| 金融庁「事務ガイドライン」の活用法〜行政処分の要請を中心に〜 |
ご承知のとおり、金融庁では、貸金業者などの金融業者を監督するにあたり、各種業法に基づく事務処理等の取り扱いに関して、「事務ガイドライン」を設けている(第4章に全文が掲載されているので、参照されたい。また金融庁のホームページでも閲覧できる。
従って、貸金業者が、この事務ガイドラインに定める取り扱いに違反している場合、貸金業の規制等に関する法律違反として、監督官庁に行政処分を求めることができ、この行政処分の申立は、各種の多重債務整理手続きにおいて、極めて有効な手段となり得ている。
そこで、本稿においては、実際の行政処分の要請を中心に、金融監督庁「事務ガイドライン」の活用法について述べることとしてみたい。
ただ、誌面の都合もあるので、概括的な記述に留まる部分も多いと思われる。
2001年9月に出版となっている「クレサラ・商工ローン調停の上手な対処法」や、沖縄県司法書士会の宮里徳男氏が中心となっている司法書士調停研究会が出版している「債務者のためのサラ金調停必勝法(U)改訂版 特定調停」も併せて参考にされたい。
ところで、この「事務ガイドライン」、本稿の対象となるのは「3 貸金業関係」であるが、次のような構成になっているので、まずは全体を俯瞰しておく。このうち、各種の多重債務整理手続きにおいて、もっとも重要だと考えられるのが、「3−2 業務関係」であるので、本稿においては、この点に限って述べることとする。
「3 貸金業関係」
3−1 登録の申請、届出関係
3−1−1 登録申請書、届出書の受理
3−1−2 登録の申請の処理
3−1−3 変更届出の処理等
3−1−4 廃業等届出の処理
3−1−5 登録証明書の発行
3−1−6 貸金業者登録簿の閲覧
3−1−7 登録等実績報告
3−2 業務関係
3−2−1 過剰貸付けの防止
3−2−2 取立て行為の規制
3−2−3 取引関係の正常化
3−2−4 営業所等の所在の確知
3−2−5 日賦貸金業者の監督
3−3 報告書関係
3−3−1 事業報告書の金融庁への送付
3−3−2 業務報告書の徴収
3−3−3 業務報告書の金融庁への提出
3−4,5 貸金業協会に対する監督、信用情報機関
3−6 苦情処理関係
3−7 貸金業関係連絡会
@過剰貸付けの防止
貸金業の規制等に関する法律13条(過剰貸付け等の禁止)の規定に係る監督にあたっての留意事項が定められている。
具体的には、(1)として、「窓口における簡易な審査のみによって、無担保、無保証で貸し付ける場合の目処は、当該資金需要者に対する1業者当たりの貸付けの金額について50万円、又は、当該資金需要者の年収額の10%に相当する金額とすること」というのが、事務ガイドラインの規定であり、これに反した過剰な貸付は、貸金業の規制等に関する法律13条違反となる。
ところで、この規定は、訓示規定と解釈されており、違反の事実が、直ちに不法行為や無効・取り消しの対象になるわけではない。
しかしながら、有名な平成6年3月16日の釧路簡易裁判所における判決では、次のように判示している。
「過剰与信を禁ずる国家の意思が大蔵省等の通達(現在の事務ガイドライン)で基準を示したりして確定的である場合は、この法規制に何らの法的意味がないと解することはできない。たとえ訓示規定であっても、違反の程度が著しい場合には、信義則違反あるいは権利濫用の判断、公序良俗の判断を根拠付ける重要な要素として働く。この過剰与信禁止規定は、業者が営業の自由を100%駆使して与信を行っている状況下では、いかに債務者の自覚を求めても過剰与信に基づく多重債務の発生、増大を防ぐことはできないから、債務者等に対する保護及び社会防衛のため、契約自由、営業の自由の制限として設けられたと考えられる。債務者の返済能力の調査や判断に重大な誤りがあったにもかかわらず、業者が債務者に対し法の力を借りて債務の全額について支払を求めるのは信義則に反し権利の濫用であるから、請求できる範囲を限定するのが相当である。」
したがって、ケースによっては、私法上の効力を裁判で争うことも考えられるが、もちろん、監督官庁に対して行政処分の要請をすることも可能であるので、積極的に活用されたい。
A取立て行為の規制
貸金業の規制等に関する法律21条1項(取立て行為の規制)の規定に係る監督にあたっての留意事項が定められている。
実務の現場では、この取立規制に違反する業者は少なくなく(いわゆる大手業者の中にも、これらの規制に違反する取立を行っているケースが少なくない。実際にある業者は、勤務先への訪問を執拗に繰り返している)、積極的に活用せざるを得ない状況にある。
