その16. 「相続の限定承認で亡夫名義の建物を残す・・・」

「夫が亡くなったばかりなのですが、事業に関連する借財が多くて・・・・」
相続には民法上、@単純承認、A放棄、B限定承認という3つの形態が定められており、被相続人の死亡後3ヶ月以内にいずれかの形態を選択しなければならない。
上記期間内にA又はBを選択しなかった場合には、@の単純承認となる。
@の単純承認は、被相続人の権利義務のすべてを承認するというもので、不動産や預貯金といったプラスの財産はもちろん、負債も承継することとなる。
「ただ、今、居住している建物が夫名義なもので、これについては失いたくないのです・・・」
Aの相続放棄を選択すれば、負債を承継することはなくなるが、すべてを放棄することとなるので、本件の場合、夫名義の建物も承継することができない。
そこで、Bの限定承認を選択することによって、建物を残すことを検討することになる。
限定承認とは、「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、承認をすること」とされている。要は、プラスの財産分の金銭を債権者に弁済すれば、それ以上の負債は承継しない・・・という形態である。
「建物が残されるのであれば、その手続きをお願いしたいと思います・・・建物の価額相当分のお金くらいであれば私が用意できますので・・・」
限定承認は、家庭裁判所に相続人全員で申述することから始まる。その際、相続人の1名を相続財産管理人に選任してもらうこととなり、その者が、以後の手続きを遂行しなければならない。
その後、相続財産管理人は、債権者のために、限定承認をしたこと及び一定の期間内(2箇月を下ることができない)にその請求の申出をすべき旨を官報に公告し、分かっている債権者には個別にその旨を通知しなければならない。こうして債務の総額を確定していくわけである。
「建物の価額はどうやって決めれば良いのですか?」
上記の債務額の確定手続きと並行して、相続財産管理人は、家庭裁判所に鑑定人を選任してもらう必要がある。本件では、被相続人名義の建物の鑑定価額を算出してもらうためである。
本件のような事案であれば、通常、不動産鑑定士が選任される。そして、この鑑定費用は、本件のような事案であれば、数十万円程度になろう。
その後、鑑定価額相当を債権者の債権額に応じて按分返済するのである。
「建物の名義変更手続きまでお願いできるのかしら?」
債権者への返済が完了したら、最後の仕上げとして、当該建物の名義を移転する必要がある。
この際に注意すべきは、第一に、法定相続分による共有名義を経由する必要がある点である。そして、その後に、他の相続人の持ち分を、当該建物相当価額を出した妻の名義に移転して終了することになるのである。


