クレジット サラ金 問題の現場から



事例4.保佐人の同意ナシに貸し付ける業者!
(準禁治産者に対する貸付取消事件)



 依頼人である母親は、相当やつれた感じでした。
 そのような依頼人を見慣れているにも関わらず、記憶に残っているのは、何か変わった印象を受けたからかもしれません。

 話を聞いてみますと、30にもなる息子が返済する能力もないのに、サラ金業者からお金を借りてしまうのだといいます。

 以前から、そのようなことが発覚するたびに、両親が負債の整理を繰り返してきたのだそうです。

 そして、きっといろいろな法律相談を受けてきたのでしょう、最後には、その息子の準禁治産宣告の申立を家庭裁判所におこしています。
持参してきた戸籍謄本に、しっかりその旨が明記されていました。


 さて、この「準禁治産者」というものはどういうものでしょうか?

 民法11条の規定によりますと、心神耗弱者または浪費者であること、とされています。

 心神耗弱とは、精神能力の障害が心神喪失の程度まで至らないものであって、大体、やや成長した未成年者の能力程度と考えてもらえればよいでしょう。
 一方、浪費者とは、前後の思慮なく財産を蕩尽する性癖のあるもののことです。

 つまり、そのような人を、実社会の自由競争の場に何のケアもなく放り出してしまっては、取引の犠牲になる可能性が強く、また、取引後にその無能力を証明された場合、その取引が覆されることも考えられ、相手方が不測の損害を被る恐れが出てきます。

 そこで、法は、そうした能力の不足している人の形式的基準を設け、それらの者が単独でなした法律行為は、取り消すことができるものとし、官報への掲載や戸籍への記入によって第三者に知らしめることにより、本人の保護とそれらの人と取引をしようとする相手方の保護を図っているわけです。

 つまり、準禁治産者とは、心神耗弱者または浪費者である者で、家族などの一定の関係にある者から請求を受け、家庭裁判所によって準禁治産宣告を受けた者ということになります。



 本件の例で言えば、能力的に通常の成年者に劣る依頼人の息子が、自分を律することも出来ず、業者に勧誘されるがままに金銭を借り入れ、無駄に消費してしまうわけですから、両親にしてみれば、どうにかしてそれを止めたいと思うのが当然でしょう。

 貸金業者の協会に、貸し出しの禁止の届出をするという手段もあるようですが、原則的に本人が直接協会に行く必要があるようですし、そもそも、その届出をしたからといって、お金を貸すのが商売の貸金業者に「貸すな。」というのは無理があります。

 そこで、終局的には、本件のような準禁治産宣告(心神が喪失しているような場合には、禁治産宣告ということになります。)を申し立てるしか術がないということになるわけです。

 ただ、前述しましたように、この準禁治産宣告を受けますと、取引の相手方を保護するために、戸籍に記載されることになります。(官報にも掲載されますが、一般の人がこれに目を通すことは、まずありません。)
 もちろん、戸籍は他人に見られることはあるはずがないものですが、それを嫌い、その手続を躊躇する人が多いのは事実です。

 さて、準禁治産者となりますと、自分1人で、お金を借りるというような「重要な財産上の行為」が出来なくなり、保佐人と言われる人の同意が必要になります。

 本件につきましては、依頼人の夫、つまり準禁治産者の父親が保佐人となっておりました。

 ですから、父親の同意がなければ、サラ金業者からお金を借りることは一切出来ないはずなのです。

 ところが、本件では、保佐人の同意が無いのにもかかわらず、5社もの業者がその準禁治産者に対し、数十万円を貸し付けており(信用情報機関の調査票で確認しました。)、その中には有名な大手の業者も含まれていました。


 これはどういうことでしょうか?
 考えられることは二つあると思います。

 一つは、貸付の調査の際に、戸籍謄本を調べることをせず、準禁治産者であることを知らなかった、ということです。
 
 この場合には、明らかに調査不足であると言えましょう。調査するには、本人に戸籍謄本を持参させれば良いだけですし、それがまさに法の期待しているところだからです。

 二つ目は、準禁治産者であることを知りつつも、両親の返済能力を期待して貸しつけた、ということです。

 この場合も大いに問題ありだと思います。
 本人に支払能力が無いことを知りながら、保証もしていない家族の返済を最初からあてにするということは、違法とされている支払義務無き者に対する請求を、当初から予定しているということだからです。

 そこで、下記の通りの書面を各業者に対し、内容証明郵便で送付することで、準禁治産者への貸付行為を取り消したことを通知することにしました。


           通知書

 当方、平成*年*月**日、貴社と金銭消費貸借契約を締結し、金10万円を受領いたしました。
 しかし、当方は、平成*年*月*日に準禁治産宣告の裁判が確定しており、保佐人には、父である井上新太郎(仮名)が選任されております。
 本件契約につきましては、民法第12条1項2号に該当する行為であり、保佐人の同意が必要でありますが、保佐人の同意を得ることなく、本契約を締結してしまいました。
 よって、今般、本書をもって本契約を取消します。
 右通知します。

平成*年*月  日

               静岡市
                    井 上 浩 二 郎(仮名)

静岡市
****株式会社 静岡店 御中



 この通知書が届いてから数日後、依頼人らへの業者からの請求は一切止まっています。

 最近、ある業界大手の未成年者に対する貸付が問題になったことは記憶に新しいことだと思います。

 業者は、金利による利益を増やそうと、ソフトなCMで消費者の購買欲を煽り、十分な返済能力の調査をせず、どんどん貸付けをしています。

 他の業者からの借入によって返済をしてもらえれば良い、とでも考えているのでしょうか?
 それとも、本人が返済できなくても、親やその他の親族が払ってくれるだろう、と考えているのでしょうか?

 もしそうだとしたら、いつかは破綻を来し、崩壊してしまう、そう思いませんか?




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