| 私の成功体験記 「簡易裁判所からの司法改革を目指して〜これからの司法書士の成功体験記〜」 |
1.司法書士法大改正
平成13年6月12日付の司法制度改革審議会の意見書において、司法書士の簡易裁判所における訴訟代理権については「信頼性の高い能力担保措置」を講じたうえで与えるべきであるとされ、それを受けた平成14年4月24日の国会において、司法書士法の大幅な改正が行われた。
これにより、現行の司法書士法第2条に規定されていた業務は、新たに「簡易裁判所における民事訴訟手続等について代理すること」と「民事に関する紛争であって紛争の目的の価額が90万円を超えないものについて、相談に応じ、又は裁判外の和解について代理すること」が加わることとなり、一定の研修を経てその能力を有すると認定されるという前提のもとに、簡易裁判所における訴訟代理権が付与されることになった(改正司法書士法第3条)。
〜この改正により、司法書士は大きな可能性を得た!〜
2.これまでの本人支援訴訟の実績を活かし新たなる司法書士訴訟の確立を!
これまで、訴訟代理権を持たない私たちは、いわゆる本人訴訟の裏方として、裁判所提出書類の作成を中心に、訴えの当事者である原告又は被告と二人三脚での裁判実務に携わってきたが、今般の司法書士法改正により、簡易裁判所の事物管轄に属する訴訟手続及び紛争という限定がされてはいるものの、弁護士と同様の代理人としての職務遂行も可能になった。
しかし、この簡裁代理権の取得によって、これまで二人三脚で行ってきた司法書士が支援する訴訟形態は大きく変わるものではない、また、変わるべきではないであろうと考える。
なぜなら、司法書士が代理人になったとしても、訴訟の主体は本人であることについては、これまでと何ら変わらないからである。私たちは、まず、これまでの「本人支援型」訴訟における姿勢を変えることなく、簡裁代理権という新たな武器を、事案に応じて有効に活用していくことを考えるべきであろう。
〜その可能性とは、司法書士訴訟とも言うべき新たな紛争解決手段の理想型の一つを目指す!というものであろう〜
3.簡易裁判所の存在意義
訴額が90万円以下の訴訟事件を管轄する(裁判所法33条1号)全国の簡易裁判所については、たとえば、「準備書面の省略」(民訴276条)や「続行期日における陳述の擬制」(民訴277条)、「弁護士以外の者に対する許可代理」(民訴54条)といった訴訟手続の特則が設けられているが、これらは、そもそも、一般国民に身近な裁判所として、簡易な手続による迅速な解決を目的としているものである。
平成10年に民事訴訟法の大幅な改正が行われた際にも、その基本的理念は、「民事訴訟を一般国民に利用しやすく、分かりやすいものとする」というキャッチフレーズに代表されるものであったが、これは正に、少額訴訟手続の創設を中心とした簡易裁判所の民事手続における重要な改正事項に直接関連するものであった。
さらには、今般の司法制度改革においても、一般国民の司法ないし裁判所に対するアクセスの充実という観点から「簡易裁判所の機能の充実」という提言がなされ、一層の機能アップが予定されているところでもある。
このように、本来、簡易裁判所は、利用者たる一般国民が広く容易にアクセスができ、簡易な手続で迅速に紛争を解決する裁判所として予定されているのである。
そうであれば、簡易裁判所における代理権を取得した司法書士は、その理念に基づき、利用者たる一般国民にとって満足度の高い訴訟遂行に努めなければならないことは言うまでもない。
〜今後司法書士が入り込む簡易裁判所は、広く一般国民の利用を想定しているが・・・・〜
4.簡易裁判所の現状
一方、現在、全国の簡易裁判所に提起されている通常訴訟事件に視点を移すと、原告・被告双方に弁護士が関与していない本人訴訟率は90%程度となっており、平成12年度では、301,185件中269,904件が当事者本人によるものとなっている。また事件の種類としては、ほとんどが「金銭を目的とする訴え」であり、平成12年度では、301,185件中295,021件が金銭を目的とする訴えとなっている(以上、司法統計年報)ことから、貸金業者・信販会社による貸金請求事件・立替金請求事件が大多数を占めているであろうという現状が依然としてある。
