当事務所の事件簿から



その10. 「アパートから立ち退いてくれ!」




「3ヶ月前に契約をした入居者が、入居後一度も家賃を払わないんですよ。何度催促しても明日払うと言っては一度も約束を守らないんです。」

 アパートなどの賃貸借契約は、当然のことながら、家賃を払うことによって、入居しそこに住むという権利を得るものである。
 従って家賃を払わないということは、最も重要な賃借人としての義務を履行しないわけであるから、契約の解除事由に相当する。

「契約を解除してください。すぐにでも出て行ってもらいたいんです。早く手続きをお願いします。」

 確かに、一般的な賃貸借契約書によれば、家賃の滞納があったときには即座に契約を解除することができるとしている内容ものが圧倒的であろう。つまり、貸す側にとって極めて有利な契約内容となっているわけである。
 しかしながら、だからといってその契約内容がすべて有効と判断されるかという問題は別である。
 1、2ヶ月程度の家賃滞納で、即刻立ち退きを強要されるようでは、やはり賃借人にとっては酷だと言わざるを得ないであろう。
 したがって、本件のようなケースでは、一定の期間の猶予を与え、催告書を出し、それでも支払いの無い場合には契約を解除するという方法を取るのが一般的である。
 
「分かりました。それで、払ってくれれば良いのですが、それでも払ってくれない場合はすぐ出てってもらえるんでしょ?」

 我が国が自力救済を認めていない以上、賃借人が任意の立ち退きを行わない限り、建物の明渡しの訴え提起し、その勝訴判決に基づいて強制執行の手続きを踏まざるを得ない。
 ただ、通常のケースでは、裁判所における口頭弁論期日において双方の主張に沿った和解がなされることが多い。
 そして、その和解の内容は、判決と同様の効果を持つことから、賃借人にとっても大きなプレッシャーとなり、賃貸人にとっても、以後滞納があった際には直ちに明渡しの強制執行手続きを取れるというメリットがある。

「裁判所に相手が出頭しなかったらどうなるんですか?和解もできないんでしょ?」

 まれに賃借人にまったく誠意が無く、上記の口頭弁論期日にさえ出頭しない場合がある。
 このような場合は、いわゆる欠席判決ということで、賃貸人の主張が全面的に認められることになる。
 その場合、その判決が確定するのを待って、強制執行の手続きを取らざるを得ないであろう。
 ところで、この場合、執行官が現地に出向き退去を促すわけであるが、実務においては、一回の執行で立退きを強制させるわけではなく、一定の猶予を与え、それでも立退きをしない場合に限って強制退去を敢行することとなっている。

「ところで、相手が家財道具を置いて勝手に出て行った場合はどうすればいいんですか?裁判所が処分してくれるんでしょうか?」

 結論から言えば、そのような事態に対応するべく、明渡しの強制執行の申立てと同時に家財道具である動産の執行の申立てもするのが実務の慣わしである。
 つまり、未払い家賃を請求債権として、動産を強制的に競売にかけ、買い取った上で処分するわけである。




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