| クレジット サラ金 問題の現場から |
事例5.入院中の債務者に対する容赦なき取立!
(現地調停事件)
ある日、突然、泣き入るような声で、業者からの執拗な取立に対する助けを求める電話が入りました。
その依頼者は、数ヶ月前に、脳梗塞で倒れたため、それまでは遅滞なく行っていた月々の支払いをすることが出来なくなってしまったのですが、入院中の病院にまで取立に押しかける業者に対し、恐怖と激しい怒りを感じていたのです。
依頼人は、そのとき既に退院をしていたのですが、下半身は麻痺してしまっており、アパート内での移動もままならない状態で、ボランティアの方の手を借りてリハビリのため病院に通いつづける毎日でした。
そのような悲惨な状況の依頼人に対し、毎日のように一括請求を迫る電話を繰り返す大手のサラ金業者の取り立てを、なんとか止めてほしい、というのが依頼人の切なる願いだったのでしょう。
前述したように、依頼人は歩くことも出来ない状況ですので、こちらから、依頼人の住むアパートに伺うようにし、じっくりそれまでの事情を聞いてみました。
すると、依頼人の現状を知っているにも関わらず、執拗な取立行為を続ける大手業者2社のうち1社は、入院中の病院にまで何度か足を運び、たまたま見舞いに来ていた依頼人の長女(もちろん保証人にはなっていない。)に対し、かなり荒い口調で支払を催促しており、そのような経験のなかった次女は、その態度に異常な恐怖を覚えた、とのことでした。
上記のような業者の取り立ては、もちろん許されるべきものではありません。
業者の取立行為に関する規制につきましては、「貸金業の規制等に関する法律」第21条、そして、その規定を受けた大蔵省の通達第2の3に、詳細にわたって、業者のやってはいけないことが記されています。
| 1、暴力的な態度をとること。 2、大声をあげたり、乱暴な言葉を使ったりすること。 3、多人数で押しかけること。 4、正当な理由なく、午後9時から午前8時まで、その他不適当な時間帯に、電話で連絡し若しくは電報を送達し又は訪問すること。 5、反復又は継続して、電話で連絡し若しくは電報を伝達し又は訪問すること。 6、貼り紙、落書き、その他いかなる手段であるかを問わず、債務者の借入れに関する事実、その他プライバシーに関する事項等をあからさまにすること。 7、勤務先を訪問して、債務者、保証人等を困惑させたり、不利益を被らせたりすること。 8、他の貸金業者からの借入れ又はクレジットカードの使用等により弁済することを要求すること。 9、債務処理に関する権限を、弁護士に委任した旨の通知又は調停その他裁判手続をとったことの通知を受けた後に、正当な理由なく支払請求をなすこと。 10、法律上支払義務のない者に対し、支払請求をしたり、必要以上に取立への協力を要求したりすること。 11、その他正当とは認められない方法によって、請求をしたり取立てをすること。 |
しかしながら、本件のように、中には上記の禁止行為を平然とおかす業者もあるわけです。
そのような場合は、業者を監督する官庁に通告を促したり、警告書を送付するなどして対応することになりますが、監督官庁は概ねそうした対応に消極的であるため、我々司法書士としては、早期に申立をすることが重要になってくるわけです。
さて、一方、調停手続というのは、簡単に言いますと、裁判所における話し合いによる解決の手続です。
破産状態には至らないが、このままでは高利による負債が一向に減っていかない危険な状態であるような場合に、その負債の圧縮をはかる裁判上の手続です。
この手続をとる場合には、少なくとも次の点を考慮しなければなりません。
@支払不能でないこと。
当然の事ですが、定収入がなければ月々の支払いは出来ませんので、そもそも話し合いは無理でしょう。
また、定収入が少なく月々の支払いが難しいような場合でも、支払不能であれば自己破産手続を検討すべきでしょう。
Aそれまで支払った超過利息分の元本組み入れは難しいこと。
調停手続は、あくまで当事者双方の話し合いの場所にすぎません。
したがいまして、いくらこちらから超過利息分の元本組み入れを求めても、業者がそれを拒絶すれば、調停は不調で終結せざるを得ません。
(この場合には、訴訟に移行させて争うことになります。)