これらの貸金請求事件・立替金請求事件において、原告として法廷に立っているのは、大多数が簡易裁判所において代理人になることを許可された原告会社の担当社員であると考えられる。
そして、被告として法廷に立つのは、まったく法律専門家の支援を受けていない多重債務者であるのがほとんどであろう。なぜなら、原告会社が訴訟提起に至るまでには複数回の督促行為がなされているのが通常であり、それでもなお支払いが出来ないという状態を考えれば、原告会社以外にも多額の債務を負っていると思われるからである。
一方、原告会社の多くが、全国に支店を持つ大規模の会社であることを考えれば、まさに強者対弱者という図式が簡易裁判所においても成立していることになる。
以上のような現状認識に違和感を覚える方には、簡易裁判所の傍聴を是非ともお勧めしたい。一度でも傍聴をすれば、私の現状認識が誇張でないことを実感してもらえるはずである。
3で述べたとおり、簡易裁判所は、利用者である国民に最も身近な裁判所として、いわゆる市民型紛争を解決する機関としての存在意義を持っているものと考えられているが、その現状は、既に述べたように貸金業者・信販会社の取立機関になってしまっているわけである。
〜現実の簡易裁判所は、一部のプロの業者の取立機関と化している〜
5.簡裁代理権付与後の司法書士の責務〜多重債務者の法的支援〜
このような簡易裁判所の現状を見れば、これまで「街の法律家」を自負してきた、わたしたち司法書士は、残念ながら、まだまだその名に相応しい実績を作り得ていないと言わざるを得ないであろう。
そして、司法書士に簡裁代理権が付与された後も、既に述べたような簡易裁判所の実態が変わらないということになれば、国はもちろんのこと、利用者である国民にも、不要な職能団体と位置づけられる可能性が高いと考えられる。
取得後の執務姿勢が、良きにつけ悪しきにつけ、より大きな変革をもたらすことは間違いない。それは、今般の司法書士法改正に、「家事事件の代理権付与等についても、司法書士の簡裁訴訟代理実務の実績及び研修の成果等も踏まえた上で速やかに検討すること」との附帯決議がされていることからも明らかであろう。
これまで、「司法書士が本人訴訟を支援してきた。」という主張に対する客観的な裏付けは無かったが、簡裁代理権取得後は、先に引用した司法統計年報において、その関与率が明確な数字となって表れることとなるわけであるから、そうした意味においても、まさに正念場と言えるのである。
そして、既に述べた簡易裁判所の実態を鑑みれば、私たちが第一に取り組むべきは、多重債務を抱え、返済に窮し、業者から貸金請求訴訟・立替金請求訴訟を起こされているにも関わらず、何らの法的サービスを受けることのできない、被告たる消費者の訴訟支援及び多重債務救済活動の全国規模での展開であろう。
もちろん、私たちが提供する法的サービスの質は、当該分野において、最高レベルのものでなければならない。仮に、隣接職能である弁護士と比較して「質・量」において劣るということであれば、利用者たる国民にとって何らのメリットも無い。従って、圧倒的な「質と量」で関与していかなければならないであろう。
〜簡易裁判所の実態を鑑みれば、まず第一に取り組むべきは法的支援を受けることのできていない多重債務者の支援であろう〜
6.数年後の司法書士の成功体験記
もちろん、全国の簡易裁判所には、これまで述べてきたような事件の他にも、様々な訴訟が提起されており、こうした事件に関しても専門家の関与率は同様に低いのが現状である。
従って、私たち司法書士は、それらの事件に対しても、依頼人のニーズに応えるべく、研鑽を積まなければならないのは当然のことである。
しかしながら、既に述べた簡易裁判所の現状を考えれば、自ずと優先順位は決せられる。
つまり、「街の法律家」を自認してきた私たち司法書士は、簡裁代理権という大きな権利と引き換えに、貸金業者や信販会社などの取立機関と化してしまった全国の簡易裁判所を、国民の手に戻すという一つの大きな責務を背負ったのである。
そして、この重責を果たすことができたとき、初めて、国民から「街の法律家」という称号が与えられ、司法書士としての一つの成功体験記が終わる。そして、その瞬間から、さらなる成功体験記への挑戦が始まるのである。
〜簡易裁判所を本来のあるべき姿に戻し、簡易裁判所からの司法制度改革を巻き起こそう!〜
(平成14年8月)