| '05/5/12 |
| 地 盤 調 査 目次 |
| 吉見 吉昭 |
建物の基礎から上の部分(上部構造)は,木材・コンクリート・鋼材などの人工材料で出来ていますが,地盤は,改良された部分以外は,自然に出来たもので,敷地ごとに千差万別です。しかも,地形以外は目で見ることができません。強度などの性能を指定できる人工材料と違って,地盤の場合は,ありのままの,原位置の性質を調べなければなりません。つまり,程度の差こそあれ,地盤調査は不可欠です。とくに,下記の調査法のうち,資料調査と現地踏査は,建物の規模に拘わらず,必ず行うべきです。
資料に基づく調査
地形図・地盤図・古地図などを活用すれば,わずかの費用で,敷地およびその周辺地盤の概略を知ることができます。とくに2万5千分1地形図は,国土交通省国土地理院のサイトでインターネットでも閲覧できますので,先ず試してみるべきでしょう。地盤図としては,東京地盤図(技報堂,1959),新編大阪地盤図(コロナ社,1987),最新名古屋地盤図(名古屋地盤図出版会,1988)をはじめ,多くの都市および港湾地域の地盤図が存在します1)。地盤図には,地層断面図や堅い地層までの深さなど,建築基礎を設計するために役立つ情報が含まれています。(東京と名古屋の地盤図は絶版になっていますが,かなりの数が出回っていますので,主要な図書館では閲覧できると思います。)また,東京の古地図については,“明治・大正・昭和東京1万分の1地形図集成”(高橋満発行,柏書房,1983)が便利です。全国的には,明治以来の陸地測量部の地形図が,国土交通省国土地理院の地方測量部(北海道,東北,関東,北陸,中部,近畿,中国,四国,九州)で閲覧できます。それを調べると,当該敷地が,昔は湿地であったか,桑畑であったか等が分かるので,参考になります。場合によっては,国土地理院の空中写真が参考になりますが,これは(財)日本地図センター(http://www.jmc.or.jp)で購入できます。
現地踏査
現地に足を運んで,地形図だけでは分からない微妙な地形と,近隣建物の状態(沈下・傾斜)を調べることが重要です。杭の有無が知りたいこともあります。浅井戸が使われている場所であれば,その水位,水の使用目的などを調べておいて,掘削・排水による周辺地盤の沈下や,井戸枯れなどの近所迷惑を未然に防ぐ手立てを講じることができます。
また,工事を始める前の状況を記録しておいて,近隣からの苦情や訴訟に備えておくことが賢明です。鉄道・道路・下水道などの土木工事の前には,近隣建物内外の写真撮影やレベル計測を行なうことが常識となっています。
原位置試験
原位置試験は,地中に棒またはパイプを押し込む貫入抵抗試験と,波動伝播速度を計る弾性波探査試験とに大別されます。以下,主なものだけについて説明します。
貫入試験のうち,スウエーデン式サウンデイング試験,簡易動的コーン貫入試験,ポータブルコーン貫入試験は,人力でできるもので,軟弱地盤を対象とします。ただし,やや硬い表土の下にある軟弱地盤では,その強度を過大評価することがあるようです。また,調査深さに限界があるので,より深い地層の状況を別の方法でしっかり把握することが重要です。
標準貫入試験とオランダ式二重管コーン貫入試験は,それなりの設備が必要ですが,かなりの深さまでの調査が可能です2)。前者は広く用いられている動的貫入抵抗試験で,ボーリング孔の底から標準貫入試験用サンプラーという厚肉のパイプをハンマーで叩き込み,30cm貫入するために必要な打撃回数をN値(えぬち)として記録します。
オランダ式二重管コーン貫入試験(JIS A 1220-1995)では,底面積 10 cm2 の円錐形の先端をもつ装置を,毎秒1cm の貫入速度で,連続的に 5 cm 地中に押し込んだときの貫入抵抗を測定します。二重管になっているので,先端抵抗と周面摩擦抵抗を分離することができますが,その結果を利用して,土の種類がある程度判別できます。しかし,実際に土の試料は得られないので,標準貫入試験と比べると,土の判別についての信頼性は劣ります。また,ボーリングをせず,地表から静的に押し込むので,コストダウンがはかれる反面,堅い地層への貫入能力には限界があります。
弾性波探査試験では,波の伝播速度から,地盤の堅さを求めます。最近は,ボーリングを必要としない簡便な“表面波探査法”が開発されています3)。
採取した土の試料に対する室内試験
われわれが知りたいのは,原位置における土の性質ですが,とくに強度などの力学的性質については,採取された試料が,原位置における性質を保持している乱さない(不撹乱)試料であることが前提です。したがって,試料の品質確保は極めて重要です。粘土の乱さない試料を採取することは比較的容易ですが,砂質土について,高品質の試料を採取するには相当の出費を覚悟する必要があります。しかし,幸いにも,原位置凍結サンプリング法によって採取した,高品質の乱さない試料の液状化抵抗とN値との間には比較的良い相関があるので,それを利用することができます4)。
“乱さない試料”といっても,乱さないつもりで採取した試料である場合が多いので要注意です。このような,品質が保証されない“似て非なる乱さない試料”を採取して力学試験を行うと,金がかかるばかりで,判断を誤るような結果が出てくる公算が大きいので,無意味です。
おわりに
地盤調査を怠るということは,健康診断をしないようなもので,重大な欠陥を見落とすリスクを背負うことになります。健康診断の費用を値切る人はいないでしょうが,地盤調査に金をかけたくない人は多いようです。米国では,入札によって,単位長さ当りの調査費の最低額を提示した業者に調査を依頼する習慣があるようですが,このやり方には,調査の質を犠牲にするという重大な欠陥があるという指摘があります。
調査法には,それぞれ得手不得手がありますので,一つの調査法だけにに頼るのではなく,調査に冗長性を含ませることが望ましいのです。地質学の素養があり,調査目的をよく理解している地盤工学の専門家に,調査の計画・監理・評価を依頼することが,“安物買いの銭失い”を防ぐ最も賢明なやり方です。調査の実行に当って,臨機応変に対応することも重要です。