研修生奮闘記!




死因贈与の取り消し・・・(平成12年度合格 大塚範之)
 司法書士の業務としては登記、裁判関係及び供託が業務範囲となっているが、世間一般の認識(私の周りの人間)はやはり司法書士というと登記というイメージがあるのが通常であり、事実、ほとんどの司法書士が登記業務が中心で、その他の業務はほとんどおこなっていないというのが現状のようである。
 しかし、当事務所には雑種雑多な事件が持ち込まれ、裁判事件終了後に供託手続きを要するものであるとか、登記にしても単なる移転、設定、抹消というだけのものではなく、書類を作成する過程で様々な知識が要求されるものばかりである。
 私も様々な事件を体験してきたが、司法書士の業務は裁判事件、登記事件に関わらず依頼者にとって人生の一大イベントであるということが実務に触れていくにつれ感じているところである。
 思いつめた結果相談してくる人、中には骨肉の争いのさなかに相談してくる人等、当事務所に訪れる人は何らかの一大事を胸に抱え来る人がなんと多いことであろうか。

 われわれとしては依頼者の人生の一大イベントに立ち会うわけであるから、いろいろある選択肢の中でも依頼者にとって最良と思われるものを提供する義務がある。
 日々の業務をする上で受験時代に蓄えたが、受験が終わり風化してしまった細かい知識が必要となるケースも頻繁にあり、毎日が勉強ということも思い知らされる。
 裁判事務にしても登記事務にしても、憔悴しきって来所した人が、事件が終了して別人のように明るくなった姿を見るにつけ司法書士の仕事に携わってよかったと感じている。
 そんな中で、最近自分の中で特に思い出深い事件を紹介してみたい。

 その事件は、母親が生前に息子、娘たちとの間で公正証書により死因贈与契約を結んでいた。さらに、不動産に関しては始期付きの仮登記もしてあった。
 その後母親は死亡したが、生前から相続人の間ではその契約につき争いがあり、また実際の状況に即した公平な遺産の贈与とはいえない面もあった。
 そこで、受贈者全員で遺産分割協議を行い、一部の不動産につき錯誤を原因として抹消し、新たに相続を原因としてその不動産の所有権を移転することとなった。
 それに伴い、相続により取得し者が受贈者であった者に代償として金銭を支払うこととしたり、相続人同士で自分名義の土地の贈与をする等で公平な遺産の分配をおこなうこととなった。
 当初は、その相続人間の贈与につき死因贈与でおこなうということを依頼者との話し合いの上で考えていた。
 しかし、死因贈与には遺言に関する規定を準用するといった民法554条の条文があり、贈与者の一方的意思で取り消されることもあるのではないかと考え、死因贈与の取り消しについての判例について調べることとした。
 しかし、判例によれば取り消ししうるとされた例、取り消しできないとされた例がまちまちであり、個々の事案に応じて裁判所が判断しているようであった(代表的な判例を後掲する)。
 そのため、今回の事例につき、そのような争いが生じたときに裁判所の下す判断がどうであろうか、ということを推測することは困難であったため、生前贈与も検討することとした。
 しかし周知のとおり、生前贈与については贈与税の負担ということが大きな障害になるということを考えなければならない。

  依頼者は生前贈与についても検討するとのことであったので、その中でも最良のものを提示することに方向転換することにした。
 そこで、将来その不動産を必要とする者5人(当初の受贈者の相続人)を受贈者とするのはどうかということを考えた。贈与税は、受贈者が多いほど税金が軽減されるためである。依頼者にこのことを告げた後、当事者間の話し合いがされ、現在は金額的にも大筋の合意が整い、生前贈与という形でこれから実行に入るという段階である。
 この問題はまだ継続中であり、すべての解決には至ってはいないが、一時の相続人間の険悪なムードは解消されつつあり、良い方向に向かっていると思う。
 今回の件では民法の条文、判例及び登記法の先例はもちろんのこと贈与税等の税金の検討も行い、司法書士の幅の広さを感じることができた良い機会であった。
 もちろんこの事件以外にも印象に残る事件はたくさんあり、あの時ああすればよかったと思うこともあるがなんとかやってきたかなという感じである。

 これから司法書士を目指す方、目指している方には是非一日も早く体験して頂きたい世界だと思っている。


「判例紹介」  

 なお、今回の件は負担付きの要素もあるので判断が困難であり、下記に掲げた判例以外にも死因贈与に関わる判例は多数出ている。

 「最判昭和47.5.25」死因贈与は贈与者の最終意思を尊重し、取り消しできるとされた例
 死因贈与については、遺言の取り消しに関する民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである。けだし、死因贈与は贈与者の死亡によって贈与の効力が生ずるべきであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによって決するのを相当とするからである。

 「最判昭和44.1.25」取り消しできないとされた例
 死因贈与は贈与者の死によって効力を生ずる点で遺贈に類似するけれども、贈与者の死を条件とする契約であって、契約がなされた以上は受贈者においてその期待権を有することになる。ことに死因贈与契約が負担付である場合には双務契約に関する規定が適用されることからみても、その場合の贈与約束には一層強い法的拘束力が与えられるべきである。
 少なくとも負担付死因贈与契約については遺言の取り消しに関する規定の準用はないものと解するべきである。(平成14年1月)          



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