが,これは誤りです。)一方,ここ40年足らずの間に
40b近くも水位が上昇したために,地下施設や深い地下室をもつ建物の浮上りのほか,地下の壁・床の水圧の増加に対する安全性が問題になっています。

建物の不同沈下
 完全に剛な地盤はありませんから,建物の沈下がゼロということはありません。建物が一様に沈下しさえすれば,問題にならないことが多いのですが,一様でない沈下が起ると,壁にひび割れができたり,ピサの斜塔のように建物全体が傾斜したりすることがあり,これを不同(等)沈下といいます。建物の階数が揃っており,地層が水平の場合でも,中央部分が大きく沈下する傾向がありますので,建物の階数が不揃いであったり,地層の厚さが変化したりすれば,さらに不同沈下が起りやすくなります。
 堅い地層に届く杭(先端支持杭)を使えば,不同沈下を減らすことができます。しかし,深い軟弱層を貫通して,堅い地層まで届く杭の表面には,周りの地層が沈下すると,下向きの力(負の摩擦力)が作用しますが,杭が長くなって摩擦力が過大になると,杭の先端が地盤にめり込んだり,杭が破壊することがあります。また,杭と建物が地表面から抜け上がって,建物の下に隙間ができることもありますが,このような抜け上りは,東京の丸の内では
1930年代から問題になっていて,玄関に階段を付け足した建物が少なからずありました。

 不同沈下が少ないほどよいことは当然ですが,建物に要求される機能や構造によって,ある程度までは,実害が発生しないものです。堅い支持層まで届かない摩擦杭の上に建てられた鉄筋コンクリートの集合住宅が,数十年もの間,全く問題なく使われてきた例も少なくありません。
1995年の阪神大地震の時も,摩擦杭を使って埋立地盤に建てられた建物がほとんど不同沈下を起こさず,しかも抜け上りのような不具合もなかった例が多く見られました。


  1. 吉見吉昭,橋場友則:地盤の力学(建築総合演習),彰国社(1976)
  2. 建設省国土地理院地理調査部:全国主要地域における地盤沈下の推移(1988)
  3. 東京都土木技術研究所:平成10年地盤沈下調査報告書(1999.7)
  4. 和達清夫:地盤沈下研究の回顧,土と基礎(地盤工学会)(1976.11)