調停委員の資質にもよりますが、静岡の場合ですと、ほとんどのケースが、業者の請求する金額(利息制限法を超えた利息での計算)を将来の利息を免除しての分割払い、ということで話がまとまっています。
B調停が成立した場合、その調書は債務名義となること。
多くのケースでは、月々の支払いを2回若しくは3回怠った場合には、残金一括請求が出来る、という旨の約定がなされています。
すなわち、支払いの遅延は、給与債権の差押をされるという危険性を孕んでいることを忘れないで下さい。
さて、本件につきましては、支払不能であるか微妙なケースであったため、自己破産手続も検討したのですが、依頼人の強い希望もあって、まずは調停手続をとることにしました。
債務弁済調停申立書 静岡市 申立人 吉 原 花 子(仮名) 東京都 送達先住所 静岡市 相手方 株式会社 **** 右代表者代表取締役 調停事項の価額 金二六五、四三三円 貼用印紙額 金一、八〇〇円 申立の趣旨 一、相手方会社は、申立人の債務額について、これに対する現在までの間の返済金を、利息制限法を超える分については元本に充当することにより債務額を確定し、その後の返済については分割払いに応じること。 二、一、により計算した場合、返済金が元本及び利息制限法の利息を合わせたものを超える場合は、超えた金額について、債務者に返還すること。 紛争の要点 一、申立人は、相手方から、平成*年不詳、金三〇万円を借り受け、今日まで返済してきた。 当時、申立人は、静岡市**町において「マドマアゼル・吉原(仮名)」という名で日用雑貨の輸入販売の卸をやっており、一時の資金繰りのために借り入れたものである。借り入れを申し込んでから、実際にお金を借りるまでの手続が、あまりに簡単であったため、「こんなに簡単にお金を借りることができるんだ。」という印象を持ったことを記憶している。 二、申立人は、相手方より金銭を借り受けて以来、一回も滞ることなく返済を続けてきたのであるが、平成*年*月**日、蜘蛛膜下出血で倒れ、救急車で運ばれて**病院に入院してから、それまでやっていた仕事もやめざるを得ず、収入が途絶え、返済が遅れがちになってしまったものである。 三、申立人の入院後、返済が滞ってしまったため、九月頃から、相手方による支払督促の電話が、病院に頻繁にかかってくるようになる。 当時、申立人の身の回りの世話をしていた申立人の長女は、その電話による厳しい請求に怯え、また、申立人は、脳の手術をした直後であったこともあり、相手方からの執拗な請求に、精神的にも肉体的にも耐えられる状態ではなく、生きた心地がしなかったものである。 四、申立人は、平成*年**月**日に退院し、現在は、一人暮らしを続けているが、仕事をやめてしまった今、収入源は、二ヶ月で十六万円という年金だけである。 一方、申立人の支出は、借入金の返済の他に、アパートの家賃月金六万円、医療費月四万円程度や交通費などがある。 夫は**年前に他界しており、二人の娘は、数年前に結婚して家を出ている。 現在は、月に二回、**病院に通い、内科、整形外科、脳外科、泌尿器科の四カ所にかかり、さらに毎日、静岡市**町の**神経内科クリニックにリハビリテーションに通っているが、左半身が麻痺しているため、移動もままならず、知人の助けを借りなければ病院にもいくことができない状態である。 五、一方、このような状態の申立人に対し、相手方は、数回、申立人の住むアパートに取立てに訪れている。 申立人は、事情を説明し、返済を待ってもらうよう懇願したのであるが、相手方はこれに応じず、返済を求め、数回に渡り金一万円を受け取っている。 また、相手方は、電話による督促も頻繁にするなど、執拗な取立行為をしており、申立人は精神的にも肉体的にも疲労困憊している状態である。 申立人は、相手方の他に、****、***、****からも借り入れがあるが、右三社については、申立人の窮状に理解を示してくれ、今後の利息、損害金を全てカットし、残金につき毎月一万円を支払うという合意をしてくれるなど、申立人の事情を察してくれてはいるのであるが、相手方はそのような素振りは見せてくれない。 六、さて、申立人は、前述したように借り入れ以来、蜘蛛膜下出血により倒れるまで、一度も滞ることなく毎月の返済を続けてきたのであるが、その返済の経過及び金額等については、相手方が申立人の元帳開示請求に対し、これを不当に拒否しているため、その明細は不明である。 