'07/12/23
ローマ字雑感 目次
吉見 吉昭

 明治18年に創立された社団法人日本ローマ字会があったり,Googleで“ローマ字”を検索すると260万件を超えたりするところを見ますと,ローマ字は古くて新しい話題のようです。ウィキペディアローマ字によりますと,仮名とローマ字を一対一で対応させた最初の方式は1867年のヘボン式だそうですが,漢字圏以外から来た外国人が日本語を学んで,自分が読めるように書き留めたメモは,それより古くからあったのでしょう。これらの文書は,当時の日本語の発音を研究するうえでも貴重な資料になっているようです。ローマ字に関する学問的議論は他所に譲り,ここでは,気楽に“雑感”を述べます。(Romaji は今や英語になっています。)

仮名混じり漢字とローマ字
 
ケネディー大統領は速読の達人と言われていましたが,速読は時間の節約だけでなく理解度を高める一石二鳥の技術として,英語では非常に重要視され,訓練が必要とされています。一方仮名混じり(kana-majiri は英語)漢字では,特別な訓練をしなくても“斜め読み”が出来るようになりますが,これは日本人が誰でも経験することです。その理由は,漢字が表意文字であることと,字数が英語より少なく,同じ内容をカバーするための目の動きが少ないことではないかと思います。ローマ字は母音が多いだけに英語よりさらに文字数が多くなって,目の動きがもっと大きくなる他,同音異義語の区別が出来ないため,速読が難しくなります。同音異義語の区別に関する漢字のもう一つのメリットは同姓同名が少なくなることですが,これについては“同姓同名の問題”をご覧ください。
 
漢字のさらなるメリットは,中国人に大意が分ることです。逆に日本人に中国語の大意が分ることによって,両国合わせて14億人(乳幼児数を除けばこれより若干少ないでしょうが)に,不完全にしろ共通の言語があることは無視できない事実です。
 “ヘボン式ローマ字”ヘボンさん(Curtis Hepburn, 1815〜1911)とほぼ同世代の田丸卓郎教授(
1872〜1932)はローマ字がよほど好きだったらしく,Rikigaku と題するローマ字で書いた力学の本を出しました。当時,「ローマ字でなかったら希代の名著であったのに!」と多くの読者を嘆かせたそうです。これは,いみじくも仮名混じり漢字の視覚情報としての優位を意味することでした。

かな ローマ字
ヘボン式 訓令式
shi si
chi ti
fu hu
ji zi
しゃ,しゅ,しょ sha, shu, sho sya, syu, syo
ちゃ,ちゅ,ちょ cha, chu, cho tya, tyu, tyo
じゃ,じゅ,じょ ja, ju, jo zya, zyu, zyo

ヘボン式と訓令式
 米国人のヘボンさんが辞書を作成する過程で考案したローマ字は,当然,英語のネイティブスピーカーに読みやすいスペルだったのでしょう。1937年になると文部省が,国粋主義的動機からだったのかどうかは知りませんが“訓令式ローマ字”を告示しました。その結果起った“秩父丸事件”については別のページに書きましたが,要するに,国内だけに目を向けた形式主義的なものだったことは間違いないでしょう。

ラ行について
 今は,パスポート・キャッシュカード・クレジットカードなどで,自分の氏名をローマ字で書く必要がある場合は,ヘボン式,訓令式などから好きな方式を選ぶことになります。国際的な対応という意味では,英語だけでなく,できるだけ多くの言語で原語に近い発音がしやすいスペルが望ましいはずです。(
KODAKという商標はその基準で創られたそうです。)その意味で,ヘボンさんがラ行にRを使ったのは問題があると思います。もしかしたら,江戸っ子弁のベランメーの影響を受けたのでしょうか。ちなみに,フランス語とドイツ語のRは,むしろDに近い日本語のラ行の発音とは全く違います。そのまま彼等流に発音されたら,「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」どころではないでしょう。日本人がライスと言うと,rice(コメ)ではなく lice(シラミの複数)に聞えることが多いそうですから,Lを使ってみてはは如何でしょうか?BBC News も放送する大阪のFM CO-CO-LOというラジオ局の名称は,エフエム・ココロ(心)と聞えます。

長音と短音について
 英語ではアクセントをつける音節は長めになりますが,日本語には,アクセントなしで,琴・孤島・港都・高等のように,長音と短音の組合せがあり,その区別は外人には苦手のようです。(沖縄が日本に返還されたときの儀式で,アメリカ人の通訳が友情をユウジョと発音して,一瞬遊女のように聞えてドッキリした記憶があります。)仮名読み通り書けば,
KOTO,KOTOU,KOUTO,KOUTOUとなりますが,東京,京都をTOUKYOU,KYOUTOと書くようなもので,煩わしいでしょう。母音の上にバーを書くのは,手書きならよいのですが,ワープロでうまくいくかどうか私は知りません。(ちなみに,Webster's Third New International Unabridged Dictionary, 2003では,語源である日本語について,長音のローマ字の上にバーをつけています。)母音の後にHをつける方法もありますが,Hの後にも母音がくると,前と後ろのどちらにHがつくか区別できないことになります。例えば,大岡という名前をOHOKAと書くと,オー・オカなのかオ・ホカなのかが外人には区別できません。オの長音には,オオ・オウ・オーがありますが,オオオカだとOOOKAとなってちょっと奇妙な感じがします。(大岡山という駅名を昔はOOOKAYAMAと書いてありました。)ちなみに私の知人の大岡さんは,OH-OKAとしています。TOKYO,KYOTOは,外人が,トキョ,キョトでなく,トーキョー,キョートと発音しているようなので,あまり難しく考えず,簡潔なものにしておけばよいということでしょうか。

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