その13. 「売掛金を払わない取引業者が不動産を売却してしまようです。何とかなりませんか・・・・」

「長年、取引を継続してきた取引業者なんだがね、どうもここのところ業績が芳しくないようなんだよ。」
司法書士の事務所には、こうした債権の回収に関する相談も非常に多い。
そもそも、司法書士は、商業登記の専門家であるため、中小企業の経営者との付き合いは多く、そのような事情から、経営者から見れば、気軽な法律相談相手ということになるのであろう。
今般の司法書士法改正に伴う簡易裁判所における訴訟代理権の取得により、これまで以上に、中小企業の経営者の法的需要に応えることが可能となろう。
「平成14年11月から現在まで、継続的に商品を供給してきたんだが、合計すると金300万円分が未収になってしまっているんだ・・・」
継続的に商品等を供給する取引形態は、現実には非常に多い。
こうした継続的な取引においては、毎月の特定日(例えば25日など)に締めて、その一月分の代金についてを翌月末日までに支払う・・・・などという約束がされていることが多い。
従って、そのような約定があれば、その履行期を過ぎた分について、請求出来ることは問題ないが、履行期が到来していない部分については請求はできない。
「ただ、昔からの付き合いの業者なんで、契約書はないんだよな。それでも大丈夫かね。」
もちろん、契約書が存在しなくとも、契約が存在すれば、問題はない。
このような事案であれば、納品書や請求書、これまでの入金に関する記録などで、継続的な契約関係にあったことは明らかであろうから、契約の存在・不存在でもめるということは考えられない。
もちろん、契約書があれば、その写しを添付するだけで、契約内容の詳細まで立証できるわけであるから、事前に契約書を作成しておくことがベターであることは言うまでもなかろう。
「何度も請求書を送っても、もう少し待ってくれの一点張りなんだよ。ほとほと困り果ててね。そしたら、所有不動産を売却する準備をしてるってことを聞いてね。これは黙ってはいられないと思ってるんだ・・・・」
この時点で考えられる対策としては、取引業者の不動産を仮差押えする方法が考えられる。
言を左右にし支払いをしない取引業者に対して、売掛金請求の訴訟を提起し、判決をもらって、取引業者の財産を差押えをしていく・・・・というのが正攻法だと考えられるが、せっかく判決をもらっても、その段階で相手方取引業者の財産が散逸されていれば、判決はただの紙切れに化してしまう。
そのために、訴訟に先立ち、相手方の財産を仮に押さえておく・・・・これが仮差押えの制度であり、実務上は極めて有効な手段となりうるのである。
一方、相手方取引業者にとってみれば、訴訟での決着がつかないうちに、財産を押さえられるということで、不測の損害を被る可能性もある。
そこで、裁判所は、一定程度の保証金を積ませることとしており、請求額の2割程度が相場と言える。この金員は、相手方が損害賠償請求をしてこなければ、最終的には、申立人に還付される。
また、仮差押えには、その必要性が求められる。このままでは、相手方が財産を散逸させるおそれがあり、強制執行をすることができなくなる可能性が高い・・・という状態であることを、裁判所に説明する必要があるのである。
「じゃあ、是非、それをやってもらいたい。どのくらいで仮差押えになるんだろう?」
このような民事保全手続きは、通常の訴訟事案と比較して、極めて緊急性が高い。従って、裁判所の対応も、他の事件と比較すると極めて早い。
申立書類及び疎明資料がきちんと調っており、すぐに保証金が用意できれば、本件のような不動産の仮差押えであれば、2,3日のうちには命令がくだると考えられる(もちろん、裁判所によって異なると考えられるので、注意が必要である。)。
その後、裁判所が法務局に対して仮差押えの登記の嘱託がなされ、不動産登記簿に登記がなされることとなる。
これで仮差押え手続きは完了ということになる。取引業者が不動産を売却するにあたっては、仮差押え債権者の仮差押え取り下げを前提としなければならず、その結果、売掛代金は優先的に支払いがなされることになろう。