七、しかしながら、申立人と相手方との約定は、利息制限法に明らかに違反しており、年一割八分を越える分については元本の支払いに充当されるべきであるから、現在の残額は相手方請求の金二六五、四三三円を下回る金額のはずである。 八、ところで申立人は、他にも貸金業者から負債を負っており、また、当分の間リハビリテーションをしなくてはならない状態であり、右金員の支払が困難なため、申立の趣旨記載のとおりの調停を求める。 添付書類 一、会社登記簿謄本 一通 一、診断書写し 一通 平成*年*月 日 右申立人 吉 原 花 子 静岡簡易裁判所 御中 |
本件では、依頼人が病み上がりであり、高齢でもあったため、裁判上の手続に耐えうるか、極めて不安な状況でした。
そこで、下記のとおり、私を代理人として取り扱ってもらうよう、裁判所に申立をしたわけです。
平成*年(ノ) 号
代理人許可申請書
一、申請の理由
申請人吉原花子(仮名)は、平成*年*月**日、蜘蛛膜下出血で倒れ、救急車で運ばれて**病院に入院した。脳の手術を終え、一二月**日には退院したが、左半身が麻痺し、記憶も曖昧になっている他、下肢にも障害を残したため、アパート内での移動もままならない状態である。
仮に、知人に送ってもらうなどして調停期日に出頭できたとしても、脳を手術しているため、初めての裁判沙汰という緊張した状況の中、調停委員との話し合いに耐えうることができるか極めて不安であるし、ましてや調停室外での相手方との交渉に、平常心で対応することは極めて困難であり、危険であると言わざるを得ない。
さて、申請人は、*年前に夫に先立たれ、二人の娘も結婚して家を出ているため一人暮らしを続けている。
長女は、****という経緯もあり、連絡が取れない状況である。
次女は、****ため、これ以上の負担をかけることはできない状態である。
また、他にも本件について代理人になってくれそうな人はいない。
よって、左記の者を代理人にすることを許可していただきたく、代理人許可申請をする次第であります。
一、代理人の表示
住 所 静岡市
氏 名 小 澤 吉 徳
申請人との関係 申請人から、調停申立書作成の委任を受けた司法書士
一、添付書類
診断書写し 一通
身体障害者手帳 一通
右の者を申請人の代理人とすることを許可して下さい。
平成*年*月 日
申請人 吉 原 花 子
静岡簡易裁判所 御中
委任状
私は右の者を代理人と定め、右事件について、取り下げをを含めた一切の権限を委任します。
平成*年*月 日
住 所 静岡市
氏 名 吉 原 花 子
しかしながら、裁判所は私を代理人として認めてはくれませんでした。
司法書士である私を代理人に選任することは、弁護士法に抵触する恐れがあるというのが、裁判所の見解のようです。
(この点つきましては、ページに限界がありますので、割愛させていただきます。)
その結果、依頼人の住むアパートに調停委員2名が出張する、「現地調停」という極めて希な手法を取らざるを得ませんでした。
私もその場に立ち合わさせていただきましたが、調停委員は、依頼人の生活状況について、非常に細かく聴取していました。
その場で相手方業者の担当者と何度か電話でやりとりしていましたが、やはり、利息制限法を超える部分についての元本充当に対しては応ぜず、将来の利息を免除するというのに留まりました。
依頼人は、とにかくこれ以上煩わしいこの手続に関与したくない、という意向が強かったため、この案に応じ、現在も調停調書に記載のとおりの支払いを続けています。
さて、判例タイムズ社から出版されている「民事調停の実務」によりますと、東京の簡易裁判所においては、利息制限法を超える支払部分につき元本に充当して計算する、という取扱いを推し進めているようです。
これを知った私は、本件のような債務弁済調停事件を申し立てる際には、必ず上記のコピーを添付し、東京での取扱いと同様の処理を促すようにしています。
しかしながら、現段階では、まだまだそのような取扱いはなされず、調停手続を選択することの有効性が発揮されないままです。
東京での進歩的な取扱いが、全国的規模に展開することを期待したいところです。