以下、典型的な事例(自己破産の申立を行ったが、取立を止めない)での申立記載例をあげておくので、他の取立規制違反についても、これを参考にされたい。
なお、提出先については、第5章の窓口一覧を参考にされたい。
B取引関係の正常化
行政処分を求める要請書
関東財務局 金融監督第4課 殿
平成14年4月1日
申告人 住所 静岡県静岡市*****
氏 名 ****
電 話 ******
被申告人 本店住所 東京都新宿区*****
会社名 株式会社****
代表者 ****
上記会社支店 **支店
申告の趣旨
1、貸金業の規制等に関する法律第21条1項に違反するので,貴庁の厳重な行政指導を求める。
申告の事実
1、日 時 平成14年3月27日 午前11時ごろ
場 所 申告人の勤務先において
行為者 被申告人会社職員****
上記の者が,下記の○しるしの付した行為をなした。これは,貸金業の規制に関する法律第21条1項に違反するので,厳重な指導と処分を求める。
記
1,暴力的な態度をとって強迫した。
2,大声をあげたり,乱暴な言葉を使ったりして威迫した。
3,多人数でおしかけて威迫した。
4,午後9時から午前8時まで,その他不適当な時間帯に,電話で連絡しもしくは電報を送達し,または訪問した。
5,反復または継続して電話で連絡し,もしくは電報を送達し,または訪問した。
6,はり紙,落書き,その他債務者の借入に関する事実,その他プライバシーに関する事項等をあからさまにした。
7,勤務先を訪問して,債務者,保証人等を困惑させたり,不利益を被らせたりした。
8,他の金融業者からの借入またはクレジットカードの使用等により弁済することを要求した。
H,債務処理のために調停,自己破産その他の裁判手続きをとったとの通知を受けた後に,正当な理由なく支払請求をした。
10,法律上支払義務のない者に対し,支払請求をしたり,必要以上に取り立てへの協力を要求した。
11, 出資の受け入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律の規定に違反し,高金利の契約をして,またはこれを越える割合による金利を受領した。
2、特記事項(上記の者の行為や暴言の具体的内容)
申告人は、平成14年3月25日、静岡地方裁判所に対し、自己破産申立をしており、同裁判所において、平成14年(フ)***号として受理されている。
同日、申告人は、被申告人を含めた債権者全員に対し、上記裁判所の事件受付票の写しを郵送している。
しかしながら、被申告人は、破産しても関係ないなどと、支払を強要し、申告人の自宅のみならず勤務先にまで訪問し、払うまで帰らないなどと申告人を困惑させている。
このままでは、申告人は勤務先から解雇されることも考えられ、仮にそのような事態になれば、収入の道をも閉ざされることとなってしまう。
3、被申告人の上記のごとき取立行為により,申告人や家族は安心して生活できず,怯え続ける毎日を余儀なくされている。 「貸金業規制法」及び事務ガイドラインにより厳重な処分を求めるものである。
@Aの他、資金需要者(債務者)の利益の保護を図る観点から、留意しなければならない事項が定められている。
そして、(1) に「債務者、保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から、帳簿の記載事項のうち、当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること。」と規定されているのだが、これを守らない業者が圧倒的多数である。
取引経過の開示は、特定調停や債務不存在確認訴訟・過払い金返還訴訟を申し立てようとする場合の前提ともなるものであるから、任意に開示に応じない業者に対しては、徹底的に行政処分の申立を活用していく余地がある。
以下、特定調停を申し立てたケースで、業者が取引経過の開示を拒んでいる場合を想定した申立記載例をあげておく。
行政処分を求める要請書
関東財務局 金融監督第4課 殿
平成14年4月1日
申告人 住所 静岡県静岡市*****
氏 名 ****
電 話 ******
被申告人 本店住所 東京都新宿区*****
会社名 株式会社****
代表者 ****
上記会社支店 **支店
申告の趣旨
1、貸金業の規制等に関する法律及び金融監督庁事務ガイドラインに違反するので,貴庁の厳重な行政指導を求める。
申告の事実
1、申告人は、サラ金業者等数社より、多大な債務を負担し、これまでどおりの返済が困難になった。
そこで、債権者各社を相手に、静岡簡易裁判所に特定調停の申立を行い、調停の円滑な実施と合意、申告人自身の経済的な再生を目指し、申告人としては、誠心誠意の努力をしているところである。
2、ところが、被申告人会社の担当者が,下記の○しるしの付した行為をなし、特定調停の円滑な実施を妨害し、申告人を困惑させている。
記
(1)金融監督庁「事務ガイドライン」に基づいて、取引経過の開示の請求をしたが、全くこれに応じようとしない。
A 裁判所の指導にも関わらず、取引経過の一部しか開示しない。
(3)正当な理由なく、調停に出頭しない。
(4)下記(○しるしを付した行為)のとおりの、明らかに不可能と考えられる弁済方法に固執し、調停の成立を困難に陥れている。
ア、一括弁済の強要
イ、保証人を付けることの強要
ウ、将来の利息を付す
3、特記事項(上記の者の行為や具体的内容)
申告人は、平成14年3月25日、静岡簡易裁判所に対し、被申告人を含めた債権者10社に対し、特定調停の申立をしており、同裁判所において、平成14年(特ノ)***号として受理されている。
しかしながら、被申告人は、上記裁判所の指導にも関わらず、平成13年6月に証書を書き換えた後の取引経過しか開示していない。
申告人は、被申告人との取引を、平成7年6月より開始しており、当該事実については、申告人の保有する契約書の控え等の書類で明らかである。
このような被申告人の行為は、「双方の正常な取引関係をただし、債権者の利益の保護を図るとともに、債務者の経済的な再生に資する」という特定調停の趣旨に反するものであり、場合によっては不法行為を構成するとの判例も出ているところである。
4、よって、「貸金業規制法」及び事務ガイドラインにより厳重な処分を求めるものである。
C日賦貸金業者の監督
上記のほか、日賦貸金業者の監督に当たっては、日賦貸金業者は他の貸金業者に比して債権の回収にコストがかかることなどを考慮して出資法の上限金利の特例が認められているという趣旨に鑑み、また、資金需要者(債務者)等の利益の保護等を図る観点から、留意しなければならない事項を具体的に定めている。
詳細については第4章に掲載されている事務ガイドラインにもあたっていただきたいが、
(1)例えば、日賦貸金業者が、建設業者、不動産業者、サラリーマン、主婦等に貸し付けることは、出資法違反となること。
(2) 日賦貸金業者の貸付けの相手方が常時使用する従業員の数は5人以下とされているが、常時使用する従業員数の算定に当たっては、正社員に限らず、臨時雇用であっても、数ヶ月程度の期間にわたり雇用されている場合などにおいては、実態に即して常時使用する従業員に含むものであること。
(3) 出資法附則第9項第2号において、返済期間は100日以上と定められているが、当初の契約における返済期間が100日以上であったとしても、日賦貸金業者側が貸付けの相手方に債務の借換えをさせたり、正当な理由なく期限の利益を喪失させるなどして繰上弁済をさせるなどにより、事後的に返済期間が100日未満となっている場合には、出資法違反となる場合があること。
(4)取立て日数の割合の算定に当たっては、貸付けの相手方が貸金業者の営業所に自ら返済金を持参し、それを受領したとしても取立て日数には算入されず、実際に相手方に訪問した日数のみを算入するものであること。
なお、日賦貸金業者が集金のため相手方に訪問したものの集金できなかった場合には、帳簿等に訪問日時が記載されているなど、集金のために訪問したことが客観的に明らかになっている場合に限り、取立て日数に算入するものであること。
また、土・日・祝祭日など日賦貸金業者又は債務者の休日であっても、相手方に集金のため訪問しなかった場合には取立て日数の割合の算定には考慮されないこと。
(5) 数日分の返済金をまとめて前受けした場合、受領した金銭のうち1日当たり0.15%の割合により算出された出資法上の上限利息を超えた部分を元本に充当せず、利息として受領した場合には、受領時点において出資法違反(高金利)となること。
(6) いわゆる日賦償還表を法第18条の受取証書としている場合(法第18条第1項各号に掲げる事項がもれなく記載されており、かつ、貸付けの相手方が当該償還表を保有している場合に限る。)においては、返済金を前受けした場合や遅延損害金等を受領した場合など当初の日賦償還表の償還スケジュールに変更があった場合には、当該日以降の償還表の記載事項の変更を行うか、又は、当該日以降返済を受けた都度、法第18条の受取証書を交付する必要があること。
また、貸付けの相手方から、返済の都度、個別に受取証書を交付するよう請求があった場合には、個別に受取証書を交付しなければならないこと。
というように具体的に定められているので、有効に活用されたい。(平成14年6月)